「「オラァッ!!」」
声と衝突音が振動と空気を震わせる。
巨大化したMt.レディと竜化したリューキュウは小細工無用とばかりにぶつかり合った。普通サイズの者が受ければひとたまりもないだろう体当たりに、双方「面白い」とばかりの笑みを浮かべる。
鉤爪を備えた腕と直径数メートルはあろうかという剛腕が衝突。
鞭のようにしなる尾が迫れば、Mt.レディは蹴り飛ばすことでそれを防いだ。
「おーおー、やってるねえ!」
ミルコは歓声を上げつつも、怪獣大決戦の場から距離を取っていた。
「観戦したいのは山々だが、こっちの戦いを邪魔されるのも癪だからな。……なぁ、お前らもそう思うだろ?」
「無論」
エッジショットが音もなく並走しながら答える。
「強者と仕合うまたとない機会、不謹慎とはいえ滾るのも事実」
「とばっちりで死んだとあっては、お互い寝覚めも悪い」
シンリンカムイが続けて答えれば、ミルコは笑った。
「そうこなくっちゃ! ──さあて、そろそろ行くぜぇっ!」
十分に距離は取った。
おもむろに足を止め、即座に地面を蹴れば、相手もすぐさま対応してきた。
エッジショットは飛びのくようにいったん離れ、シンリンカムイが得意技を惜しげもなく放つ。
「ウルシ鎖牢!!」
ツタのごとく伸びたシンリンカムイの右手が即席の牢として展開、全方向から退路を奪いに来る。後方からなら脱出する余裕はあるが、ミルコはそれを避け、上に跳んだ。
サマーソルトキックのごとく身体を回転させ、勢いを殺さないままに牢をぶち破る!
「悪ぃな。その技は何回も見てんだ、工夫もなく使ったって──」
「それはこちらも承知の上」
「何ぃ!?」
ぶち抜いた先に、一回り大きな牢が展開されていた。
(そうか、左手か!)
ウルシ鎖牢は左右それぞれで別々の対象に用いることができる。片手だけでもそこそこの大きさがあるので、並の
もちろん、もう一度ぶち破ってしまえばいいだけの話だが、
(パワーが足りねえ!)
ツタの表面を蹴りつけるようにして下方向へのエネルギーを獲得。地面に戻るやいなや再度跳躍、今度こそ二つ目の牢を破り──。
三度、ツタの牢に阻まれる。
「今度は右手かよオイ!」
一呼吸の間に右手を変形、再展開して突破された部分を補填したのだ。
「これぞウルシ鎖牢・マトリョーシカ!」
「鬱陶しいんだよ畜生!」
まとわりついてくるツタの感触にミルコは悪態をついた。
シンリンカムイの“個性”は『樹木』。その身体は木の特性を備えており、堅さと柔軟性を併せ持つ。ちょっとやそっとでは抜け出せないが、
「この程度で終わりではなかろう?」
「ったり前だろうが!」
「ムゥッ!?」
みしみし、と、両手が上げる悲鳴にシンリンカムイが唸った。
「今の私は蹴り技だけじゃないんだぜぇっ!」
以前からの癖でキックスタイルを貫いてはいるが、全身の筋肉がまんべんなく強化されている。故に、腕の力で拘束を引きちぎることも可能だ。
先程、黙って拘束されたのは、
「どうだ、こっちの方が手っ取り早いだろ!」
「くっ……!」
たまらず拘束を解くシンリンカムイ。
彼の身体には多少の再生能力があるものの、『超再生』や『不老不死』と比べられるレベルではない。手痛い被害が出る前に引くのはいい判断だ。
となれば、
「忍法『千枚通し』」
音も気配も、姿さえも気づかせずに近づいてきていた忍者──エッジショットの声が、ミルコの
声が聞こえる直前から反射行動を開始していたお陰で僅かに、ほんの僅かに身体を引くことには成功したものの、できたのはそれだけ。
音速で繰り出された無数の刺突が針のごとく、鍛え上げられたミルコの身体を一方的に責め立てた。
計り知れない衝撃。
胴体全域に無数の注射を打たれたような痛みと傷。一発一発は小さくとも、積もれば無視できないダメージになる。
一瞬、意識が遠のき、身体がぐらりと揺れる。
「Mt.レディの相手はリューキュウ一人では荷が重かろう。相性の差ゆえ、自慢のできる勝ち方ではないが、早急に勝負を決めさせてもら──」
「──へっ」
「──!」
それでも。
ミルコは地面を踏みしめ、体勢を整える。
「なら、手加減してねぇで内臓狙いに来いよ、エッジショット!」
