うちのろどす・あいらんど   作:黒井鹿 一

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 新しいオペレーターを迎え入れる。それは心躍るイベントだ。
 どんなオペレーターが来てくれるのか、どんな戦術を組み立てられるのか。
 それを夢想する時間は何にも代えがたい。

 ただ一点、その後に待つ地獄を無視すれば、の話だが……。


第2話―おむかえのおはなし

 それは唐突に訪れた。

 何の前触れもなく、予兆もなく、襲来という他ない奇襲だった。

 

「ドクター、この状況は……」

「言うな、アーミヤ。分かっている」

 

 二つの人影を前に、Dr.黒井鹿の頭脳は限界を超えて稼働していた。

 抵抗は無意味、撤退にも効力は無い。

 何故なら、彼らは正面から戦ってどうにかなるような存在ではない。

 取るべき道は2つに1つ。だが、そのどちらが正解なのか、全く分からない。

 

 数々の困難を乗り越えたDr.黒井鹿をして混乱を極めさせるその存在とは――――

 

「小官は星熊と申します。これより重装オペレーターとして……む?」

「オレサマはイフリータ! ロドスは落ち着いて暮らせる場所って……あん? 誰だ、こいつ?」

 

 緊急育成対象(星6オペレーター)の2人同時増員である。

 

        ***

 

「作戦記録の在庫? なんでまた急に」

「これから大量に使いそうなんでな。確認に来たんだ」

 

 所は変わって資材倉庫。Dr.黒井鹿は倉庫番のスカベンジャーと話をしていた。

 

「それはいいが……わざわざ確認に来なくても、ドクターなら分かってるだろ? 昨日使ったばっかなんだし」

「……ああ、分かっている。だが、それでもほんの少し希望を抱くのが人というものなんだ」

「なに言ってるのかよく分からないが……あー、入門が27、初級が50、中級が26だな。上級は無しだ」

「そうだよな。そうだったよな……」

「ドクター、本当にどうしたんだ? 私の知らないところで、いったい何が――――」

 

 額に手を当てて深く溜め息を吐くDr.黒井鹿を前にして、スカベンジャーの表情に心配げなものが混じる。

 彼女の問いに答えようとDr.黒井鹿が口を開いた時、その答えが先に廊下を歩いて来た。

 

「だから言ってんだろ? 前衛はサリアがいんだから、オマエはいらねーんだよ。敵を全部燃やしちまえるオレサマの方がつえーんだよ」

「そちらこそ、認識を改めるべきかと。術師は既にスカイフレア殿とエイヤフィヤトラ殿、ラヴァ殿にアーミヤ殿と飽和状態。ならばその術師の方々を活かすために、前線で盾となれる小官が優先されるべきだ」

「あぁ!? オレサマがあんなザコ共より下だってのか?」

 

 ぎゃいぎゃいと言い合いつつ、基地の廊下を歩くオペレーター二名。

 片や、やや小柄な身体でずんずん歩く、火炎放射器を携えた少女。白を基調とした服の中で、所々に見える橙色が噴き出る炎を彷彿とさせる。

 片や、180cmを越える巨躯で窮屈そうに歩く、大盾の女。服も盾も黒い中で、その緑色の髪だけが鮮やかに色彩を放っている。

 

 イフリータとホシグマ。今日付けでロドスにやって来た彼女たちは、数多いるオペレーターの中でも特に優れた能力を有する。

 そんな優秀な人材が来てくれるのは喜ぶべきことだ。人数の多さは、そのまま取れる戦術の多さに直結する。刻一刻と変化する戦況に対応するためにも、様々なオペレーターがいるに越したことは無い。

 そう、越したことは無いはずなのだが……。

 

「くっ、なんでこういう時に限って作戦記録が無いんだ!」

「昨日ドクターが全てサリアさんに見せたからですよ! だから言ったじゃないですか。個人の戦力も大事ですが、全体としての戦力を考えるべきだ、って!」

 

 崩れ落ちるDr.黒井鹿にアーミヤが叫ぶ。ちなみに上級作戦記録3桁一気見を敢行した当のサリアは、目の前がチカチカするとのことで療養中である。さもありなん。

 

