死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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巨悪の爪痕

『ヒーロー公安委員会 プロヒーロー・トワを最重要監視対象に指定』

『最年少プロヒーローに(ヴィラン)との癒着か?』

『イモータルヒーロー活躍の理由は「敵が邪魔だったから」?』

 

 新聞、週刊誌、ワイドショー、ネット、ありとあらゆるメディアが面白おかしく、私に対する『処分』を取り上げている。

 原因は当然、先のオール・フォー・ワンの一件。

 彼が『テレパス』で告げた言葉と私の戦いぶりに、一般市民から疑問の声が上がり始めたのだ。

 

 いわく、強すぎる。

 いわく、できすぎている。

 いわく、まるで彼女が活躍するように仕組まれたみたいだ。

 

 私が脳無の最終形だというあの男の台詞をみんながみんな鵜呑みにしたわけじゃないけど、私があの場で「オール・フォー・ワンと同じ力」を使ったのは事実。

 “個性”の組み合わせで圧倒的な空気塊を放ち。

 他者を転送して手元に引き寄せ。

 腕を醜悪な槍に変えて相手の身体を貫いた。

 特に、オール・フォー・ワンを『殺す』場面はモザイク付きながら何度も何度も放送され、「怖い」「気持ち悪い」「失望した」などと取り沙汰された。

 

 ドクター──蛇腔総合病院の院長を殺害した、と私が報告したことも拍車をかけた。

 

 ヒーロー公安委員会および国、警察は「一介のプロヒーローに力が集中しすぎている」ことを危惧し、専門家を交えた協議の末に『処分』を決定した。

 

『無期限の監視処分』

 

 事務所や自宅には監視カメラが取り付けられ、更に周囲には常に複数人の監視役がつく。敵と戦っている時だろうと食事中だろうとトイレの中だろうと眠っている時だろうと関係なく監視され、その映像は「プライバシーに配慮した加工を施した上で」ネットに無料公開される。

 敵認定されたくなければ大人しくしていろ、と、宣告されたのに等しい。

 

 以来、私には本当の意味での「プライベート」なんて存在しなくなった。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 世論がこういう風に傾いた──ううん、()()()()()本当の理由は、他の国を私が()()()()()()()からだ。

 オール・フォー・ワンの脱獄から約一週間後、事態を重く見た国は一時的な鎖国状態へと移行することを宣言した。

 誰が『寄生』されているか特定しきれない。

 人が移動することで被『寄生』者が広がってしまうのを防ぐためという名目で、実際には「自国だけがいち早く」この脅威から脱するための方策だった。

 

 唯一『寄生』に対処できる私には「国外に分身を送らないよう」国から通達があった。

 鎖国している状態での例外はごく一部、食品等の物資輸送に限られるため、たとえプロヒーローであっても出国は許さないというのだ。

 

 でも、私はその時点でもう、分身を外国に送っていた。

 白雲君が中学時代、家族で中国旅行に行っていたお陰だ。“個性”発祥の地を見たいという子供の我が儘が役に立った。中国に送られた分身は更に現地で分身を増やし、各国に散らばった。

 分身すると服はコピーされるけどスマホまではコピーされないし、『二倍』には分身と遠隔コミュニケーションを取る能力がないので「戻って来い」と言うこともできない。

 

「鎖国する前に出国しちゃったのはどうしようもないっスね」

「ね? どうしようもないですよね?」

 

 仕方ない。ああ仕方ない。困った困った、と、メッセンジャー役のホークスとあくどい笑みを浮かべてみたんだけど──当然、許してはもらえなかった。

 非常時における国の方針に意を唱えて逆らった、と見做されてしまったのだ。

 私がもし『寄生』されていたら混乱を倍増させるだけだし、他国における日本のヒーローの活躍には国家間のパワーバランスが関わっているため勝手にやられては困る、という主張もあった。

 『不老不死』だから『寄生』は広がらないと訴えても「絶対などない」の一点張り。

 それ自体は頷けるところもあるんだけど、オール・フォー・ワンを利用して国力に差をつけようとしているように思えてならなかった。

 

「上層部にオール・フォー・ワン信者がいる疑いもあるっス」

 

 敢えて自分の信奉者に『寄生』をせず、被『寄生』者に目を向けさせることで隠れ蓑とした。そして自分達にとって都合の良い政策・方針を通しやすくした可能性。

 

「そう考えると、あの男の処刑が伸び伸びになっていた理由も説明がつきます。トワさんへの当たりがキツイのも」

 

