死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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ヒーローvsヒーロー(3)

「エッジショット。手前ぇの弱点も知ってるぜ」

 

 ビルボードチャートNo.3のプロヒーロー・ミルコ。

 彼女の強さとしぶとさに、シンリンカムイはあらためて舌を巻いた。

 

 三度。

 

 エッジショットの千枚通しを三度受けても倒れず、地面を蹴って襲い掛かってくる彼女。

 ウルシ鎖牢を放てば邪魔だとばかりに蹴り破る。腕をしならせて鞭のように振るえば蹴り払うか、掴み取って本体を引き寄せてくる。硬い種を連射する攻撃は一定の効果があったが、「痛ぇ!」とか言いながら元気に攻撃してくるので有効打にならない。

 そして、彼女の強さは威勢の良さと根性だけではない。

 

「お前は身体を細くできるし、超高速で移動もできる。だけど、身体を切り離せるわけじゃねえ。細くなった身体は全部繋がってるし、細くなった分だけ強度も落ちる。細くなってる状態で千切られでもしたら大ダメージなんだよ」

 

 類稀な戦闘センスと鋭い戦術眼。

 

「つまりお前の能力は闇討ち向き。向かい合って戦うタイプじゃねえし、ましてや乱戦に強いわけでもねぇんだよ!」

 

 エッジショットの『弱点』バレ自体は大したことではない。

 ラーカーズのメンバーには共有されている事項であり、メンバーであるMt.レディから聞かされたとも考えられる。

 そうでなくとも“個性”の特性を考えれば行き着く結論であるし、「超高速で移動して無数の刺突が可能」な彼を「戦闘向きじゃない」などと言えるのは一握りのスペシャリストだけだ。

 だが。

 逆に言えば、一握りのスペシャリストであれば弱点を突けないわけではない。

 

「敵と味方が目まぐるしく動き回ってる状況そのものがお前にとってのリスクだ! 細くなったタイミングでうっかりぶつかられでもしたら命の危機だからなぁ!」

 

 実際、ミルコは一回目の攻撃の時点で反応できていたのだ。

 エッジショットが『消えた』のを見てからでは遅いにせよ、何度も喰らって呼吸を覚えていけば、だいたいのタイミングで反応することは可能。

 周囲の空間を巻き込むように回し蹴りでも放たれれば、エッジショットは咄嗟にかわすか攻撃を中断するかの判断を迫られる。

 体内に侵入して一撃必殺を狙うなら猶更だ。

 

 つまり、ミルコは「弱点を知っていて対処を考えている」という事実でもってエッジショットの行動を縛っている。

 加えて──彼女の傷が少しずつ()()()()()

 

 シンリンカムイは唸る。

 

「『超再生』か……!」

「ご名答。ウチのリーダーから借りたエッジショット対策だ」

 

 何度も踏みとどまれる理由がここにもあった。

 一瞬で殺されさえしなければ傷が治る。スタミナまで補充できるわけではないにせよ、戦闘狂であるミルコの性格とは好相性。

 戦いの興奮で疲れを忘れられる彼女を諦めさせるのは並大抵のことではない。

 

「それだけじゃないぜ。リーダーの『吸血鬼』も効いてる」

 

 真っすぐに、否、若干曲線的な軌跡を辿ってシンリンカムイに肉薄しながらミルコが告げる。

 

「自分の力だけでやりてえってのも本音だが、()()()()()()()()()ってのも見せてやらねえと……な!!」

「ぐ、おっ!?」

 

 両腕を盾のように展開して防御。

 衝撃を堪えながら反撃の鞭を放つと、ミルコは兎を思わせるステップで軽々とかわした。着地を狙ってエッジショットが肉薄、四度目の千枚通し。苦痛に表情が歪むが、

 

「おお、痛え痛え!」

 

 やはり、この程度では止まらない。

 

 八百万永遠が持つ数多くの“個性”の一つ『吸血鬼』には使い魔を作る機能の他に、「血を吸った相手を強化する」機能がある。効力と持続時間は吸う量と回数によって変わるが、一回かつ少量の場合は約一日、ほんのりと全体的にパワーアップする。

 

「殺す気でなければ──」

「駄目だって、最初から言ってんだろうが!」

 

 対峙する三人の背景では巨女と巨大な雌竜との死闘が今なお続いていた。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 森林部での戦いは高速での位置取りの争いとなった。

 

「だああああっ! ちょこまかと鬱陶しいんだよクソが!」

「それはこっちの台詞なんやけどっ!」

「爆豪も麗日君も驚くべき腕だが、これでは決定打が無いな!」

 

 高速移動が持ち味の飯田はもちろん、爆豪も足元を『爆破』することでスピードを出せるし、お茶子もまた『浮遊拳法』を駆使して立体機動を行ってくる。

 結果どうなるかと言えば──。

 