ギン、と強く睨みつけると、エッジショットは怯んだように一歩、後ずさった。
◆ ◆ ◆
『エタニティ』地上部、自然エリア・森林部。
木々の乱立する場所にてお茶子と遭遇。爆豪と共に交戦状態に入った飯田は瞬時に思考する。
(麗日君がここで待ち構えていたのは、彼女にとって有利なフィールド故)
多数の障害物によって相手の機動力を封じつつ、木々を破壊されたらされたで浮遊物として利用し、フィールドを意のままに作り替えていく作戦だろう。
お茶子は可愛らしい見た目に似合わないステゴロ系のヒーローとして成長した。
接近戦を挑まれれば不利になるのはこちらの方、
「爆豪。俺が撹乱する! それまで爆発は控え──」
「開幕でぶっ放す! 離れろメガネ!」
「な、何ぃ!?」
既に「でかいの」を放とうとしている爆豪を見て、飯田は慌てて『エンジン』を噴かせた。
猛スピードでバックを始めた直後──BOMB!! 弾倉のような形状をしたアームギアから巨大な爆発が起こり、近くの木々をなぎ倒した。
派手な爆風に煽られ、崩れそうになるバランスを必死に整えながら顔を上げる。
(自縄自縛になるくらいなら前提をまるごと吹き飛ばす。荒っぽいがいい手だ! だが、麗日君とてこの程度では──)
そして、飯田は見た。
爆発の影響、視界を覆う土煙を突っ切るようにして爆豪に迫るお茶子の姿を。
(爆豪!)
が、爆豪もまたそれを予測していたかのように、
見てから避けるのは困難なタイミング!
「甘い!」
FLOAT。
お茶子は地面を蹴りつけると同時に自分に『無重力』の“個性”を使用。軽くなった身体が一気に高く浮かび上がる。一瞬後に解除し、空中で体勢を整えながら落下。
拳を固く握りしめ、
「甘ぇのはどっちだ!」
足元を爆破させた爆豪が避けるのではなく
拳と拳が衝突。
直後に爆発。お茶子も同じタイミングで左手の肉球を自身に当てている。再びの無重力化。爆風を受けて大きく飛んだ彼女は個性を解除、大爆発の影響を受けなかった木立ちを蹴りつけ、勢いを殺して地面へと着地した。
(麗日君の
格闘戦を主体とするスタイルを突き詰めたお茶子は「自分を浮かせると酔う」という弱点を克服、無重力化と解除を瞬間的に繰り返すことによる疑似的な立体機動を可能にした。
戦いが激しくなり、場に物が散らばれば散らばるほど高度かつ複雑になっていく動きは、戦闘主体のプロヒーローであっても簡単には捉えられない。
『無重力』下にあるアイテムをどう扱うかの選択権はお茶子の側が握っているのだから、相手にする者はどんどん取れる戦法が少なくなり、やがて追い詰められることになる。
爆心地を中心に多少さっぱりとした一帯を見やり、吹き飛ばされた木々が何本も倒れているのを確認して、飯田は、
「加勢するぞ、爆豪!」
クラスメート達の戦いに参加すべく、再び『エンジン』を噴かせて移動を開始した。
◆ ◆ ◆
爆豪と飯田が迂回したルートを進む中、最速での直進を選んだ者もいた。
「静かだ……」
使い魔『
明るい屋外故に黒影の調子は今一つだが、長年の訓練によって以前よりは「光を我慢」できるようになっている。単独かつローコストでの飛行が可能というメリットは今回のヒーローチーム中でも稀有なものであり、よって、彼は自分が斥候であると意識していた。
だからこその単独先行。
もしも相手側の戦力を発見すれば仲間へ迅速に伝達し、交戦あるいは撤退を行う。そう考えていたのだが、移動開始から十数分、市街地エリアに入ってもなお敵が現れる気配はなかった。
相手は十人程度なのだからそうそう出くわすとも限らないのだが──なんとなく、静かすぎて不気味なものを感じなくもない。
正式にオープンしていればさぞ多くの人で賑わったであろう街並み(現状では多くが『建設予定地』だったり骨組みだけだったりする)を下に眺めながら飛翔を続けていると、
「!」
前方にきらり、と、光の反射を確認。
何か。
考えるよりも先に身体が動いた。軌道を変更。飛来した
トレードマークのサングラスに軽薄そうな笑み。
日本のプロヒーローの中で屈指の速さを誇る男。ビルボードチャート第二位。その名は、
「ホークス……」
