白雲、ジェントル組と交戦に入ったのは物間、拳藤、そして吹出漫我の三人だった。
「さあて、行こうか」
「ええ。気を抜かないでよ、物間」
「誰に物を言ってるんだい?」
息の合った(?)掛け合いをしながら飛び出す物間と拳藤。
白雲はにやりと笑って、こちらも地面を蹴った。
サイズ自由、移動可能の『雲』の足場を作る“個性”で次々高いところへ移動していく
「行きますよ、飛田さん!」
「飛田ではなく──と、言っている場合ではないであるな!」
ジェントルの“個性”は『弾性』。
触れたもの(空気さえも含む)にその名の通りの弾性を付与し、トランポリンのような特性を与えられる。一度付与すると時間経過以外で効果が消えない(少しずつ弾性が減っていく形)うえ、付与した本人でさえどこに付与したかはわからない(記憶しておくしかない)という欠点はあるものの、上手く使えば強力だ。
例えば、
「これぞ、私と後輩の合体技!!」
「ヒーローとしては俺が先輩ですけど」
老紳士風の男が跳んだ先に瞬時に形成される小さな『雲』。ジェントルはそれに『弾性』を付与し、文字通り跳ねるように大きく跳ぶ。
行った先に新しい雲が作られ、更に跳べば三つ目の雲が形成。
ジェントルの跳躍は勢いを減じるどころかどんどん加速し、吹き抜けのホールをまるまる使ったピンボールと化す。
使わない雲を白雲が消すことで足場の整理も行えるし、ジェントルが跳ぶ方向をミスしても雲を移動させて調整が可能。
目にも留まらぬ三次元戦闘。
「こりゃ、思った以上に厄介だね」
「いいじゃないか! B組のメンバーが目立つのは!」
「いい加減A組B組のくくりから離れなよ……」
拳藤は『大拳』の“個性”を発動し、自らの拳を大きく変えながらホール内を周回するように走る。
物間は“個性”を見せないまま、拳藤とは逆回りで走り──。
「よーし、ワッとしてガーっとしてギャーとやっちゃうぜ!」
三人目、吹出漫我が“個性”を発動させる。
『コミック』。
発声した擬音を具現化させるという特異な効果であり、基本的には敵にぶつける形で用いられる。今で言えば「ワッ」と「ガー」と「ギャー」が放たれ、それぞれ別方向に飛んでいく。
当然、絶賛ピンボール中のジェントルには邪魔以外の何物でもないが、
「無駄だ!」
この擬音にも『弾性』を付与して蹴りつけてしまえばいいだけのこと。
サポート役の白雲も『雲』に乗って移動しているため、余程油断しない限りは当たらない。
「飛田さん、そろそろ!」
「うむ、温まってきた頃合いだ!」
「来る!」
奇しくも、ジェントルが攻撃に転じたのは拳藤と物間、二人の軌跡が重なる瞬間だった。無論、狙ったのだろうが。
「二人まとめていただく!」
「ふふふ、そうは行かないよ!」
「何!?」
物間と拳藤もこれを予想していた。
物間は『コピー』によって用意していた“個性”を発動。彼の尻からふさふさした立派な『尻尾』が生える。これは尾白の“個性”だ。
下手な力自慢よりも強いパワーを持つこの尻尾に拳藤が跳び乗り、振り振りされた勢いで跳躍。
「おらぁっ!」
「く、白雲!」
「おうよ!」
ジェントルと拳藤の間に生まれる『雲』。
『弾性』を付与して逃れるジェントル。拳藤は激突を避けるためにこれを蹴り、逆方向に逃れる。
「グルグルグルグルグルグルー!!」
吹出が再び擬音を具現化。
渦を巻くように飛び出した『声』が空気をかき乱し、空中にいるジェントルと白雲を翻弄する。白雲は咄嗟に雲へしがみつき、ジェントルもまた新しい雲にそのまま抱きついた。
「良くやった吹出君! このまま──」
「いや物間。これ私らも攻撃できない」
「喉も疲れる」
「駄目じゃないか!」
こうして戦いは振り出しに。
再びピンボールを始めるジェントルを見た拳藤は、
「吹出! 足場!」
「凹ー!」
カタカナと漢字を使い分けるのに一か月の修行を要したという渾身の足場に飛び乗り、突っ込む。
目指すはジェントル──ではなく、白雲。
「俺に来るか、一佳!」
