『祝・プロヒーロー試験合格 八百万永遠さん』
翌日には、校舎に新しい垂れ幕が下がった。
何故か私だけ名指しである。
新しく下げたいのはわかるけど、ちょっと、いや、だいぶ恥ずかしかった。
ニュースでも取り上げられまくったし、試験後にもさんざんインタビューされた。
取材依頼やテレビ出演依頼もばんばん来てる。
色んな人からお祝いのメッセージや、プレゼントも来た。
面識のあるプロヒーローの人とか、洸汰君とか、壊理ちゃんとか。
雄英内でも「例のあの人」扱いで、明るく声をかけてくる人や遠巻きにひそひそする人、憎らしげに見つめてくる人など、色々な人がいた。
変わった贈り物としては「おめでとぉ」と書かれたメッセージカード(無記名)と一緒に、リコリスの造花が送られてきたりした。
何でよりによってこの花。しかも造花。死ねってことかな? と言いたくなるところだけど――花の形を見て、私はすぐにある人の髪形を思い出した。
「……ありがとう、トガちゃん」
相澤先生に「面会申請ってどうやって出すんですか」って聞いたら「早ぇよ」と言われた。
◆ ◆ ◆
「というわけで、八百万妹がプロヒーロー試験に合格した」
「「うおおおおおおっ!!」」
さんざん盛り上がった後だというのに、もう一回騒ぐ1-Aのみんな。
相澤先生はその騒ぎを「うるせえ」と黙らせると話を続ける。
「今更言うまでもないが、例外中の例外だ。何しろ
三年かけてプロ活動ができるよう育てるのが目的なのに、一年でプロ試験に合格しちゃったのが私である。
学校の実績としてはこれ以上ないけど、こいつこの後どうすんの? って話だ。
「なので、そいつは卒業させる」
「「マジかよ!?」」
「だってそいつ、もう勉強する必要ないんだぞ」
先生方が真面目に授業している時に「もう私には必要ないですけどね」っていう顔をしていられる、ということだ。
学校運営としても、もう卒業証書をあげちゃった方がスマートだ。
「今度の卒業式で三年生と一緒に卒業な」
「先輩達に混じって卒業証書もらうんですか、私?」
「自業自得だろうが」
確かに。
「代わりに期末試験は免除してやる」
「記念に受けちゃ駄目ですか?」
「お前が受けると
「「「やめて。マジ止めて」」」
◆ ◆ ◆
「でよ。ヤオトワ」
休み時間、わいわいとみんなに囲まれる私。
「四月からどーすんだ? せっかくプロになったんだし、
「んー、そうだね……」
切島君の問いに、私は微笑みつつ首を傾げた。
無事に雄英を三月で卒業できることになった私。
手続き上も三月で学生ではなくなるので、四月からはプロヒーロー活動をして何の問題もない。
ただ、ついこの間まで受かるかどうかで悩んでいたわけで。
具体的に準備を進めていたかというと、正直ノーだ。
「レディさんのところで正式に雇ってもらえないかなー、とは思ってるけど」
試験中に会ったっきり、まだ連絡が取れていなかった。
向こうも忙しい身なので試験を最後まで観戦していく、というわけにもいかなかったのだ。
「とりあえず連絡してみてからかなー、って」
「なる。ま、大丈夫じゃね? 今までインターンしてたんだし」
「うん。雇ってもらえれば、私としてもありがたいかな」
勝手がわかってるし、サイドキックの皆さんとも気心が知れてる。
善は急げと、その日の放課後に電話をかけてみると――。
『え? 嫌だけど』
まさかの即行拒否でした。
「えっと、その心は……?」
『私の事務所なのに、サイドキックの方が目立つとかありえないじゃない』
私怨じゃないですか。
と、言いたかったが、レディさんの言うこともわかる。
ヒーローは人気商売だ。実力も必要だが、仕事を勝ち取るには知名度も要る。サイドキックで入れた新人に人気も知名度も持って行かれた、なんてことになったら立て直すのは大変だろう。
『だったら離反してもらって、師弟対決みたいになる方が私が目立つし』
「プロレスの派閥争いか何かですか……」
『日本のヒーロー界はねトワちゃん。オールマイト派とエンデヴァー派の二大派閥があるの。私はその他に属するミッドナイト派に対抗しようとしている有象無象なのよ』
「ぶっちゃけましたね!?」
