死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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不老不死・トガヒミコ

「不老不死、じゃな」

 

 蛇腔総合病院の院長室は、以前に比べて風通しが良くなっている。

 非合法とはいえ『黙認』されるようになったせいだろう。ドクターの肌艶も心なしか良くなった気がする。『超再生』で肉体を維持している彼のことだから気のせいだとは思うんだけど。

 

 数日かけた検査の結果を聞かされているのは三人。

 私とトガちゃん、それからホークス。

 

 『上』との繋がりがあり、単騎の制圧能力に長けたホークスが呼ばれたのは当然といえば当然なんだけど、めっきり使いっ走りみたいな扱いである。

 

「……私の『不老不死』が伝染ったってことですか?」

「より正確には写し取られたというか、疑似的に複製されたというか、再現された――と、いったところか」

「曖昧っすね」

 

 良くわからない。

 わかるように言え、という私とホークスの視線を受けたドクターは頷いた。

 ちなみにトガちゃんは私を膝に乗せたまま大人しくしている。

 

「結論から言えば、彼女には君と同じ『不老不死』が備わっている。しかも、彼女自身をオーナーにして、じゃ」

「じゃあ――」

「傷つけば再生する。老化は停止し、半永久的に生き続けることが可能。肉体・精神に対するあらゆる異常に耐性を持ち、何度も受けることで完全克服する。そういう身体になっておる」

「お揃いですね、永遠ちゃん」

「う、うん」

 

 いや、お揃いで済ませていい問題じゃないんだけど……。

 

「原因は何なんすか? 『不老不死』は複製しても意味がなかったんじゃ?」

「うむ。それについては『変身』と『不老不死』の相互作用、あるいは反作用が原因じゃろう」

 

 検査の結果、トガちゃんの『変身』は進化していた。

 これまでは変身対象の姿かたち、身体能力を写し取るのが限界だったんだけど、対象の“個性”までコピーできるようになった。

 原作のキュリオス戦でトガちゃんが発揮した真の力と同じだ。

 

「おそらく、彼女が本気で『誰かになりたい』と――自分に取り込むのではなく『同一化』を願ったことが切っ掛けか。これによって、彼女は八百万永遠に『変身』した」

 

 姿が私になると同時に『不老不死』がコピーされた。

 

「無論、これだけでは『不老不死』を獲得することはできん。かの“個性”には唯一性を保持する機能が備わっているからじゃ」

「下手に奪ったり複製すると“個性”に侵食されて自己崩壊する……んでしたっけ?」

「そうじゃ。故に、彼女の中でも同じことが起きた。八百万永遠は二人いらない。新しい方を侵食、崩壊させようと『不老不死』が働いたが……ここで()()()が起きた」

 

 トガちゃんが得た『不老不死』は『変身』の産物だ。

 自己崩壊の途中でトガちゃんが『変身』し直せば、万全の状態に戻ってしまう。もちろん、それには激痛を伴うのだけど、トガちゃんはしつこく頑固にやり続けた。

 

「めちゃくちゃ危険じゃない!?」

「えへへぇ」

「えへへじゃない」

「ひはいひはい」

 

 矛盾。

 自己崩壊してもなお復旧する状況に『不老不死』がエラーを吐いた。

 あるいは、何度も何度も繰り返すことで、自己崩壊の際に攻撃される先がたまたま「オーナー登録にあたる部分」に向いた。

 オーナー認識が空白になったことで、再登録が行われ――新しい『不老不死』はトガちゃんのものになった。

 本当なら『変身』が解けたら『不老不死』はなくなるんだけど、“個性”自体が自己保存能力を持っている。身体が元に戻っても“個性”は残った。というか「トガヒミコ」をオーナーとして登録したので、変身してないトガちゃんを「正常な状態」と認識したんだろう。

 

「『不老不死』獲得後も『変身』は可能じゃが、復元機能は落ちる。だいたい『超再生』並みじゃな。まあ、『変身』を肉体の異常と察知して復元していては、一々元の姿に戻ってしまうからな」

「なんともまあ……レアケースを引き当てたっスね」

「今のは憶測に過ぎん。他の『何か』が作用した可能性もある。加えて、彼女の“個性”、そして想いが強かったからこそじゃろう。個性強度が足りなければ変身解除されて終わり。想いが弱ければオーナー再登録が行えたかどうか怪しいものがある。似たような“個性”で試したところで百回中九十九回は失敗するじゃろ」

 

 それは、残りの一回は成功するという意味じゃない。

 可能性はゼロじゃないけど、それが百分の一なのか千分の一なのか、一万分の一なのかわからない、という意味だ。

 

