死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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体育祭開催

「雄英体育祭が迫ってる!」

「クソ学校っぽいの来たあああ!!」

 

 襲撃の翌日は臨時休校となり、その次の日から授業が再開された。

 朝のHR、ガーゼや包帯の見え隠れする相澤先生が単刀直入に告げたのは、次のイベントについてだった。

 

 雄英体育祭は全国放送されるビッグイベント。

 主に注目されるのは二、三年生だけど、一年生でも活躍すればプロの目に留まりスカウトの道が開ける。実際、原作でもトップ層はプロ事務所から指名で職場体験の誘いが来ていた。

 外せないビッグチャンス。

 もちろん、私にとっても重要なイベントだ。

 

 

 

 

 

 

「ヒーローになってお金を稼ぐ、かあ」

 

 その日のお昼ご飯は百ちゃんとお茶子ちゃん、飯田君と一緒だった。

 百ちゃんと食堂に行ったら二人がいたので同席させてもらったのだ。なんでも、デクくんはオールマイトに呼ばれて行ってしまったらしい。

 そこで話題に上ったのはお茶子ちゃんの志望動機。

 彼女の実家は建設業を営んでいる。ただ、仕事が全然なくて貧乏生活が続いており、お茶子ちゃんはそういう状況を変えたいと思っている。

 ヒーローになれば稼げるから雄英に来たというわけだ。

 

「じゃあ、私とおんなじだね」

「綾里君も?」

「うん。私は家族の怪我の治療費を稼ぎたくてプロを目指してるの。……怪我の原因が(ヴィラン)だったのも理由だけど」

「立派な理由ですわ」

 

 静かに話を聞いていた百ちゃんがそう言ってくれる。

 

「身近な誰かのため。ひいてはそれが皆さんのためになる。よろしいのではないでしょうか。精密機械も小さな部品一つ一つから出来ているのです」

「うん」

 

 お茶子ちゃんが小さく、でもしっかりと頷く。

 

「私がんばる。みんなに負けないように!」

 

 うん、それでこそお茶子ちゃんだ。

 私も、もっともっと強くならないと。

 

 

 

 

 

 

 そして週末。

 私は都内のとある格闘ジムにやってきた。

 葉隠さん、もとい透ちゃんと待ち合わせだ。指定されたジム前で待っていると、私服姿――というか、女子の私服と鞄()()()浮いた状態で私のところに駆けてくる。

 

「お待たせ永遠ちゃん、待った?」

「ううん。今来たところだよ」

 

 別にデートではないんだけど、割と便利だよね、このセリフ。

 

「ここね、よく来るんだ! 設備も充実してるんだよ!」

「へー」

 

 予約してあったらしく、透ちゃんは受付の人から鍵を受け取ると更衣室に案内してくれた。

 着替えた後は地下へ。

 特殊な“個性”持ちの人なんかが個人、または少人数での利用を希望する場合があるらしく、そういう時のためのスペースがあるとのこと。

 幾つかある部屋のドア(分厚い)を開けると、コンクリ剥き出しの部屋の中へと二人で入った。

 

 ――施錠すれば、密室状態。

 

 出入口はドア一つだけなので、液状化とか平面化とか、そういう個性でもない限りは誰も中に入ってこない。

 内緒話にもぴったり。

 事情を話してくれる件、伸び伸びになってたけど、果たしてくれるつもりなのだろう。

 

「ここで特訓とかしてるの?」

「そうだよ!」

 

 クッションとして問いかければ、返ってきたのはストレートな言葉。

 

私は忍者だからね! 無暗に見せられない技とかあるんだよ!」

「い、いきなりだね……!」

 

 忍者。

 透ちゃんの口にした単語は、前世の感覚だと「騎士」とか「魔法使い」とかと変わらない。殆どファンタジーな職業だ。

 でも、この世界だとそうとも言えない。

 なにしろ“個性”があってヒーローがいる。有名なプロの中には忍者ヒーローもいて、その人は忍法まで使うのだ。

 

