死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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卒業

 次の日はテレビの撮影だった。

 プロ試験に合格する前から入っていた仕事についてはMt.レディ事務所の仕切りになっている。残った仕事はちゃんとこなして、少しでも恩返ししないと。

 とはいえ、

 

「私、食レポとかやったことないんですけど……」

「大丈夫大丈夫。トワちゃんは普通に食べてればいいから」

 

 その日のお仕事は美味しいお店の紹介。

 ちゃんとしたレポートは芸能人やアナウンサーの人がやるから、ということで、私は時々飛んでくる質問に答えつつ、出されたものを美味しくいただくだけだった。

 なんというか「これ、お仕事?」ってなるやつである。

 辛かったのは、食べ始めるタイミングが決まっていることと、なるべく綺麗に見えるよう気を遣わないといけないこと、街を歩いて幾つかのお店を巡る感じだったので一般の人から声をかけられるけど、全部に答えてはいられなかったことだ。

 

「トワちゃん、美味しい?」

「はい、美味しいです!」

 

 とはいえ、美味しいものを食べられて不幸せなわけがない。

 自然と笑顔を浮かべながら食べていると、ディレクターさんが「よしよし」っていう感じで頷いていた。

 

「あ、あれは……」

「ん? あ、キッチンカーの路上販売だ」

 

 街を歩いている途中、あるものに目が留まった。

 視線を向けると、一緒に出演していたタレントさんが反応してくれる。

 大きめの乗用車の後部をキッチンに改造して、移動できるお店にしているクレープ屋さんだ。

 

「美味しそう。せっかくだから食べてく?」

「いいんですか?」

「うん。いいよね、スタッフさん?」

 

 OKが出たので、おススメだというブルーベリーとチーズがメインのクレープを食べさせてもらった。

 

「わ、美味しい!」

「うん、私のも美味しい!」

 

 定番のチョコバナナクレープを食べるタレントさんと自分のを食べさせ合いっこして(ついでに食レポしてもらって)、更に満足。

 目的のお店にあらためて移動しながら、私はちらりとキッチンカーを振り返った。

 

 車、かあ。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「キャンピングカーを移動事務所に?」

「するんですの?」

「うん。どうかなって思って」

 

 撮影を終えて寮に帰った後、私は百ちゃんと透ちゃんに時間を作ってもらって相談してみた。

 

「キャンピングカーって、キャンプに使うやつだよね?」

「葉隠さん、それだと名前のまんまですわ。……私も詳しくはありませんけれど」

「基本的には、キャンプに使う豪華な車だよ」

 

 私もざっと調べただけだけど。

 キッチンカーと同じく、キャンピングカーもサイズの大きい車を使う。一般的な大型車を元にしたものもあれば、マイクロバスサイズとかのかなり大きいものもある。

 特徴としてはキャンプ等に使えるよう、簡易キッチンや食事スペースがついていたり、寝る時にはテーブルを片付けて寝袋にくるまったり、簡易ベッドを引き出したりできるようになっていること。

 

「良いやつだとテレビとかエアコンとか冷蔵庫とか、トイレもついてるみたい」

「家じゃん!」

「サイズの分、積載量もありますから……二、三人程度がしばらく生活する程度なら問題ありませんわね」

「うん」

 

 “個性”社会のお陰か、前世の世界より技術的には進歩している。

 かなりハイテクかつ豪華設備のキャンピングカーも存在していた。

 既製品でそれなのだから、カスタムしたり、あるいは一からオーダーした場合には更に凄いことになるだろう。

 

「これならホテル取れなくても寝られるし、電車とかバスとか使わなくても移動できるし、駐車場さえあれば停められるから楽なんじゃないかなって」

「永遠さんらしい発想ですわね」

 

 うん、私もそう思う。

 せっかくの寮のベッドも最近は三時間も使ってなかったし、菓子パンとかカップ麺でも美味しく食べられる性質だ。食パンまるごととかになると「ジャムをください」って言いたくなるけど。

 

「うーん、いいと思うけど……」

「あ、何か問題あった?」

「うん。いや、永遠ちゃんって免許持ってないよね?」

「あー。そこは問題なんだよね」

 

 こっちでも車の免許は十八歳からだ。

 実際に運転できるかできないかはともかく、私も車の免許は持ってない。持ってない以上、私が自分で運転するわけにはいかない。

 

「でも、どっちにしろ、ドライバーさんを雇う必要はあるかなって」

「カーチェイスとかあるかもしれないもんね」

「長距離を移動するなら交代要員としても必要ですわ」

 

