うちのろどす・あいらんど   作:黒井鹿 一

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 交流を重ね、親睦を深める。
 どのような関係も零から始まり、この過程を経ていくものだ。

 ゆっくりと、だが着実に。
 互いの距離が縮まって行く様を見て、彼らは何を思うのだろうか?


第15話―こうりゅうのおはなし

 人との交流を深めるために、対話は欠かせない。

 それはいつの世も同じだ。

 

 相手が何を好み、何を嫌うのか。

 相手が何を得手とし、何を不得手とするのか。

 そういったものを知るには、やはり対話が最も適している。

 

「……貴様、もう1度言ってみろ」

「我らの前でそのような寝言をほざけるのならば、の話だがな」

「おぅおぅ、何回でも言ってやらぁ」

 

 しかし、それは平和なものとは限らない。

 

 時にぶつかる事もある。

 時には離れる事もあるだろう。

 

 だが、対話を止めれば、そこにあるのは停滞だけだ。

 

 たとえ互いの意見が変わらずとも。

 たとえそこから一時は争いに発展するとしても。

 人は対話を続けなければならない。

 

「いいか? 人というのは個人で完成するんじゃない。他者との繋がりによって出来ているんだ。つまり、オペレーター同士の絡みがあってこその萌えなんだよ!」

「そんなことは分かっている。その中心点の話をしているのだ」

「……中心に立つべきはホシグマ」

「いいやイフリータだ!」

「サリアだっつってんだろいてこますぞレユニオン!」

 

 ……まあ、性癖談義などはぶつかりつつ親睦を深める対話の筆頭ではないだろうか。

 

        ***

 

 またしても夜更けに基地を抜け出したDr.黒井鹿。向かう先は当然、件の偵察部隊の野営地だ。

 

「おーい、来たぞー」

「お、ドクターか。よく来たな」

「ちょうど今から飯の準備するところだ。お前も手伝ってくんね?」

「任せておけ。厨房での罰仕事で鍛えられた俺の調理技術を見せてやる」

「お、おう。お前ロドスで何やってんだ……?」

 

 週に1回ほどのペースでここを訪れているDr.黒井鹿は、すっかりこの部隊に馴染んでいた。仮面やコートのおかげで風体が似ていることも要因の一つかもしれない。

 

「今日の食材は何だ?」

「オリジムシ」

「おお、β種か」

「ああ、今日は活きの良いのが入っててな。上手いぞ」

「せっかくの歯ごたえを活かすには……串焼きなんかどうだ?」

「お、いいな。そうするか」

 

 手早く調理の準備を進めるレユニオンのメンバー。それを見て、Dr.黒井鹿は改めて自分のオリジムシ食用化計画は間違っていなかった、としみじみ思った。勘違いだから考え直せ。

 

「む、待て。今、何をした?」

「何って……オリジムシを捌いてただけだが?」

「内臓はどうした?」

「さすがに食わねえよ。源石結晶が付いてるとこ多いし――」

「この大馬鹿者がぁ!」

 

 Dr.黒井鹿の叫びが響き渡る。下手をすれば野営地がバレかねないほどの大音量だった。

 

「いいか貴様ら、何度でも言うからよーく聞け!」

「そこは普通1度しか言わないところでは?」

「たしかに内臓の源石結晶を取るのは大変だ。体表の甲殻と違い、1つ1つ手作業で取り除く必要がある。これにはものすごく手間がかかる」

「あ、ああ。だから内臓は食べずに――」

「だがしかし! しかしだ、諸君! 手間がかかるからと言って、ただそれだけの理由で捨てて構わないと思っているのか? 生きていくためには他者の命を奪わねばならない時がある。だが、それならばその命を余すことなく使うのが礼儀ではないのか!?」

 

 それは、仮にも医者であるDr.黒井鹿の美学なのかもしれない。命を救う事の困難さと、命を奪う事の容易さを知っている彼だからこそ、食物となる動物の命に対する考え方も違うのだろう。

 

「それとな、オリジムシのモツ煮は美味いんだよ!」

「「「その話詳しく」」」

 

 ……食い意地から出た発言ではないと思いたい。

 

 Dr.黒井鹿の指示のもと調理が行われていると、進行役とサルカズ大剣士が戻って来た。周辺の哨戒に行っていたらしい。

 

「来ていたのか、ドクター」

「ああ、邪魔してるぞ。もうすぐ出来るから手洗って来い」

「……貴様は我の母親か」

 

 哨戒部隊が戻ってくる頃にはオリジムシの串焼きとパンが配られており、すぐ夕飯となった。

 Dr.黒井鹿が持ってきた写真を肴に各所で話が盛り上がる中、当の本人は今回も進行役とサルカズ大剣士を相手に火花を散らしていた。

 

「ホシグマは影の立役者というか盾役者タイプで、イフリータは中心に立ってるんじゃなくて台風の目なんだよ。そんな状況で、各所に気を配って全体をまとめてるのがサリアなわけだ」

「……異議あり。たしかにホシグマは前に出る性格ではない。だが、影は言い過ぎだ。彼女は仲間の前に立つのではなく、その横に立つ者。決して後ろに立っているわけではない」

「主張は違うが、俺も異議ありだ。過去に何があったのか知らんが、サリアは未だイフリータと接することを恐れているのだろう? その彼女が真にロドスの中心に居ると言えるのか?」

 

