僕のヒーローアカデミア
僕の
僕の
僕の
はーい、二人組作ってー!
この言葉に聞き覚えが無い者がいようか。
これは学生時代に不意に襲いかかる、いとも容易く行われる、ボッチを殺す呼びかけ!
あいつと組もう。
そう思った数少ない知り合いが、すでに他人と組んでいたりする落とし穴もあるぞ!
余ったの? じゃあ先生と組もうか。
真にボッチになってしまうと、この言葉まで付いてきて、何とも言いがたい感情だって襲ってくるぞ。
これはコミュ力というのは大事だと、そういう事を教えているのかもしれない。
確かに、人生で大事なことだ。
それは、この
「今日の授業は、2対2のコンビバトルをしてもらおうか」
ヒーローたるもの、ある程度の戦闘力は必要だろう。
そんな真っ当なご意見の元、必須科目となっている"戦闘"の授業にて。
講師の相澤先生から、開幕早々の不意打ちが炸裂した。つまりは。
はーい、二人組作ってー!
冒頭の、コレである。
大人になると、知り合いとか友人を増やすのは、子供の頃よりも難しいのだ。
むしろ、子供の頃はなぜあんなに簡単に友達になれていたんだろうと思い出せなくなっているまである。
まあ、中には。あいつと目を合わせるな! 友達にされるぞ! というコミュの化身も世の中にはいるが。
そういうのは例外だ。
「いいかな? あなた尾白さんだっけ? いい動きしてたよねー。組んでもらってもいい?」
「ああ、いいよ。よろしく。むしろ、知り合いがいないんで助かったよ」
「よろしくー、私は切島 三奈。あっちの赤いのがウチの旦那ね」
こういう奴だ。
今までの授業で、こういう時に使える人材に目を付けておいたらしい。
そして物怖じせずに、話しかけて友好的な関係を構築。それを積み重ねて山脈のごときコネを築き上げる、コミュ強者。
しかも彼女にあるのは、それだけではない。
「旦那さんがいるなら、そっちと組まないの?」
そう尾白に聞かれた三奈さんは、苦笑しながら少し離れた場所を指差した。
「切島ぁぁ! 組めやぁ!!」
「オッス! 社長!」
向こうで、二つ返事で上司の要求に応えている切島・夫がそこにいた。
どうやら、そうなるだろうと予想していたらしい。
だから旦那の邪魔にならないようにと、切島(夫)には声をかけるのを遠慮して、自分で組む相手を他に探す事にしたというわけだ。
つまり、彼女は気遣いができるいいオンナだった。
「でも社長。緑谷はいいんですか? 組まなくて。ほら、力を見せ付けてやるって」サンザン イキッテ
「バカヤロウ。あいつには敵としてか、観客として見せ付けてやんだよ」ダレガ イキリ ジャ
なお気遣われた旦那は、上司の空気を読めていなかった。
彼の上司は、緑谷さんには単純なものが複数組み合わさったり、すれ違ったりの複雑な思いを持っていて、下手に他人に触られるだけでもイラッと来るのだ。
適度に距離をとって、かっちゃんスゴイと褒め称えるモブでいろと思うが、それだけだとデクの存在自体がどうでも良くなってしまう。
そうすると、かつて手を差し伸べられた時に覚えた怒りが、そんな奴相手にと間違いだったようにも思えるし、屈辱に感じてより怒りが湧いてくるようにも思える。
それに大人になって再会してから、一応は世話になったり貸しを返したり、なぜか一緒に親に謝ってもらったりと色々とありすぎて。
爆豪 勝己にとって、緑谷 出久という幼馴染は。
本当に、触れられるだけでつい過剰に反応してしまう、心のデリケートな部分なのだ。
なお、その緑谷さんは普通に嫁(現在)の梅雨と組んだ。
嫁(元)の麗日が組みたそうにチラ見していたが、彼は素で気付かずに見事なスルーを決めてのマッチングである。
何の反応も得られず、麗日の落とした肩に、八百万の手がポンと優しく置かれた。
そして耳郎 響香、電気の夫婦も夫婦で組み、口田、常闇の中二コンビも成立し、今まで出番の無かった飯田、障子も余りもの同士で組んだところで…
「あれ? あと一人いるはずだけど」
きょろきょろとグラウンドを見回す、やはり出番が無かった瀬呂。
結婚して御堂筋と名字が変わった事にしようか、と少し考えたのは内緒だ。キモッキモッ
もしかして、透明な個性とか、そういうの?
