死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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今更ですが、オリジナル技のネーミングセンスについてはご容赦くださいませ。


ヒーローvsヒーロー(4)

 チン、と、音を立ててエレベーターが停まった。

 

 開いた先にあったのは広大な地下空間。

 浄水設備や食品の生産プラント等を備えたそこは、一般客に見せても構わないが基本的には公開しないプライベートの顔、といったところ。

 上鳴電気は耳郎響香、芦戸三奈と共に地下空間に立つと周囲を見渡した。

 

「広っ……! こんな中を探すのかよ!?」

「仕方ないじゃん。……まあ、半分以上居場所割れてるから、気持ちわかるけど」

 

 ターゲット発見の報は逐一通信を受けている。

 まだ見つかっていないのは八百万永遠、八百万百、葉隠透の三名。十分の七が発見済みな上にこの広さとなるとうんざりするのも仕方ない。

 無駄に疲れさせる作戦なのではないか、とさえ思ってしまう。

 

「なんでこんなコトしたんだよあいつら……」

「ホントだよ!」

 

 と、上鳴の呟きに反応したのは芦戸。

 ぷんぷんと頬を膨らませながら(とっくに成人しているのに何故か似合う)彼女が言ったのは、

 

「私も誘ってくれれば良かったのに! そしたら喜んで参加したのにさ!」

「「そっち!?」」

 

 まさかの裏切り者発生かと上鳴、耳郎が色めき立った直後、

 

『あら。今からでも歓迎しますわよ、芦戸さん』

「ヤオモモか!」

『ようこそ皆さん『エタニティ』へ。元A組の方は殆どいらしてくださって、まるで同窓会ですわね』

 

 百の声は近くのスピーカーから響いているようだった。

 各所に監視カメラも設置されているため、この様子もマスコミに伝わっているのだろう。

 

「百。まるで悪の親玉みたいだよ。めっちゃ似合う」

『ありがとうございます。まあ、親玉は永遠さんなので、わたくしは切れ者のNo.2といったところなのですが』

「「「自分で言った!?」」」

 

 イマイチ締まらない。

 なにせ、旧知のメンバーばかりなので即、ノリが昔に戻ってしまう。

 

「っつーか、どこに居んのよヤオモモ。こん中探すのだりーんだけど」

『ご心配なく。そう仰ると思って余興を用意しましたわ』

「余興?」

「ろくなものじゃないっぽいね。……さっきから音が響いてる」

『ご名答』

 

 耳郎の言葉に百が笑う。

 やがて、上鳴や芦戸にも『それら』の存在が明らかになった。かすかな駆動音を響かせながら各方向から現れたのは、数十体にもなろうかという機械の群れだった。

 大まかな種類としては三種類。

 四足歩行にキャタピラに飛行型。それぞれ銃口や白兵武器を備えている。

 

「わお! なんか雄英の入学試験を思い出すね!」

『ええ。こちらは発目さんが主導で製作された「ネオ雄英ロボmk.2カスタム(量産型)」です。従来の雄英ロボに比べて性能は三割増し、駆動時間や耐久性は五割増し、それでいて製作費は半分に抑えられている優れものなんですの』

 

 芦戸の言葉に嬉しそうに答える百。

 が、上鳴としては嫌な予感しかしない。

 

「いや、それはすげーけど……もしかしてヤオモモ、俺達に」

『ええ。皆さんにはこのロボ達(正式名称は長いので省略)と戦っていただきます』

「ウェェ……やっぱりかよ」

 

 なんというか、戦う前からげんなりする。

 が、耳郎はにやりと笑って、ぽん、と上鳴の肩を叩いた。

 

「いいじゃん。私達があの頃からどれだけ強くなったか見せてあげれば」

「お? 響香珍しくノリノリじゃん。やっぱ俺に会えて嬉し──」

「奥義・ハートビートクライシス!!」

 

 コスチュームの一部として両手両足に装備された音響増幅装置により、全方位に『音の衝撃波』が放たれる。足場を傷つけると面倒な事態も想像されるし、敵の数が多いので、それを考慮した技なのだろうが、

 

「響香! 耳栓する前に本気出さないでよー!」

「う、ウゲゲ……み、耳が痛い……痛……」

「ご、ごめんつい」

 

 味方にも多大な被害を与えていた。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 上階へ向かった組のエレベーターもまた音を立てて止まった。

 

「ん? まだ最上階じゃねえぞ?」

 

 声を上げたのは切島。

 彼の言う通り、出久達が目指していたのは最上階の展望室──にもかかわらず、停まったのは一階下のレストランだった。

 押し間違いでないことはランプから確認できたが、

 

「まさか飯でも食わせてくれる気だったりしてな」

「そんなわけないと思うけど……」

 

 馬鹿を言いつつも警戒は解かず、エレベーターを下りる一行。

 そんな彼らを出迎えたのは、せいぜい中学生くらいにしか見えない少女だった。

 纏っている魔法少女風のコスチュームを見ても、あの頃とイメージが全く変わらない。『不老不死』なのだから当然といえば当然だが、

 