「二年前に独立してからはご無沙汰でスね。ツクヨミ君」
常闇は卒業後、ホークスの事務所にサイドキックとして所属した。
数年間、彼の元で経験を積んだ上で独立することとなったが──その決断は今でも間違っていなかったと思っている。飛行可能な万能型という共通点から学ぶべきことが多かったからだ。
だが。
サイドキックとして何年も行動を共にしながら、ホークスの「心の奥底」を知ることはできていない。そのことに対する恐怖が心のどこかに存在しているのも事実だった。
「貴様。何故反乱に手を貸した」
油断なく周囲を警戒しつつ滞空し、尋ねる。
チームメンバーの中には「問答など不要」とする者も多かったが、彼は対話することを選んだ。知りたかったからだ。
何故、これほど大胆な企みが行えたのか。
と、師であり超えるべき相手でもある男はにやりと笑って、
「簡単です。現体制に嫌気がさしていたからですよ」
「それだけの理由で、世を騒がせたというのか」
「ええ。ヒーローなんて目立ってなんぼ、騒がれてなんぼじゃないっスか。それと同じことです」
「投降しろと言ったら」
「お断りです。ヒーローの皆さんには死力を尽くして障害を突破していただかなくては困るので」
ぐ、と、常闇は奥歯を噛みしめる。
できれば戦いたくはなかった。
その想いは果たして尊敬から来るものか、それとも恐怖か。
「こちら『ツクヨミ』。市街地エリアにてホークスと接触。これより交戦に入る」
装着したインカムを通して通信を行いつつ、黒影の翼を羽ばたかせてホークスから距離を取る。
「おっと。逃がしませんよ」
どこまで本気なのか。
有翼のNo.2ヒーローはすぐさま追いかけてきた。
◆ ◆ ◆
指揮官・エンデヴァーもまた中央タワーを目指して進んでいた。
身体の熱という弱点を抱えるが故にフルパワーは出さず、エネルギーを節約しながらの移動ではあったが、それでも十分に高速。
そして、各メンバーに指示を出すという都合上、ちょうどいい条件でもあった。
(……ホークス)
ビルボードチャート上の序列で言えば最も上にある相手方のエース。
単独で交戦に入った常闇の応援には『ルミリオン』──ミリオを行かせた。『透過』による特殊な移動があれば短時間で到着できるだろうし、羽根を利用したホークスの戦法とも相性はいいはずだ。
麗日お茶子と交戦中の爆豪・飯田は二対一の状況。
リューキュウ達も勝てる、と楽観まではできないものの、良い勝負が可能だろう。
となると、残るメンバーは。
時折出くわす蝙蝠型の使い魔を焼き払いつつ思考する。
どうやら相手はこちらの動きを完全に察知している。この使い魔が原因だろう。その上で、こちらにぶつける相手を選んでいる感じだ。
必ずしも「自分達に有利な組み合わせ」とは限らないあたりが彼ららしいと言わざるを得ないが。
と、思考するうちに中央タワーが見えてくる。
そろそろ妨害が入る可能性が高い。
低空を飛行しながらそう考えたエンデヴァーは警戒を強め、
「──! オオオオォォッ!!」
前方に感じた気配に必殺技──プロミネンスバーンを放った。
放射された高熱が、向こうから迫りくる極冷気、そして形成される巨大な氷塊を迎え撃ち、溶かし、蒸発させて水蒸気へと変えていく。
エンデヴァーは、左右に形成された氷の道の間に降り立つと、前方を見据えた。
立っているのは妻・冷の面影を持つ若い男。
「焦──」
反射的に名前を口にしかけてから唇を結び、言い直す。
「ショートか」
「よお、エンデヴァー。あんたが来るのを待ってたぜ」
盆休みに帰ってきた、くらいの気軽さで言った息子はにやりと笑みを浮かべると、炎と氷、異なる属性を扱う左右の手を持ち上げて言ってきた。
「やろうぜ。俺がどこまであんたに迫ったか、試したい」
「……よかろう」
向こうが相手を選んでいるというのなら、こうなるのは運命だったのだろう。
親子で戦うことになるとはと今更ながらに思い、その一瞬後には、女々しい感傷は戦士としての思考に塗りつぶされていた。
悪堕ちルートを投稿するとしたら?
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要らない