彼がそう考えて、相澤先生に確認を取ろうとした時だ。その肩が後ろから手でガッシリと力強くつかまれた。
「ハァ… すまない。ついクセで、気配を消していた」
やせ細って、だが妖気とも言うべき何か黒いオーラと生命力を感じる身体つきで。
顔は鼻がそぎ落とされ、皮膚も上半分はむしったようなひどい傷跡で。
手には肉厚のナイフを持った、不審人物がそこにいた。
「うっ、うおぉぉおおお!?」
シャシャシャ!
思わず悲鳴をあげながらも、瀬呂は個性:テープをヒジから飛ばして、不審人物を拘束しようとした。
警告無しというのは減点だが、ヒーロー志望としてはよくやった方だろう。
しかし、彼には全く通じなかった。
手に持っていたナイフで、高速で飛ばされ、巻き付こうとしていたテープをことごとく、しかも自分には付かないように切り落として見せたのだ。
それに警戒を強め、戦闘体勢をとる生徒たちに不審人物が告げる。
「ハァ… 俺は… 怪しい者では、ない」
「「「「「ウソつけぇぇぇ!!!」」」」」ゲフッゲフッゴハァ
その場の生徒の全員から、ツッコミが入った。
関西系の生徒にいたっては、裏手でのキレのいいヤツが入っていた。
だが体が付いてこなかったのか、数名はツッコミのあとに咳き込んだ。歳には勝てないね。
「いや、マジだぞ」
「「「「「ええぇぇぇぇ!」」」」」
しかし全員がツッコミを入れたたわ言に、相澤先生がフォローを入れた。
再び心が一つになって、驚く一同。
なお驚きで、咳き込んでいたのが止まった模様。良かったね。
「紹介しよう。彼は赤黒 血染(76) 十年ぶりに復学した、大先輩だ」
「まぁ、よろしくな。ハァ… 」
赤黒 血染。原作では、ステインと名乗って、ヒーローを自己判断で次々と粛清していったヴィラン!
その強烈なキャラクターとインパクトは、作中で多数のフォロワーを生み出し、それがヴィラン連合へ流れる結果を生み出していた。
彼はヒーロー養成校に入学するも、そこで理想と現実のギャップに耐えられず自主退学。
街頭演説などでヒーロー制度の改革、原点回帰を訴えるも誰の心にも通じず、やがて自らの手で粛清へと走ったわけだが。
わけだが。
この世界では、個性は六十歳からで。彼が活動を始めたのも、そのあたりからで。
六十歳超えてそれだけの情熱は、さすがに彼にも無かったわけで。
しかもヒーローもヴィランも、老人オンリー。原作とは方向性が違っていたわけで。
結果。
彼のこじらせは、闇に裁いて仕置きする、という仕事人な方向へと変わってしまっていた。
法が裁けないなら、俺が裁く。
六十五歳あたりから、独自にそう突っ走って。
そして彼は、巨悪とも言うべき存在へと、行き当たってしまった。
オール・フォー・ワン。
彼は、その一派と闇の中で戦い続けて――――
――――その巨悪がボケ老人と化して、
「ハァ…… 」
そして何だか気が抜けてしまった彼は、自分の原点回帰を試みた。
最初から。ヒーローアカデミアに入る所から、やり直してみようと思ったのだ。
何もかも無くなってしまったなら、何も無かった頃に戻って、そこからもう一度やり直せばいい。そう、思ったのだ。
七十六歳で。寿命まではあと何年だろう。
だが、そういうわけで。
キミの今日のパートナーは、赤黒さんだ。さあ、瀬呂くん。
ドンマイ。