うちのろどす・あいらんど   作:黒井鹿 一

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 こちらにこちらの事情があるように、
 敵にも敵の事情がある。

 彼らとて必死で生き、死に物狂いで戦っている。
 だというのに、それが見向きもされないのは、あまりに不憫だ。

 だから見せよう。
 彼らの闘争の1コマを……。


第6話—てきがたのおはなし

 戦闘で勝つために必要なものは何か。

 

 物理的な強さ? たしかに必要だろうが、それだけでは勝てない。

 冷静な判断力? これも必要だろうが、考えているだけでは勝てない。

 的確な行動力? 重要な能力だが、見当違いな行動では勝てない。

 

 

 強さは策略に絡め取られ、

 判断は情報に踊らされ、

 行動は戦況に誘導される。

 

「……集まったか」

「ああ、集まった。早速だが、始めよう」

 

 ならば、どうすれば勝つことが出来るのか。

 その答えはとうの昔に出ている。

 

〝己を知り、敵を知れば百戦危うからず〟

 

 この一言に尽きる。

 己の強さを知り、それを活かす術を知る。

 敵の弱みを知り、それを突く判断を下す。

 進退の期を知り、それを即座に行動に移す。

 

 どのような強敵と相対しても、それを打破しうる手立ては見つかるはずなのだ。

 

「それでは第6回『ロドスの連中どーやったら倒せんの?』会議を始める!」

 

 ただし、何事にも例外はある。

 

        ***

 

 レユニオンが拠点としている区画、その中でも奥まった路地に隠すかのように存在する場所で、その集会は開かれていた。

 

「ではまず一般近接部隊、報告を」

「はい。ご存知の通り、我々一般近接部隊は近接攻撃を得意とする兵士・双剣士・軽装兵・重装兵などの兵員により構成されています。個の力ではなく数の力による制圧を得意としているのですが……」

「だが、どうした?」

「……近頃はロドスの術師の活躍が目覚ましく、思うように戦果を挙げられていません」

「……一般近接部隊、隠さなくていい。取り繕わなくていい。お前の胸の内を聞かせてくれ」

「スカイフレアの隕石が怖いです! 先に魔法陣書いて『あ、これ逃げらんねーや』って絶望させてから落としてくるとか嫌がらせかよおい!」

 

 打ち捨てられた廃ビルの一室に、男の声が響いた。

 

「分かる。分かるぞ、一般近接部隊」

「分かってくれるのか、一般遠距離部隊!」

「ああ、あれは凶悪だよな。なんとか生き残ったやつも、ほとんどが再起不能になっちまう」

「そうなんだよ、そうなんだよ! しかもやたらめったら範囲広いしさぁ!」

 

 泣き崩れる男にハンカチを差し出したのは、アサルトライフルを抱えた男だった。一般遠距離部隊所属の射撃兵だ。

 

「スカイフレアと同じくらい、エイヤフィヤトラも怖いよな。1人にしか攻撃しないのかと思ってたら、急に広範囲に炎をバラ撒いて来るんだから」

「しかも単発の火力はエイヤフィヤトラの方が高いんだよな……」

 

 いつかの戦闘を思い出したのか、二人の身体が小刻みに震え始める。その口からは意味を成さない音が漏れていた。

 

「あー、これはしばらく戻って来そうにないな。それじゃ次、一般術師部隊」

「はい。こちらは最初から遠慮なしでいかせてもらう。……どこからともなく『動かないで!』という声が聞こえてきて、次の瞬間には仲間の頭が撃ち抜かれていた。その直後、今度は『ポイズン・キス』という声と共に無数の毒矢が飛んできたんだ」

「ジェシカにアズリウスか」

「そうだ。あいつら……動いても動かないでも撃ち抜くじゃんかよ! ならわざわざ言わなくていいじゃん! それとアズリウス! キスっていうなら顔くらい見してくれよチキショー! 遠すぎて見えねんだよー!」

 

 一般術師部隊代表のこの男、つい先日三十歳の誕生日を迎え、術師から魔法使いへジョブチェンジを終えたばかりである。

 

