死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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白雲朧と敵連合の壊滅

 黒霧が消えて、白雲朧が現れた。

 

 たぶん、彼がメイン素材だったからだ。

 他の人の身体は義手とか義足みたいなパーツと判断されたんだと思う。じゃあ何パーセントあれば巻き戻せるのか、と言われても「試してみないとわからない」としか言いようがないけど。

 あとは『巻き戻し』の威力を調整したお陰かもしれない。

 途中までゆっくり巻き戻した後、私は思い切って速度を年単位に引き上げた。そうすれば白雲が死んでいた期間を飛ばせるかもしれない、と思った。

 

 結果は。

 

『成功、したのか……?』

 

 インカムから聞こえてきたのは相澤先生の声。

 雄英もまだお休み期間なので、プレゼントマイクともども協力してくれている。

 

「わかりません」

 

 黒霧――白雲は気絶している。

 

「一応、拘束は解かない方がいいと思います」

『そう……だな』

 

 しばらくの間、意識が戻るのを待つ。

 私が見たのは顔写真だけだけど、見た目は完全に戻ってる。

 ただ、中身まで戻るものなのか。

 

 待っている間に先生達が入ってくる。

 

 マイクは黙ったまま、私の頭に手をのせてくれた。

 わしわしと私の頭を掻きむしりながら、白雲をじっと見つめるマイク。

 

「……頼むぜ、なあ。あいつにはこれくらい、いいことあったっていいだろ」

 

 相澤先生は何も言わなかった。

 ただ、白雲が目を覚ますのを待ち続けて、

 

「……ん」

 

 やがて、小さな声が聞こえた。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「個性消去」

「やってる」

 

 『彼』がうっすらと目を開く。

 

「……わた、し、は」

 

 駄目、か。

 部屋にいる全員に緊張が走る。

 

「っ。おれ、は……?」

「!?」

 

 一人称が「俺」になった。

 

「せん――」

「「白雲!!」」

 

 私が声をかけるより早く、先生達は動いていた。

 

「白雲! 俺だ! わかるか!?」

「目を覚ませ! 頼む! 頼むから!」

 

 白雲の目が先生達を映す。

 

「……プレゼント、マイク。イレイザー・ヘッド。うっ、ああっ……」

 

 苦しんでいる。

 記憶が混濁しているんだろうか。

 呻き、拘束された状態でもがきながら、うわごとのように言葉を上げる。

 

「約束! 覚えてるだろ!?」

「一緒に事務所を立ち上げよう。そういったお前が真っ先にリタイアしてるんじゃねえ……! お陰で俺達は、教師なんかやる羽目になったんだ……!」

「白雲!」

「白雲!」

「うううっ、あああっ!!」

 

 必死に声をかける先生達の姿は、私が今まで見たことのないものだった。

 

 ――白雲朧は在学中に死んだらしい。

 

 もし、百ちゃんや透ちゃんが死んでしまったら。

 彼女達が改造人間にされて働かされていると知ったら。それは、想像を絶する辛い現実だろう。

 

「……がんばれ」

 

 思わず、小さく呟いてしまう。

 

 直後。

 

 白雲の瞳が、かっ、と大きく見開かれ――。

 

「ショータ」

「!」

「山田」

「!?」

 

 彼は、ふっと笑みを浮かべ、再び意識を落とした。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 白雲が意識を取り戻したのは、更に丸一日が過ぎてからだったらしい。

 

 別の仕事が入っていた私は先に施設を後にしてしまったので、聞いた話だ。

 先生方も、えんえん待つわけにはいかないと、交代で待機していたそうだ。

 

『白雲は俺達のことを覚えていた』

 

 相澤先生が電話でそう教えてくれた。

 

『朧げだが、黒霧だった頃の記憶も残っている。……完全に元のままというわけではなく、死んだ時からえんえんと夢でも見ていたような状態らしい』

 

 夢うつつの状態だったものの、少しずつ元の自分を取り戻している。

 自分が一度死んでいること、死んでからかなりの時間が経っていることも受け入れているらしい。

 

『老けたな、と、昔のままの顔で笑いやがった』

 

 彼はひとまず警察病院に移されるらしい。

 必要なだけの監視はつけつつ、精神が安定するのを待って情報を引き出す構えだ。

 遺族への連絡や、今後の身の振り方については状況を見ながら、ということになった。

 

 ドクター、あるいはオール・フォー・ワンの仕掛けたトラップが発動し、スーパー黒霧が大暴れを始める……なんて可能性もゼロじゃない。

 

