切島との期末テスト演習において、何とか合格を勝ち取った翌日教室に入るとやはり期末テストの結果についていろいろあったのだろう。みんなそのことについて話し合っているようだった。
「皆・・・土産話楽しみに・・うぐっ・・・してるから”あ”・・・ぐすっ」
「ま・・まだわかんないよ!どんでん返しがあるかもしれないから・・・!」
「お前それ言ったらなくなるやつだぜ緑谷」
特に悲惨な顔してるのは実技クリアならずだった芦戸、上鳴ペアだ。あと瀬呂も採点基準がわからないため顔つきはすぐれない。
「うるせえ!試験で赤点取ったら補習地獄!そして俺と芦戸は実技クリアならず!これで結果がわからないのなら貴様の偏差値はサル以下だ!」
落ち着け上鳴。キャラがぶれてんぞ。まーいっても相澤先生の性格を考えると学校に生徒を残していくとは考えづらい。緑谷の言う通りどんでん返し、あるかもしれないぞ。
「お前ら、予鈴が鳴ったら席につけ。ホームルームを始める」
相澤先生が入ってきた瞬間クラス全員が光の速度で席に着席した。相変わらず訓練されてんなー俺も含めて。
「さて、期末テストの件だが知っての通り赤点が出た。従って林間学校は・・・・」
ごくり、と息をのむ音がそこかしこから聞こえる。どうせなら全員で行きたいよな。
「全員で行きます!」
「「「「どんでん返しだあ!!」」」」
うるさっ!あー・・・よかったな芦戸と上鳴。クラス全員で林間学校行けるしな。
「筆記のほうはゼロ、実技は芦戸、上鳴、瀬呂が赤点だ。今回の試験、教師側は生徒に勝ち筋を残しつつどう課題と向き合うかを見ていた」
あー・・・セメントス先生がビル上を見なかったのはあえてだったのか・・・勝ち筋に沿っていた、誘導されていたんだな。そう考えるとなんか悔しいぞ。
「本気で叩き潰すと言ったのも追い込むためだ。林間学校は強化合宿、赤点のやつほど行かなきゃならん。ま、嘘を言ったのは省みるよ」
でも雄英のことだ。赤点のやつは多分学校残っての補習よりもきついんじゃないか?
「もちろん補習も同時に行うから覚悟しとけよ。じゃあ栞配るから回してけ。あと遠山」
「はい」
なんだろ?赤点取ってねえから悪い話じゃないと思うんだが。
「お前ちょっとついてこい。すぐ終わる」
言われたまま相澤先生についていって廊下に出る。そして階段あたりに出ると先生が振り向いて話かけてきた。
「テスト開けてそうそうすまないが、明日の休み空いてるか?」
「空いてますが・・・何かあるのですか?」
「ちょっと頼みたいことがあってな。ジャージで明日雄英まで来てくれ。遠山妹については連れてきてくれて構わない」
「わかりました」
「手間を取らせる。まあ内申少し上げておくから許してくれ。時間は朝9時に頼む。それじゃ」
明日ねー・・・しかも相澤先生の頼み・・・きつそうだ。何するんだろうなと考えつつ教室に戻ると・・・
「あ、キンジくんお帰り!明日空いてる?みんなで林間学校の買い物することになったんだ!」
うっわータイミングわっる・・・この透の輝いた表情が見えそうな雰囲気・・・断りづらい・・・
「あー・・・・すまん!今さっき相澤先生の手伝いをすることに決まったんだ。だから、いけない」
「そうなんだ・・・・うん、わかったよ。手伝い頑張ってね!」
あー・・・気を遣わせちまった。恨むぞ、相澤先生。八つ当たりだけど。
そんな話があった翌日、みんなが買い物に行く中ただ一人休日だったはずなのに学校に出張してきた俺とかなでが職員室に入ると・・・体育祭で見た顔・・・ああ!心操だっけか?が相澤先生と一緒にいた。
「来たか、遠山。やってもらいたいことなんだが・・・コイツの訓練を手伝ってほしい。オールマイトさんから聞いたが、緑谷の特訓に付き合ったそうだな?」
「確かに緑谷に徒手を教えたのは自分ですが・・・・意外ですね。こういう特別扱いはしないと思ってました。な?かなで」
「そんなことないですよ!相澤先生は優しいんです!」
かなでから見たらっていうか職場体験中にそう思うことがあったんだろうな。
「まあ事情は大体わかりました。他言無用ですね?俺は何をしたらいいんですか?」
「察しがよくて助かる。今日は俺と組手してもらう、個性なしでな。定期的に手伝ってくれると助かるんだが・・・」
「私用がなかったらでよければ手伝いますよ。俺にもやりたいことくらいはあるので」
「それでいい。心操、今日からは基礎トレと並行して徒手の組手、武器術も行う。手伝ってもらうんだから余すところなく自分のものしろ、いいな?」
「はい!遠山、知ってると思うけど心操人使だ。すまないけどよろしく頼む」
「いいよ。体育祭でお前がヒーローになりたいのはわかった。手伝ってやるから追いついてこい」
「頑張ってくださいね!」
「・・・おう」
なるほどなー・・・相澤先生が心操に目を付けたから手伝えって話だったわけか。というか思ったけど俺いるのか?相澤先生だけでいいんじゃねえの?