「忍者っていうと、エッジショットさんみたいな?」

「うーん……ちょっと違うんだよね」

「ちょっと?」

「エッジショットさんはスタイル的な意味で忍者だけど、私は本質的な意味の忍者――とでも言えばいいかな?」

 

 スタイルと本質。

 

 エッジショットさんは素早い動きや隠密行動が得意で、忍法を使う。だからスタイル。

 じゃあ本質ってなにか。

 詳しくないけど、昔の忍者は権力者に仕えて裏の仕事をする人達だったはず。そのうえ、場合によっては侍並みに戦えちゃったりもするんだっけ?

 そういう人達を例えるなら、

 

「戦えるスパイ」

「正解!」

 

 透ちゃんの明るい声。

 背景にニッコリ、っていう文字が見えた気がした。

 本当に笑ってるかわからないから凄く怖いんだけど。

 

「葉隠家は代々忍者――スパイの家系なんだよ。お父さんもお母さんも小さい頃から厳しい訓練を受けて、仕えるべき主を決めて、主のために活動してるの!」

 

 表向きはただの一般家庭だよ。

 透ちゃんはそう付け加える。

 家族揃って透明人間は十分怪しいと思うけど、その辺は上手くやってるんだと思う。透明なのは怪しさを補って余りあるくらい便利だ。

 

 でも、“個性”が生まれたのって百年ちょっと前だよね?

 忍者やってた家が偶然、透明になる“個性”になった? それとも“個性”婚とかいうので無理やり? もしくは逆に、透明な“個性”の子を集めて葉隠家の子として教育――。

 

「永遠ちゃん?」

「な、なんでもないよ」

 

 ごめんなさい殺さないでください。

 これ以上はまずそうだったので思考放棄する。

 

「透ちゃんはもうご主人様を決めてるの?」

「ううん! 私のご主人様はまだ未定! ヒーローになるのも反対を押し切った感じだし。不肖の娘って感じ?」

「そうだったんだ……」

 

 こんな設定、原作にはなかった。

 そもそも、透ちゃんの活躍自体が少なかった。彼女のバックボーンが明らかになるのは私が知ってるより『先』のことだったのかもしれない。

 

 葉隠透。

 妙に内通者っぽい動きも、紛れることが得意な忍者なら納得だ。

 ヒーローやったら目立つ。

 相反する職業を選んだあたりが不肖の娘って言われる所以なんだろうけど、とりあえず情報を集めまくってるあたり、ご両親の教えはちゃんと生きてる。

 

 不安材料はご主人様が未定ってこと。

 生徒かプロヒーロー、例えばデクくんとかが主になるならいいんだけど、何かの間違いで死柄木に忠誠を捧げられた日には目も当てられない。

 もし、できるなら注意しておきたいところだ。

 

「で、それを私に話したってことは……」

「うん。永遠ちゃんには()()、秘密を守り通してもらわないとね」

 

 その発言はトーンが違った。

 大人びた印象を受ける、冷静で冷徹な声。

 仕事モードの彼女なのだろう。

 

 ――もし、秘密を漏らしたら、本気で口封じをされる。

 

 心にそんな恐怖が刻み込まれる。

 でもまあ、言わなければいいだけではある。

 もともと秘密が多い私だ。言えないことが一つ二つ増えても気にならない。友達を売るような真似、ヒーロー志望者ができるわけないし。

 でも、敢えて意趣返しをするなら、

 

「この前、私が校長室でしてた話も他言無用だからね」

 

 透ちゃんはくすりと笑って明るく答えてくれる。

 

「なんのこと? 私、永遠ちゃん待ってただけだから何も知らないよ!」

 

 なるほど、共犯者。

 私達は互いに互いの秘密を知ったことになる。バラされたくないならバラしてはいけない。一方的に脅迫するつもりはないっていうアピール。

 やっぱり透ちゃんはいい子だと思う。

 