 移動事務所にすると言っても、事務仕事までは難しいから、どっちにしろちゃんとした事務所が必要だと思う。

 なので、スタッフさんは雇う前提の話だ。

 

「……よろしいのではないでしょうか」

 

 百ちゃんはしばらくの間、思案してから言った。

 

「本当?」

「ええ。別に正規の事務所を用意するのであれば、リスクは車の調達費用だけでしょう? 駄目だったら諦めればいいのですから、安い出費です」

「安い……かなあ?」

 

 元・庶民の私とは金銭感覚が違いすぎてよくわからない。

 とはいえ、ヒーロー事務所を経営するとなったら、それはもう一企業の社長と同じ――は言いすぎにしても、立派な個人事業主だ。

 お店単位の初期投資として見たら確かに安い。

 

「私もいいと思うよ! なんか楽しそうだし!」

「良かった。じゃあ、お父様やお母様にも相談してみるよ。他にもいい方法がないか聞いてみたり、探してみたりはするけど」

 

 二人からは「頑張れ」とエールをもらった。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 ビッグ3にも進路を聞いてみたところ、それぞれナイトアイ事務所、リューキュウ事務所、ファットガム事務所へ行くらしい。

 順当すぎて面白みはないけど、理由は「事務所を建てるお金が無い」っていう切実な内容だった。

 インターンでもお給料が出ていたとはいえ、自分の生活費も確保しないといけないわけで。卒業後すぐに貯金はたいて旗揚げは、よっぽど余裕がないとできない。

 

 他の三年生もだいたいそんな感じだった。

 後は、教員免許等を取るために大学に行く人もいた。雄英や士傑の他にもヒーロー学校はたくさんあるから、ヒーロー免許と教員免許両方を持っていれば引く手あまたなのだ。

 そう考えると、私はめちゃくちゃ恵まれている。

 親から無利子で高額の借金が可能(というか「返さなくてもいい」と言われた)。知名度もあるし、テレビとかに出たお陰で結構な蓄えもある。

 

 卒業して寮を出ても、とりあえず八百万邸に戻ればいい。

 あれ、というか、お屋敷の広さなら、あの中に仮の事務所を設置できちゃいそうな気もする。

 

 あらためて恐るべし、八百万家。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「じゃあ、だいたい方針は決まったんやね」

「うん」

 

 お茶子ちゃん、デクくんと軽く身体を動かしながら報告会をする。

 

「……事務所を構えつつ、車で各地を飛び回る、かあ」

 

 デクくんが呟いた通り、基本方針は透ちゃん達に相談した通りになった。

 

 お父様達に相談したところ二つ返事で了承。

 むしろ、事務所や車の件で詳しく相談したいから早く帰って来れないか、と言われてしまった。

 

「うう、お金持ちめ!」

「あはは……。結局、両親には目いっぱい頼ることになっちゃいました」

 

 稼いだお金から返済していくつもりではあるけど。

 

「でも、所長の出張が多いと事務所のセキュリティが心配だね」

「そうだね。だから、そこそこしっかりした事務所を作るつもり。事務仕事用のスタッフさんの他に、留守を守るサイドキックの人も雇わないと」

「わ。本当、いきなり大掛かりなことするんやね」

「といっても、実はちょっとした絡繰りがあってね」

 

 ちゃんとした拠点については「八百万ヒーロー事務所」として設立しようという話になったのだ。

 

 要は、百ちゃんが試験に受かった暁には姉妹で使おうという話。

 二人分なら大きな建物を用意しても、人員を多めに確保しておいても問題ないかな、って思える。百ちゃんがプロになった時にどう使うかはまた、そうなってからの時に話し合うにしても、だ。

 

「だから、各地を飛び回れるのはお姉ちゃんが独り立ちしてからかも」

「それまでは地元で頑張るんやね。いいと思う!」

 

 地元、か。

 拠点をどこにするかも悩ましい。敵連合はほぼ壊滅状態とはいえ、他の敵が私のルーツを探らないとは限らない。あの店の近くに居を構えるのは避けたい。

 これに関してはむしろ、百ちゃんの希望で決めた方がいいのかも。

 

「二人も、期末試験お疲れ様。大変だったみたいだね」

「あはは、ありがとう……」

「本当だよ! 相澤先生の鬼!」

 

 多分、鬼なのは校長先生だと思う。

 

 三度目の期末試験も、これまで通り、これでもかというくらい難易度の高いものが出されたらしい。

 参加できなかったのが残念なような、他人事で良かったような。

 

「……一年、経っちゃったねえ」

「そうだねえ……」

 

 遠い目をする。

 一年。

 入学した時はこれからどうなるかと思ったけど、過ぎてしまえばあっという間だったような気もする。

 原作のデクくん達はどんな風にこの時期を迎えたんだろう。

 今となっては想像することすらままならない。

 と。

 