「アーミヤ、許してくれ……。俺だって、理性では分かっている。どれだけサリアが耐えてくれても、敵を倒せるオペレーターがいなければ意味が無い。そんなことは分かっているんだ」

「ではドクター————」

「でも、けれども、そうだとしても!」

 

 アーミヤの言葉を遮り、Dr.黒井鹿は力強く立ち上がった。

 

「俺はサリアを信じて突き進みたい!!」

「そういうことはある程度の戦力を整えてからにして下さい!!」

 

 アーミヤのツッコミがDr.黒井鹿の脳天に突き刺さり、立ち上がった勢いに倍する速度で廊下へと戻って行く。

 どうもこの兎少女、近ごろのDr.黒井鹿の奇行に感化されたのか、言動から遠慮というものが排除されている。

 地に伏したまま「1分で理性が10回復……」などと呟いているDr.黒井鹿を端に寄せ、アーミヤはなおも言い合いを続けているイフリータとホシグマに近付いて行った。

 

「あなたは感染者だ。それもかなり進行している。戦場に立つより、治療を優先した方が良いのではないか?」

「あぁん? こんなもんツバつけときゃへーきだよ!」

「あの、お二人とも!」

 

 アーミヤの声を受けて、二人はそれぞれの視線を向けた。イフリータは胡散臭げなそれを、ホシグマは上官に向けるそれを。

 

「お二人の意見は分かりました。ここからは私が現状を説明します」

 

 すぅ、と息を吸ったアーミヤは、全身を引き締めて叫んだ。

 

「次に育てるべきは私だと思うんです!」

「「「……は?」」」

 

 身構えていたイフリータとホシグマ、事の成り行きを見守っていたスカベンジャーも含めた三人の口から、間の抜けた音が漏れた。

 

「私は最初からドクターの元にいたんですよ? なのにまだ昇進1段階のLv40なんです。サリアさんなんてもう昇進2段階のLv60ですよ? 私よりずっと後から来たのに……あの泥棒ドラゴンンンン!!」

「あ、アーミヤ……? そんな大きな声を出してどうしたんだ……?」

「ドクターはしばらく眠っててください。とぅ!」

 

 意識を取り戻したDr.黒井鹿の首筋にアーミヤの手刀が突き刺さる。彼はまたしても理性回復の眠りに落ちた。

 

「他にもクロワッサンさんにヴィグナさん、ラヴァさんにフィリオプシスさん、ジェシカさん、メランサさん、ズィマーさん、サイレンスさんニアールさんアズリウスさんエイヤフィヤトラさんナイチンゲールさんハイビスカスさんスカイフレアさん…………あぁぁぁもう! なんでなんですか、ドクター!?」

「アーミヤ殿!? お待ちを。人の首はそれ以上曲がりません!」

「うぉ、すげーな。前後200度くらい動いてるぞ」

 

 半狂乱に陥ったアーミヤをホシグマが羽交い絞めにし、目を覚まさないDr.黒井鹿をイフリータがつつく。

 そんな光景を見ながら、スカベンジャーがぼそっと呟いた。

 

「育てるって話が出てるだけマシだよ」

 

 スカベンジャー。昇進0段階Lv45。ズィマーが採用されてからというもの、倉庫番が主な任務となっている。

 

        ***

 

 その後、目を覚ましたDr.黒井鹿はLS-5の限界周回を敢行。100以上の上級作戦記録を入手した。

 Dr.黒井鹿はその全てをアーミヤ……ではなくサリアに捧げ、アーミヤから怒りのソウルブーストを喰らったのであった。

 

 そんなこんなで、ロドスは今日も案外平和である。




 ここまで読んでくださり、ありがとうござます。
 どうしてレベル上げは終わらないのでしょうか? この世の不思議を噛みしめながら周回に励んでいる今日この頃です。

 いいペースで更新できているので、これからもキープして行きたいと思っています。
 それではまた明日(たぶん)も来て下さると嬉しいです。

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