 いや、まあ、ないとは思うけど。

 『巻き戻し』で白雲が治ったのは、たぶん、精神への干渉が個性因子経由で行われていたからだ。その個性因子ともども身体を治したんだから、もう干渉は行えないはず。

 回復状況と本人の希望次第で雄英に復学だってできるかもしれない。

 敵として活動していたわけだけど、彼の意志じゃなかったわけだし、裏を返せば敵が欲しがる強力個性の持ち主なのだから。

 

『ありがとう。……お前のお陰だ』

 

 電話越しにそう言われ、私は思わず鼻白んだ。

 

「な、なに言ってるんですか。相澤先生らしくないですよ」

『お前は俺をなんだと思っている』

 

 めちゃくちゃむっとした声で怒られた。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 さて。

 私に与えられた別の仕事というのがなんだったのかというと――。

 

「……畜生。黒霧に死柄木まで捕まって、これからどうすればいいんだよ」

 

 寂れた路地裏。

 一人呟く怪しい黒覆面に近づき、声をかけた。

 

「大人しく捕まって罪を償わない?」

「っ! お、お前は……!?」

 

 ばっ、と、飛びのいた黒覆面――トゥワイスは驚きの声と共に私を睨みつけてくる。

 実質的に仲間の敵だ。

 仲良くお喋りなんかしてくれるはずもなく、彼の視線は逃げるか攻めるかをすぐさま考え始めていた。

 

「指名手配中の敵連合構成員、トゥワイスこと分倍河原仁。プロヒーロー、トワが拘束します」

「そ、そんな格好で忍び寄ってきてんじゃねえよ! びっくりなんてしてません、はい!」

「正義の不老不死(イモータル)ヒーロー・トワちゃん、ただいま参上! とかやった方が良かった?」

「変身ヒロインなめんな! 腰の捻りも腕の角度も声に乗せる愛嬌も何もかも足りてねえ! 超可愛いです!」

「ごめんなさい」

 

 ……なんか琴線に触れたらしい。

 

「それはそれとして、投降してはもらえない?」

「はっ。誰がするか! 降伏すれば許してもらえるんですね!」

「なら、仕方ないよねっ!」

「っ、速えっ!?」

 

 逃げる暇は与えない。

 一気に距離を詰めて拳を――と、一瞬早く、トゥワイスは私に何かスプレーのようなものを吹きつけてきた。

 目に染みる。涙が滲んで前が見えなくなる。息も苦しくなってげほげほと咳き込んだ。

 犯罪グッズ。逃亡生活の中、調達も難しかっただろうに。

 

「油断したな! 可哀想に、ごめんな!」

 

 トゥワイスは一目散に駆けだしていく。

 私から遠ざかり、表通りの方へ向かっているのがわかる。

 わかる。

 目が見えてなくても、聞こえる。

 

 追いかけて腕を掴んで、振り向かせて、腹部に一撃。

 

「なっ……!?」

 

 動きが止まったところでカフス等々で拘束。

 

「ざ、残念だったな……! 俺はコピーだぜ……?」

 

 気絶間際に嘯くトゥワイス。

 十中八九、それはない。

 あとでラグドールの『サーチ』で確認し直せばわかる。最初からサーチ登録した時点からコピーだったなら別だけど、だとしたら、フリーだった本体はこの数か月、何を遊んでいたのか。

 

「うん。まあ、とりあえず逮捕します」

 

 私は気絶したトゥワイスを警察に引き渡した。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 『蒼炎』荼毘。

 

 たぶん、連合の残党の中では彼が一番厄介だろう。

 何しろ捕らえるのが難しい。

 大規模な炎で無差別な被害を与えてくるのもあるけど、その炎で自分自身さえ焼くのが恐ろしい。迂闊に交戦すると自害してしまいかねない、という意味で。

 

 なので、彼に関しては『サーチ』に頼るだけでは足りない。

 こちら側も策を練った上で挑んだ。

 

 荼毘は死柄木やトゥワイス以上に街中を好む。

 まあ、トゥワイスは覆面を脱げないせいで怪しすぎてあんまり街を歩けないんだけど……。

 下手に手を出せば民間人に被害が及ぶ。

 相手の狙いを逆手に取る。

 

 ラグドールに協力してもらい、荼毘の行動をモニター。

 

 繁華街のコンビニに入り、レジを済ませたところで行動開始。

 地味ーなヘアスタイルのウィッグを被り、野暮ったい眼鏡をかけ、黒っぽい服装に身を包み、印象が変わるように軽い化粧を施した私は、母親(役の女性)と一緒に入店。

 いかにも「親に無理やり連れて来られてふてくされてます」といった風を装って荼毘にぶつかる。

 

「……気をつけろ」

「すみません」

 

 謝り、見上げる私。

 目が合った瞬間、荼毘は気づいたようだった。

 でもその直後、私の拳が彼の腹にめり込む。

 

