死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

7 / 107
USJ襲撃2

 内通者は誰か。

 

 『ヒロアカ』における大きな謎だ。早くに示唆されながらもなかなか判明しないため、色んな人が「あいつだろう」「いやあいつだ」と説を展開していた。

 完結まで見届ければ正解がわかったんだろうけど、残念ながら私は途中までしか知らない。

 この件については推測するしかない。

 

 根津校長説は個人的にナシ。

 原作における「USJ襲撃事件」で怪しい動きをしてたけど、内通者というには動きが中途半端。もし(ヴィラン)側に通じているとしても、流す情報を調整してヒーロー側に有利な状況を作ろうとしている、いわば二重スパイの可能性が高いと思う。

 もし校長が内通者なら、私は一番渡しちゃいけない人に情報を流したことになる。

 

 個人的一押しは警察の塚内警部。

 彼には「黒霧と服装が同じ」っていう物凄い不審な点がある。オールマイトの親友というポジションでもあるため、各種情報も入手可能。

 他にも何人も候補はいるものの、塚内警部以上に怪しいとは思わない。

 

 ――ただ、怪しい上、その怪しさを否定しようもない人物が一人。

 

 『透明化』という“個性”を持っているために隠密行動が可能。

 服を完全に脱いで全裸になってしまえば、基本的に発見不可能。盗み聞き、極秘資料の閲覧、敵側との密会・情報交換などなどが思いのまま。

 ()()の名前は一年A組、葉隠透。

 黒霧の“個性”で飛ばされる際、私が咄嗟にくっついた人物だ。

 

 

 

 

 

 

「いたた……。永遠ちゃん大丈夫!?」

「う、うん。葉隠さんこそ」

 

 私達が飛ばされたのはやや奥まったエリア。

 水難ゾーンや火災ゾーンなど四つのアトラクションと等距離にあり、相澤先生達が戦っている広場にもダイレクトで移動できる。

 中途半端な場所だからか、近くにヴィランの姿はない。

 

 私のすぐ傍には手袋とブーツだけが浮いている。

 葉隠さんだ。

 知っている範囲では素顔さえ明かされていない、謎に包まれた透明女子。

 

「バラバラに飛ばされちゃったのかー! みんなは大丈夫かな?」

「みんな簡単にはやられないと思うけど……」

 

 楽観はできない。

 私達だってもちろんそうだ。

 

 ――あらためて周りを見渡す。

 

 原作で誰がどこに飛ばされたか、詳しくは覚えてない。

 ただ、デクくん&梅雨ちゃん&峰田君が水難ゾーンは確かだ。配置が同じで、峰田君がいない穴がそのままだと仮定すると、残った二人が気になるけど、

 

「もうー、永遠ちゃん危ないよ! いきなり抱きついてくるんだもん!」

「ごめんね。葉隠さんは見えにくいから、万が一があるかなって」

「私一人の方が安全だよ! 裸になって隠れれば見つからないし!」

「ご、ごめんなさい」

 

 轟君とか爆豪の流れ弾が怖いのは本当。

 原作でも「いたのか。凍らせるところだった……」みたいな場面があったくらいだ。

 でも、それは表向きの理由。

 本当の理由は、葉隠さんには伝えられない。

 

「せっかくだから脱いじゃお」

 

 言って、ぽいぽいと手袋&ブーツを捨てる葉隠さん。

 所持品は透明にできない彼女だけど、逆に言うと身体は完全に透ける。全裸になればどこにいるのか全くわからない。

 絶対恥ずかしいから私ならやりたくないけど。

 

「さて! これからどうしよっか! 別行動する?」

「ううん、できるだけ一緒にいた方がいいと思う。非常時だし」

 

 ちょっと苦しいかな?

 さっき、一人の方が安全って言われたばかり。

 でも、ここで彼女を一人にするわけにはいかない。

 

「うーん、そっか」

 

 返事だけが聞こえる。

 姿は見えない。声の位置が、さっきと少し違った。移動している。何のために? どうしてこのタイミングで()()()姿を隠した?

 

 ――原作のUSJ襲撃が解決した後、葉隠さんは「轟君の傍にいた」と証言していた。

 

 ただ、彼女は轟君の範囲攻撃に巻き込まれていない。本当に近くにいたなら凍っていてもいい。凍らなくても彼女なら「もー! 気をつけてよ! ぷんぷん!」くらい言いそうなのに、轟君は葉隠さんの存在を知らなかった。本当にそこにいたのか? いなかったとしたらどこにいたのか?

 騒ぎに乗じて何か別の工作を行う。

 いかにも内通者がしそうなことじゃないだろうか。

 

「ねえ、永遠ちゃん」

「―――!?」

 

 声は、背後からした。

 びくっとして飛びのこうとするも、その前に、首へ冷たいものが触れた。

 指だ。

 細い女の子の指。でも、爪を立てれば首の皮くらいなら破れる。

 

何を気にしてるの?

