死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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蘇った悪

 灼熱が駆け抜け、工業製品マスクを襲う。

 

「おっと」

 

 プロミネンスバーン──エンデヴァーの必殺技を、オール・フォー・ワンは軽く滞空位置をずらすだけでかわした。

 当然といえば当然。

 だけど、これで更に一瞬稼げた。

 

 変身したリューキュウが咆哮を上げ、観客席を守るように移動する。

 数人のプロヒーローが避難誘導のために駆け出す。

 ミルコは「オラァッ!」と手近なコンクリートを割り、サッカーボール大の破片を作り出すと空中に蹴り飛ばす。

 

 私もまた“個性”の発動を終えていた。

 『二倍』。

 三人に増えた私は『空気を押し出す』+『筋骨発条化』+『瞬発力×4』+『膂力増強×3』で波状攻撃。オール・フォー・ワンはミルコのコンクリ塊を砕き、空気の塊を二発までかわした後、避けきれないと悟ったのか同じコンボで相殺してきた。

 

「互角か。どうやら成長したようだ、永遠君」

「当たり前でしょ!?」

 

 向上した身体能力のお陰で飛び道具の打ち消し合いに持って行けた。

 私は『エアウォーク』を使って空に浮かび上がる。あの男が持っている“個性”の大半は私も持っている。だから当然、だいたい同じことができる。

 二つの分身が放つ空気塊が再び行動を抑制して──かわしたオール・フォー・ワンを、檻のように展開した羽根が襲った。

 

「む……」

「おっと。消耗は避けたいっスからね」

 

 腕を振って振り払おうとすれば、羽根はすっと離れ、

 

「無駄口を叩いている暇があるのか、悪党」

「エンデヴァー」

 

 炎の噴射で疑似的に浮かび上がったエンデヴァーが迫る。

 

「触られないようにしてください! そいつは──」

「知っている」

 

 赫灼熱拳ヘルスパイダー。

 糸状に噴射された炎が両手の指分、十本で襲えば、腕の振りと共に『空気を押し出す』“個性”が発動、炎を吹き散らすと共にエンデヴァーの身体を押しのける。

 そこへ再びの噴射。

 突進と同時に拳からも炎を放つ、赫灼熱拳ジェットバーン。

 

「貴様と相対するための備えは、常に行ってきた!」

「平和の象徴を引き継ぐ者として、か」

 

 地上、次弾の準備をしていたミルコを突如、黒い泥が襲って『転送』。「うお、なんだこりゃ!?」。盾にするようにエンデヴァーの前へ送り込めば、白い粘土のような私の“個性”が同じくミルコを『転送』。地上付近の空中に戻してどさっと落とした。

 盾が、剥がれた。

 

「多勢に無勢だね。やむを得ない、か」

 

 左腕を変形させて迎え撃つオール・フォー・ワン。

 激突。

 瞬間、『衝撃反転』が発動して、エンデヴァーは自分と相手、両方の放った衝撃を右腕に受けた。砕ける暇もなく引き潰れる腕。それでも「オオオオオォォッッ!!」。彼は吠え、左腕から更なる一撃。同じように腕を潰されながら、敵の左腕を一本焦がし、落とした。

 『衝撃反転』の“個性”はあくまで「衝撃を返す」だけ。ダメージが全部返るわけじゃない。焼かれたり斬られたり刺されたりした傷は残る。だからさっきもやったみたいに『盾』を『転送』して同士討ちを誘いつつ用いる。腕二本対腕一本とはいえ、このトレードは苦肉の策。

 

 だけど。

 

「ミルコさん、私の足裏を!」

「あ? ……アァ、いーぜぇッ!!」

 

 宙に浮かび、揃えた両足を差し出す私に、ミルコがにっと笑んで――足裏を思いっきり蹴り上げてくれる。めっちゃ痛いけど推進力がついた。崩れ落ちるエンデヴァーまでひとっ飛びした私は彼の身体を受け止めると同時に『巻き戻し』を発動して、つい一分前の状態を復元する。

 損害なしで腕一本、取った。

 

「落とせ!」

「言うまでも!」

 

 それどころか、エンデヴァーの大きな身体を蹴って更に跳躍。

 

「さすがだね。この短期間でAFO(オール・フォー・ワン)を使いこなしている。現状ではまだ猿真似の域だが」

「大人しく刑務所で寝ててよっ!!」

 

 再度『転送』されたミルコをノータイムで送還して、オール・フォー・ワンと右腕同士をぶつかり合わせる。

 『筋骨発条化』+『瞬発力×4』+『膂力増強×3』+『増殖』+『肥大化』+『鋲』+『槍骨』。

 自分の身体が変異するのは好きじゃないけど、贅沢は言ってられない。一瞬の激突の後『衝撃反転』同士が打ち消し合って、お互いの腕が引きちぎれて吹き飛ぶ。

 

「まだま、だあっ!!」

 

 最大出力で『蒼炎』を発動。

 自分の身体さえ焼きながら、エンデヴァーさえ凌駕しかねない豪炎でこんがり焼きに行く。炎に呑まれたマスク怪人はそれを勢いよく振り払い、先に落ちた左腕を再生させつつ迫ってきて、