「やっほー、みんな。久しぶり」

「ヤオトワ!?」

「一番上か一番下で待ってると思ったら、いきなり出てきたな」

「あはは。その方がびっくりするかと思って」

「びっくりするに決まってんだろ!?」

 

 全くもって緊張感のない会話。

 通信を聞く限り、他の『エタニティ』メンバーも同様のようだが──彼女達には「悪事を行っている」という()()()()が存在しない。真の目的がなんであるかを考えればそれで正しいのだが。

 出久は永遠と仲間達の会話を聞きながら考えていた。

 そんな彼の様子を不思議に思ったのか、尾白が問いかけて来る。

 

「どうした、緑谷。みんなに報告しないのか?」

「ん……そうだね」

 

 頷いて、出久は「でもその前に」と永遠を見つめた。

 

「永遠さん。コスチュームはどうしたの?」

「ん?」

 

 少女は瞬きをすると、不思議そうに首を傾げる。

 

「どこかおかしい? いつも通り着てるつもりなんだけど。っていうか緑谷くん、結局私のこと名前呼びだし。お茶子ちゃんから怒られるって何回も言って──」

「もうお芝居はいいよ、()()()()()()()

「───」

 

 永遠の表情が凍りつき、代わりに凄絶なまでに強烈な笑顔が浮かぶ。

 

「どこでバレましたか?」

「決め手はやっぱりコスチュームだ。何でヒーローコスチュームをそのまま着てるのか。ミルコさん達が黒っぽい衣装を新調してるのに、リーダーだけ例外なのはおかしい。永遠さんはこういう時、意外とノリがいいからね」

 

 後は、いくらなんでもノリが軽すぎるんじゃないかとか、そういうところ。

 あの少女が同じ反応をしないとは言い切れないのだが、ノリが良いからこそ、ボスならボスらしくしている……という読みも同時に存在した。

 

「さすが、要注意人物No.1なのです」

 

 呟いた彼女はどろどろと身体を溶かして元の姿──曼珠沙華のような特殊なおだんご頭をした、二十歳行かないくらいの少女に戻った。

 服装は何故か黒いチャイナ服。

 発育の良い身体に露出度の高い衣装の組み合わせが、さっきまでの永遠の姿とのギャップで大変扇情的だが、そんなことを言っている場合ではない。

 

 トガの両腕と両足にはそれぞれホルスターのようなケースが装着されており、ナイフのものと思しき柄が伸びている。

 見るからに戦闘フォーム。

 

「一階下で止めたってことは、最上階に永遠さんがいるのかな?」

「ええ」

 

 答えはないかとも思ったが、意外にもトガはあっさりと答えた。

 

「永遠ちゃんは一番上で待ってます。そう簡単に行かせませんけど」

 

 言うと同時、レストラン内にばさばさと無数の羽音が広がった。

 死角──エレベーターの裏側に集結していたらしい蝙蝠の群れ(本物と違ってぬいぐるみ感があり若干可愛い)にメンバーの一人、砂藤が「うえ」と声を上げる。

 無理もない。何十匹か、百匹以上か。一匹一匹は脅威ではないが、視界を塞がれたりして注意を逸らされるだけでも十分に嫌だ。

 

 トガはくすくすと笑いながら両手にナイフを構える。

 足を開いて立った彼女の下半身を切島が凝視しかけて、止める。

 

「ンな場合じゃねえか」

「先に気づいて欲しかったなあ……」

 

 そして、高らかな宣言が響いた。

 

「永遠ちゃんのところまで行きたかったら、この私を倒してからにしてください!」

 

 そこへ、出久達に通信が入って。

 

『こちらネジレチャン! 天喰君と一緒に永遠ちゃんと戦います!』

 

 直後、どかーん、と()()()()()()

 

「「は??」」

 

 出久達とトガの声がハモった。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

「なんでエレベーターとか階段使わないといけないのかな? 変なのっ」

「様式美とか無視か……」

 

 展望室のガラスをぱりんと割って、天喰はねじれと共に最上階へと突入した。

 方法は簡単だ。

 空を飛んで直接辿り着いた。バトル漫画で主人公側がやった場合、効率的すぎて読者にドン引きされるやつである。女子ってやつはロマンを意に介さない、などと思いつつ、天喰も止めずについてきたわけだが。

 

 展望室だけは、エレベーターの停まる中央支柱部分がシースルーになっている。

 お陰で全体を見渡すことができ、一人の少女がこちらにゆっくり歩いてくるのも確認できた。

 

「あ、永遠ちゃん発見!」

「……マジかよ」

 

 思わず呟けば、彼女──永遠も苦笑いを浮かべる。

 

「私もびっくりですよ。ヒーローが窓を壊して入ってくるなんて」

「まあ、まるごと敵の作った拠点扱いだしな……」

 

 答えつつ、天喰は相手の姿を確認する。

 

 永遠が纏っているのは魔法少女風の衣装だが、色は漆黒。デザインも細部が異なっている。具体的には露出度が上昇。ミニスカートにスパッツ型のインナー、上も丈の短い半袖のアウターになっており、手足も臍もばっちり晒している。

