空から女の子が降ってくると思うか・・・・?
もし降ってくるとするならそれは大冒険や大スケールなアクション、世界をまたにかけたビックイベントの始まりなのかもしれない。
だけど俺は、少なくとも遠山キンジは降ってこなくていいと思ってる。
それは体質的なことやトラウマなんかももちろんあるんだが・・・・ここ、この世界はもっと「とんでもないもの」が降ってくるのだから・・・・
ほらきた。
「いいから金をつめろ!さっさとしないとかみ砕くぞ!」
空から降ってきたなんだかよくわからないサメの頭に人間の胴、それに背中から羽が生えたいかにも人間じゃないような恰好をした男が銀行の窓をぶち破って窓口の人間に食って掛かりだした。
別に珍しい光景じゃない。やってることが銀行強盗じゃなけりゃな。
別の窓口の人間が押したらしい非常用スイッチのベルが鳴り響くと同時に
「今日はオフなんだから、無駄な力を使わすなよ。こんな人の多いところでコトに及ぶなんて合理的じゃないな」
ぼさぼさの髪の無精ひげを生やした男性にマフラーのようなものでぐるぐる巻きにされて捕縛されてる。
上手いな、一見ただ巻いてるように見えるが手首、足首、翼の付け根といった動きの要になるような部分を重点的に縛ってる。
間違いなく訓練されたプロの動きだ。ヒーローだろうな。
「ヴィラン」と「ヒーロー」この「個性」あふれる超常社会において片方は忌避され、もう片方は称賛と尊敬をもって迎えられる立場だ。
そして俺こと遠山キンジが目指す「正義の味方」としての職業でもある。
「しかし鮮やかな手際だな・・・捕縛術しか見てないけど兄さんよりうまいかもしれないぞ。「個性」使ってなかったな・・・」
「個性」とは中国のどこだかで産まれた全身が光る赤ん坊を皮切りに人類がもつようになった超常の力だ。個性というだけあってそれは千差万別。
さっきの男のように見た目が人間じゃなかったり、筋力が異常に増幅されてたり、念力が使えたり、ビームを撃ったりな。
そういった超常の力が浸透するにつれ、犯罪件数は右肩上がりに上がっていった。当然だな、銃やナイフといった武器に頼らず人を害する手段が増えたのだ。そりゃそうなるだろうな。
そこでそういった犯罪が起きるのを憂いた一人の人間が立ち上がり犯罪の阻止に動き出した。
その活動に賛同する人たちがさらに立ち上がり、いつしか犯罪者は「ヴィラン」活動者は「ヒーロー」なんて呼ばれだして政府からも認められるようになり、現在のヒーロー社会が出来上がったってわけだ。
で、さっきから一人で考え事をしてる俺が何をしてるというと・・・・
「金が・・・・足りん・・・・」
金欠だった。
正確には生活費はあるが受験で使おうと思っている武器を買うための金がない。
改正銃刀法により護身のためという名目で銃器や刀剣類が解禁されたため戦闘力のない個性や個性がない人間が銃や刀剣を握るようになった。
もちろん所持には許可がいるがそれは扱いへの理解と2人以上の保証人がいれば持てるようになったのだ。
「手持ちだけで何とかするか・・・・」
ATMの前で残高を確認した俺は肩を落として事情聴取をしている現場を横目にその場を去るしかなかった。
「キンジ、帰ったか。モノは買えたのかのう?」
「金がなかったよじいちゃん、まあ持ってるもので何とかするよ」
「そうか、大丈夫じゃろう。遠山の男は天下無双、それにわしが教えた攻防百技があれば実技受験くらいどうとでもなるわい。それより勉強せい勉強!お前は雄英の合格ラインぎりぎり下回っておるのじゃぞ!」
「わかったわかったって、俺だって合格したいんだ、勉強くらいするさ。それよりもよかったの?遠山の掟を破って俺と兄さんに技を教えて?」
「ええに決まっておるわい。金叉が死んだ今、おぬしらまで失ってたまるものか。兄弟そろってヒーローになりたがりおってからに」
「ごめんよじいちゃん。だけど憧れたんだよ、兄さんや・・・父さんに」
「わかっとるわい、あと1週間じゃ。きばるんじゃぞ」
「うん」
帰った俺を出迎えてくれたのはじいちゃんだ。昔はヒーロー・・・というか制度がしっかりできる前のいわゆる活動者として動いていたらしいじいちゃんは短く刈り上げた角刈り頭をなでながら俺に忠告してくれてる。