「っ」

「妙に冷静じゃないかなー? 戦闘訓練でも圧勝だったし、体力テストもビリになるように調整してなかった? 何を隠してるの?」

「そんな、こと」

 

 怖い。

 葉隠さんが怖い。

 妙に冷たい声以外、情報がないから余計だ。今、彼女はどんな顔をしているのか。何を思って私に尋ねているのか。

 彼女にとって都合の悪い答えを出したら、私はどうなるのか。

 

ねえ。永遠ちゃんは、誰の味方なのかな?

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 一方。

 広場周辺の戦いは、綾里永遠の知る『原作』と概ね同じ流れを辿った。

 

 黒霧の接敵を許した13号は、霧を免れた生徒達を守ることを優先した。

 最も機動力に優れる飯田を逃がし、己の“個性”でブラックホールを作り出して攻撃――黒霧の“個性”によってブラックホールの位置をズラされ、当人が重傷を負う結果となる。

 永遠が送った手紙の内容を、根津はオールマイト以外には伝えていなかった。

 漏洩を恐れたのが理由だが、結果的にはこれが裏目に出た。

 

 相澤・シンリンカムイvs死柄木率いる敵軍団は一進一退。

 二人のプロヒーローの共闘によって雑魚は少しずつ蹴散らされていくものの、首魁と見られる死柄木が捕まらない。

 深追いすれば、触れた物を崩れさせる“個性”が発動しかねないし、相澤もシンリンカムイも捕縛に向いたヒーローであって長期戦は得意ではない。

 じりじり、じわじわ、「数」と「体力」の交換が行われる中――ブレイクスルーとなったのは、敵の増援。

 

 脳が剥き出しになった謎の怪人。

 死柄木が脳無と呼んだその敵は、オールマイト並のパワーによって相澤達を圧倒。

 

 しかし、黒霧が飯田を取り逃がしたことで、敵連合も窮地に。

 

「平和の象徴としての矜持を少しでも、へし折って帰ろう」

 

 死柄木がそう宣言し、脳無が相澤の身体を砕こうとした時。

 

もう大丈夫。私が来た

 

 No.1ヒーローの剛腕が怪人・脳無に強烈な一撃を浴びせた。 

 

 

 

 オールマイトは、相澤達との連絡がつかなくなってすぐに行動を起こしていた。

 校長に報告した上で訓練場に急行。

 途中、行き会った飯田をそのまま校舎に向かわせ、全速力で到着した。

 

 

 

 このUSJ襲撃――敵連合側の目的は平和の象徴・オールマイトである。

 彼の登場によって連合は方針を変更。

 撤退は取り消され、オールマイトvs脳無の大決戦が始まった。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 まさか、当たりだった……?

 

 最悪すぎる流れに、私は冷や汗をかいていた。

 A組に内通者がいるとは思いたくなかった。

 でも、何の裏もない子がこんな言動するはずない。これじゃまるで、私が「勘のいいガキは嫌いだよ」って消される流れだ。

 

 ――次の一手で最悪、殺される。

 

 正解は何か。

 葉隠さんが敵側なら、私もそうだと勘違いしてもらうべき? でも、彼女はどこまでの情報を持っているのか。協力者一覧まで握っているなら藪蛇になりかねない。

 わからない。

 わからないなら、素直に答えるしかない。

 

「私は弱い者の味方だよ。……もっと言うなら、平和に暮らしたい人の味方かな」

 

 それが私のアイデンティティ。

 心に嘘はつけない。

 読心術を使ったって「嘘」判定はされないだろう。

 

「本当?」

 

 でも、指は離れない。

 

「本当だよ。スパイ的なアレなら、もっと上手くやると思わない?」

「………」

 

 さあ、どうだ。

 ドキドキしながら待っていると――指は、そっと私の首から離れていった。

 

「しょうがないなあ! 信じてあげる!」

 

 何も見えないけど、「ニコッ!」って擬音が見える気がする。

 

「殺さないの?」

「殺さないよ! 私をなんだと思ってるの!?」

「……敵のスパイ?」

知られたからには口封じを。……って、しないよそんなこと! 私、ヒーロー志望なんだよ?」

 

 良かった……。

 息を吐いてへたりこむ。

 

 ――心臓に悪いよ、もう。

 

 葉隠さんは味方だったっぽい。

 内通者じゃないのか。それともやっぱり二重スパイ?