 オール・フォー・ワン信者から恨まれているのは何もおかしくない。むしろ当然だ。

 でも、この状況では内部から膿を出している余裕がない。ただでさえ混乱して人が足りない状況で魔女裁判なんて始めたら、全員共倒れになりかねないからだ。

 

 国は一応、自国のプロヒーローが他国を「善意で」救済した、という論調でマウントを取りに行ったけど、それはそれとして私には処分を下すしかなかった。

 

 罰金だの報酬の減額だの、という話にならなかったのは、ルール上、私の行動には法的・倫理的な違反がほぼなかったから。

(ヒーローは敵を相手にする場合に限り、対象の殺傷を許されている)

 最前線で身体を張ったプロヒーローが悪意を持って違反したわけがないだろう、という抗議が同じプロヒーローを中心に多数入ったことも影響している。

 本当、みんなには頭が上がらない。

 

 それでも世論が「こう」なったのは何らかの工作があったからだろう。

 キュリオスか荼毘か、モギ田モギ夫か。

 多くの敵に恨みを買っているので、そういう奴らがネットに書き込みしたり悪い噂を流したりして印象操作をした疑いもある。

 というか、街頭インタビューで好意的な答えをしたのに全然取り上げられなかった、なんていう声を本人から直接聞いたりもした。

 

 雄英高校も敷地内への私の立ち入りを禁止する、と発表した。

 公の立場として厳しい態度を取ることで逆に私を守ろうとしてくれているんだと思う。実際、オールマイトやミッドナイト先生、その他大勢が「個人として」私を擁護する声明を発表してくれている。

 A組のみんなからも連絡が来る。

 全部検閲が入るので当たり障りない連絡しかできないけど、親しい人達とのやりとりは心が和んだ。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

「ねー、永遠ちゃん。ハグしましょうよハグ」

「もうしてるし。……っていうかトガちゃん、これ撮られてるんだからね?」

「いいじゃないですか。見たい人には見せておけばいいんです」

 

 カメラが設置されてもトガちゃんは相変わらずだ。

 だらだらごろごろ。一応「男の人を性的に喜ばせる趣味はない」とのことで多少露出は減っているものの、肝心のボディタッチと甘々フレーズが全然変わってない。

 

「知ってます? 私達のプライベート映像『百合百合で捗る』って一部で大人気らしいですよ?」

「知ってるから言ってるんでしょ!?」

 

 ちなみに私の食事シーンは「下手な大食い番組より見ごたえある」と評判になっている。

 いやうん、なんていうか、フェチの人達って逞しくてドン引き、もとい、逆に安心する。

 

 

 

「所長、パトロール付き合ってくださいっす!」

「私でいいの? センスライさんと行ってくればいいのに」

「姐さんの捕り物は鮮やかすぎて参考にならないんですよ」

 

 白雲君は時々、私にパトロールやトレーニングをねだってくる。

 監視付きでやっても面白くないだろうに、気にした様子もなく、だ。

 

「俺は所長を信じてます。っていうか、所長を送った張本人ですし、所長に救われた張本人でもあるんで。疑ってる連中に『何馬鹿言ってんだ』って言ってやりたいくらいです」

「……もう。馬鹿正直だと早死にするよ?」

「自分の命も大事にしないといけないってのは身に染みてます。先生方からも口が酸っぱくなるくらい言われてるんで、俺は所長を見習って『殺しても死なない』方向性で行きますよ」

 

 本当、彼は好青年すぎて涙が出てくる。

 

 

 

「む。済まないラブラバ。パソコンが変な音を立てているのだが」

「飛田さん。また変な操作したんでしょう。駄目ですってば。パソコンは精密機器なんですから」

「うるさいわね所長黙ってなさい! どうしたの、ジェントル? ……ああ、大丈夫よ。このくらい私ならちょちょっと直せるから。あそこのチビと違ってね」

「おお、さすがラブラバ。腕は落ちていないな」

「いや、今の、強制終了して再起動しただけじゃん……」

 

 ラブラバはジェントルが来てから倍くらいうるさくなった。

 まあでも、楽しそうにしてくれてるってことは、うちの事務所に不満があるわけじゃないってことだと思う。

 

 

 

「所長。今日の求人応募をふるいにかけたので、後でチェックお願いします」

「ありがとうございます」

 

 宮下さんは人材確保に熱心だ。

 ラブラバに頼んで応募内容の精査プログラムを作成し、一つ一つじっくり読まなくても最低条件に合致しているかどうか一瞬で判定できるようにした。

 毎日その日に来た応募分をプログラムで一括判定して、合格した分だけを私に流してくる。実に合理的な待遇改善のやり方である。

 