「取った!」

「わけないやないっ!」

 

 高速で懐に飛びこんだ飯田をお茶子がかわし、「隙だらけだ雑魚!」爆風を背に急接近した爆豪に「なんの!」FLOAT! 無重力跳躍でかわすお茶子。

 空中では機動が制限されるが、お茶子には『無重力』がある。軽くなった体重を利用し大きく浮かび上がった後、個性を解除し重力に引かれて落ちてくる。

 

「両側からだメガネ!」

「お、おう!」

「いいよ、やってみて!」

 

 呼吸を合わせて左右から攻めればお茶子はステップし、跳ね、ふわりと浮かび、曲芸でも披露しているかのような軽やかさでかわす。その上、隙をついて手を──『無重力』のスイッチである肉球を伸ばしてくるから性質が悪い。浮かされれば実質無力化されるわけで、攻め手を緩めてでも避けなければならない。

 また、環境はお茶子の味方だ。

 根元を吹き飛ばされて倒れた木々や吹き飛ばしきれなかった木片等に肉球が触れれば、それらは三次元的な障害物と化す。

 よって飯田と爆豪は攻めると同時に障害物を爆破、蹴り潰して相手のアドバンテージを奪わなければならない。

 

(これだ。麗日君の真骨頂は!)

 

 柔と剛の使い分け。

 浮遊拳法自体がふわりとした無重力状態を高速機動に利用する、という真逆の行為の融合なのだが、「近づいてぶっ飛ばす」と「触って浮かせて無効化」を高いレベルで共存させ、どっちにも拘らず両方を狙っていく、なんなら地の利まで使って有利を取る、その柔軟性。

 彼女が女性であればこその独特のセンス。

 

 こればっかりは天才・爆豪にも努力の人・飯田にも真似できない。

 彼らはどこまで行っても男であり、無骨に真っすぐに攻めることを尊んでしまうからだ。

 

「っ!」

 

 浮かされた丸太が「蹴っ飛ばされて飛んでくる」のをギリギリでかわし、飯田は爆豪を見る。

 ちょうど向こうもこちらを見ており、一瞬、視線が交錯する。

 

 言葉はない。

 だが、状況の転換が必要だという一点だけは確かに共有された。

 

()()()!」

 

 名前で呼ばれるのを他人ごとのように聞きながら、飯田はお茶子に向かって高速で走りだしていた。

 苦心の末に編み出した鋭角なターンを利用し、フェイントを混じえて横合いから迫れば、お茶子は読んでいたのかすぐさま跳んでかわす。

 だが、飯田もまた驚くことなく急制動をかけ、追うように跳躍して、

 

「飛んでけ!」

 

 背中ギリギリで炸裂した爆発が強い推進力となって、お茶子に追いつくチャンスを与えた。

 

「嘘!?」

 

 ウマの合わない二人が土壇場で打ち合わせもなくやってのけたコンビネーション。

 飯田と爆豪双方の成長、三年間培ってきた絆が今、身を結ぶ。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 中央タワーは地上と地下の両方に伸びる巨大な建造物だ。

 

 入り口は数か所あり、上階には展望室やレストランも備えており一般客が利用することもできる──ようになる予定だった。

 一階から二階までは吹き抜けになっており、中央のエレベーターから上下に移動が可能。

 

 幸運にも交戦を免れたヒーロー達は、タワーの一階にようやく到着すると戦力がある程度揃うまでその場で待機した。

 エンデヴァーやエッジショットへの加勢を望む声もあったが、結局は「任務遂行が優先」と判断。さほど時間をかけず、中央タワーに複数名が集まった。

 

「なんか、見知った顔が集まっちゃったね」

「くっ……B組よりA組の方が多い。ははは、まあ仕方ないか! A組は血気盛んな野蛮人が多いからね!」

「無理やり勝ち誇ってるんじゃないわよ、物間。……って、このやりとりも久しぶりな気がするわ」

 

 相変わらずな物間寧人を拳藤一佳が小突くと、デク──緑谷出久は「ははは……」と苦笑した。

 それから表情を引き締めて、高いタワーを見上げる。

 

「じゃあ、そろそろ行こうか?」

「そんなに戦いたいのかい? これだから──ぐふっ!?」

「はいはい。行きましょうか。……わかってると思うけど、たぶん、一階で待ち伏せされてるから気をつけましょう」

「うん」

 

 他のメンバーも頷いたのを確認し、出久が号令。

 

「行くぞ!」

 

 入り口を開き、一斉に飛び込むヒーロー達。

 すると案の定、エレベーター前に二つの人影があり、吹き抜けのエントランスに大きな声が響いた。

 

「待っていたぞ、ヒーローの諸君!」

「飛田さん、元(ヴィラン)だけあってめっちゃ似合いますね」

「飛田ではない! ジェントル・クリミナルだ!」

「敵指定されてる今だと洒落になってないですって」

 