そこまで自虐ネタに走らなくても。
『というか、トワちゃんくらい話題性があると、うちの事務所のスペックじゃ普通にパンクするわよ』
「私一人だったら余計無理なんですが」
『知らないわよそんなこと』
「ひどくないですか……?」
『いやまあ、さすがにそれは冗談だけど。どっか大きなとこにアプローチかけるなら一緒に頼んであげる。気軽に連絡してきなさい』
「ありがとうございます、レディさん」
そっか。
これはレディさんなりの「独り立ちしろ」っていうメッセージなんだ。
これからは上司と部下じゃなくてライバルとして、あるいはヒーロー同士として付き合っていこう、って、そう言ってくれてるんだ。
「下剋上できるように頑張ります」
『いや、そこまで頑張らなくていいから。そこそこ有名になって、私にお酒でも奢ってくれればいいから』
レディさんらしい言い方に、私はついつい吹き出しそうになった。
「私、二十歳まで後四年もあるんですよ?」
『うわ。長すぎ。やめてよ。私がオバサンみたいじゃない』
「いや、実際そろそろ――」
『あ? この前のじゃまだ殴られ足りなかった?』
「本当ごめんなさい」
ひとしきりレディさんとじゃれ合った後、電話を切った。
ふう、と息を吐く。
「……さて。どうしたものかなあ」
◆ ◆ ◆
「……一年生の生徒に本格的な進路指導かよ」
「しょうがないじゃないですか」
とりあえず相澤先生に相談してみた。
「何かいい方法ないでしょうか、先生」
「……と、言われてもな」
面倒臭そうに息を吐いた先生は、天井を見上げて、
「プロヒーロー試験に合格した生徒には、幾つかの進路が考えられる。というか、プロヒーローとしてのスタイルの話だな」
だいたい、分類すると次のような感じだ。
・他のプロヒーローのサイドキックとして雇ってもらう
(例:エンデヴァー事務所のフレイム、ナイトアイ事務所のセンチピーダー、バブルガールなど)
・自分の事務所を立ち上げて独り立ちする
(例:Mt.レディ ほか多数)
・大学進学、海外留学する
(例:オールマイト)
・個人でヒーロー活動をする
(例:ミルコ)
・別にヒーロー活動をしない
(例:グラントリノ)
・その他
「安定なのはどっかのサイドキックになることだ」
「下積みは重要ですよね」
「すっ飛ばした奴が言う事じゃないがな」
確かに。
「でも、この歳で事務所立ち上げって無理じゃないですか?」
「別に無理じゃないだろ。家に頼めば金くらい出してくれるんじゃないのか?」
「はい。まあ、できるかどうかだけでも聞いてみたら『ゴーサインを出してくれればいつでも』って言ってもらえましたけど」
「このブルジョワが」
いや、でも事務所立ち上げって金銭面だけの問題じゃないですし。
年下の小娘に従ってくれて、しかも有能な人材がどれだけいるか。彼等のお給料をちゃんと払えるのかも考えないといけない。
考えただけで胃が痛くなりそうだ。
まあ、お父様やお母様があつめてくれる人材ならその辺はクリアしてるんだろうか。物凄く申し訳ないけど。
「進学するヒーローとかいるんですか?」
「オールマイトは特殊な例だが、いないわけじゃない。教員免許を取るつもりがあるとかなら、猶更だな」
そっか、先生になるには別の免許が必要だもんね。
もう一個免許取るとか、素直に凄いと思う。
「教員じゃなくて職員扱いなら免許は必要ないぞ」
「私でも雇ってもらえるってことですか?」
「二年に上がったあいつらの前で授業するか? 『私が一年でヒーローになった方法』とか言って」
「や、やめとこうかな……」
私は遠い目で言った。
「ミルコさんってアレですよね、蹴り技の」
「ガラの悪い女爆豪みたいな性格の奴だな」
爆豪のガラが悪くないみたいな言い方に聞こえますね。
「実際、ミルコさんって書類仕事とかどうしてるんですか?」
「気の合う友人や仲間が何人かいて、そいつらが手伝っているらしい」
「実質、事務所とあんまり変わらないんですね」
「事務所として構えているかどうかは大きな違いだろ。そのお陰でミルコはどこにでも赴くことができる。その分、スタッフは慣れない住所ばっかり書かされて四苦八苦だろうが」
