うちのろどす・あいらんど   作:黒井鹿 一

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 角と尻尾ある者、それ即ちDr.黒井鹿の餌食なり――。


第18話―りゅうのおはなし

 古来より伝わる約定がある。

 角と尾を兼ね備えたる者よ、汝ロドスへ至るべし。

 さすればその力、十全以上に発揮されよう――。

 そんな益体も無い言い伝えだ。

 

「よく来てくれました、新たな同胞……」

「わたしたちはあなたを歓迎します」

 

 その伝承に従ったのかは定かでないが、ロドスには続々とオペレーターが到着していた。

 その中でも角と尾を持つ者は特別視されている。

 彼女らの戦闘能力は一様に高く、戦場には常に姿を現していた。

 種族は違えども同じ特徴を持つ者同士、彼女らは非常に密な信頼関係を築いていたのだ。

 

 そして今日、そこに新たに加わる者がいた。

 

「それでは新たな犠牲――ではなく仲間の着任を祝って! 乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」

「待つんだ。今聞き捨てならない単語が聞こえたと思うのだが?」

 

 角と尾を兼ね備える龍種のオペレーター、チェンである。

 

***

 

 事の起こりは数時間前のことである。

 

「龍門近衛局、特別督察隊隊長のチェンだ。訳あってしばらくここに……ドクター、何を震えている? 体調が悪いのか?」

「い、いや、そうじゃない。気にするな」

「? そうか。まあ、これからよろしく頼む」

 

 チェンを自分の部隊に迎えられる。そんな話を聞いて、Dr.黒井鹿は即座に呼べるだけの特殊オペレーター:ユキチを招集した。なんとか取り押さえようとするアーミヤとサリアの手を逃れ、Dr.黒井鹿の元まで辿り着いた彼らの数は、五。翌月分を先取りする暴挙を犯して尚、この数が限界だったのだ。

 そんなDr.黒井鹿の決死の想いに応えたのか、チェンはユキチの力を借りることなく入職してくれた。役目を与えられなかったというのに、彼らは穏やかな笑みを浮かべて消えて行った。きっと次のガチャの時にでもまた湧いてくるだろう。

 

 そうして来てくれたチェンに熱い歓迎をカマしそうになったDr.黒井鹿を咄嗟にサリアが『硬質化』で止め、なんとか無事に入職式を終えることが出来た。

 

 そして、今。

 

「チェン、このロドスに正式に所属するにあたって、お前に言っておかなければならない事がある。お前自身の身を護るための、最重要事項だ」

「お前は……サリアだったか。防衛の要であるお前の言うことだ。心して聞こう」

 

 チェンはサリアの自室にいた。

 そこにはバニラ、リスカム、エステルといういつもの面子(ヴイーヴル+α)が集まっている。

 ジュースとお茶のボトル、それといくらかのお菓子を机に広げ、さながら女子会だ。

 

 その空気の中でも、サリアの表情は硬い。

 

「チェン、まず聞きたい。ロドスにおいて最も警戒すべき敵は何だと思う?」

「認めたくは無いが、レユニオンだ。個々人の力量はこちらに劣るが、奴らは数が多い。それに、こちらの意表を突く作戦に優れている。脅威ではないが、厄介な敵だ」

「的確な分析だが、間違いだ。レユニオンは三番目に警戒すべき敵だ」

「ならば、一番目は何なんだ?」

 

 サリアの顔には心配と諦念があった。そして、それは両方ともチェンに向いている。まるで彼女がこれから巻き込まれる事件を知っているのに、それを防げないことを嘆いているようだ。

 チェンは覚悟を固めた。サリアの口からどんな言葉が飛び出してきても驚かないように。たとえオペレーターの内にレユニオンのスパイが紛れ込んでいる、などと言われても平静を崩さないようにすると。

 そのチェンにとってすら、

 

「一番はドクターだ。Dr.黒井鹿こそ、このロドス最大にして最強の敵なんだ」

「…………………………は?」

 

 その言葉は予想できなかった物だった。

 

「ま、待ってくれ。それはどういう――」

「チェンさん、そんなに構えなくても大丈夫ですよ。それ、サリアさんの惚気ですから」

「わたしもバニラと同意見です。本人は至って真面目なのですが、完全にバカップルのソレですからね」

「あ、あの……お菓子、どうぞ……」

 

 まあ当然の如く、真剣な表情を浮かべているのはサリアだけなのだが。

 バニラは早くもジュースを一本明け、リスカムはナッツを一粒ずつポリポリと食べ続けている。エステルはと言えば皆のグラスが空けばお茶を注ぎ、お菓子が無くなれば新しいのを出し、と忙しく動いていた。

