金がなくては強くなれないが、強くなければ金が手に入らない。
Dr.黒井鹿はこのジレンマをどう乗り越えるのか!?
「ドクター、いい加減にしてもらおうか」
Dr.黒井鹿が一人寂しく昼食を食べていると、正面に座ったサリアが開口一番厳しい言葉を投げてきた。
「いい加減に、とは何のことだ?」
「とぼけるな。今、私たちの目の前にある問題についてだ」
ちら、と二人が視線を下げれば、そこには今から腹に収めるべき昼食が。
「これに何か問題があるか?」
「大ありだ。いいか、ドクター。これまで何度言ったか分からないし、これから何度言うかも分からないが、私は何度でも言わせてもらう」
一拍置き、サリアは腹の底から叫んだ。
「いい加減もやし以外の野菜も買え! あと肉を増やせ!」
***
しん、と静まり返った食堂で、Dr.黒井鹿はゆっくりと口を開いた。
「……言いたいことはそれだけか?」
「こんなもので済むと思うな。まだまだあるぞ。まず野菜だ。確かにもやしは優れた食材だが、それだけでは足りない。栄養価としても、満足度としてもだ。活動に必要なエネルギーを補給するだけなら錠剤で充分にも関わらず、私たちが食事にこだわる理由を考えたことはあるか? それは精神の安定だ。こんな極限環境下では肉体より先に精神が折れるケースが多い。その精神を回復させるための食事を、お前は何だと考えている。いいか? 健全な魂は健全な肉体に宿り、健全な肉体は健全な食事から作られる。つまりだな――――」
「いや、いい。お前の言いたいことは分かった」
堰を切ったように溢れ出すサリアの言葉を、Dr.黒井鹿の掌が遮った。不服そうな顔のサリアだが、ひとまずDr.黒井鹿の言葉を待つようだ。
「サリアの言っていることは正しい。俺もその通りに出来れば、と常に考えている」
「ならば――――」
「でもな、金が無いんだよ!」
今度はDr.黒井鹿の声が食堂に響いた。腹の底どころか心の底から噴き出したような声だった。
「ああ、俺だってもやし以外の野菜を食べたいさ! 肉の量だって増やしたいさ! 新鮮なニンジンとジャガイモとたっぷりの牛肉を煮込んだカレーとか、取れたてのタマネギとじっくり燻したベーコンを炒めたチャーハンとか、ちょっと身体に悪いが鶏のモツ煮と白米だけのご飯とか、そういうのが食べたいんだよ!」
「あ、あぁ。そうか……」
「でもな、金が無いんだよ!」
二度目の台詞は、もはや魂が飛び出そうなほどだった。マスクの上からでも滂沱の涙が見えそうだ。
「こんなご時世、そうそう仕事が転がっているわけじゃない。具体的に言えば週に4日間くらいしか仕事にありつけない!」
「ま、まあ、そうだな」
「その仕事をもらえる日に全力で仕事をした場合、1日で稼げる龍門弊は約45万7千5百! もちろん諸要素により変化するが、現状ではこれがほぼ限界量だと考えて間違いない! そこでだ、サリア。お前の昇進1回にいくらかかるか分かっているか?」
「そ、そうだな。まず作戦記録閲覧用の機材使用費として2万7千弱、その後の昇進費用として3万ほどか?」
「ああ、それが1回目の昇進にかかる費用だ。2回目の昇進には更に大量の龍門弊が必要となる。昇進以外に求人や資材の合成にも金が必要だ。……サリア、お前が何度も食事の改善を訴えてきたように、俺も何度でも訴えよう」
「うちには! 金が! 無い!!!!」
ない、ない、ない……と、Dr.黒井鹿の悲痛な叫びが木霊する。その声は基地の最下層でトレーニングに励んでいたスカイフレアにまで聞こえたとかなんとか。
「食事の重要性は俺も理解している。だが、これは如何ともしがたい問題なんだ……。ひとまず前線に立つメンバーが育つまで、俺たちはもやしを食べ続けるしかないんだ」
「ドクター……」
「ああ、でも前線メンバーが育ったら、次は特殊メンバーも育てたいな。皆それぞれに得意分野があるのだから、それぞれの持ち味を活かせるようにしたい。そうなると控えのオペレーターたちも――――」
