死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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体育祭の後で

「体育祭も凄かったよ……」

「いや、ほんとに……」

「あはは。お疲れ様。格好良かったよ」

「永遠ちゃんってば完全に他人事だね!」

「まあ、実際他人事ではあるのですけれど」

 

 ほんと、体育祭は強敵だったね。

 

 というわけで体育祭が終わった後、私は1-A改め2-Aの寮へお邪魔した。

 学年が変わっても場所は変わってない。表の「1-A」という表示が「2-A」になっただけ。ノリで学年刻印しちゃったけど、よく考えたら寮は持ち越す方が楽だよね、という葛藤(?)が裏にありそうだ。

 

「何しに来やがったチビ。偉そうに出てった癖にもう出戻りかクソ」

「ははは。爆豪の悪態がなんか懐かしいなあ」

「すげえ。全然効いてねえぞ上鳴」

「さすがプロヒーローだよな、切島」

 

 男子から変なところで褒められた。

 

「みんなあの激戦の後なのに元気いっぱいだねー」

「敵に腹を突き破られた後、食事しながら観戦していた永遠君には言われたくないぞ!」

 

 確かに。

 でも、疲れたしエネルギー補給も必要だったのでお腹が空いてたのだ。じゃがバターにフランクフルトに焼きそばにたこ焼きにりんご飴にベビーカステラをラムネで流し込んだのも仕方ないと思う。せっかくチケット貰ったし。

 

 ちなみに体育祭(二年目)が具体的にどんなだったかはここでは言えない。

 詳しく言うと長くなるし、去年同様「馬鹿じゃないの!?」って言いたくなるような難関揃いだったからだ。

 

 ちょっとだけ書くなら「人間玉入れ」とか「借り物競争(超鬼畜モード)」とか「クラス対抗リレー(全員参加、ハンデあり)」とか。

 うん、やったら楽しいんだろうけど、正直選手じゃなくて良かった。

 

「永遠ちゃんがいたら玉入れ楽勝だったんだけどね!」

「透ちゃん、それ、私、玉にされてるよね?」

 

 丈夫さなら誰にも負けないからいいけど、玉って。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「お茶子ちゃん、緑谷君とは順調?」

「え? えええ、えーっと。な、なんで急に変なこと聞くん!?」

 

 気になることを聞いてみたらすごく動揺された。

 

「緑谷君はどう?」

「ど、どどどど、どうって!?」

「うわ、挙動不審」

 

 二人して真っ赤になってこの有様。

 喧嘩して気まずいって感じではないから上手く行ってるんだろうけど。

 

「大丈夫大丈夫。二人ともラブラブすぎて、時々割って入れないくらいだよー」

「訓練の時は率先して殴り合ってるけどね」

「なるほどなるほど」

 

 芦戸さんと耳郎さんがわざとらしく耳打ちして教えてくれたので、わざとらしく相槌を打つと、真っ赤になったお茶子ちゃんが限界を突破して、

 

「そ、そんなことしてへんし! ね、デクくん!」

「う、うん。僕とお茶子さんは全然、さっぱり、これっぽっちも、ラブラブなんかじゃ――」

「ふーん」

「お茶子さん!?」

 

 デクくんが地雷を踏んだ。

 

「リア充」

「爆発しろ」

 

 切島君と上鳴君が怨嗟を込めて呟く。

 離れたところで聞いていた耳郎さんが目を細めて、

 

「ばーか」

 

 と、誰にともなく言った。

 芦戸さんは楽しそうにけらけら笑っていた。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 A組B組共に進級できない生徒はいなかったらしい。

 ある意味私が唯一の脱落者。

 そんな私の飛び級プロヒーロー入りが刺激になって、みんな授業やインターンに励んでいるそうだ。特に爆豪の気合いの入りようは恐ろしいらしい。

 

「こっちも必死にならないと追いつけないよ」

 

 とはデクくんの談。

 

「緑谷君も負けてないと思うけど」

 

 と言うと、彼は真面目な顔で答えた。

 

「いや。かっちゃんにもだけど、君にも追いつきたいから」

「……そっか」

 

 無理はしないでね、とも言えず、私は曖昧に頷いた。

 お前が言うな、って言われると痛い。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 なかなか話は尽きない。

 せっかくだからご飯食べて行けば、と言われて「じゃあそうしようかな」と頷いたところ、

 

「お前の分の飯はねえぞ」

「あ、心操君」

 