「八百万さん」

「?」

 

 いつの間にか、デクくんが真剣にこっちを見ていた。

 

「僕は強くなる」

「―――」

「もっともっと強くなってみせる。だから、見てて欲しい」

 

 お茶子ちゃんがいるので、OFA(ワン・フォ・オール)のことは言えない。

 でも、メッセージは伝わった。

 私は「うん」と頷いて、

 

「あー、ずるい! 私だって頑張るから!」

 

 声を上げたお茶子ちゃんを見て、デクくんと二人、笑い声を上げた。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「卒業生のみんな、まずはおめでとう!」

 

 卒業式。

 壇上で校長先生が話を始めた。

 

 私は三年生に混じって卒業生の席にちょこんと座っている。

 制服を着るのもこれで最後。

 十八歳の男女と一緒にいると小ささが目立つなあ、と思いつつ来賓席に目をやると、お父様とお母様が手を振ってくれる。

 セキュリティ向上のために保護者の出席は無し、ということに決まったんだけど、二人は「せっかくの娘の卒業式だから」と来賓扱いでやってきてくれたのだ。百ちゃんの入学が決まってから学園に寄付をしているので、資格は十分にある、ということらしい。

 

「目標を遂げた者、惜しくも一歩及ばなかった者、希望した進路に就けた者、就けなかった者――色んな者がいることだろう。でも、私は全員に『おめでとう』を贈りたい」

 

 卒業生を中心に、泣いている人もいた。

 あ、ミリオも密かに涙ぐんでる。

 私はといえば、感慨深いものはあるものの――もう卒業なのか、という喪失感の方が強くて、泣くまでには至らなかった。

 でも。

 

「卒業というのは一つの節目だ。諸君はこれから、私達の手を離れて歩いていくことになる」

 

 こうしていると、本当に自分は卒業するんだという実感が湧いてくる。

 

雄英(ここ)で学んだことを、今後に活かしてくれてもいいし、無理に活かさなくても構わない。ただ、私が願うのは諸君が私よりも長生きすることだ」

 

 そういえば校長の寿命ってどうなってるんだろう……。

 

「長ったらしい話をしても仕方がないので、ここらで終わりにさせてもらおうかな。最後に教員、職員一同から、いつもの言葉で締めさせてもらいたい」

 

 ちなみに途中省略したものの、校長は五分近く喋っていた。

 それはさておき。

 がたっと立ち上がった先生方が一斉に口を開く。

 

「「「Plus Ultra!!」」」

 

 彼らの声に導かれたのか、それとも他の卒業生達に倣ったのか、私も立ち上がっていた。

 

「「「Plus Ultra!!」」」

 

 二度目の声は、卒業生と在校生の唱和になった。

 

 校歌斉唱(一応あったらしい、校歌。いつもプルスウルトラで締めるから歌った記憶がないけど。入学式出てないし)などのプログラムを終えて自由の身になると、一年生のヒーロー科のみんなを中心にもみくちゃにされた。

 

「あーはっはっは! これでA組が一人減って十九人かあ!」

「はいはい物間、わけのわかんない因縁のつけ方やめなよ。……本当におめでとう、八百万の妹さん。でも、負けないからね」

「ありがとう。私も負けないよ、拳藤さん」

 

 物間君と拳藤さんという不思議なコンビに激励されたり、

 

「永遠ちゃーん! しばらく離れ離れになっちゃうけど、私のこと忘れないでね!」

「もう、透ちゃん。大袈裟だよ」

 

 透ちゃんから充電とばかりに抱きつかれたり。

 

「負けてねえからな!」

 

 爆豪から殺気を受けたり、みんなでわいわい過ごして。

 

「お前ら、いつまで感傷に浸ってやがる。二年に上がったらこれまで通りにはいかないからな。気を引き締めろよ」

 

 相澤先生のいつものお小言を半ば聞き流しつつ、ぼちぼち解散した。

 離れ際、先生の鋭い視線が私を刺す。

 目だけで「連絡は欠かすな」と言ってくる彼に、私も口を開かず「わかってます」と応じた。

 

 そうやって全て終わった後は、待っていてくれたお父様やお母様と一緒に車に乗り込む。

 

 私はこのまま八百万邸へ戻ることになっていた。

 寮の片付けや荷造りは人を派遣してもできるから、ということで、私じゃないとできない作業に専念することになったのだ。

 

 そう。

 ここからが本格的に、私を養子にしてくれた恩を返す時。

 そして。

 平和のために、私が拳を振るう時だ。

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