 

「だ、だがサリアはロドスの最大戦力であり、ドクターの秘書も兼ねているんだろう? ならばその言葉には一定の信用性が――」

「そうだ! 私は何一つ間違った事もふざけた事も言っていない! ドクターは角を、耳を、尻尾を、様々な部分を触ったり揉んだり撫でたり掴んだり挟んだり舐めたりしたいと常日頃から考え続けている変態なんだぞ!? それを知らせるのに早過ぎるなどという事は無い。被害に遭ってからでは遅いんだ!」

「……無いと思っていいか?」

「チェン!?」

 

 サリアの熱い語りを冷めた目で見つつ、チェンはお茶を啜った。エステルに差し出されたお菓子をつまむ彼女の横では、サリアが大演説をぶち上げていた。

 

「いいか、チェン。今はお前がこのロドスで真っ当な生活を営めるかどうかの瀬戸際なんだ。あのドクターの異常性を知らずにいれば、いつの日かお前は必ず奴に襲われる。それも『むこうが誘ってきたんだ』などという言い訳付きで、だ。それは性犯罪者特有の言い訳だぞ、ドクター! 冷静に考えてみればドーベルマン教官が誘惑などという真似をするはずが無いだろうが!」

「え、ドーベルマン教官がドクターを誘惑!? サリアさん、ちょっとそれ詳しく! 詳しく教えてください! 訓練生の間で共有します」

「話してもいいが……ただ訓練をしただけだったようだぞ?」

「大丈夫です! 脚色と捏造が得意な友達がいるので!」

「何がどう大丈夫なんだ!?」

 

 途中でバニラに割って入られ、リスカムに茶々を入れられ、エステルに差し出されたジュースを飲みながら、サリアの演説は続いた。

 

 そして一時間後。

 

「――というわけで、ドクターは特に角と尻尾を併せ持つ容姿を好むことが分かっている。チェン、お前はその要素を持っているだろう? つまり、ドクターの次の標的になる可能性が高いんだ」

「そう言われてもな……。今のところドクターの奇行はサリアの口からしか聞いていない。あいつは本当にそんなことをするのか?」

「気になるのなら、そこの3人に聞いてみるといい。全てが分かるはずだ」

 

 チェンの視線を向けられ、3人はまったく違った反応を示した。

 バニラはその軟体系の尻尾を掻き抱き、

 リスカムは何でもない風を装いながらも角を気にしている。

 極めつけのエステルはと言えば……丸くなって頭を抱えていた。尻尾がブンブンと振られていて、辺りのクッションを薙ぎ払っている。

 

「ま、まさか……3人とも……?」

「新しく来たお前とスワイヤー、ビーハンター、グレイ、ポプカル以外の女性オペレーターは、皆その毒牙にかかった事がある。この間、ドクターの欲望が暴走したことがあってな……」

「いや、私としてはそれ以前の行為ではまだ暴走していなかった点に恐怖するしかないんだが……」

 

 ここに至って事態の深刻さを把握したのか、チェンの顔色から退屈が消える。代わりに浮かぶのは兵士としての険しい表情だ。

 

「サリア、詳しく聞かせてくれ。ドクターの次の標的が私だとお前が考える、その根拠を」

「ああ、そうしよう。理由は大きく分けて2つ。角と尻尾を兼ね備えている点と、そのどちらもがこれまでのオペレーター達の物と違う点だ。前者はもう充分説明したな。後者に関してなのだが、まず角の話をしよう。お前の角はリスカムの角と『上を向いている』という共通点を持つが、それ以外の要素がかなり異なっている。リスカムの角がスッと伸びているのに対し、チェンの角は渦巻きか雷のように折れ曲がりながら伸びている。見た目には小さな違いかもしれないが、これは触ったり撫でたりした時には大きな違いだ。奴はきっとこの左の角の先端が返しのようになっている部分を狙ってくるだろうから、注意するといい。次に尻尾だ。見ての通り、私達の尻尾はある程度の太さ、厚みを備えている。どうもドクターはそこが良いらしい。ヴィグナほどに細くなると食指が動きづらくなるようだが、チェンのこれは適度な太さと弾力があり、何より先っぽに毛が生えているという特徴がある。ドクターはこれを嗅ぐ……いや、これで自分をくすぐってくれなどと言い出すかもしれない。そういう時は勢いに負けず、毅然と対応するように。更に他の要素として、ドクターは動きやすい服装――より具体的に言えば太ももやへそが出ている恰好を好むようだ。それもクロワッサンのように開けっ広げになっているものではなく、時おり見えるチラリズムとやらに萌えるらしい。チェン、お前のその見えそうで見えないへそはドクターの性癖を撃ち抜いていると自認しておくべきだ。いつ服の中に手を突っ込まれるか分かったものでは無いぞ。あとはだな――」

