独立宣言後、所在の掴めなくなったプロヒーローは以下の通りだった。
八百万永遠。
八百万百。
葉隠透。
白雲朧。
飛田弾柔郎(ジェントル・クリミナル)。
兎山ルミ(ミルコ)。
鷹見啓悟(ホークス)。
岳山優(Mt.レディ)。
轟焦凍。
麗日お茶子。
また、トガヒミコ等、一部の一般人も同時に消息を絶っている。
突如消息がわからなくなったことから、八百万永遠の『転送』によって人工島『エタニティ』に移動したものと思われる。
ヒーロー公安委員会は前述した十名のヒーロー資格剥奪を決定。彼らは事実上のヴィジランテ──否、より公正に表すなら
無論、これは日本国内での話であり、百の宣言した通り『エタニティ』の独立を認めるのであれば国内法の適用外。警察やプロヒーローが対処する権限も無いわけではあるが。
国は『エタニティ』の独立を公的には認めず、No.1ヒーロー・エンデヴァーの動向を受けて「プロヒーローの連合軍による人工島攻略」を決定した。
◆ ◆ ◆
所長代理のセンスライ以外の全プロヒーローを失った八百万ヒーロー事務所は国から活動休止命令を下された。
『嘘発見』を持つセンスライ当人が「疑われる側」であるために取り調べは難航したが、事務所に残されたスタッフは全員「何も知らない」と口を揃えた。
轟冷が所員に含まれていたことからヒーロー間での共謀の疑いも発生したが、エンデヴァーは「妻の行動については本人に一任している」とこれを否定。『エタニティ』側と戦う姿勢を守った。
なお、『エタニティ』側に直接参加しなかったものの八百万百の思想に共鳴するプロヒーロー、各界著名人、一般人も多く存在した。
こうしたプロヒーローは戦争への不参加を表明、あくまでも街の治安維持のみを行う立場を示した。
著名人や一般人であればネット上や街頭での活動を行ったり、テレビ番組にて持論を表明したり、あるいは『エタニティ』側に公然と資金援助を行う者もいた。
国はこうした流れに歯止めをかけるための奔走。
一方で、プロヒーローが数多く消失した機に動きだす
◆ ◆ ◆
『エタニティ』は八百万家が出資し、麗日建設ほか複数の企業が参加して建設された人工島である。
基本設計は雄英高校卒業生である発目明と八百万百、ほか数名。
島の下部、水中に沈んでいる部分に備えた巨大なエンジンによる移動も可能であり、かつ、移動中でも島内には振動が伝わらないシステムになっている。
メインのエネルギー源は太陽光。
足りない分については島内の発電施設にて生産し、バッテリーに蓄えて使用する形式である。発電には水力や風力が使用される他、島内で生産した資源を用いた火力発電等も可能。また『ヒーローが運用する』という観点から考えた場合、火力や風力、あるいは直接電気を作り出すことも可能なため、実質的に「人力による半永久的な稼働」を可能としている。
建設時に提出された計画案では島自体の建設が終わった後、テーマパークや居住地として整備し解放する計画であったため、砲やレーザー、ミサイル等の戦闘用の備えは行われていないものの──これについても『ヒーローの駐留』を前提とした場合には弱点となりえない。
対空火器が必要であれば八百万百が生産して後付けすることが可能であるし、艦隊を発進させたところで八百万永遠の分身の群れが『エアウォーク』しながら接近してくれば空しい消耗戦を繰り広げるしかなくなる。
と、『エタニティ』側は「単純な武力で解決できる問題ではない」ことを表しながら──自分達の側から攻撃を仕掛けることは決してしなかった。
◆ ◆ ◆
独立宣言から数時間後の、『エタニティ』中央部タワー内で。
「あぁ……。カメラの無い場所ってこんなに落ち着くんだっけ……」
私は円卓の一つに座ったままぐったりと伸びていた。
もう、なんていうか解放感が凄い。
ここにいる人以外には見られてないんだと思うと、心も身体もふにゃっと緩んでしまう。気にしてないつもりでもストレスになっていたんだとしみじみ思う。