国立雄英高校・・・ヒーローを育成する学校としてはトップクラスの知名度と倍率・・・・ついでに偏差値を備えた難関校だ。
兄さんは頭がよかったからあっさり入学を決めて卒業して今はヒーローとして働いている。テレビで見るたびに微妙な恥ずかしさと誇らしげな気持ちになるし、モチベーションも上がるってもんだ。
さて、受験日まで残り一週間だ。詰め込めるだけ詰め込もう。
受験日当日。自信があるのは英語と数学だ。他はぶっちゃけ平均取れてないんじゃないか・・・・・?保体がなくてよかった。鉛筆転がして答え決める必要がなくなったな。
「エヴィバディセイ!ヨーコソー!」
・・・・・・・・しーん
「ヘイ受験生たち!盛り上がれええええ!」
いや無理だろ。
声を上げているのはプレゼント・マイク。大声を武器にしたプロヒーローだ。
「まぁいいや!今から実技試験の説明を始める!モニターを見ろ!」
ピコン!と音がしてモニターに4つのロボットが映り、それぞれ1P、2P、3Pと表示される。
「それぞれ破壊対象のロボットたちだ!破壊した分のポイントが自分に入るということだな!それぞれの合計得点が高かった人間から合格ってわけだ!他人の妨害をするといったことは厳禁だぜ!協力するにしろ個人で動くにしろ頭ひねって盛り上がれ!質問あるか?」
「はい!」ピーン
なんてまっすぐな挙手の仕方だ。なんだか感心してしまった。
「こちらの0Pというのはどういうことでしょうか!もしも誤記だというだとしたら雄英として恥ずべき事態!ご説明をお願いします!ついでにそこでボソボソしゃべってる君!気が散るからやめたまえ!記念受験のつもりなら即刻去りたまえ!」
はきはきとした奴だが最後の一言はいらないんじゃないか?
「オーケーオーケー!ナイスなお便りサンキューな!こいつはギミックだ!倒してもいいし無視してもいい!他にはないか?ないみたいだな」
「俺からは以上だ!最後に受験生諸君にわが校の校訓をプレゼントだぜ!」
「真の英雄、ヒーローは人生への向かい風、上り坂を笑って踏破するもの!さらに向こうへ!!!」
で、移動したわけなんだが・・・・
「広っ・・・・いくらかかってるんだこれ」
受験に使われる運動場・・・というか街にバスに揺られてついたんだが・・・・
とりあえず装備を確認する。ベレッタ1丁、バタフライナイフ1本、ベルトと袖口に仕込んだワイヤー、予備のマガジンが7つ、よし、全部あるな。ここで忘れたらペーパーテストの不利がさらに不利になっちまう。
「ハイスタート」
は?と思ったが個性の都合上すぐスタートを切れた。バツン!という音で踏み切った俺は加速して敵ロボットのほうに向かう。後ろを見れば全員呆けた顔をして立ち尽くしている。
俺の個性は「神経強化」文字通り神経系が強化され反応速度や運動神経が飛躍的に向上する。大体常人の15倍くらいだ。
ただ筋肉量が上がったりするわけではないから攻撃の威力はそこまで上がらない・・・ぶっちゃけ増強系と呼ばれる個性の中じゃ地味なほうだ。
だけど戦闘に適さない個性じゃない。あともう一つ・・・困った体質があるんだが今回は使うつもりはない。
「ほら呆けんな!実戦じゃ合図なんてないぜ!」
後ろでプレゼントマイクの叱咤する声をしり目に一つ目の曲がり角を曲がると
「標的確認!殲滅開始!」
いやまだ俺一人だぞ?と内心思いつつベレッタでロボットのカメラ部分を狙ってベレッタで撃つ。
非致死性のゴム弾で9mmだしはじかれるかと思ったがバリィンと景気のいい音を立ててカメラ部分が割れロボットが沈黙した。脆っ!と思ったが壊せないような装甲じゃ試験にならないなと考え直す。
「殲滅!殲滅!」
「うっるせえな!」
ガスン!と遠山家の技の一つ「秋草」を叩き込んでやる。これは衝撃や重さといったものをできるだけコントロールして一点に集中し殴るという技だ。ちなみにこれに加え体重を完璧に収束しきると「秋水」という別の技になる。
今の倍率じゃ使えない技だから気にしてもしょうがないが。
やはり装甲自体は柔らかいらしく拳がめり込み機能停止する。あとで修理代請求されたりしないよな?