「がっ……っ!?」

 

 気絶、しない。

 目を血走らせた荼毘は『蒼炎』を起動しようとしただろう。でも、腹に食い込ませた拳からAFO(オール・フォー・ワン)を使ったため、何も起こらない。

 

「て――」

 

 何かを言おうとしていた彼の足を母親役の女性がさっと払い、うつ伏せに押し倒すと腕をねじり上げ、ぺたんこ靴で背中を踏みつけにする。

 そこへ、私がカフスをかけた。

 

「な、何事ですか?」

 

 私と、それから、あまり顔の割れていないプロヒーローということで動員されたセンスライさんは、ウィッグや眼鏡を取って人々に告げた。

 

「ヒーローです。指名手配中の凶悪犯・荼毘を逮捕しました」

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「いやあ、すごい快挙じゃないッスか。プロデビューから一週間で敵連合の残党を一掃。お偉いさんは感謝状の贈呈を検討してるらしいッスよ」

「あはは……。ありがとうございます。ホークスさんに言われると恥ずかしいです」

「またまた。この分ならいいセン行っちゃうんじゃないッスか? 初めてのヒーロービルボードチャート」

 

 引き渡し手続きを済ませて帰ろうとしたら、ちょっと胡散臭い感じのグラサンイケメンに捕まった。

 

 お茶でもどうっすか? と誘われて断るわけにもいかず、個室制の喫茶店へ。

 人目は気にしなくていいけど、盗撮・盗聴は可能性あるんだよね……とか思ってると「対策してるから大丈夫ッスよ」と言われて「この人怖い」とあらためて思う。

 それはそれとして「先輩としてお祝いに奢りますよ」と言われたので、季節のフルーツタルトとレアチーズケーキ、ティラミスにほうじ茶、あとアイスティーを注文した。

 

「知名度はそこそこあると思いますけど……変に載っちゃうと恨まれそうですよね」

「はっはっは。だとしたら僕なんか恨まれまくってますよ」

 

 洒落になってないんですが……?

 

「それに、死柄木達を捕まえられたのは相性が良かったからですし」

「便利っすよね、その“個性”」

「ホークスさんの“個性”もマルチで羨ましいですよ」

「なんなら持ってきます? 僕の『剛翼』」

「私が持ってても『小鳥みたいでかわいー』とか言われるだけですよ」

 

 ははははは、と、二人で笑い合う。

 うわあ、心中探られてる感じで超怖い。

 

「なんにせよ、これで敵連合は壊滅ッスね」

「ステインの遺志を継ぐ者が現れたように、連合のフォロワーが立ち上がらないとも限りません」

 

 アメコミはあんまり詳しくないけど、そういうのよくあるイメージ。

 

「それに、残党を全部捕まえたのかどうかもわかりません」

「内通者ッスか?」

 

 こくりと頷く。

 結局、内通者の件は有耶無耶、宙に浮いてしまっている。

 末端を放置して本丸を叩いてしまったため、探る機会が逆に失われてしまった感じだ。もちろん、実は内通者なんていないとか、無意識に内通者と化していただけ、とかいう可能性もあるんだけど。

 

「トワさんは色々考えてて偉いっすねー」

「ホークス先輩に比べたら全然ですよー」

 

 いや、本当に。

 敵ばっかりの組織にスパイとして潜り込んで、暗号でこっちに情報を伝えてくるとか、私には絶対無理。

 

「まあ、そう簡単に越えられたら先輩の立場がないっす。……でも、トワさんの活躍が嬉しいのも本当なんですよ?」

「……えーと、また何か厄介ごとの依頼ですか?」

「厄介ごとというほどでも。事務所、立ち上げに際して人員募集してまスよね? 一人、いい子がいるんで紹介しようかな、と」

「いい子?」

 

 ホークスがスタッフの紹介……?

 裏で誰が糸を引いているのか非常に怖い。でも、体制側のスパイならそこまで怖がる必要もないか。有能ならそれでいいわけだし。

 一応聞くだけ聞いてみよう。

 

「どんな人なんですか?」

「まあ、ちょっとした犯罪やらかした女性なんですけど」

 

 犯罪者。

 

「二十二歳。PCをはじめ電子機器に強いのを保証します。なので、事務処理でも経理でも広報でもなんでもいけますよ」

「あー……」

 

 だいたい誰のことなのか想像がついた。

 

「減刑する口実として、目の届くヒーロー事務所で働かせようと?」

「はい。上手くいけば半年~一年後くらいに、力仕事に向いた成人男性も紹介できます」

「そ、そう来ましたか」

 

 でも、彼らなら確かに能力は悪くない。

 私はホークスに「検討します」とひとまず返事をした。

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