「えへへ。永遠ちゃんとお揃いー」

「いやあの、トガちゃんわかってる? 『不老不死』だよ? 歳取らないんだよ? 死ねないんだよ?」

 

 膝に乗った姿勢でお説教は格好つかないので、飛び降りてから言う。

 普通っぽいメイクをして髪を下ろしてるせいで単なる美少女状態のトガちゃんは、不思議そうに首を傾げて、

 

「つまり、永遠ちゃんとずっと一緒ってことですよね?」

「それは……そうだけど、でも」

 

 ぽんぽんと頭を軽く叩かれる。

 

「本当は永遠ちゃんになって死ぬつもりだったんですけど」

「え、いまなんて言った?」

「ですけど、もっと嬉しいことが起きちゃいました。ずっと一緒。永遠ちゃんより先に死ななくていい。夢みたいです」

「トガちゃん……」

 

 ぎゅーっと抱き寄せられた私は、そっと囁かれた。

 

「ごめんね、心配かけて。でも、もう大丈夫だよ。私がいつまでも一緒にいるのです。永遠ちゃんは、もう一人じゃないんだよ」

「……そんな」

 

 そんなの、嬉しくないわけないけど。

 だからって、トガちゃんが()()()()()()を味わう必要なんて。

 

「ま、『巻き戻し』。トガちゃんのは後天的だから消せるはず! い、今ならまだ戻れるかも!」

「何を言う!? 貴重な『不老不死』の検体、みすみす手放すなど――」

「うるさい黙ってろ人体実験馬鹿!」

「な、なっ……」

 

 口をぱくぱくさせるドクターを放置して、トガちゃんに訴える。

 

「ね、考え直そう? 永遠に生きるなんて絶対楽しくないよ。周りの人がみんな死んでも死ねないんだよ? 飽きても、人間が絶滅しても生き続けるんだよ」

「そうですね」

 

 にこりと、トガちゃんは笑った。

 人によっては狂気と、人によっては真なる純粋と呼ぶだろう笑顔で、

 

「でも、二人一緒なら楽しいのです」

 

 ……ああ、もう。

 

「トガちゃん、トガちゃん!」

「よしよし」

 

 私は我を忘れたまま、しばらく彼女の胸で泣き続けた。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 ようやく私が泣き止んだ後、ホークスが言った。

 

「で、トガヒミコさんの処遇をどうするかっスけど」

「実験! 今こそ『不老不死』の複製! 究極の脳無の作成を!」

「あ、ドクターちょっと黙っててください」

「さっきから扱いがひどくないか……?」

 

 ホークスはさらっと肩を竦める。

 

「今回の一件って光明というより『そこまでしないと不老不死にはなれない』っていう『悲報』じゃないっスか。長生きしたいだけなら大人しく『超再生』でもしてろって話ですよ」

「……むう。莫大な予算を引き出して好き放題研究する夢が」

 

 今すぐ捨てて欲しい、そんな夢。

 

「トガちゃんに変なことするなら『超再生』奪いますよ、ドクター」

「こ、殺す気か!?」

「ホークスさん。マッドサイエンティストの独断専行を制するためにも、無理の効かない身体にするのは有効だと思うんですけど、どうですか?」

「そうっスね。普通、“個性”が無くなっても人は死にませんし」

「お主ら、性格悪すぎやしないか!?」

 

 生きた人間も死体も構わず改造する人に言われたくない。

 私達は顔を見合わせて、

 

「『上』に使われるとどーしても荒んでくるんスよねー……」

「わかります」

 

 最近とみに実感してる。

 

「でも、トワさんが脅しとはいえ『殺す』とか言うの珍しいッスね?」

「少しは反抗的な態度見せないと使い潰されるってわかりましたから」

 

 私が品行方正なお人形だと思ったら大間違いだ。

 『不老不死』に『AFO(オール・フォー・ワン)』なんか与えておいて反抗された時のことを考えないとか、どこの馬鹿なのかという話。

 

「私は平和のために(ヴィラン)を減らしたいんです。人を傷つけて、世界を混乱させて平気な顔をしているなら、誰であろうと私の敵です」

「だいぶご機嫌斜めっスね。不満や怒りはすぐ忘れるのが長生きするコツっスよ」

「生憎、ボケることもできない身体なので。……これからは、私一人の問題じゃないですし」

「困った後輩だ」

 

 ホークスは苦笑した。

 

「彼らも世界を乱したいわけじゃないんスよ」

「本当に?」

「多分」

 

 多分て。

 

「自分が甘い汁吸うのが第一ではありますけど、この国が無くなったら元も子もないですからね。最低限の配慮はしてるはずです。まあ、たまにバランス感覚が狂ってるんですけど」