 ちなみに、結構応募は来たりする。

 ネットの動画を見れば仕事風景が丸わかりなうえ、収入で二位を大きく引き離して独走しちゃったせいだ。みんな、なんだかんだ言ってお金が欲しいのである。

 

「うちの所員はみんな優秀ですよね……もう少しお給料」

「これ以上いらないので人を増やしましょう」

「……はい」

 

 実は既に、みんなのお給料は相場の倍近かったりする。

 

 

 

「所長。次の面接会は今週末でしたよね?」

「はい。すみませんけど試験官をお願いします」

「わかってます。私がやるのが一番適切でしょうし」

 

 センスライさんは頼れるみんなのお姉さんだ。

 事務作業全般のエキスパートの宮下さんと、何でもこなす才媛・センスライさんが二大エース。特に彼女の『嘘発見』の“個性”は面接にぴったりだ。嘘や誇張を一発で見抜けるので、可愛い顔して厳しい宮下さんに質問させ、隣にセンスライさんを座っていてもらうだけで色々完璧である。

 

「それにしても、今年の税金が馬鹿みたいな数字になってて面白いわよ」

「うわ本当だ。なんですかこの数字」

 

 なんだかんだ言いつつ、うちの事務所は誰一人辞めていない。

 

 

 

「冷さんも、居心地悪くないですか?」

「いいえ。私はただのお手伝いですし、皆さんいい方ばかりですから」

 

 冷さんも事務所の掃除やお茶くみ、簡単な事務作業などを卒なくこなしてくれている。

 若い時に嫁いだ後は育児に追われ、その後は長期入院だったみたいだけど、地頭が良いんだと思う。長女の冬美さんも小学校の先生だし。

 

「ただ、あの人が所長に失礼をしないか心配ですが……」

「あはは。大丈夫ですよ」

 

 笑って流した私だったけど、エンデヴァーからは定期的に「様子はどうか」と連絡が来る。褒めて返してるけど、私が冷さんを冷遇したなんて知れたら消し炭にされるかもしれない。

 ちなみに、なんでうちでOKしたのか聞いたら、しばらく沈黙した末、

 

「能天気な馬鹿が所長だからだ」

 

 と、失礼なことを言われた。全く反論できなかったけど。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 事務所を立ち上げた頃は遠い未来の話だと思っていたけど、デクくんや百ちゃんももう三年生。

 百ちゃんが合格しないとかありえないと思うので、卒業後どうするのかあらためて尋ねてみると、

 

「え? もちろん、八百万ヒーロー事務所を今以上に盛り立てていきますわよ?」

 

 どれだけ稼ぐつもりなのか……って、そうじゃなくて。

 

「いいの? 別に立ち上げてもいいと思うけど」

「何を言っていますの、永遠さん」

 

 溜め息をつかれて、

 

「いいですか? 何のために事務所名をそう決めたと思っているのです。姉妹で同じ事務所に所属するというネームバリューを得て、チームアップ制ともサイドキック制とも違う協力体制を敷くためです。永遠さんがこれだけ盛り上げてくれたのですから、利用しなくてどうします?」

「え、でも、盛り上げるっていうか炎上して──」

「はあ」

 

 もう一回溜め息をつかれて、

 

「いいですか、永遠さん。そんなこと、わたくしは気にしておりません。むしろ、妹は誇らしいことをしたと思っております。ですから、何も恥じることなどありません。むしろ妹に手柄を立てられ過ぎて、所長を譲られるのを辞退しようかと」

「いや、しなくていいから。所長の座なんて持って行っていいから!」

「そうですか? でしたら遠慮なく」

 

 ちょっと泣きそうになりながらまくし立てると、全てお見通しとばかりに笑う声がして、

 

「愛していますわ、永遠さん。これからもよろしくお願いしますね」

「う、うん。私もあい……愛してるよ」

 

 電話を切った後、トガちゃんから「お姉さん相手だと随分恥ずかしがるんですね?」といじめられた。

 

 

 

 透ちゃんにも進路を聞いてみたところ、

 

「うん! 試験受かったら応募するね! っていうか試験落ちても予備校通いながら働くからバイトで雇ってよ!」

「え、いいの? 別のところ行きたくなったとかそういうのは──」

は? 何言ってるの永遠ちゃん?

「ひぃっ?」

 

 言外に「私達は主従なの忘れたのかな? 忘れたんだよね? 私がいない間に危ないことばっかりしてたもんね?」と責められた私は、透ちゃんにも「愛してる」と囁く羽目になった。

 トガちゃんはともかく、百ちゃんと透ちゃんは絶対面白がってやってると思う。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 そして、時は流れて。

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