 ヒーロー達そっちのけで漫才を始めた彼らは、精悍な体躯と陽気さを隠し切れない独特の表情を持った男──白雲朧と、大きな口髭を蓄えた長身の男(老紳士に見えるがまだそんな歳ではない)──飛田弾柔郎。

 

「二人か。この人数を相手にするには少ないんじゃない?」

「いや、一佳。それは俺の“個性”知ってて言ってる?」

「知った上で突破する自信があるって言ってるのよ、朧」

 

 二年生の途中からヒーロー科へと編入してきた白雲朧は、出久達と同期。特に所属していたB組メンバーとは旧知の仲である。

 丁々発止のやり取りをする白雲と拳藤を見て、出久の背後で切島と上鳴がひそひそ話す。

 

「なあ、あいつら付き合ってんの?」

「白雲は誰にでもあんな感じでしょ。拳藤は一時期意識してたみたいだけど、相手がのほほんとしてっからいったん諦めたらしい」

 

 みんな色々あるんだなあ、と妙な関心をしつつ、お茶子はどこに行ったんだろうかと考えていると、拳藤が振り返って、

 

「みんな。ここはB組メンバーに任せてくれない?」

「え? う、うん。いいけど……あのコンビは多分、強敵だよ」

 

 何度か行われたクラス対抗戦で白雲の実力は知っている。

 足場を作ったり味方をワープさせたりする“個性”とジェントルの“個性”の組み合わせ。それにこの場所。明らかに狙っている。

 と、出久の懸念に拳藤は笑って、

 

()()()()()。相手にとって不足なし、ってね」

 

 拳を打ち合わせた彼女を見て、出久もまた微笑んで頷いた。

 

「わかった。ここは任せるよ」

「ええ。そっちもそれでいいよね、朧!?」

「ああ。残る奴だけ残って、後はエレベーターに乗ってくれ。安心しろ、攻撃なんかしねぇよ」

「なんか、敵とは思えねーほど爽やかな奴だよな」

「そりゃヒーローだからね」

 

 ひそひそ言いつつ、白雲とジェントルの脇をすり抜けてエレベーターに到着。上か下か。ブリーフィングでも結論が出ていないが。

 

「おーし、二手に分かれるか」

「いやまた急だね!?」

「だって固まって行って空振りだったら悲しいだろ」

「それは確かに」

 

 結局、チームを二つに分けることにした。

 複数台あるエレベーターに分かれて乗り込む。扉がゆっくりと閉じていき、閉じきった直後、ドン! と大きな音が向こう側から聞こえてきた。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 凝縮された豪炎と極冷気が正面から衝突、互いに消滅する。

 

「互角か」

 

 地面を凍らせながら滑るように移動しながら、轟。

 対するエンデヴァーは炎を噴射して大きく飛び上がっていた。

 

(節約したいだろうに、何のつもりだ?)

 

 エンデヴァーの弱点は、“個性”を使えば使うほど体内に熱が籠もっていくこと。

 高い体温は動きを鈍らせ、疲労を誘発する。

 だからこそ「熱する」と「冷ます」を両方行える者を後継者として求めた。そして、成功例とされたのが轟だ。張本人がそれをわかっていないはずがない。

 ならば、

 

(短期決戦が狙いか)

 

 飛んだのは周囲に被害を与えないため。

 

(試してみるか)

 

 左手に炎を凝縮し、一気に解き放つ。

 赫灼熱拳。父であるエンデヴァー自身の技。教えられてから使いこなせるようになるまでには色々と難儀したが、今では息をするように放つことができる。

 炎が衝突したのは、ある程度の指向性を持った高熱。

 プロミネンスバーン。

 大技に対し、赫灼熱拳は力及ばずに吹き散らされる。だが、轟は既に次の技を解き放っている。右手から、凝縮された極冷気。

 勢いを減じたプロミネンスバーンにぶち当て、威力を相殺。それも押し切られれば、更に赫灼熱拳。熱気が拡散し、温められた空気だけが残る。

 

「見事だ」

 

 淡々と言いながら、エンデヴァーはジェット噴射のごとく轟へと向かってくる。

 

「なら、もうちょっと焦れよ」

 

 穿天氷壁。

 右手から放たれた冷気が温められたばかりの空間ごと一気に凍り付かせ、氷の砦を作り上げる。それは勢いを殺すことなくエンデヴァーまでをも包んだ。

 

「───」

 

 何か言おうとしたようにも見えたが、声が伝わってくることはなく。

 No.1ヒーローを覆った氷のオブジェが街の一角にそびえ立った。

 

「これで終わりか? あんたはそんなもんじゃねえだろ、エンデヴァー」

 

 轟の呟きに応えるように、オブジェが急激に溶け、砕け散った。

悪堕ちルートを投稿するとしたら?

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