で、次の項目はもっと特殊な例だ。
「別にヒーロー免許を取ったからヒーローにならないといけないわけじゃない。作家になってもいいし、アイドルになってもいいし、普通に会社勤めをしてもいい」
「非難ごうごうな気がするんですが」
「全く使わないなら非難も来るだろうがな。いざという時に自分を、周囲を守れるように、というのは立派な動機づけだろう?」
確かに、ヒーロー免許持ってるアイドルとか目立つかも。
アイドルやってるヒーローなら結構いるけど。
「その他もまあ、似たようなものだな。特殊な形でヒーローやってる奴もいれば、ヒーロー免許を『個性使用許可証』として役立ててる奴もいる。もちろん、犯罪に使ったら捕まるが」
ネットを主戦場にしているハッキングヒーローとか、普段は恐山に住んでるイタコヒーローとか、犯罪捜査が専門の名探偵ヒーローとか、色んな人がいるらしい。
「そうすると、いっそ芸能事務所に話を通してみるとかもアリなんでしょうか」
「敵逮捕の事務処理できるスタッフがいるなら、別に芸能事務所でも構わんだろ」
「……冗談のつもりだったんですが」
「ノリノリであんなコスチューム着ておいて何言ってるんだお前」
「の、ノリノリじゃないし!」
最近はちょっと楽しんでるけど。
遠い目になって世の無常を感じていると、相澤先生がジト目で、
「エンデヴァーとなんか話してただろ。奴の事務所じゃ駄目なのか」
「いや、たぶん私、エンデヴァーさんとは相性悪いと思うんですよね……」
「刑事ものでよくありそうな組み合わせだが」
「ああ、堅物のベテランと、学校での成績だけは良かった空気の読めない若手……って、なんでですか」
先生はくつくつと低い声で笑った。
「一人減ると俺も楽ができるな」
「心操君が入ってくるだけじゃないですか?」
「何だと」
目を見開いた相澤先生の顔はすごく面白かった。
◆ ◆ ◆
寮の自分の部屋で、透ちゃんと一緒にごろごろしながら話をする。
「透ちゃんはどう思う? どうするのがいいと思う?」
「わたくしとしましては、永遠さまのなさりたいようになさるのが一番かと」
「いや、あの。その口調はやめてください。お願いします」
「残念」
透ちゃんはくすくす笑いながら私を抱っこして、
「でも、永遠ちゃんがしたいことをやりやすい形が一番いいと思うなー。あ、でも、ずっとアイドルで食べてく! とか言いだされると私がお手伝いしづらいからやめて欲しい」
「やらないけど、そしたら透ちゃんはマネージャーになればいいんじゃないかな?」
「あ、それはそれで面白そう! 服脱いだらステージの上までついて行けるし!」
全裸でステージに立つんだけど、それはいいんだろうか。
「私のやりたいこと、かあ」
それは、敵の発生を減らすことだ。
そのためには、ヒーローの存在を強く印象づけないといけない。悪いことをしたら罰が下る、という、当たり前のことをもっと知らしめる。
そう考えると、
「……事務所を構えるのは違う、かなあ」
特定地域に拠点を置くことは、それだけで犯罪の抑止に繋がる。
でも逆に言うと、特定地域の犯罪以外には関わりが薄くなる。
「いや。事務所を置くのはいいけど、私は色んなところを飛び回れるようにしたい」
「事務所は書類仕事やサイドキック用の拠点ってことだね!」
「そうそう」
都合のいいことに、私には一応、移動用の“個性”もある。
秘密がバレるから基本的に使えないけど。あと、どうせなら黒霧の奴が欲しいけど。
「移動費がかさみそうだね!」
「それが問題だよねえ」
ネットカフェとかを使えば?
いや、十八歳以下とかだと深夜利用できない気がする。むしろ、十八歳超えても受付で止められそうな気がする。
私を狙った敵襲撃とかあった場合迷惑極まりないし、だから、プロヒーローはホテルとか、ちゃんとした施設を使うんだろうなあ。
ちゃんとした施設……。
「警察署で泊めてもらえないかな?」
「さすがに無理……ん? 無理でもないのかな? セキュリティはしっかりしてるだろうし」
「ヒーローがいることがセキュリティだしね」
考えたら色々アイデア出てくるものだなあ、と思った。