「そっちのおじさんは狙いにくいからね!」
「む、私の渋さがわかるのか少女よ!」
「いや、そういう話じゃないから飛田さん」
当然、ジェントルも援護しようとするが、拳藤の巨大な拳が「来るなら来い」と待ち構えている。
「白雲君! 物間少年の持続時間は!?」
「今は一時間に伸びてるはず! だけど吹出の喉もある!」
「時間稼ぎは有効ということか!」
「もちろん、積極的に攻めていくけどな!」
白雲は携帯していた伸縮性のロッドを伸ばすと、雲を飛び移って拳藤を迎え撃つ。
「ならば私は!」
空中戦が始まるのを見たジェントルはピンボールを低空の二次元的なものに変更。床の上にいる物間と吹出を狙う。これに吹出は「ガガガガ」と擬音をマシンガンのように発射して応戦。当然のように避けられるが、上空に飛んだ分は拳藤の足場になる。
白雲の『雲』に拳藤達が乗るとあっさり消されて落ちることになるので、これはなかなかに重要だ。
接近しての応戦は物間。
『尻尾』が生えるだけ、という地味な“個性”を上手く使ってジェントルを殴りにかかる。考えようによっては「二本の腕より柔軟性もパワーもある三本目の腕を使える」ということなので、弱いわけがない。
「むう、なかなか手強い!」
「ははは、そっちもね!」
物間達はジェントルの弱点を察していた。
彼の持ち味は高速での三次元機動。スピードが出る分だけ一撃のダメージも大きいが、カウンターを受けた際のダメージも大きくなる。故に考え無しの攻撃は危険。待ち構えて溜めた威力を叩きこめば一撃で打倒することも不可能ではない。
だからこそ、向こうは攻め時を探るし、こちらも小技の連発は控える。
上空では西遊記のごとき戦いが継続中。
まあ、白雲が孫悟空だとすると拳藤は猪八戒か? という話になってしまうので口には出さない。三蔵法師かもしれないし。でかい拳でぶん殴りに行く三蔵法師は銃と煙草を嗜む三蔵法師と同じくらい嫌だが。
ちらりと時計を見る。
刻一刻と過ぎる時間。ダミーも含めて数多くの時計を装着しているが、うち一つ、かなり最初の段階で別れた者から『コピー』した“個性”が期限切れ間近だ。
せっかくだから使ってしまおう。
「拳藤、やるよ!」
「OK!」
白雲の振るうロッドに拳をぶつけ、飛びのく拳藤。
落下する彼女をジェントルが狙うも「バリアー!」。守るように展開された擬音がぱりーんと割れ、その間に拳藤が着地。
すぐさま三人は壁際へと移動し、
「マックラ」
ホール内に一瞬の『闇』が生まれた瞬間。
「
『応!』
闇のエネルギーがエレベーター、そして空中の白雲達に迫った。
◆ ◆ ◆
「ちょっと待て。こいつめっちゃ強えぞ!?」
「当たり前じゃないですか。永遠ちゃんのパートナーですよ?」
「そう言われると妙に納得しちまうけどよ!?」
最上階一歩手前、レストランにてトガヒミコと交戦を始めた出久、切島、尾白の三人は苦戦を強いられていた。
理由は切島が口にした通り。
トガが意外なほどに強かったからだ。
「ほらほら。油断してると切り刻みますよぅ?」
「嘘つけ殆どナイフ使ってねえだろ!?」
最初に二本、ナイフを抜いたのがブラフだったのでは、というレベルである。
接近戦を想定して三人が身構えれば、トガはすぐさま
穿天氷壁。
瞬時に形作られる氷塊を出久が拳圧で、尾白の前に飛び出した切島が硬化した身体で防いだかと思えば、すぐさま褐色美女へと姿を変え、切島を包む氷塊を自分で蹴り割ってくる。
切島と尾白が体勢を立て直す間に出久が圧縮した空気塊を連射すれば『無重力』と体術を併用してひらひらとかわす。
復帰した二人を加えた三人での攻撃には『透明』人間に変身、攻撃をかいくぐると再び褐色美女となって尾白を蹴り飛ばした。
──上からも下からも衝撃や轟音が聞こえてくるのに、構っている暇がない。
“個性”『変身』。
血を吸った相手に変身する力。かつては姿かたちを写し取るだけだったが、今では変身対象の“個性”を自在に操るまでになっている。当然、この『エタニティ』に参加している者の“個性”は全て持っているだろう。
