うちのろどす・あいらんど   作:黒井鹿 一

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 たぶん初のシリアスです。

注意:ステージ5-10のネタバレがほんのり含まれているような気がしないでもありません。


第21話―せんじょうのおはなし

 龍門近衛局の本部ビル奪還作戦、その最終戦にて、Dr.黒井鹿は苦戦していた。

 

「ドクター、ヒーラー! ヒーラーこっちにちょうだい! もうもたない!」

「それよりもクラッシャーの対処が先だ! ドクター、術師の配置を!」

「こちら重装部隊。どちらでもいいが、早く決めてくれ。敵が来るぞ」

 

 傷を与えても徐々に回復する寄生系の兵士、こちらのオペレーターをスタンさせるクラッシャー、高い攻撃力と防御力を兼ね備える特戦術師。これらだけでも厄介だというのに、ここにメフィスト、ファウストの2名が加わり、的確な支援を行ってくるのだ。

 攻撃役の術師はファウストに撃ち抜かれ、足止め役の前衛・重装オペレーターはクラッシャーにスタンさせられ、残った面子ではメフィストによる回復量を超えられない。

 

「頼むサリア、耐えてくれ!」

「ドクター、さすがにこれはもう――ッ!」

 

 ビー、と。音が響く。

 かくてDr.黒井鹿は、またしても負けたのだった。……ただし、演習で。

 

        ***

 

「こいつらの強さ、本当にこの通りなのか? いかんせん強過ぎると思うんだが……」

「観測班が送って来たデータの通りに再現している。それに、相手を強めに見積もって悪いことはないだろう?」

 

 時はa.m.04:03、天気は晴れのち曇り、そして場所は……機内だ。

 端末の画面を睨みつつ、Dr.黒井鹿とサリアは頭を悩ませていた。

 チェンの救援に向かう途中で、目的地での戦闘演習を行っていたのだ。

 

「メフィストと寄生系の連中はどうにかなるが、問題はファウストとクラッシャーだな。特にファウスト、こいつの攻撃が痛すぎる」

「バリスタに加え、本人の火力も高い。そのうえこの地形では、ある程度寄って来るまで手出しが出来ないな。どうする、ドクター?」

「……対策は2つか。

 1つ目、火力を上回るだけのヒーラーを用意する。

 2つ目、手出しできる距離に来たら即座に倒す」

 

 1つ目は先ほど試していた方法だ。だが、この方法では圧倒的にアタッカーが足りない。また、何だかんだと配置しても、ヒーラーがすぐに倒されてしまったのだ。

 

「だが、2つ目にしても、こいつが近付いて来るまでの回復は必要だぞ。私のアーツだけで耐えきれるほど、甘い敵ではなさそうだ」

「分かっている。そうだな……下の方のここにハイビスを配置すれば、どうにかなるんじゃないか?」

「それなら、もう少し上の方が良いんじゃないか? そうすれば上の通路も治療範囲に入る」

「いや、そこにはシラユキを置きたいんだ。彼女のスキルなら、相手のクラッシャーを事前にある程度削れるはずだ」

「では、上の通路はどうするつもりだ?」

「そこはサリア、お前に任せる」

 

 Dr.黒井鹿の言葉を受け、サリアが口の端を吊り上げ……かけて踏みとどまった。なんとか気難し気な表情を作り直し、話を続ける。

 

「私一人では攻撃の手が足りないぞ。そこはどうする?」

「中央の高台3つを、全てアタッカーに割り振る。その3人に両方の通路を攻撃してもらい、更に上の通路用にも1人、術師を配置する。……ただ、1つ問題がある」

「なんだ? 言ってみろ」

「……この配置では、上通路における攻撃は全てサリアが受けることになる。下通路はまだ分散するが、上の術師に攻撃を届かせるわけにはいかない。だから、その分もサリアに受けてもらわなければならないんだ……」

「なんだ、そんなことか」

「そんなことじゃない!」

 

 Dr.黒井鹿の声には苦悩が滲んでいた。

 サリアの防御力は高く、彼女のアーツは傷を癒す。だがそれは、傷を負っても問題ないということではない。

 倒れることはなくとも、傷を負えば痛みがあるし、武器を向けられれば恐怖を覚える。弾が飛んでくれば避けたくなるし、アーツを見れば身が竦む。

 

「サリア、お前にはいつも助けられている。日常生活はもちろん、戦場でもだ。お前がいなければ勝てなかった戦いもあった」

「急にどうしたんだ、ドクター?」

「前々から思っていたことを言っているだけだ。……でもな、サリア。俺はお前を戦場に立たせたくない。……お前に限らず、誰一人として戦場になぞ立たせたくないんだ」

「……それは、レユニオンも含めて、か?」

「レユニオンも龍門も、その他全部もひっくるめて、だ」

 