とりあえず見つけ次第ガスンバコンと殴ったり撃ったりして壊しておく。
「36ポイント!」
バガン!と装甲をひしゃげさせたロボットが停止したところで。
「ねえねえ君すごいね!パンチやキックでロボット壊せるなんて!」
後ろから声をかけられて・・・・?いない・・・・?いや、手袋が浮いている。下を見れば運動靴だ。透明人間ってやつか。
「案外脆いぞこいつら。女でも壁にたたきつければ壊れると思うぞ?」
「ほんと!?私あんまり力ないからダメだと思ってたんだ!ありがと!」
声からして女か・・・待て、女・・・服は見えてる・・だけど胴体は透明・・・・・?!!?!?!?
思わずバッとそっぽを向いてしまうが彼女・・・彼女だよな?は気にせず走り去ってしまった。何ちゅう奴だ、体の血流は大丈夫かと意識を集中するがまだあの困った体質は起きてないらしい。よかった・・・驚きのほうが勝ったんだな。
呆けてる間にあらかたロボットが狩りつくされそうでやばい!と思いつつロボを探していると・・・・
とビルの向こうからビルより巨大なロボットが・・・・は?
「・・・でかすぎないか?」
驚きって過ぎると冷静になるんだな。
何が倒しても倒さなくてもイイだ!こんなん逃げ一択に決まってるだろ!と半ばキレつつ逃げようと足を返すと・・・あの手袋は!?
どうやら巨大ロボットの放つ揺れのせいでがれきに足を取られ転んだらしい暫定透明少女がいた・・・・くそったれ!
踵を返し、透明少女の方へ走る。
「標的確認、ツブス、ツブス!」
巨大ロボットは足をあげ透明少女に振り下ろそうとする・・・殺す気かよ!
「おい!こっち向いて頭上げろ!」
「へ!? う、うん!」
何とか体を起こしてこっち向いたらしい透明少女を手と足の位置からおおよその体系を割り出して飛び込んでキャッチする。
ゴロゴロと転がった俺たちの後ろでズゥゥゥンと踏み込んだらしい音が聞こえる。・・・・・むにゅん
へ?・・・と思うが抱きしめた透明少女は思いのほか豊満な体系をしていたらしい。・・・まずい・・・体の中心から熱くなるような血流があふれてくる。
沈ませようと頭の中で複雑な計算を証明しようとしてると・・・
「え?・・・あっ・・はぅぅぅ」
こちらにぴったりと密着した透明少女から照れたような声と女の子らしい甘い香りが漂ってくる・・・やばい・・なってしまう・・・ヒステリアモードに!
・・・だめだな・・・使わないと決めていたのに・・・なってしまった。
「ごめんな。強引に抱いてしまって。」
「へ?いいよいいよ!助けてくれたんだよね?」
「ありがとう。しかし・・・あんなロボだったなんてな。これは少し・・・お仕置きが必要だな」
自分とは思えないくらい気障でかっこつけのセリフが口から出てくる。だけど頭は澄み渡って不思議なくらい自信があふれてくる。
「少し待っててくれ、用事ができた」
「へ?まってそっちはロボットが!」
心配してくれるらしい、格好の割にはいい子じゃないか。
トン、トン、トンと「秋水」での足踏みをしながら顔だけ振り返って
「安心してくれ 、君を守る」
足踏みを繰り返しながら巨大ロボットのほうへ歩く。
歩くにつれ、ズン・・・・ズンと地面が揺れだした。
ロボは律義に待っていたらしい。そんな紳士なら人死にが出るような攻撃をしないでほしいね。
「さて、もうすぐ終わりだろうから盛大なフィナーレで締めさせてくれ」
足踏みが重なるにつれてズズズゥゥゥン・・・・ズズズゥゥゥンと揺れが大きくなっていく
「この遠山桜、散らせるものなら散らしてみやがれ」
ッッッドォォォォォォンッッッ!!!!
と地面の揺れが最大になった瞬間秋水を加速させ踏みしめると盛大に地面が縦に揺れ巨大ロボットがビルに向かって倒れこむと同時に
「シューーーーーリョーーーーーー!!!」
と俺の受験の終わりを告げたのだった。
「・・・まあ、受験だけど・・・これにて一件落着ってな」
この物語は、俺こと遠山キンジが正義の味方・・・・「ヒーロー」になるための始まりの物語だ。