加えて、
「切島鋭児郎。個性は『硬化』。つまり、浮かせちゃえば何もできなくなりますね?」
「うげ!?」
永遠達から得た出久達のデータ。
ミルコの姿のまま走る彼女に、出久は、
「させない!」
「あは」
「!?」
蹴りを、トガが合わせてきた。
衝突するパワーとパワー。競り負けたのはトガの方。元『平和の象徴』の“個性”を100%ものにし、更に強化してきた出久の筋力は並ではないどころか──『並外れている』。殺してしまわないようにセーブしてなお、肉弾戦型ヒーローの足を一本、見事にひしゃげさせ、そのまま潰した。
飛び散る肉片。
噴き出した鮮血が
「あはははっ!」
片足で器用に飛びのいたトガが、足を再生させながら元の姿に戻っていく。
出久は追撃を諦め、切島、尾白と共に蝙蝠達を潰していく。
「おいおい、これはヤオトワの能力じゃなかったのかよ!」
「譲渡していたんだ! 永遠さんが使ってると見せかけて、本当は彼女が『吸血鬼』を使っていた! 彼女も『不老不死』を持っているから──!」
多少傷ついても再生できる。
加えて、蝙蝠をけしかけることによる副次的なメリットが、
「僕達の血を吸わせちゃ駄目だ! 本体に持ち帰られたら──!」
「俺達の“個性”まで使われるってか!?」
恐ろしいとしか言いようのないコンボだ。出久達としては相手を一人も殺したくない。ヒーローでないどころか元
だが、トガは半端に傷つけると使い魔を量産する。
半端ではない傷つけ方をしても『不老不死』でそのうち復活するのだから、本気で止めたければ「ただ殺す」以上のダメージが必要になる。
そして、トガを止めなければ永遠の元には向かえない。
『エタニティ』メンバーは全員が強敵である、と認識してはいたが、出久も含め、ヒーローチームの者達はどこかでこう考えていた。
永遠以外を全員倒してからが本番だ、その時動ける全員で永遠を叩いて降伏させられなければこっちの負けだ、と。
だが。
「緑谷出久さん? 本気で来ないと死んじゃいますよ?」
「くっ!?」
嘲るどころか諭すような声を聞きながら、出久は再びトガに接近する。
さっきのような鋭角フェイントは入れない。ノータイムで可能な限りのスピードを出し、拳で胴体の中央を、
──くすくす。
殴りつけようとした瞬間、トガの
(あ、これ……)
雄英一年生の頃を思い出して「まずい」と思うも間に合わない。
永遠が用いていたよりもずっと洗練された「気配を殺す」絶技が、『平和の象徴の後継』に決定的な隙を作り、ずっと右手に握られていたナイフが閃く。
「危ない、緑谷!」
「え」
声。
とん、と、横合いに突き飛ばされた出久は、自分の代わりに尾白がナイフを受けるのを見た。
「尾白君!」
「大丈夫だ!」
答えながら、尾白は『尻尾』を大きく振る。
身体全体をもねじって振るわれた尻尾は
「
「っ!?」
とっておきの必殺技に、さすがのトガも驚愕した。
ナイフを手放し、両手両足を全て使って体操技の要領で飛びのく彼女。ギリギリ、本当にギリギリで空を切った尾は床とエレベーターを強かに打ち、破片を飛び散らせる。
「尾白猿夫。多少のサイズ変更が可能なのは知っていましたが、この技は──」
「知らないだろうな! 戦いで使うのは初めてなんだから!」
奥義とは、秘めてこそ価値がある。
そんな言葉を出久が思い出しているうちに、
「俺はA組の中でも下の方だ。何度も言われたさ。『八百万姉妹を輩出した黄金の世代のみそっかす』ってな」
一年生の体育祭で見事な気高さを見せ、出久の本選出場を間接的に助けてくれた男が、
「だが、この六年、腐っていたつもりはない!」
「かわしきれるならかわしてみろ、奥義・
「───!」
飛び散る瓦礫。
覆い隠された視界の向こうで、トガヒミコが悲鳴を上げたような気がした。
悪堕ちルートを投稿するとしたら?
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要らない