 この3人は会うたびに議論を繰り返しており、ひたすら平行線に終わっている。当事者は楽しんでいるようなのだが、傍から見ると恐ろしい事この上ない。

 なにせ戦闘能力最大のサルカズ大剣士、実質この斥候部隊の隊長である進行役、そして目下の敵組織の首領であるDr.黒井鹿が激論を交わしているのだ。話している内容がどうあれ、その絵面だけで破壊力があるのだ。

 

「てめえらサリアの尻尾触ったことねーからそんなこと言えんだよ!」

「触れるわけがないだろうが! いつもいつも接近する前に撃ちまくりよって! イフリータ・エイヤフィヤトラ・スカイフレアの3人コンボとか殺す気か! イフリータだけにしろ!」

「……ホシグマの般若、最近の威力ではこちらも長くは保たん。もう少し遠距離オペレーターを減らしてくれないか。そもそも触れられる距離になる前に死にかねん」

「む、たしかにそうか。よし、じゃあしばらくエイヤフィヤトラは基地業務に専念してもらうとして……アーミヤを連れてくるか」

「「あのウサギは怖いから止めてくれ」」

 

 アーミヤの恐ろしさはレユニオンにも知れ渡っているらしい。まあ、謎のスキルを2つも持ち、強力な攻撃を仕掛けてくる術師だ。恐ろしくないわけがない。

 

「……あのウサギ娘、サリアが前衛にいる時のみ攻撃が苛烈になるのだ。サリアに近寄れば近寄るほど、加速度的に火力が上がって行く」

「ああ、あれは脅威だ。何かの怨恨でも乗っているような火力をしているんだ。ドクター、あれはいったい何なんだ? 『硬質化』のスキルとも違うようだが」

「すまん、俺にも分からん」

 

 ……どうも術師としての恐ろしさではなかったらしい。

 まあ、武器よりもオペレーターの耳や尻尾を眺めていた部隊だ。アーミヤの異常にも一早く気付いたのだろう。

 

「それじゃ、次の編成はこんなとこで行ってみるか。たしか落とし穴がある場所なんだよな?」

「ああ、鉱山近くの村を襲う予定で、その近くには崖が何か所もある。そのうちのこことここに横穴を用意しておくから、出来る限りそこに落としてくれ」

「……真面目に撃ち合うと、手違いで死人が出かねないからな。なるべく誤魔化しやすい方法で処理してくれ」

「ああ、ならロープとクリフハートを両方とも連れて行こう。だが、あの2人はまだあまり育てられていない。ヒーラーは多めに置いておくが、くれぐれも撃ち過ぎるなよ」

「ヒーラーは誰を連れて行く?」

「ハイビスカスとフィリオプシスだ」

「……ならば問題あるまい。2人がかりの回復を越えるほどの火力を、そもそもこの部隊は備えていない」

「よし、じゃあこれで行こう。ヒーラーと引き落としに人員を割いているから、あとは軽めになるはずだ」

 

 その後も細々とした調整を進め、再度萌え議論に華を咲かせていると、あっという間に時間が過ぎていた。

 

「じゃあな~。また写真頼むぞ~」

「またシージの可愛い写真持ってきてくれたら、俺のタルラ様秘蔵写真と交換するぞ!」

「な、なあ、今度来る時はシルバーアッシュの兄貴のセミヌードとか……」

「……お前も好きだな」

 

 そんな声に見送られ、夜が明ける前にDr.黒井鹿は野営地を出る。互いにまだまだ語り足りないところだったが、これでもギリギリなのだ。

 

「ドクター、達者でな」

「……また来い」

「ああ、お前たちも無事でな」

「なに。ロドスが加減してくれれば大丈夫さ」

「……龍門の近衛兵程度ならば、負けはしない」

 

 進行役とサルカズ大剣士、2人と拳を突き合わせてから、Dr.黒井鹿はバイクに跨った。隠密作戦用のそのバイクは、音も無く発進し、その後、ロドスの基地へ音も無く帰還を果たしたのだった。

 

        ***

 

「だいたい週に1回のペースだな」

「そうですね。作戦内容を漏らすのはどうかと思いますけど、関係は良いみたいですね」

「……まったく。これほどの頻度で抜け出していては、私達以外にも気付く者が出てくるぞ」

「そうならないように、私たちで誤魔化してるんじゃありませんか」

「……アーミヤ、これでいいのか?」

「いいんですよ。もともと私はレユニオンと戦いたいわけじゃありません。全ての感染者を救うため、仕方なく戦っていただけです」

「……そうだな。ロドスの目的は感染者の救済であって、敵対組織の殲滅ではない。争わずに済むのなら、それが一番か」

「……ところでサリアさん」

「なんだ?」

「……なんで向こうでまで私、そんな怖いキャラ認定されてるんですかね……?」

「さ、さあな。強いて言うならそうやって時たま黒いオーラを出すからじゃ――」

「ほほう、詳しく聞かせてもらえますか、サリアさん? そうすれば、私もなんで黒いオーラを出してるのかお教えしますよ」

「い、いや、そういうわけじゃない! あ、アーミヤ。オーラではなく黒いアーツが出ているぞ!?」

「問答無用!」

「いや待て意味が分からな――ああああぁ!?」

 

 

 そんなこんなで、ロドスは今日も案外平和である。

 




 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
 少し遅刻しまして、すみません。別に周回に勤しみ過ぎて遅れたわけじゃありませんよ? ホントですよ?

 それでは、明日もお楽しみに! ちなみに3話連続でオリジムシが登場するかどうかは未定です。
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