 A組のニューフェイス、私がいなくなった枠に入ってきた、元普通科の心操君が、いつの間にか傍に寄ってきていた。

 

「久しぶり、元気だった?」

「ああ。……というか、俺に声かけられて、何の警戒もなく反応するのはお前くらいだ」

「あはは。ごめんなさい」

 

 彼の『洗脳』はかけられるとほぼ抵抗できない。

 かけられてから突破したデクくんとかは例外で、一番の対策は「反応しないこと」。返事するなよ洗脳されるぞ、なんて悪意ある台詞を吐く人までいるくらいなんだけど……私はもう克服してる。

 

「……お前相手だと調子が狂うな」

「って言っても、A組のみんなだってもう慣れたでしょ?」

「「とーぜん!」」

 

 だと思った。

 そのへんどうなのかと見れば、心操君は苦笑していた。

 満更でもなさそうだ。

 

「そういえば、マイクとか使うとどうなるの?」

「変成器と同じで拡声器は問題ない。無線や赤外線、wi-fiで飛ばすインカムだと発動しない」

「じゃあ、仲間全員に咽頭マイクとノイズキャンセリングイヤホンつけさせるっていう手もあるんだね」

「ヒーローじゃなくてスパイみたいだけどな」

 

 たしかに。

 

「でも、さすがに晩御飯が一人分増えたりはしないか……。じゃあ私は自分の分買って来ようかな」

「待って永遠ちゃん! ヒーローは気軽にコンビニ行ったら駄目だよ! 三十分は帰って来れないよ!」

 

 敵に会うか、ファンに捕まるかはその時次第だ。

 

「デリバリーを頼めばいいですわ。雄英の寮と言えば迷いようがありませんし」

「マジか! ヤオトワの奢りか!?」

「みんなは晩御飯あるんだよね!? まあ、デザートかサイドメニューくらいなら好きに頼んでいいけど」

「「ひゃっはー、宴だー!!」」

 

 後で相澤先生に怒られた。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「よう」

「あ、轟君」

 

 カツ丼をかき込みながらピザをぱくついていたら、轟君が隣に座った。

 

「親父と()ったらしいな」

「うん。凄く強かった。あれは勝てないよ」

「簡単に勝たれたら俺の立場がないな」

 

 苦笑する轟君。

 ピザを「食べる?」と差しだしたら「いい」と言われた。蕎麦じゃないからかな? でも、みんなで分けられないしなあ。和食が好きならお寿司とかが良かったかも。

 

「親父がさ」

「うん」

「わざわざ連絡してきたんだ。お前と戦ったって」

「うわ。なんか怖いよ」

「俺だって驚いた。それから、食い下がられたって聞いて余計に驚いた」

「それだけが取り柄だからね」

「だとしても、な」

 

 轟君とエンデヴァーは父子だ。

 エンデヴァーは轟君を後継者にするつもりで育てた。実際、轟君はエンデヴァーのアッパーバージョンともいえる能力を持っている。成長したら荼毘や外典でさえ相手にならない「温度使い」が誕生すると思う。

 でも、父子の関係は複雑だ。

 前よりは良くなってるはずだけど、簡単には修復できない。

 

「お父さんも息子との距離を測りかねてるんだよ」

「近所のおばさんみたいなこと言いやがって」

 

 言われたんだろうか。

 

「まあ、でも、いい機会だった。あいつがオールマイト以外のヒーローを話題に出すなんて珍しいからな。お前のことならお互い気にせず話せた」

「エンデヴァー、オールマイトのこと好きすぎだよね」

「ああ。あいつは本気で目指してたからな」

 

 No.1ヒーローを。

 オールマイトを実力で超えることを。

 

「何か言われた?」

「強くなれ、って」

「強くなりたいよね」

 

 ヒーローなら誰でも思うだろう。

 もっと力があれば。

 もっと強くなればもっと救える。もっと守れる。

 

「お前はそのくらいにしておいて欲しいけどな」

「まだまだだよ。私も」

「まだまだか。そうだな」

 

 湯呑みに入ったお茶をぐっと飲み干して、轟君は。

 

「エンデヴァーくらい軽く超えないといけないもんな。俺達は」

 

 静かに笑ってそう言った。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「……眠い」

「お仕事お疲れ様です」

「残業させておいて何言ってやがる」

 

 こつん、と額をつつかれた。痛い。

 