「うん、それならいいの。私()誰にも言わないよ」

 

 私達は微笑みあった。

 透ちゃんの顔は見えないけど、きっと笑ってくれていたと思う。

 と、透ちゃんがぐっと拳を握って、

 

「よしっ! それじゃあ永遠ちゃん、始めよっか!」

「お願いしますっ!」

 

 私が透ちゃんにお願いしたもう一つの用件は特訓。

 実戦を意識した格闘訓練だ。

 お願いした段階では忍者だとは思ってなかったけど、只者でないのはわかってた。だから教えを乞おうと思った。

 

 私達は二人とも直接戦闘用の“個性”じゃない。

 二本の手足によるものである以上、透ちゃんの戦法は参考になる。

 

「適度に手加減するけど、多分痛いよ! 覚悟してね!」

「大丈夫! 私は“しぶとい”のが売りだから!」

 

 私達はそれから夕方まで、身体をいじめ続けた。

 

 基本的に透ちゃんが私をボコボコにするだけだったけど、最終的に音を上げたのは透ちゃんの方だった。

 私がもう一回と何度もせがむせいでへとへとになってしまったのだ。

 それでも、来週もお願いできないかと尋ねると快諾してくれる。死なない程度の人体破壊の練習にちょうどいいらしい。

 

 体育祭までは二週間。

 

 平日はきっちり授業が入っているので、使えるのは余暇の時間だけ。

 幸い、死柄木が想定外の襲撃をかけてくるなんてこともなく。

 私と透ちゃんは週末が来るたびにジムに通って特訓を繰り返した。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 あっと言う間にやってきました雄英体育祭。

 

 すごい人だ。

 プロヒーローからマスコミから一般の方まで大勢集まるということで、もう登校時点から人が集まってきていた。今年はUSJ襲撃(と私からの情報)を受けて警備を目いっぱい増強していることもあって、もう本当に大イベントである。

 生徒は体操着に着替えた後、教室ではなく控え室で待機。それから入場になる。

 コスチュームは有利不利が出る(あと多分、単に見た目がごちゃごちゃするから)着用禁止。爆豪とかは影響があるかもだけど、私はあんまり問題ない。

 

「緑谷。おまえには勝つぞ」

「僕も本気で獲りに行く!」

 

 轟君からデクくんへの宣戦布告も行われた。

 私は端で見てただけだけど、ちょっと安心。デクくんはUSJで無茶しなかったため、大きな怪我をしてない。また、人を殴ろうとしたのを機にOFA(ワン・フォー・オール)のコツをつかむというイベントも経てない。

 どうなるかと思ったけど、彼の表情は凛々しいものだった。

 

「永遠ちゃん、頑張ろうね!」

「うん!」

「お二人共、随分仲良くなりましたわね……」

 

 私は透ちゃんと激励しあい、しみじみと呟いた百ちゃんとも同じことをした。

 

 

 

 

 

 選手入場。

 体育祭は一年生、二年生、三年生がそれぞれ別のスタジアムに集まって平行して進行する。他の学年が動いている間は暇、なんてうまい話はない。

 逆に言うと。

 野球やサッカーの試合かと見紛うような――ううん、オリンピック競技かのような大観衆が「一年生のスタジアムに」集まっているという事実に震える。

 

 雄英ヒーロー科は二クラス計四十名。

 他にも普通科や経営科、サポート科があり、全部で十一クラスあるため、生徒の方もかなりの数だ。

 注目はやっぱりヒーロー科に集まるけど、普通科にもヒーロー科を落ちた子なんかがひしめいている。中にはギリギリで落選した子や、入試形式と“個性”が合わなかった子もいるので気は抜けない。

 

 選手宣誓は一般入試一位の爆豪が爆豪らしい、身も蓋もない感じの宣言をし、色んな意味で全員の度肝を抜いた。予期していた私としては「うわぁ、本当にやったよ……」という感想しかない。

 

『さて運命の第一種目!! 今年は……』

 

 障害物競争!