 

「―――ッ!」

 

 ()()()()()()()()私を見て、慌てたように動きを反転させた。

 惜しい。『崩壊』で触れられれば倒せてたかもしれないのに。なら追撃。ホークスの羽根とミルコの蹴ったコンクリ塊、二つの『分身』の空気塊が下から狙い、オール・フォー・ワンに思うような退避をさせない。その間に『超再生』『不老不死』が私の身体のダメージを癒す。

 ここから空気塊で追撃できればいいんだけど、下手に撃つと客席に当たる。

 

「フ、フフフ、ハハハッ!!」

 

 下降して斜め上気味に撃とうとした時、高らかな笑い声が響いた。

 悪の黒幕みたいな笑い方。

 こいつがこういう芝居がかったことをする時は碌なことが起きない。

 

「何がおかしい……っ!?」

「全てだよ! こんな良い舞台を整えてくれた()()に感謝しなければ、とね!」

 

 再び飛んできたエンデヴァーをさっとかわしながら、オール・フォー・ワンは奥の手を一つ切ってきた。

 

『さすがは永遠君。私と同じAFO(オール・フォー・ワン)を移植された者だ』

「っ!?」

 

 頭に中に直接響く声。この“個性”は知らない。いや、違う。プッシーキャッツのリーダー、マンダレイの『テレパス』。悲鳴を上げて逃げ惑う人達や他のプロヒーローを含めた「ここにいる全員」に正確に声を届けている。

 

『その不老不死の肉体には無数の“個性”が備わっている。(ヴィラン)連合が用いていた脳無の同類――完成形といえるのが君だ』

 

 更に、地面が次々にボコボコ盛り上がり、無数の土人形が形成される。ピクシーボブの『土流』。やっぱり、プッシーキャッツの“個性”。

 前から持っていたわけじゃない。

 考えられるのは、ここに来る前に「ついで」で襲ってきたということ。

 

「殺したの!? プッシーキャッツを!?」

「だったらどうした、と言いたいところだけど、そこまでの暇はなかったさ」

 

 期待はしてなかったけど、返事はきちんとあった。

 生きてる。

 ほっとする一方で、それは何の慰めにもならないことに気づく。死んでいなくとも半殺しにされた上、“個性”を奪われたのがほぼ確定なのだ。

 

『君は死なない。殺されても蘇生する。個性を奪う個性を持ち、いたいけな容姿で人を惑わせる。それがイモータルヒーロー・トワの真実だ』

「無駄口を叩くなァッ!!」

 

 消耗を度外視したエンデヴァーの連撃。

 オール・フォー・ワンはこれに対し、くるっと身体を「上下入れ替え」ると、空中を蹴って下に逃げた。予想外の行動。

 下向きでは飛び道具が撃てない。

 現れた土くれに他のプロヒーロー、それから私の分身が対処中で、どこに当たるかわからない。私達は急降下して追うしかなかった。

 でも、機先を制された分だけ、追いつけない。

 

 地上に向かった奴が狙うのは、

 

「エンデヴァー! 近い方を撃ってください!」

「ッ!? いい、だろう――っ!」

 

 空気塊とプロミネンスバーンが駆け抜け、降下する敵を追い抜いて『私の分身』にそれぞれ直撃。身体を砕き、焼いて()()()()()

 オール・フォー・ワンに当たらなかったのが残念だけど、仕方ない。

 

「何自分に攻撃してんだ手前ェ!?」

「彼女が一番『狙われるとヤバイ』個性持ちだからっスよ」

 

 声を荒げるミルコにホークスが補足した通り、私だけは何があっても()()()()()()()()()()()()。死柄木の『崩壊』や壊理ちゃんの『巻き戻し』はバランスブレイカーすぎる。

 何が起こるかわからない以上、『二倍』もできるだけ使えない。増えると管理が難しくなる。だからこそ、空中戦を挑んだのは本体である私だけにしていた。

 

 ミルコは「なるほどなぁ!」と笑った。

 

「イイじゃねえか! ()()()()でウジウジ悩んでるかと思ったら、自分の分身殺してでも勝ちに行くかよ!」

 

 近くのゴーレムを蹴り潰した彼女はウサギならではの跳躍力で地面を蹴った。

 向かうのは、方向反転して()()()()()()()()()()()凶悪敵。

 

「それでいい! アタシらはヒーローだ! 敵は潰す! 殺してでも止める! そのためだったら命だろうと投げ捨てやがれ!」

 

 渾身のサマーソルトはすんでのところで空振り。

 空中を蹴って方向転換を繰り返すオール・フォー・ワンが“個性”を奪わんと手を伸ばすも、一回転して地面を蹴り、再びつま先を振り上げる。

 黒い泥が土人形の一体を『転送』私はすかさず送還しようとするも、「いらねぇ!」蹴りが腹から土人形を破壊。()()()()()工業製品マスクを襲った。

 

「ぐ……!?」

「へっ! 痛ェ痛ェ! そら、もう一発だァ!」

 