 

「詳しいこと、教えてくれる?」

「いいよ! って言いたいところだけど、今はそんな場合じゃないよ、永遠ちゃん!」

「あ、そうだね。先に敵をなんとかしないと」

 

 答えて立ち上がる。

 

「私的には水難ゾーンが気になるんだけど」

「んー、そっちは緑谷君と梅雨ちゃん、あと青山君が船の上にいるみたい。ビームを警戒してるのかな? 敵は上がって来てないから、しばらく平気じゃないかな!」

「見えるの?」

「目はいいんだよ!」

 

 私も船のシルエットくらいは見えるけど、よく見えるなあ。

 つくづく敵に回したくない。

 

「それなら優先は暑いところかな」

「火災ゾーンだね。なら、そっから半時計周りにみんなを回収しよっか!」

「りょうか……わっ、と?」

 

 話が決まった途端、ひょいっと抱き上げられる私。

 柔らかいものが当たってるような。

 葉隠さん、今、裸だったよね……?

 

「は、葉隠さん?」

「この方が早いからね! それじゃあ行くよー永遠ちゃん!」

「わ、ちょっ」

 

 私が手ぶらで走るより早いんだけどっ!?

 

 

 

 

 

 ともあれ。

 私と葉隠さんは急いで皆のところに急行、寄せ集めのチンピラっぽい敵をぶっ飛ばしながらA組メンバーと合流していった。

 

 火災ゾーンで尾白君。

 山岳ゾーンで百ちゃん、耳郎さん、上鳴君。

 土砂ゾーンで轟君と合流。

 

 倒壊ゾーンはどっかんどっかんやってるのが聞こえたので「あ、爆豪だコレ」と無視した。

 物の多いところで爆発を連打されてたら、近づく方が危ない。

 

「助かりましたわ」

「これで三分の一くらいか。他の奴らはどこだ?」

「たぶん、飛ばされなかった人もいると思うよ!」

「轟君。水難ゾーンの敵を凍らせて緑谷君達を助けられない?」

「ああ。できると思う」

 

 広場周辺はまだ危ないので、こっそり迂回してデクくん達を救出。

 

「た、助かったよ……! でも、目立ちすぎじゃ……っ!?」

 

 凍った水面を歩いて船の上まで行くと、デクくんがそう叫ぶ。

 

「大丈夫。向こうも取り込み中だから」

「な、なんだあの怪物……!?」

 

 もう脳無が出てきて、オールマイトと打ち合ってる。

 相澤先生とシンリンカムイは疲弊してるけど、命に関わる怪我じゃない。黒霧も牽制されて大きな動きができてないけど、死柄木の動向含めて予断を許さない。

 

 下手に介入すると不利になりかねない。

 既に救援要請が行ってるなら、見守る方が得策かもしれないけど――。

 

「なんだよオイ! ボス残ってんじゃねえか!?」

「爆豪ぉ!?」

 

 私達が迂回した分、向こうが先になったか。

 不意を突いて死柄木に襲い掛かるツンツン頭の不良少年。あれがボスって判断したのは凄いけど、死柄木の反射神経は異常だ。

 直撃を回避された上、爆豪はコスチュームごと腕を掴まれる。危ない! と思った時には咄嗟の判断で腕を引き、手榴弾を模した腕パーツを犠牲に離れた。セーフ。

 

「……助けよう!」

 

 うん。デクくんならそう言うよね。

 

「オールマイトの邪魔はしない方がいい。やるなら手だらけ男と霧のやつだと思う」

「なら、俺の出番か」

 

 呟く轟君。

 

「不意打ちなら私にお任せだよ!」

「透ちゃん、喋ってないといるのかいないのかわからないわ」

 

 葉隠さんも危険な位置を買って出てくれる。

 作戦会議ができる時間は短い。

 

「行こう!」

 

 自然とリーダーになったデクくんの一声で、皆が動きだした。

 まずは、轟君が氷結で壁を作り、オールマイト&脳無とそれ以外を分断。

 

「なに……!?」

「やあああああっ!」

 

 驚く死柄木。

 黒霧は霧を展開し、向こう側にワープしようとするけど、そこに私が大声を上げて突っ込む。

 ステッキ構えた魔法少女が真っすぐぶっ飛ばしに来た。

 見た目のインパクトで一瞬、注意を逸らし、葉隠さんが背後から一撃。

 

「!?」

 

 これには黒霧さえも動きを止めた。

 でも、まだ終わってない。止まった死柄木と黒霧に向け、残ったメンバーが野球ボール(百ちゃん作)を次々に投擲。葉隠さんの存在を認識させる前に畳みかける。

 ここまで来たら、あの暴れん坊が黙っているわけがない。

 

「邪魔すんな! ボスは俺がやる!」

「餓鬼がぞろぞろと……!」

 

 死柄木も、黒霧も、オールマイトの方を忘れざるをえない。

 

 死柄木に殴りかかった爆豪が。

 黒霧に殴りかかった私が。

 

 それぞれ一蹴され、葉隠さんが離脱、野球ボールが尽き、残った轟君達が敵にロックオンされた時には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして。

 物凄い衝撃音と共に脳無がどこかへぶっ飛ばされていく。

 氷が砕ける。

 

「どうやら私達の勝ちのようだな悪党共!」

 

 オールマイトが、無事に姿を現した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。