「だと思った」

 

 百年前の時点でオール・フォー・ワンは暗躍していた。

 では、現在の特権階級の中に彼の息のかかった者がいない、なんていうことがありえるか? 答えはノーだ。『上』の人間だって一枚岩ではないし、国を憂いる善良な者達とは限らない。

 

「なんていうか、真面目な奴ほど貧乏くじ引くようになってるんスよ、この世界」

「言いますね、ホークスさん」

「感受性の強い若者っスからね」

 

 グラサンのイケメン鳥男は私の頭を撫でて笑う。

 トガちゃんが若干ムッとしたけどなんとか耐えてくれた。

 

「トガヒミコさん……もとい、古賀人身さんにはトワさんと居てもらうことになると思います。というか、それくらいはそうさせます」

「いいんですか?」

「大事な後輩のためっスからね」

 

 私が頑張れば頑張るだけホークスの仕事が減るからだ。世知辛い話である。

 

「ただし、トワさんは今回の一件で目をつけられてます。しばらく大人しくした方がいいかと。具体的には警察や政府からの依頼は断らない方がいいでしょう」

「別にそれは構いません」

 

 敵逮捕に繋がる話ならいくらでも受ける。

 警察、政府御用達の事務所になるのもお安い御用だ。そうすればホークスが自由にできる時間も増えるだろうし。私よりは彼の方が暗躍には向いている。

 トガちゃんにひどいことするなら最悪、国を潰してでも抵抗するけど。

 

「じゃあそんな感じっスかね。健闘を祈ります。……あ、例の件は通ったっスよ」

「本当ですか?」

「嘘言っても仕方ないでしょう。これで、感染爆発(パンデミック)に影響があるといいんですけど」

 

 警察署の一件から、私はとある仮説を立てていた。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 それは、真実であってほしくない仮説。

 

『……助けてくれなくて良かったのに』

 

 妙に耳に残っているあの言葉。

 もしかしたら、あの子が『犯人』なのかもしれない。

 理屈も何もない。

 単なる直観としか言いようのない話だったけど、否定する根拠もない。むしろ「あの日」にはもう感染が始まっていたのだとすれば、当事者の中に犯人がいたとしてもおかしくはない。

 だから、私はあの女の子を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()『上』にかけあっていた。

 

 彼女のサーチは相手の“個性”をも丸裸にする。

 逆に言うと私の保有個性もバレてるってことだけど……まあそれは置いておいて、ラグドールなら、直接視認しさえすれば犯人特定ができるということ。

 登録しておける人数に制限があるので、なかなか気軽にとは言いづらいんだけど……怪しいかもしれない相手を調べるのなら、これほどうってつけの人材もいない。

 

 私はラグドールが実動し、結果が出る日まで待つことになった。

 

「それで、所長? 古賀さんのこと、詳しく話してくださるんですよね?」

 

 その間に、八百万ヒーロー事務所でもひと騒動あった。

 

「うん。彼女の本名はトガヒミコ。前科持ちの敵です」

「はああああっ!?」

「ついでに永遠ちゃんと同じ『不老不死』になったのです」

「「「はああああっ!?」」」

 

 大混乱になった。

 半ば予想していただろうセンスライさんや、人のこと言えないラブラバはともかく、ヒーロー志望の白雲君とかは結構大きな反応をしていた。

 

「ひ、人を殺したってことか!?」

「はい。お恥ずかしながら」

「は、恥ずかしいとかじゃねぇよ!? お前、自分が取り返しのつかないことしたのわかってんのか!?」

「わかってますよ?」

 

 トガちゃんは『不老不死』を得て以来、妙に落ち着いている。

 死なない『私達』には種の保存が必要ない。性欲を捨て去っても問題なくなったことで、猟奇的な欲求もまた、ある程度まで低減されたらしい。

 プライベートで私とじゃれ合う時以外、そういう素振りをあまり見せなくなった。

 

「……命が返ってこないのもわかってます。だから興奮するんですけど」

おい

「無暗に命を奪ったこと、永遠ちゃんと会った今なら馬鹿だったって思います。だから、償えなくても、償う努力はしていきます」

「そうか……」

 

 いつになく熱くなった白雲君だけど、彼なりに納得したのか、トガちゃんに突っかかっていくことはなくなった。納得はいかないようで、あまり話しかけようとはしないけど、それは仕方ないことだと思う。

 宮下さんは白雲君に良い所を持って行かれたのか、彼なりに納得してくれたようだった。

 

 そうして。

 

 ラグドールの『サーチ』の結果、あの女の子が『例の個性』の大元であることが確定した。

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