 戦場に、死地に、Dr.黒井鹿は仲間を送り込む。もう1度会えるのかと、生きて帰って来てくれるのかと不安に胸を焦がされて。それでも、彼は何も言わず、仲間を送り出す。

 

「傷つけず、傷つかず。それが俺の理想だ。黒井鹿一という個人の、願望だ」

「……それで?」

「だからな、サリア。俺はDr.黒井鹿として、こう言おう……」

 

「――任せたぞ」

 

「……ふっ、急に泣き言を言い出したかと思えば、勝手に立ち直ったな。作戦を変更するなんて言い出したら、喝を入れる口実になったというのに」

「それは勘弁してほしいな。こんな狭い機内では逃げようがない」

「抜かせ。普段、ロドスの狭い執務室で私から逃げ回っているのは、どこの誰だ」

「……ああ、ここの俺だったな」

「らしくないぞ、ドクター。お前は作戦後にどうやって私の尻尾を触るか、そんなことを考えている方が似合っている」

「はっはっは、否定できない辺り、俺の末期だな」

 

 Dr.黒井鹿の顔は仮面で隠れており、その表情は窺い知れない。だが、それでも分かる。彼は、とても穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「サリア、改めて……任せたぞ」

「任せておけ。お前の指揮の下なら、どんな敵も恐れることなどない」

 

 握った拳を突き合わせ、二人は立ち上がる。

 機内に、Dr.黒井鹿の号令が響いた。

 

「作戦メンバー各位、降下準備! 誰一人欠けること無く、俺たちの基地()に帰るぞ!」

 

        ***

 

 屋上は戦場と化していた。演習の通り、敵の攻撃は苛烈を極め、ロドスのオペレーターたちは必死に抵抗していた。

 そんな中、特に戦火の激しい一角があった。

 

 二本ある侵攻ルートの上段、サリア――とアーミヤが担当している場所だ。

 

「計ったな、ドクター!?」

『サリア、どうした? どんな敵も恐れないんだろう?』

「恐れているのは敵ではなく味方だ! アーミヤの攻撃が私の方にばかり来るんだぞ!?」

『そちらの通路用に術師を配置する、と言っただろう? エイヤフィヤトラは中央通路に配置したが、アーミヤはうちの術師2番手だ。火力は問題無いはずだ』

「いや火力の問題だ! なぜか敵が私に近付くごとにアーミヤの火力が上がっている。あれは何なんだ!?」

『すまん、俺にも分からない。ただ通信で「ドクターが私に相談してくれなかった……。私じゃなくてサリアさんにイロイロ言ってた……ドクター……サリアさん……サリアさんサリアさんサリアさんサリアさんサリアさんサリアさんサリアさんサリアさんサリアさんサリアさん」と聞こえてな。怖いのでアーミヤからの受信だけオフにした』

「分かり切っているだろうが! ドクター、アーミヤをなだめろ! 私の命が危ない!」

『そういえばサリア、言われた通りに尻尾の触り方を考えていたんだが、首に巻くというのはどうだ? 神経が集中しているから感触を楽しめるうえに、急所を相手に晒しているというスリルも楽しめる。我ながら名案だと思うんだが』

「迷案の間違いだろう!?」

『えーと、こちらエクシア。二人とも、これ全体の通信だってこと忘れてない? さっきから怖くてアーミヤがいる方向見れないんだけど』

「『あ……』」

 

 この戦いに身を置いていたレユニオンメンバーは後に語った。

 最も活躍していたのがハイビスカス、

 最も厄介だったのがエイヤフィヤトラ、

 最も恐ろしかったのがアーミヤ、

 そして最も不憫だったのがサリアだった、と。

 

 

 そんなこんなで、ロドスは今日も案外平和である。

 

 

 

 なお、尻尾首巻はDr.黒井鹿の理性が飛びやす過ぎるため禁止された。

 




 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
 2月いっぱいの予定が終わったため、新たにギャグ物を書き始めたらノリまくり、こちらを忘れ果ててました。申し訳ありません。
 もしかしたら、これからは毎日ではなく隔日になるかもしれません。……いやでもやっぱり毎日やりたいような。

 それでは、明日なのか明後日なのか分かりませんが、次回もお楽しみに!



 ……それにしても、シリアスだとまったく筆がノらないことが分かりました。これは素直にギャグを書けとそういう思し召しなんでしょーか?

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