死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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※作者はコミック派です。
 永遠が知ってるのも原作二十五巻までの情報です。


USJ襲撃3、と後始末

「あーあ、こりゃダメだ。ゲームオーバー」

 

 死柄木が言う。

 顔に手がくっついてるせいで頭を抱えてるように見えるけど、どの程度悔しがってるのかはわからない。

 

「帰って出直すか、黒霧」

「承知しました」

 

 渦巻く黒い霧。

 このままだとワープゲートで逃げられる。原作程の被害は出てないけど、敵側を追い詰めることはできていない、中途半端で終わってしまう。

 私は咄嗟に叫んだ。

 

「相澤先生! 霧を!」

「―――」

 

 相澤先生は声に反応した。

 黒霧を睨もうとして、その時にはもう霧が死柄木達を包んでいた。ううん。ギリギリ間に合いそうだったのに、敢えて一瞬遅らせたんだ。

 どうして。

 思った私は、相澤先生を見ている別の人物に気づいた。

 

 ――オールマイト。

 

 私が視線を向けると、オールマイトも私を見る。

 その目は、妙に鋭く尖っているように思えた。

 

 程なくして応援も到着し、敵連合によるUSJ襲撃事件は無事に幕を下ろした。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 無事に。

 無事に……無事……?

 

「やあやあ! よく来てくれたね!」

「は、はい」

 

 放課後。

 相澤先生に呼び出された私は「いいからついてこい」と、ある部屋に連れて行かれた。私の目が曇っていなければ、入り口のプレートには『校長室』とあった。

 中には二足歩行して喋る陽気なネズミ――根津校長と、それからもう一人。

 

「っ」

 

 私は、彼を見た瞬間に硬直してしまった。

 

 ガイコツを連想させる貧相な男。

 オールマイトの真の姿(トゥルーフォーム)なんだけど、問題はそれが公にされていないことと――私は()()()()()()()()()()一目でわかったということだ。

 不審がらないといけなかった。「何この人? 先生じゃないよね? キモ……」くらいの反応で良かったのに、硬直してしまった。

 

知っているな?

 

 後から入ってきた相澤先生が低い声を出す。

 

 ハメられた!

 

 ドアに鍵をかけてそのまま立ちつくすものだから、どうやっても逃げられない。部屋のカーテンはあらかじめ閉まっていて、盗聴防止っぽい装置が四方の壁に取り付けられている。

 なにこの警戒態勢。

 

 ――これ、絶対バレてるよね。

 

 さっきから心臓が騒ぎっぱなしだ。

 ぶっちゃけ、この反応だけで「何かあります」って言ってるようなものだけど、だからといって「そうです」とは言えない。

 

「な、なんの話ですか?」

「そこの彼を見て驚いただろう」

「はい。あまりにも痩せてる方だったので……すみません、失礼な反応で」

 

 たぶん、これがベスト。

 私が答えると、相澤先生は溜め息をついて黙った。

 セーフ、と思ったら校長がHAHAHA! と笑って、

 

「この前はお手紙ありがとう!」

 

 今度はこっちですか!?

 

「あ、はい。大事なお手紙だったんですね。良かったです」

「うん。とっても貴重な情報だったよ! ……時に、綾里永遠くん。君は指紋って知ってるかい?」

 

 ぎく。

 とは、ならない。

 その辺はちゃんと細心の注意を払った。筆跡がわからないようにパソコンで作って印刷し、手袋着用で封筒に入れたし、宛名もプリントしたシールを使った。

 ノリで封をしてからは一度も開けてない。

 

「はい。それが、何か?」

「………」

 

 校長が黙った。勝った、かな?

 

「話は変わるけど、私の友人に来歴探知の“個性”持ちがいてね!」

「私がやりました」

 

 土下座した。

 嘘かもしれないけど、これ以上シラを切るのは精神的にキツイ。

 相澤先生が溜め息をつく。

 

「絵的に犯罪臭がするからさっさと立て」

「は、はい」

 

 立ち上がる。

 「本当にこいつなのか?」という視線がオールマイトと相澤先生から向けられた。

 そう言われても、無理やり自白させたのはそっちじゃないですか。

 

「綾里永遠君」

「はい」

 

 口を開いたのはオールマイトだ。

 決して大きな声じゃない。耳が痛いくらいやかましい普段の声とのギャップが凄いけど、不思議と注意を向けてしまう何かがある。

 そして、彼の眼光はガイコツ状態でも死んではいない。

 

「君はどこであの情報を知った? 他に知っていることはあるのか?」

 

 難しい質問だ。

 私は首を振って答える。

 