「……ドクター?」
「だがまあ、いい加減オリジムシも食べ飽きたしな。他の食材を探すべきか」
「待てドクター! さすがにそれは聞き捨てならない!」
Dr.黒井鹿の呟きを受け、食堂のあちこちで咳き込むような音が聞こえてきた。全員が食事の手を止め、じっと耳を澄ませている。
「ドクター……冗談、だよな?」
「冗談? 何のことだ」
Dr.黒井鹿の声はあまりに平然としていた。それが余計に恐ろしく、食堂に戦慄が走った。
「オリジムシは様々な任務に現れる。奴らは鉱石病に感染しているが、患部を取り除けば食べられる。それに意外と可食部が多いんだ。なら食べない手は無いだろう?」
「なるほど、一理ある」
いやねーよ。その時、Dr.黒井鹿とサリアを除く全員の心が一致した。
「サリア、気付いていたか? オリジムシは種類によって味や食感が違うんだ。通常種はクセが無くてあっさりと食べやすく、α種は耐久力を増すためなのか脂が乗っていて旨い。β種は歯ごたえが抜群で、噛めば噛むほど味が出る。オペレーターの皆と同じように、それぞれに特色があるんだ」
「だが、種が違えど結局は同じオリジムシ。そう大きな差ではあるまい。……そうだ。バクダンムシやハガネガニも食べられるのではないか? あれらも食材にできるのならば、食事の幅が大きく広がるはずだ」
「おお、なるほど! その発想は無かった。さすがサリアだな」
オペレーター一同は思った。このままではマズイ。この二人を放置していたら、自分たちの食事は感染生物一色になってしまう、と。
「ドクター、さっきからの話を聞く限りとてもそうは思えないが、そろそろ理性が回復しただろ? さっさと護送任務に行こう」
「ああ、ラヴァ。もうそんな時間か。それじゃサリアも――――」
「いや、今回はサリア抜きで行こう。まだ飯を食べてる最中みたいだし、中断させちゃ悪いだろ」
「……まあ、これまでサリアに頼りきりだったしな。他のオペレーターたちの成長を見るためにも、いい機会か」
「ああ、行ってこい、ドクター。話の続きは帰ってきてからだ」
その後、任務に向かう車両の中で、こんな会話が交わされたそうだ。
「ヴィグナ、オリジムシが湧くところは、いつもお前の担当だったよな?」
「そうですけど……ラヴァさん? そんな険しい顔をして、どうしたんですか?」
「重要なことだからよく聞け。いいか? オリジムシはメッタ刺しにしろ。殻と肉の区別がつかなくなるまで刺しまくるんだ」
「え、えーと、なんで急にそんなことを?」
「詳しく話している時間はない。ただ、これだけは言っておく」
「なんですか?」
「もしも一匹でもミンチにし損ねたら、お前は今日食堂にいた全オペレーターの恨みを買うだろう」
「ちょっ、どういうことですか!? 詳しく教えてくださいよ! ねぇ、ラヴァさん!!」
*
後日、ロドスはペンギン急便から定期的に食肉を仕入れることを決定。龍門の農家と契約することにより、野菜の品揃えも充実しつつある。
日替わりで様々なオペレーターたちがそれぞれの得意料理を振る舞う食堂は、ロドスの安定のために欠かせない施設となっていた。
時たまハイビスカスが厨房に乗り込もうとする姿が目撃されているが、未だ
そんなこんなで、ロドスは今日も案外平和である。
余談だが、オリジムシの食肉加工を行っていたDr.黒井鹿とケルシーはアーミヤによる大説教を受け、罰としてしばらくの間、給仕係をやらされたのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうござます。
今日も今日とて40万龍門弊ほど稼いだはずなのに、なぜか手持ちが15万ほどしかありません。何故でしょうか(Answer.レベル上げ)。
ではでは、次回も気が向いて読みに来てもらえると嬉しいです。