「心操、準備してこい。遠山は話があるから残れ。マイク!遠山妹を頼む」
呼ばれたマイク先生がかなでを連れて行ってしまい俺と相澤先生が残った。なんだ・・・?
「今日はすまないな。体育祭から個人的に俺が心操を見てるんだが・・・俺一人だけじゃ経験が偏るからな。今クラスの中で徒手が一番優れてるのはお前だから、呼んだわけだ。ついでに武器も使うのはお前だけだし、総合戦闘ができるやつは貴重だ。合理的に考えてお前が適任ってわけだ」
「俺は個性ありの状態でアレですよ?さすがに買いかぶりすぎではないですか?」
「過ぎた謙遜は失礼だぞ。技がいくつか使えなくなるだけだろう。身のこなしでどれだけできるか程度はわかる。金一がそうだったからな、お前もそうだろう」
うわー見抜かれてる。流石雄英のプロだな・・・まあここまで来て否はないし、別にいいけどさ。心操がいるとはいえプロと戦えるのは貴重な機会だ。
「わかりました。やらさせてもらいますよ。準備するので行っても?」
「ああ、場所は体育館μだ。お前捕縛縄術どこまでできる?」
「家に伝わってる古いものでよければ」
「わかった。行ってよし。俺もすぐに行く」
着替えて指定された体育館μ・・・いわゆる一般的な体育館についた俺、先にいた心操、俺の後すぐに入ってきた相澤先生がそろったところで相澤先生が口を開いた。
「揃ったな。さて、時間は有限。早速始めていこう。最初は俺と遠山、遠山は個性禁止な。時間は3分だ」
「はい」
返事はしたものの、どうしたもんか・・・遠山の技はヒステリアモードが前提だ。一部例外のような存在(父さんとか)がいるけど俺はそうじゃない・・・あっそうだ!ジーサード経由で中国の女の子からカンフー習ったっけか・・・えーっと確か猴だったな。おっ思い出してきた。
彼女からは広く浅く習ったので、今回は八極拳ベースのなんちゃってチャンポンカンフーでやってみよう。秋草や秋水を多用する俺には一番相性がいい。
向かい合って腰を落とし、構える。相澤先生は俺の構えがいつものものと違うことに眉を上げたが気にせずオリジナルの構えで相対してきた。
「心操、合図頼む」
「はい!・・・・はじめ!」
心操の合図を聞いた瞬間俺は活歩、八極拳の踏み込みで懐まで入り、発剄を用いたワンインチパンチを仕掛ける、が反応した先生に肘で逸らされた、空いた右側に先生の腕が伸び、服を掴まれたので肩と体重移動を利用して体をねじり、外しにかかる。
先生は俺が体をねじった時点で手を離し、ねじられた体の先に向かって蹴りを打ってくる。くそっ、判断が早い!素の俺の反応速度じゃ追いつけないぞ!俺はとりあえず蹴りに腕を差し込み防御、そのまま先生の足に沿うように回転しながら近づいて裏拳を放つが防がれる。
その状態のまま背中での体当たり、いわゆる鉄山靠を放つが当たった瞬間後ろに飛ばれた。うーん・・一筋縄じゃ行かないよなあ・・・
踏み込んできた相澤先生が、右フック、左ストレート、右ボディとコンビネーションを打ってくるがこれがまたいやらしく合理的だ、反撃を差し込もうとした瞬間飛んできて防御するしかなくなる。俺の呼吸を完全につかんで操ってやがる。
コナクソとばかりに無理に差し込んだ右の拳も逸らされるだけだ。まともに防御しようとすらしないってことは俺が素の状態でも秋草を打てるって確信してるな。じゃあ逸らせないだけの威力で殴ってやる!