 悪堕ち魔法少女風、といったところか。

 二十四歳のする格好ではないが容姿が容姿なのでいやらしさはなく「健康的でいいけど風邪ひくなよ」という感想しか出てこない。

 

「わ、可愛い。ねえねえ永遠ちゃん、どうしてコスチューム変えたの、不思議」

「今回は私達が悪役ですから、それっぽくしてみたんです。ちょっと恥ずかしいですけど、私、戦うとだいたいいつもボロボロですし」

 

 多少の露出は誤差の範囲ということか。

 なるほどと思い頷く天喰。

 

「強引だったが……上手くいったか」

 

 永遠は一人だ。

 彼らの目的を果たすには絶好のシチュエーション。後輩達が揃って一階に入るのを見ながら、それでも直接ここに来たのには理由がある。

 元雄英ビッグ3。

 No.1だったミリオは常闇の応援に向かったため生憎二人だけだが、

 

「波動」

「はいはーい。……ごめんね永遠ちゃん。お喋りは戦いながらにしようよ?」

「いいですよ。私も、みんなが戦ってるの見てうずうずしてたんです」

 

 永遠はビルボードチャート六年連続ランク外。

 ただし、このランクを馬鹿正直に信じている者は殆どいない。天喰達元ビッグ3は永遠の不参加を「殿堂入り」と捉えていた。

 雄英在学中にはA()()()()()()()()を相手に一人で三十分以上も粘ったらしい。それもAFO(オール・フォー・ワン)等、“個性”の大半を封印したままでだ。

 簡単に勝てるとは思っていない。

 死力を尽くすのが前提。その上で天運か何かに味方されなければ勝利はないだろう。

 

 それでも。

 

(最低限、露払いくらいはさせてもらう)

 

 それが、ミリオを含め三人で交わした約束。

 

ねじれる波動(グリングウェイブ)!!」

「混成大夥!!」

混沌の魔槍(ケイオススピア)

 

 ねじれの放った衝撃波が、骨でできた大槍と衝突、下階にまで大きな音を響かせた。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 気づけば、太陽が頂点へと到達しようとしていた。

 

「ハァッ……ハァッ……。どーした? 終わりかよ?」

 

 コスチュームは見る影もなくぼろぼろ、生地の一部が肌に張り付くのみという有様。そのまま放送するのは倫理上問題があるだろうが、それを憂うのはミルコではなくマスコミだ。

 戦いの最中に恥ずかしいだのなんだの気にしていられるか。

 胸や尻を露出したことなど何度もある。今なお戦いの高揚に包まれたミルコは「見たきゃ見せてやる」といった気持ちで立っていた。

 度重なる攻撃によるダメージは深い。

 『超再生』をもってしても癒しきれておらず、一発内臓に喰らった時の分を優先して癒しているため、腕からは一筋血が流れ続けている。

 

 だが。

 

「ッ、オラァッ!」

「……忍法『伽藍堂』」

 

 肉薄しての蹴りに対し、エッジショットは腹部分の身体を解き空洞にしてかわす。

 

「更に忍法『百蜂』」

「遅っせえんだよっ!」

 

 続けて繰り出されたのは細くなった身体で対象を包囲し無数の攻撃を全方向から繰り出す、という絶死の技。

 これに対し、ミルコは軸足を更に回転、ノータイムで回し蹴りを繰り出すことで、風圧によってエッジショットの身体を吹き飛ばした。

 

「……ぐっ!」

 

 細くなったままではまずいと察した忍者ヒーローは慌てて身体を再構築。

 しかし、元に戻った途端、彼はぐらりと身体を揺らした。

 

(やっぱりな)

 

 疲労のせいでスピードが落ちている。

 蹴りを普通に避けず奇策に頼ったのも、別の技で目くらましを狙ったのも、()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 そもそも、あれは一撃必殺の闇討ち技。

 同じ相手に何発も放つこと自体がレアケースなのだ。まあ、巨体だったり再生する奴には連発したこともあるらしいが、その時もMt.レディが正面から食い止めて壁になっていたという。つまり、エッジショット自身がメインで交戦しながら連発したのはほぼ初めて。

 

 そういう設計の技でない以上はスタミナも尽きる。

 頼みのシンリンカムイは両腕をぶち抜かれ、片足も失った状態で転がっている。彼も必死に戦ったのだが、ああなっては再生にも時間がかかる。

 

「さあ、そろそろ終わりにしよーぜ?」

「まだだ、まだ──」

「だそうだが、どーよ『インビジブルガール』」

「───」

「──な、に?」

 

 姿も音もないままに放たれた手刀が、エッジショットの首筋をとん、と軽く、しかし強かに叩いた。

 忍者スタイルを貫くプロヒーローだからこそわかっただろう。その技が()()()()()()()()()()()()だということが。

 葉隠家の技がエッジショットの“個性”忍法より上と言うつもりはないが、死闘の末に意識の外から放たれた一撃をかわす術は存在せず。

 

 ベテランヒーローの一角が意識を完全に刈り取られ、海辺のアスファルトの上へと沈んだ。

悪堕ちルートを投稿するとしたら?

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