「ま、まあそのうちお前にも出会いがあるさ……。あー、次。一般特殊部隊」

「はい。ではまず私たち空挺兵から述べさせていただきます」

 

 この一般なのか特殊なのか良く分からない部隊は、空挺兵・砲兵・ゴースト兵・迷彩所持兵などの少々変わった戦い方をする兵を集めたものだ。

 

「とは言ってもたぶん、一般特殊部隊の各班、思っていることは1つだけです」

「それは何だ?」

「サリア強過ぎ。以上です」

「……また簡潔だな」

「それしか言うことがないんですよ。何なんですか、彼女。やたらと硬いし、少しぐらいダメージ与えてもすぐ回復するし、それに硬いし」

「まあ、医療オペレーターにならなかったのは硬過ぎたから、などという噂もあるほどだしな」

「……それに、最近のサリアはどこかおかしいんですよ。戦闘中にボーっとしてたと思ったら、急に顔を真っ赤にして猛攻を仕掛けてくる、なんてことが頻発しています」

「ほう、それは突くべき弱点なのではないか?」

 

 ようやく見つかった敵の弱点に、進行を務める男が喜色を示す。

 だが、空挺兵の口調は暗い。

 

「いえ、むしろ逆です。あの状態の彼女は手が付けられません。まるで他の何かに向けるべき怒りをぶつけるかのように、凄まじい攻撃を仕掛けてくるんです」

「……いったいロドスで何があったんだ」

「でも、あの状態はかなり可愛くてドキドキするので、個人的には好みです」

「よし。お前はこの会議が終わったら医者にかかれ」

 

 空挺兵の後ろではいくつもの人影が賛同するように首を振っている。

 この組織もうダメじゃね? そんな思いを押し殺し、進行役は話を続けた。

 

「気を取り直して、次だ次。操作兵器部隊、そちらはどうだ?」

「はい。これまでオリジムシ・バクダンムシ・ハガネガニ・各種ドローン等を駆使してきたのですが、我々はその過程で恐ろしい事実に気付きました」

「なんだ? 操作アーツに不具合が出てきたのか?」

「……オリジムシの死骸が少ないんです」

「それがどうした? 戦闘の余波で破壊されたか、どこかに吹き飛ばされただけではないのか?」

「…………そして、ロドス周囲に放ったドローンが、大量のオリジムシの甲殻を発見しています」

「よし次だ。上級近接部隊、意見を述べてくれ」

 

 一瞬頭をよぎった思考を振り払い、素早く議題を逸らす。こういった技術も進行役には必要だ。

 ……まさか、な。と、その場に集った全員が、それ以上の詮索を避けたのだった。

 

「……ヒーラーが多過ぎる。1撃与えた傍から回復されては、いくら攻撃してもキリが無い」

「やはりそうか。あちらは通常のヒーラーに加えて、サリアまでいるからな……」

 

 ちなみに上級近接部隊とは伐採者・ブッチャー・武装戦闘員といった、単身で敵陣に乗り込めるほどの力量を備えた者たちで構成されている。重装兵? 術耐性が低いから一般で。

 

「遠距離攻撃でヒーラーを落とせばいいんじゃないか?」

「アホか。その前に敵の術師に焼き殺されるわ」

「なら先に術師をやれば——」

「それだとまたヒールされるだろうが」

「じゃ、どーしろってんだよ」

 

 やいのやいのと勝手に議論を始める兵員たち。様々な意見が上がっているが、有効打に成り得るものは見つからない。

 

「……サルカズ部隊、何かないか?」

 

 進行役がそう言うと、ざわめきがピタリと止まった。そして、全員の視線が一方向に集中する。

 

 サルカズ部隊。体内に源石を持ち、強靭な肉体と抜群のアーツ耐性で戦場を蹂躙する、ボスランクに次ぐ猛者の集団。

 その代表が今、言の葉を紡ぐ————!