「ははは、相変わらずだね、トワ君」

「校長先生もお久しぶりです」

「うん。元気そうで何よりだよ」

 

 ご飯を食べ終わってもなお話が尽きなくて、もういっそ泊っていこうかな、なんて思い始めた頃、校長先生と相澤先生から呼び出しがかかった。

 部屋は空いてるし、透ちゃんも「一緒に寝る?」って言ってくれてたのでちょっと残念だ。

 

「あの、私もいるんだけど」

「あ、お久しぶりですオールマイト。プロ試験には出ないでくださってありがとうございます」

「いやいやいや。依頼は来たけど断ったよさすがに」

「でも依頼は来たんですね……」

 

 トゥルーフォーム(がいこつ)のオールマイトはいつも通り気配が薄い。

 

「“個性”は結局戻らなかったんですよね?」

「うん。残り火すら戻らなかった。個性因子自体が消失している場合、『巻き戻し』は効かないのかもしれないね」

 

 OFA(ワン・フォー・オール)やAFO《オール・フォー・ワン》による個性譲渡は特殊事例だ。

 無個性に与えても個性が運用できることから見ても、因子ごと“個性”を移していると考えるのが無難だと思う。私達が“個性”を運用できているのは因子のお陰だということだ。

 そう考えると、複数の個性所持に身体的負担がかかるのも納得できる。“個性”が増えるほど身体が個性因子だらけになるからだ。AFOには複数の個性所持による負担を和らげる効果があるんだろう。

 ギガントマキアや脳無も基本、身体が大きいから、AFOとか無しで複数個性を持とうと思ったら、まず身体をおっきくするのがいいかもしれない。

 

 ……Mt.レディ最強説?

 

 レディさんに青山君のレーザーを移してみたい気持ちはとてもあるけども。

 

「でも、身体は健康になったし、筋肉も戻ってきたんだよ」

「肌艶が良くなりましたよね。加齢臭もしなくなりました」

「加齢臭は止めてくれよ。気にしてるんだから」

「気にしてるんですか。オールマイト先生ともあろう人が」

「相澤君。君はまだ若いからわからないだろうけどね、昔からの知人に『歳食ったな』とか笑われながら臭いを指摘されるのは本当に辛いんだよ?」

「私も清潔にはネズミ一倍気を遣っているよ!」

 

 世知辛い話だった。

 

「それで、今日のお話は?」

「特に大きな話はないんだけど。ほら、白雲君のこととか報告しようと思って」

「あ。白雲、さん? はどうなったんですか?」

「リハビリが最終段階ってところだ」

 

 ということは、経過は順調みたいだ。

 

「良かったです」

「“個性”にも今のところ異常は出ていないね。発動にも運用にも支障はない」

「元の“個性”ってことですよね?」

「いや」

「……え?」

 

 初耳だ。

 

「え、ちょっ。ちょっと待ってください。どうなったんですか?」

「……白い雲を出す能力には戻った。だが、どういうわけかワープゲートの力も備えている」

「なんですかそれ」

「俺にわかるか」

 

 相澤先生がむすっとして言う。

 

「『すげーぞショータ! 俺の“個性”がパワーアップした!』とか威張られた俺の気持ちがわかるか」

「お察しします……」

 

 でも、そうなるとやっぱり『巻き戻し』は個性因子にだけは別の働きをするのか。

 改造される際に因子を移植されたから、巻き戻しても因子自体は残ってしまう。でも、因子の時間は巻き戻ってるから、そこに仕込まれた洗脳やらはリセットされてる?

 詳しくはドクター案件な気がする。

 白雲にあんな改造施した本人に調査依頼するのもアレだけど。というか、あんなことしておいてしれっとこっちに寝返るあたり、さっさと捕まえておいた方が良かったんじゃないだろうか。

 

「リハビリ終わったら雄英に編入ですか?」

「彼もまだ悩んでいるようだけどね。おそらくそうなるんじゃないかな!」

「A組かB組がどっちか二十一人になりますけど」

「別に、絶対に二十人っていう決まりはないが」

「え?」

「あ?」

 

 嘘だ。

 だったらなんであんなに発破をかけてきたのか。

 

「合理的虚偽」

「……もういいです」

 

 白雲が編入することになった場合、誰か一人が普通科に落ちる! って煽って特別試験をして、合格ラインを超えていたら誰も落とさない、という方針らしい。

 

「あ、いつもの雄英ですね」

「だろう?」

 

 自慢げに言うところじゃありません、先生。

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