ズダン!と俺の震脚が響き、体勢を低くした俺が左肘から相澤先生にぶつかっていく、いわゆる頂肘ってやつだ。これはさすがに防御せざるを得なかったらしく、受け止められるがインパクトの瞬間力を込められて衝撃がうまく入らなかった。失敗だ。
次につなげようと肘を戻そうとすると、ビーーー!とタイマーが鳴った。
「・・・ここまでだ」
「・・はい」
完全にあしらわれてたな。あー個性が使えないとここまで弱いのか・・・いや、相澤先生が上手かったんだ。くっそー見せたことないから一発くらい入ると思ったのに全部弄ばれたぜ・・・・
「心操、俺たちのような身体能力と直結しない個性もちは殴り合いにおいて無個性と変わらない。が、やり方次第ではいくらでも可能性は増やせる。今やった遠山の動き、俺はすべて初見だったが経験、直観、自分の練度・・・すべてを効率よく利用すれば捌くことはできるってことだ」
「勉強になります」
「俺たちから盗め、そしで自分の動きを作るんだ。俺の構えやファイトスタイルは我流だが、根底には見習い時代の教えが必ずある。お前はヒーロー科に比べればかなり遅れている。それは何も学業だけじゃない、ヒーロー科の連中が入学前から行っていた体作りとかも含めてだ。体育祭でわかったと思うが、入試のロボは素手で十分壊せる範囲だった。葉隠がいい例だ」
「っ・・・はい!」
きっついこというなー相澤先生。発破のためだろうけど。心操、俺はお前のこと応援してるぜ?だってお前の個性、だれよりも人を傷つけなくて済むじゃねーか。俺みたいに物理全振りなやつじゃできないことだ。
「じゃ、次心操と遠山。遠山は受けに回って攻撃するな。心操、お前は正しい打撃の打ち方を学べ。俺が動きを矯正する」
というわけでスパーリングが始まった。心操が拳を打ってくるが・・・なんというか、へちょい。多分人を殴るという行為に嫌悪感、あるいは忌避感があるのだろう。打ち方も割と危なっかしいし受け失敗したら心操が怪我しちまう。
「心操、本気で打ってこい。ためらってたら助かる命も助けられなくなるぞ」
「心操、遠山を呼んだのは受けの技術がプロ並みだからだ。殴られて怪我をすることはないし殴ったほうも怪我をさせない技術をソイツは持ってる。だから全力でやれ、訓練にならん」
「・・・っ!!」
心操が本気で打ってくるのを俺は捌く、空振りさせるのではなく腕で受け止めて、ショックを吸収し怪我をさせないようにだ。相澤先生が逐一止めてどこに打つか、その場所に打つならどう拳を当てるか等の細かい指導をはさんでいく、心操も必死で食らいつき、フォームを洗練させていく。
「いいか心操、相手をよく見ろ。体の動き、筋肉、骨格の動き、目、口元、指・・・・すべてが大切な情報だ。次の動きを予測するためのな」
「はいっ!」
3分立ち、1分休憩をはさんでもう一回、今度は俺がどこかで一発だけ攻撃をするからそれに反応して防ぐというのも含まれる。
通常こういうのは無拍子レベルのコンパクトなものがいいんだろうが、心操は初心者だ。少し大げさに予備動作をはさんで攻撃を仕掛けるが、攻撃に必死だった心操は防げなかった。顔面の前で寸止めされた俺の掌底を見て心操はゴクリとのどを鳴らした。
「実戦なら今ので終わりだぞ。もっと落ち着け、必死になるのはいいが冷静さを忘れるな。視野を広く持って、相手の動きを俯瞰してみろ」
そうしてみっちり4時間ほど特訓をして、訓練は終わった。更衣室で心操と一緒に着替えていると
「すごいんだな、流石体育祭優勝者だ。・・・羨ましいよ」
「そうか?俺はお前のほうがうらやましいけどな」
「俺が?どうして・・・?」
「お前の個性、相手が人なら何よりも心強い。物理的な強さじゃ測れないもんがあるんだよ。俺にはそういうもんがないからそれが羨ましい。いくら強くたってどうにもならないもんがこの世にゃある。それはきっとお前みたいな個性のやつが解決できることなんだぜ?」
「そんなこと考えたこともなかったな・・・言われてきたのは悪用のことだけだ。変わってるな、お前」
「そりゃどうも。これからも一緒に訓練するんだしよろしく頼むぜ、心操」
「それはこちらこそ。お前の技術、絶対に俺のものにしてやる。だからこっちも、よろしく頼むよ遠山」
こいつとは長い付き合いになりそうという予感と、絶対に上に上がってくるという確信を持ちながら、俺は着替えをして戻るのだった。
林間学校はいらなかったけど許して・・・・