 本体への攻撃も『衝撃反転』されて、通ったのは僅かなダメージ。むしろ自分が大ダメージを受けながら、ミルコはそれでも止まらない。どこか不気味に見える手に肩を掴まれながらも膝を振り上げ、相手の腹へと叩きこんで、

 

「やれ、エンデヴァーッ!!」

「ッ」

 

 咄嗟に飛び上がるエンデヴァー。

 プロミネンスバーンがミルコごと、オール・フォー・ワンを焼いた。

 

「―――」

 

 ふらりと、よろめく敵。

 熱波が収まった時には彼の身体はボロボロになっていたが、そこへ容赦なく、無数の羽根が突き刺さる。ホークスだ。土人形を体術でなんとかしながら攻撃力の殆どをこっちに送ってくれた。

 なら、私だって。

 復元した右腕を再び醜悪な槍に変えて、敵の胴を貫き、引きちぎる。私の腹にも風穴が空いた。マスクの奥から睨まれた気がする。でも、目が見えてないんだからありえない。呼吸さえ難しくなるほどの激痛を覚えながら、左手で首を掴む。

 

 AFO(オール・フォー・ワン)起動。

 優先順位に悩む暇はなかった。頭に浮かんだ順から奪う。

 

 最初は『サーチ』。プッシーキャッツを襲ったなら持っていないわけがない。むしろ『テレパス』と『土流』はラグドールを襲ったついでだったはずだ。

 次はAFO本体。エラー。全く同じ“個性”は奪えないらしい。重ねて使っている『膂力増強』なんかは「効果はほぼ同じだが別人の“個性”」。

 三つ目は『赤外線』。彼から視覚代わりの“個性”を奪う。

 

 タイムリミットはそこまでだった。

 

 オール・フォー・ワンから生命の反応が無くなったからだ。

 死体にはAFOが使えない。

 彼が持っていた他の“個性”は、彼の死と共に消滅する。

 

 私の身体も限界だった。

 どさりと倒れる。腕の力だけで風穴空いた胴体を支えていたのだがそもそも無理。どばどば血が出る中、身体の再生を待つしかない。

 まあ、再生できなくなるほどのダメージじゃないのでいいんだけど。

 

「ミルコさん。“個性”奪われてましたか? ごめんなさい、取り返しきれませんでした」

 

 見れば、彼女からは兎耳と尻尾が消えている。

 だけど、声をかけると「あ? アァ、いーってことよ」とあっさりした返事。

 

「それより、きっちりぶっ殺せたじゃねーか。よくやった。やりゃできんじゃねーか、ガキ」

 

 むしろ頭をガシガシされてしまい「痛い痛い」と悲鳴を上げることになった。

 エンデヴァーは既に土人形の方に向かっている。オート制御だったらしく、AFOの死後も動き続けている。「つーか死んでるよなコレ?」ミルコが靴でげしげしと踏みつぶしても無反応。『超再生』も止まっているので命の火は確かに消えているはずだ。

 

 人を、殺した。

 

 取り返しのつかないことをしたはずなのに、心がすっきりしている。

 こんな奴は死んで当然だ、という想いがどうしても抑えられない。『人を殺せる人間だ』という死柄木の声がリフレインするのを感じながら、それでも達成感を覚えてしまう。

 

「トワさん。何を『奪え』ましたか?」

 

 羽根を回収がてら近づいてきたホークスに『サーチ』と『赤外線』だと答えた。

 ホークスは頷いて、

 

「いい線っスね。……でも、殺すなら『赤外線』はいらなかったんじゃ?」

「その。本当にこれで終わりか、信じられなかったので」

「……そうっスね」

 

 タルタロスから脱獄してきたのだ。

 閻魔大王を殺して地獄から復活しても驚かない。

 グラサンイケメンのプロヒーローは私の傍に膝をつくと、優しい声で言った。

 

「ありがとうございました、トワさん」

「………」

「あなたのお陰で、一般人は怪我人さえほぼいません。エンデヴァーさんも大怪我を負っていたでしょう。……ミルコさんはご愁傷様ですが」

「いいっつってんだろーがハゲ」

「―――」

 

 絶句するホークス。ふさふさだから大丈夫なのに。ハゲる家系なんだろうか。

 

「と、ともかく、本当に感謝します。……今後、あなたには辛いことになるでしょうが、精一杯フォローしますよ」

「ありがとうございます」

 

 私の『秘密』は全て公開されてしまった。

 表彰式を撮影していたカメラが戦いも撮っていたはずだから、会場にいた人だけじゃなくて日本中、下手したら世界中に知られてしまった。

 もう後戻りできない。

 それでも。

 

「みんなが無事で、良かった――」

それはいい。僕からも祝福させてくれないか

 

 私は絶句した。

 ホークスもミルコも、驚愕の表情を浮かべて、三人で一斉に振り返る。オール・フォー・ワンの死体は確かにあるのに、そこには、一人の男が立っていて。

 

「おめでとう。さて、祝ったところで二回戦といこうか?」

 

 死闘は、まだ終わらない。

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