「……残念ですが、知っているのはあれでほぼ全部です。新しく調べることもできません。私の“個性”は予知ではないので」

「では、他の誰かが『予知』したのか?」

「いいえ。あれは私の知識です。私はあれを生まれた時から知っていました。そして、知識が増えたことは今まで一度もありません」

 

 前世の記憶とは言わなかったけど、それ以外はほぼ正直に言った。

 黙るオールマイト。

 代わりに相澤先生の低い声。

 

「“個性”に由来しない能力? いや、旧時代の超能力者は全て眉唾と言われている。……記憶を植え付ける“個性”を受けたか……?」

 

 私は何も言わない。

 勝手に補完してくれるならその方がいい。

 

「ふむ。そうなると信憑性は低い。いや、何者かが意図して与えた可能性もあるね」

「“個性”届を洗った方がいいですね。該当しそうな“個性”の持ち主がいなければ敵の関与を疑った方がいいでしょう」

「十五年前となると既に故人かもしれない。調べ切れるかはわからないが――」

 

 うう。そこまでしなくても大丈夫です、って言いたい。言いたいけど、言ったら余計に怪しい。

 

「私にも証明できない知識なので、あまり信じすぎないでください」

 

 言えるのはそれが限界だった。

 大人達は顔を見合わせ、校長先生が代表して答える。

 

「もちろん。……と言いたいところだけど、マスコミの暴走とUSJ襲撃、二つ立て続けに当たったからね。無視もできないのが現状さ」

「それは、そうですけど」

「それより綾里君。さっき『殆ど』と言ったね? 僅かな情報でも構わない。知っていることを全て話してくれないかな?」

「全て、ですか」

 

 オールマイトを見て、それから相澤先生を振り返る。

 

 ――OFA(ワン・フォー・オール)のことも含まれますよ?

 

 意図は伝わったらしい。

 相澤先生が淡々と言う。

 

「席を外します」

「いや」

 

 校長先生が制止した。

 

「乗り掛かった舟だ。相澤君も聞いてくれたまえ。……この話は、この場にいる四人だけの秘密だ」

「……わかりました」

 

 話が纏まったのを見て私は話し始めた。

 手紙に書ききれなかった些末。知っている原作知識の全てを。

 

 

 

 

 

 約二時間後。

 

「……これで、本当に全部だと思います」

沢山あったぞ、おい

「話してて思い出したんだから仕方ないじゃないですか!」

 

 何か話す度に誰かがツッコミを入れるせいでなかなか進まなかった、というのもある。

 疑問に答えるうちに別の情報を思い出す、ということも何度かあったので、そういう意味では有意義な場だったけど。

 

「なんとまあ、既存の価値観が一気にひっくり返ったねえ!」

「笑いごとじゃありませんが……」

 

 本当に笑いごとじゃないだろう。

 

 USJ襲撃。

 ヒーロー殺しステインによるインゲニウム殺害未遂。

 保須での敵騒動。

 ショッピングモールでのデクくんと死柄木の接触。

 合宿先での敵襲撃。爆豪・ラグドールの拉致。

 神野事件。

 死穢八斎會の一件。

 ジェントルの学園祭乱入未遂。

 異能解放軍と敵連合の抗争、そして合併。

 

 出てくるわ出てくるわ。

 詳しい地名とか組織名とかは完全に失念していたので、校長先生達の知識とすり合わせて思い出した。

 事件を箇条書きにしただけで惨憺たる有様だけど、詳細を語れば「内通者の存在」「AFO(オールフォーワン)によるラグドールの個性抜きだし」「ベストジーニスト重傷」「個性破壊弾の完成」「サーの死亡」「ミリオ無個性化」「ギガントマキア登場」「死柄木の個性強化」エトセトラエトセトラ、割と絶望的である。

 相澤先生に関しては、ここにOFAとAFO関連の事項が加わるわけで。

 

「綾里。お前殺されるぞ

「洒落にならないのでやめてください」

 

 簡単には死なない“個性”なのが幸いである。

 

「……でも、既に未来はズレ始めています。USJ襲撃で相澤先生は重傷を負ってるはずでしたが、シンリンカムイのお陰で軽傷で済んでいますし」

「予言があてになるかはわからない、ということだね」

「はい。むしろ、いい意味でゴミにしてください。本気で」

 

 特に死穢八斎會の壊滅――というか壊理ちゃんの救出と、敵連合の解体はさっさとして欲しい。

 後者のアジトも「神野のバー」と大まかに伝えられたし、原作よりは楽になるはずだ。

 

 ――とはいえ内通者の件もある。

 