 

「……ホシグマが可愛い」

「「「…………はい?」」」

 

 辺りの困惑を余所に、サルカズ部隊の代表、サルカズ大剣士はどっしりとした低音で滔々と語る。

 

「巨大な体躯を目立たせないように猫背になり、それでも尚目立っているところ。それでいて一度戦場に立てば、その身体を存分に活かして仲間を守る。だが、戦闘が終わると他のオペレーターと共に持参した初級糖原をつまむ。あの様が実に可愛いのだ」

「ふざけてんのかテメェ!」

 

 その語りを中断させる、鋭い声が上がった。

 

「ホシグマは可愛いよりもカッコイイだろうが!」

「……ほう、貴様。この我と張り合おうと言うのか」

 

 声を上げたのは一人の兵士だった。特別な装備は持っていないが、数多の戦場を駆け抜けた猛者である。

 だからこそ、ホシグマを目にする機会も多かったのだ。

 

「たしかにホシグマは可愛い。そこは認めよう。だがそれよりも彼女を輝かせるのはそのカッコ良さだ! オニでありながら冷静さを忘れず、かと言って臆病になることはない。狂気を制御するあの姿こそ、彼女の本質だろうが!!」

「いや待て! 格好良さを問うのならズィマーも負けていないぞ! 誰よりも早く戦場に降り立ち、仲間の準備が整うまで前線を支え続ける! あの姿に感じ入らずして何が男か!」

「んだとおい。ズィマーこそ可愛い系だろうがよぅ! お前ドクターに耳と頭撫でられて慌ててる彼女見たことねえのか!? いっぺん見てみろ人生変わるぞ!」

「てめえらメランサを忘れてんじゃねえだろうな? あの他人との触れ合いにおいても防御力が薄いところは、他のやつには真似できない萌え要素だぞ!」

 

 そこから先は速かった。

 先程までの重苦しい空気は何処へやら。ひたすら敵オペレーターの誰が可愛いだとか、いや格好良いだとか、そこを併せ持っているのがいいんだとか、クール系が照れる瞬間が良いだとか、個人より関係性だとか、ガサツなタイプがドクターを翻弄しているのが良いだとか、それを見て混ざろうかどうしようか迷ってるのが良いだとか、いやいやそれを叱って留めるのが良いんだとか、そんな話ばかりが湧き出てきた。わりと皆話したかったのだろう。

 

「静まれ!」

 

 その熱い議論に、水をぶっかける男がいた。進行役の彼だ。

 

「黙って聞いていれば下らないことをウダウダと……。貴様ら、それでも漢か!」

 

 怒り心頭といった様子の彼に、他のメンバーもさすがにやり過ぎたと感じたようだ。話が脱線したどころの騒ぎではない。脱線した列車が横転で走り出したような騒ぎだったのだから。

 

「いいか。一度しか言わんから良く聞いておけ……」

 

 クワっと目を開き、進行役は声の限りに叫んだ。

 

「ロリこそ正義だ! つまりイフリータこそ正義である!!」

「「「おうてめえやんのかコラ!!!」」」

 

        ***

 

 同日、ロドスにて。

 

「ドクター、少しいいか?」

「ああ、サリアか。どうした?」

「どうも近頃、敵の様子がおかしくてな……。何と言えばいいのか……目の色が違う、が一番正確な印象だな。それに、戦闘後にも妙な視線を感じる」

「……それはどういった類の視線か、それは分かるか?」

「私の本職は研究者だ。そんな技能は持ち合わせていないが……だが、不思議と悪意ある視線でないことは分かる。それだけに不気味なのだが、な」

「なるほどな。……よし、俺の方でも色々と考えておこう。報告ありがとうな」

「なに、礼を言われるようなことではない。では、また後でな」

「サリア? 何故後退りして行くんだ?」

「決まっている。お前に背中を見せると、尻尾を触られるからだ」

「そんなことはしない。今日は角を触ろうと思っていた」

「同じことだこの戯けがぁ!」

 

 そんなこんなで、ロドスは今日も案外平和である。

 

 

 

「……それにしても、なるほど。面白いことになっているようだ。これは一度レユニオンの連中と接触してみる価値があるかもしれないな……」

 




 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
 イベント楽しみだなー、とウキウキ書いてたら最高時速(字速?)を更新しました。この勢いのままイベント周回に突入したいと思います(現在イベント開始5分前)。

 それでは、(イベントで体力使い果たさなければ更新されるはずの)明日もお楽しみに!
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