「お疲れ様です、永遠さん」
百ちゃんが(若干苦笑気味に)微笑んで労ってくれる。
「しばらくは羽根を伸ばしてくださいな。先方も、散発的に戦力を送り込むほど考え無しではないでしょうから。そうすると必然的に『間』が生じます」
「悪いこと考えるよね、お姉ちゃん」
「視野が広くなったと言って欲しいですわね」
ふふん、と胸を張る百ちゃんの姿は、私の知ってる雄英時代のものとは少し違ってる。
あの頃の彼女だったら「こんな計画」思いつきもしなかったはず。思いきりが良くなったというか、デクくんや爆豪の無鉄砲さが伝染ったんじゃないだろうか。
と。
「永遠ちゃーん」
「わ。……もう、透ちゃん、暑いってば」
「いいじゃん。久しぶりなんだし!」
グローブとブーツだけを浮かせたまま柔らかな感触を押し付けられる。
確かに、六年間も窮屈な思いをさせたのは申し訳ないけど、
「透ちゃんは割と抱きついてたじゃない」
「そういう話もあるね!」
全裸なら見えないからってときどき私を抱き枕にしてた。
なので、言うほど久しぶりって感じはしなかったりする。
「でも『あの女』は四六時中一緒にいたし」
「トガちゃんは私が一緒にいないとコントロール不能になるから」
「呼びましたか、永遠ちゃん?」
何やらいい匂いと共に現れたトガちゃんはコックコート姿で、レストランやホテルが使うようなカートを押していた。
ことん、と、私の前に置かれたのは大盛りのオムライス。
湯気を立てる黄金色の物体にはたっぷりとデミグラスソースがかかっている。
「本当はケチャップでハートを描こうと思ったんですけど、味を優先しました」
「出たな女狐」
「ん? ……ああ、いたんですか透ちゃん。目立たないから気づきませんでした」
「相変わらず仲悪いなあ、二人とも」
苦笑しつつ「いただきます」をする私。
長年かけて磨かれたトガちゃんの料理の腕は確かで、一口食べた途端に「んー!」と声を上げてしまう。
「トガちゃん? 永遠ちゃんのついでとはいえ、守ってあげてるんだから感謝して欲しいな?」
「透ちゃんこそ、永遠ちゃんの隣は私のものなんだから遠慮して欲しいな?」
透ちゃんからしたら、自分がプロヒーローになる間に私とトガちゃんが仲良くなったのが気に入らない。
トガちゃんからしたら「主従」というある意味固い絆で結ばれている透ちゃんがやっぱり気に入らない。
といっても、敵を撃退する時なんかは見事に協力してくれるので、本気でいがみあってるわけじゃない──はず。なので放っておいている。
「おいトガ。私にもなんか食い物寄越せよ」
「そう言われると思って用意してありますよぉ」
他のメンバーも次々と集まってきた。
ミルコの前には特大のハンバーガーとフライドチキン、コーラが置かれる。
「トガちゃん、私は?」
「ウルトラまんです」
「あら。なかなか美味しそうじゃない」
超特大の肉まんを出されたレディさんが歓声を上げて席につく。
「わ、焼き魚定食もあるん?」
「お好きだと聞いたので」
お茶子ちゃんの前には和食が置かれる。
「本当、ごめんねお茶子ちゃん。こんなのに付き合わせちゃって」
「いいんよ。私が好きでやってることやもん」
ぱたぱたと手を振るお茶子ちゃん。
こういう時の柔らかい喋り方は前と変わってないものの、身体は前にも増して引き締まっている。あと、柔らかい部分は更に柔らかそうになってるというか、ちょっと怨嗟が漏れそうになるくらいには「良い女」に成長した。
「永遠ちゃんと百ちゃんにはお世話になったしね」
「我が家としては口の堅い建設会社を探していただけですわ」
お茶子ちゃんの実家──麗日建設は入学当時経営の危機にあった。
お茶子ちゃんがヒーローになって知名度が上がったことで持ち直し始め、そんな折に八百万家から人工島『エタニティ』建設への協力依頼が入った。
文字通り桁の違う報酬と大規模事業への参入によって、一家の生活レベルも大きく上がったらしい。