 私の予想通り塚内警部がそうだった場合、警察の力を借りられないことになってしまう。

 まあ、塚内警部=黒霧とは一概に言えない描写もあるんだけど。二箇所に同時に存在してる節があったり、敵連合の強制捜査を察知できてなかったり。

 その辺りはコピーを作る個性とかでなんとかしたのかもしれないし、結局なんともいえない。

 

「話はわかった」

 

 思考を断ち切るように、オールマイトの声。

 

「もし、今の話が全て本当だとしたら。綾里少女。君は、いや――私達は、本当に危ない橋を渡っていたぞ」

「っ」

 

 USJの件、か。

 どうして。

 もう少しで黒霧を捕らえられていた。ワープゲートの“個性”持ちを無力化できれば死柄木も逃げられない。今のうちならトガちゃん他のメンバーも合流してないからそれで終わり――。

 じゃない。

 

 原作の神野事件がああなったのは、どうしてだった?

 死柄木弔が()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃないのか?

 

「あそこで死柄木を追い詰めたら……AFO(オールフォーワン)が出てきていた?」

「そうだ」

 

 だから、相澤先生は手を止めたのか。

 オールマイトの無言の制止を察知して。敵を敢えて逃がしてでも生徒を、雄英を守るほうを優先した。

 英断だっただろう。

 上手くいけば相澤先生との連携で無事に勝てただろうけど、最悪の場合は皆殺しだった。

 

 私は肩を落とした。

 

「……すみません。そこまでは頭が回っていませんでした」

「それだけじゃない」

 

 相澤先生の追い打ち。

 

「二度だ。二度、お前は誰よりも早く適切な指示を出している。まるで最適解を知っていたかのように、だ」

「……殺されるっていうのは」

「そうだ。脅しじゃない。本当に覚悟しておけ」

 

 溜め息。

 

「お前のことも徹底的に調べるぞ」

「……どうぞ。でも、私は本当にただの女の子ですよ?」

「それならそれでいい」

 

 他言無用。

 それをあらためて厳命された上で、私は退室を命じられた。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「失礼しました」

 

 一礼して部屋を出る。

 中の話し声はドアの傍にいても全く聞こえない。でも、中ではきっと込み入った話し合いが続いているだろう。

 

 ――殺される、か。

 

 廊下を歩く間も相澤先生の言葉が頭をよぎる。

 死の危険は誰にでもある。

 一般人でさえ敵に殺される可能性があるし、ヒーローともなれば死と隣り合わせだ。

 死にたくなければ、強くなるしかない。

 

 鍛えて、鍛えて、少しでも死を遠ざける。

 

「永遠ちゃん、お疲れ様! お話終わったね!」

「わっ!? は、葉隠さん!?」

 

 いきなりがばっと抱きつかれてどきっとする。

 振り返っても姿が見えない。それにこの声となれば一人しかいない。っていうか「終わったの?」じゃなくて「終わったね!」って。

 

 まさか、聞いてたんじゃ……?

 

 うん、怖いから確かめるのはやめよう。

 

「待っててくれたの?」

「うん! 一緒に帰ろうと思って!」

 

 監視したかったからが正しいのでは。

 

「ありがとう。でも、鞄とかいいの?」

「あ! 教室に取りに戻ってもいい?」

「うん、いいよ」

 

 ふっと吹き出して頷く。

 二人で荷物を取りに戻って、校舎を出る。

 

「それで永遠ちゃん。今度お話したいんだけど、日曜日空いてる?」

「ん……多分、大丈夫だと思う」

 

 お店の手伝いを休まないといけないけど、お父さん達も許してくれるだろう。

 これからそういう機会も増える。

 できるだけお手伝いはしたい反面、私抜きで回るようにしておいてもらいたい。

 

「お父さん達に聞いてみて、連絡するよ」

「おっけー!」

 

 本当に明るい子だ。

 擬態なんだとしたら凄いと思う。ぱっと見、ごく普通のJKにしか見えない。いや、どんな姿か全然見えないんだけど。

 

「葉隠さん。ついでにお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」

「ん? どんなこと?」

「えっとね……」

 

 私が話すと、葉隠さんは「お安い御用だよ!」と請け負ってくれた。

 

「っていうか永遠ちゃん! いつまでも『葉隠さん』ってひどいよ! 私のことも名前で呼んで!」

「え、いいの?」

「いいも何も、友達でしょ?」

 

 そっか。

 それなら是非、そうしたい。

 

「ありがとう。透ちゃん」

「よし! これからはもっと仲良くしようね!」

「そうだね。同じクラスの仲間だもんね」

 

 そうして、私達は駅まで一緒に帰ったのだった。

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