 変えてくるかなと思ったけど、そんなことはなかった。二週間前の時点で決定を覆せなかったのかもしれないし、私一人しか知らない以上、変える意味はないと思ったのかもしれない。

 ともあれ。

 この種目は十一クラス全員参加の総当たりレース。スタジアムの外周約4kmを「妨害のある中」走り抜く。直接退場狙いで他の生徒をぶっ飛ばすのは禁止だけど、それ以外なら“個性”を使うのも、生徒同士で妨害するのも自由というロックな競技だ。

 

 っていうか、普通の高校生なら4km走るだけでも結構キツイよね……?

 

 まあ、そこは雄英。

 ヒーロー科はもちろん普通科の平均運動能力も高めだ。サポート科や経営科の子の中には最初から諦めてる子もいるだろうけど、競争率は高い。

 数百人の生徒が「妙に狭いゲート前」にひしめき、

 

『スターート!!』

 

 合図と共に一斉に走り出した。

 

 

 

 

 

 走り出した直後。

 割と後方に位置していた私は、前方で生徒達の悲鳴が上がるのを聞いた。

 

「ってぇー!! 何だ凍った!! 動けん!!」

「寒みー!!」

 

 炎と氷を操る“個性”を持つ1-A生徒、轟君がトップで飛び出した上、後方の地面を凍り付かせたのだ。

 滑る上、地面に足をついていた子は靴ごと凍らされて動けなくなる。

 が。

 

「そう上手くいかせねえよ半分野郎!!」

 

 と、ガラの悪い爆豪を筆頭に、結構な数の生徒が「あらかじめ予想していたように」これを回避、轟君を追いかけていく。

 すごいとしか言いようがない。

 本当に知ってた私は回避だけならともかく、人混みの中で前線に出る自信がなかったので、こうして後ろにいたわけなのに。みんなは自分の個性を上手く使って突破している。

 

 でも、後ろにいたお陰で氷結は免れた。

 

 前の方にいた生徒の大半が動けなくなったこともあってスタート付近は混乱状態。

 押し合いへし合いならともかく、人が減った上に足が止まってる人が多いなら、小柄な私は隙間を抜けていくことができる。

 私の今日の運動靴は滑りにくく簡単に脱げないアウトドア仕様!

 凍った地面もわかってれば怖くない。服と靴を捨てるか苦悩してる生徒の横を通り、あるいは背中を踏みつけて、一気に順位を上げる。

 

 視界がかなり開けた頃。

 前方に入試の時の0P敵――あのデカブツを複数含む機械の群れが待ち受けているのと、それを轟君が凍らせるの、そして、横を後続が通り過ぎようとした時、凍ったデカブツが倒れて大惨事になるのが見えた。

 

「……死人が出るよこれ」

 

 正気に戻ってみるとヤバすぎる光景。

 だけど、私も立ち止まれない。むしろ、これで更に上位陣がふるいにかかった。

 なるべくペースを落とさず走り、並み居る小型メカは蹴って倒し、倒れている0Pの身体に飛び乗る。別の0Pが手を伸ばしてくるのをかわし、ジャンプして着地。

 

「よしっ!」

 

 突破した先には第二関門。

 特設された階段を上ると、落ちて刺さった氷柱みたいな無数の足場と、その間を張り巡らされたロープが見えた。落ちればアウト、とのこと。

 下歩いて最後にロッククライミングでいいなら、その方が楽だったんだけど。

 

 仕方ない、地道に渡りますか。

 

 他の生徒が揺らしてくるかもしれない状況で歩く気にはなれない。

 私は、時間効率が悪いのを承知でロープに飛びつくと、四肢を使ってずりずりと進み始めた。

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