「この件で業界から干されなければいいんだけど……」
「大丈夫やって。私たち悪いことしてるわけやないもん」
私の呟きに笑って答えるお茶子ちゃん。
いや、割と悪いことだと思うけど。近いうちに
まあ、それでも、私利私欲のためにやってるわけじゃない、という自覚はある。
「デクくんと別れ別れになったのはちょっと辛いけどね」
と、目を細めるお茶子ちゃんは、一瞬だけ『女の顔』になった。
「そういえば結婚はまだなの?」
「け、けけけ、結婚やなんて! そ、そういうのはお互い落ち着いてからっていうか、まだヒーローとしても成長していかなならん時期やし……」
慌てて首を振った挙句、指をつんつんして言い訳をされた。
はいはい、ご馳走様です。
「蕎麦はないのか」
「乾麺茹でるだけだったらできるんですけど」
「……仕方ないな。後で俺が打とう」
冗談めかして(この辺りに成長が窺える)席に着いた轟君は自分の前に置かれた麻婆豆腐をひと掬いして、ご飯と一緒にぱくり。
「……この味は」
「わかります? 冬美さんに教わって、できる限りレシピを再現したんですけど」
「ああ。いい味だ」
にやりと笑う轟君。
エンデヴァーも割と格好いいけど、冷さんの遺伝が強い彼は細面の美形に成長した。でもレディさん、「やだイケメン」とか呟かないでください。あなたシンリンカムイと結婚してるじゃないですか。
で、轟君の恋人はというと、滅多に見せない蕩けた顔で、
「焦凍さんもありがとうございます。あなたがいてくださったら百人力ですわ」
「ああ。参加したのは俺自身の正義のためだが、百の期待にもできるだけ応える」
「~~っ!」
百ちゃん百ちゃん、人前でしちゃいけない顔になってるから。轟君も台詞がイケメンすぎるし。あっちもこっちもイチャイチャして、もう。
「ははは。ここは賑やかでいいっスね。腹の探り合いもしなくていいですし」
「ホークス」
「お疲れ様です、トワさん。やっとここまで来ましたね」
「うん」
爽やかに笑うホークスはより精悍な顔つきになった。
でも、軽薄と言ってもいい性格はそのままで、飄々と自分用のサンドイッチを食べ始める。
「所長、どうもです」
「やっほー、白雲君」
「ほら、飛田さんも挨拶」
「飛田ではない! 吾輩の名前はジェントル・クリミナル!」
「はいはいそういうのいいから」
すっかりデコボココンビと化しているのは、白雲君とジェントル。
いつでも騒がしいジェントルに対し、締める時は締められる白雲君がストッパーになっている。ただし、騒ぐ時は二人揃って騒ぐので二乗でやかましい。
以上、十名。
機関室やらあちこち飛び回ってチェックしている発目さんとか、他数名協力者はいるものの、中枢メンバーとしてはこれで全員。
「みんな、集まってくれてありがとう」
全員二十歳超えてるのをいいことに酒まで酌み交わされている中、私は一応、代表して感謝を述べる。
中世の逸話を元に用意してみた円卓は「上下関係がない」同士の証だけど、暫定の盟主扱いされた私が代表ということになる。
「キリよく十人で、しかも精鋭が集まったんじゃないかなって思う」
「当然であるな」
「飛田さん……。まあ、この俺も今日まで腕を磨いてきたけどな!」
「敵が何人いようが関係ねえだろ。全部蹴っ飛ばせばいいだけだ」
血の気が多い人から調子がいい人、冷静な人まで色んなタイプが集まった。
「思いっきり悪役のポジションだけど、ここまで来た以上、みんな覚悟はできてるよね?」
否、という人は誰もいなかった。
私は敢えて「にやり」と笑って、宣言する。
「せっかくの
おう! と全員の声が唱和して、ここに一世一代の大きな戦いが始まった。
悪堕ちルートを投稿するとしたら?
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同作品内で注意事項明記
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要らない