「待て待て待て待て! 長い! あまりに長い!!」

 

 怒涛の勢いで押し寄せる情報に、チェンは屈しかけていた。なにせ作戦を開始した瞬間に空挺兵がダース単位で降ってきたようなものだ。やるなとは言わないが、せめて準備期間が欲しい所だ。

 深呼吸し、お菓子を食べ、お茶とジュースを飲み、もう一つ深呼吸し。落ち着いたところで、二人は話を再開した。

 

「……要約すると、こうなるわけか。ドクターが私に手を出してくる可能性がある、と」

「可能性がある、どころの話ではない。その可能性が非常に高い、だ」

「それほどなのか?」

「ああ。更に言うなら、手だけでなく舌を出してくる可能性も、非常に高い」

「それほどなのか!?」

 

 いつも仮面を着けているDr.黒井鹿がどうやって舌を出しているのか。それは各人の想像力に任せたい。ちなみにチェンの脳内のDr.黒井鹿は仮面の下からすら伸ばしうる極長の舌を備えていた。

 

「だが、所詮はドクターだ。実力はこちらが勝っているはずだ」

「いいや、それはドクターを甘く見過ぎだ。奴はそういった行動を取る時にのみ、人外じみた運動性能を発揮する。あれを目で追える者はそうはいない」

「くっ、ドクターのイメージが崩れていく……。奴はいったい何者なんだ?」

「私でも全貌は掴めていない。だが、大いなる脅威であることは確かだ」

「ふむ、それなら――」

 

 熱く議論を交わす2人を余所に、残り3人はと言えば――

 

「このスナック美味しいですね。どこのやつなんですか?」

「あの、ペンギン急便で売ってるやつで……まだ部屋にありますから、持ってきましょうか?」

「いいですね。では、わたしもお勧めのお菓子を持ってきましょう」

 

 ――のんびりまったり女子会をしていた。

 

 2組の会話は時に交わり、時に離れつつ、緩やかに続いていく。

 時たま笑い、時たま語り、時たま叫びつつ、チェンのロドス着任初夜は更けていった……。

 

***

 

 翌日の周回後、訓練室にて。

「チェン、精が出るな」

「あ、ああ、ドクターか。キミこそ巡回か?」

「そんなところだ。……どうした。顔が赤いぞ? 風邪でも引いたか?」

「い、いや、そういうわけでは無いんだが……。なあ、ドクター」

「なんだ? 悩みがあるなら相談に乗るぞ」

「…………わ、私のことをどう思っているんだ? 角だとか尻尾だとか服装だとか、些細なことで構わな……ドクター?」

「……チェン、せっかく俺が俺自身を抑えていたというのに、お前から言ってくるとは…………。昨日のサリアの話を聞いていなかったのか?」

「いや、そういうわけでは――待てドクター! なぜ私とサリアが話したことを知っている!?」

「そんなことは気にするな! さあ、ここは訓練室だ。今から俺が全力で攻撃を繰り出すだから、可能な限り避けてみろ! 物理回避の特訓だ!」

「私は攻撃が専門であって回避は――って本当に人外じみているな!? なぜ天井からも跳躍音が聞こえるんんん!? 角の先端をさわっ! しっぽの先はっ、いや根本ならいいというわけではないからな!? ちょっ、ふ、服はやめろーーーー!!!!」

 

 その日、チェンは思い知った。上には上がいることを。そして、サリアの言葉の重大さを。

 

 そんなこんなで、ロドスは今日も案外平和である。

 

 

「……ところで、サリア。ロドスにおける二番目の敵は誰なんだ?」

「アーミヤだ」

「本当にロドスで何が起こっているんだ!?」

 




 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
 ひっっっっさしぶりの投稿です。Dr.黒井鹿の狂気を忘れているんじゃないかと不安だったんですが、まったくそんな心配は要りませんでしたね。安心しました(いや待て安心していいんだろうか)。

 それでは、(もしかしたら)明日もお楽しみに! これからは更新頻度を元に戻していきたいと思ってますので!
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