遠山桜は正義の味方である   作:カフェイン中毒

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 久しぶりの本編投稿でござーい!
また暇を見つけて書いていきますね。


第29弾

 ヴィラン連合が逃げ去って15分くらいたった後、ヒステリアモードをまだ維持してた俺の耳にサイレンが聞こえてきた。どうやら先生方のうちの誰かが通報してたらしい。

 

 「おい、サイレン聞こえるぞ。助けが着たっぽいな」

 

 「・・・そっか。ねえ、戻ろ?ここにいたってしょうがないし、怪我してる人もいるし・・・ね?」

 

 「そうですわね・・・みなさん、いきましょう?」

 

 透と八百万がそう言って全員のろのろと移動を開始する。動けない緑谷を障子が、気絶してる常闇を切島が担いで俺の耳を頼りにサイレンがしてる方向に向かう。仲間がさらわれるという最悪の結果を目の前で迎えたせいで全員顔色も優れないし無言だ。

 

 「あっ!みんな!よかった・・・・」

 

 「心配していたのよ・・・爆豪ちゃんは?」

 

 こっちに向かっていたらしい麗日と梅雨と合流したみたいだ。俺たち全員の暗い表情にいぶかしげになった二人が訪ねてくる。・・・言いにくいが・・・伝えなきゃならん。

 

 「・・・落ち着いて聞け。爆豪は・・・ヴィラン連合に、誘拐された・・・!」

 

 「・・・ウソ・・・ウソや!ウソって言って!」

 

 「落ち着いて、お茶子ちゃん。・・・本当なのね?遠山ちゃん」

 

 「こんな時にこんな最悪な冗談言えるかよ、クソッ。・・・すまん、熱くなった。・・・事実だ。今サイレンがしてるから、救助が来たはずだ。そう動かしちゃいけねえ怪我人もいるから俺らのほうから向かう。お前らも一緒に来い」

 

 「ええ、わかったわ・・・」

 

 「・・・うん」

 

 「・・・気休めだが、拉致したってことは爆豪に価値があるとあいつらは判断したんだ。少なくともまだ命が如何こうという話にはならんと思う。俺らができることは情報を一つでも多く持ち帰ってこの後プロにつなげること・・・いいな」

 

 全員が無言でこくりと頷き、俺たちは再び救助が来た場所に向かって歩を進める。歩いていくにつれて俺の両手の包帯が赤く染まっていく、咄嗟だったから自損をコントロールできなかったつけが来たか、衝撃波で動脈をやったのかもしれん。

 

 

 ガサガサッと目の前の茂みが動いた。思わず前に出て構える。チッ!まだ残ってたのか!

 

 「お前ら!無事か!?」

 

 「あなたたち大丈夫!?」

 

 「「「「相澤先生!マンダレイ!」」」」

 

 茂みをかき分けて出てきたのは相澤先生とマンダレイだ。どうやら動けるようになって真っ先に生徒の保護に動き出したらしい。これでようやく起きたことを話せる。

 

 「相澤先生!爆豪君が・・・うぐっ・・・ヴィランに・・・」

 

 「おい!どういうことだ!?爆豪はどうした!」

 

 泣きながら起きたことを伝えようとする透だが、断片的過ぎて情報が伝わってない。俺は透の肩に手を置いて落ち着かせ、口を開く

 

 「すいません相澤先生、ここからは俺が報告します。爆豪がヴィラン連合に誘拐されました。連れ去ったのはつぎはぎ肌の男と奇術師のような服装の男です。USJできた黒霧とかいうヴィランの個性を利用されたので、おそらく別の場所にワープされたんだと思います・・・・助けられませんでした・・・っ!」

 

 「・・・そうか、わかった。よく報告してくれた。マンダレイ、本部のほうへテレパスを!捜索隊を組織するように伝えてくれ!・・・お前ら、大変な時に一緒にいてやれなくてすまなかった。・・・戻ろう」

 

 相澤先生の不器用ながら暖かい優しさに満ちた言葉に促され、それぞれ歩を進めて目的地を目指した。

 

 

 

 

 ・・・完全敗北、そう言って差し支えないだろう。意識不明者14人、重軽傷者合わせて11名、無傷だったのが11名・・・そして、行方不明者が1名。プロヒーローも一人行方不明になった。雄英史上最悪のヴィラン襲撃事件と言っても過言ではないだろう。

 

 あの後救助された俺たちは病院にぶち込まれ、戦闘をしたものは全員検査入院、俺と、切島、そして八百万と透がそうだ。俺と八百万は同室で、切島と透はほとんど無傷だったこともあり半日で退院、腕の自損がひどかった俺と、個性の使いすぎと極限状態に置かれたせいで体調を崩した八百万はそのままだ。

 

 1日たった午後、透と切島を見送って病室に戻ってきた八百万と俺は何の気なしに雑談をしていた。そうしないと気が狂ってしまいそうだった。爆豪は粗野なやつだがストイックで、他人にも自分にも厳しかった・・・そして何よりもクラス全員にとっても大事な仲間だった。

 

 正直はらわたが煮えくり返りそうだ。けど、俺たちが目指してるのはヒーロー、ここで私怨に走るようではヴィラン連合と同じ穴の狢だ。そう考えてるとコンコン、とノックの音が響いた。

 

 「はい!」

 

 「失礼するよ。警察官の塚内です。調書を取りに来たんだ、今いいかな?」

 

 「ええ、大丈夫ですわ」

 

 「大丈夫です」

 

 「・・・ありがとう。思い出すのもつらいだろうけど、できるだけ詳しく話してほしい。必ず、捜査に役立てるから」

 

 「おねがいします・・・では・・・」

 

 それから俺たちは、あの夜に起きたことを仔細全て、余すところなく塚内さんにはなした。脳無と戦ったたこと、爆豪と常闇が姿を変えられたこと、ヴィラン連合のやつと戦ったこと・・・爆豪が、さらわれたこと。すべて話し終えるとまた、コンコンとノックが響いた。返事をすると扉があき、現れたのはオールマイトだ。

 

 「やあ、遠山少年に八百万少女、具合はどうだい?・・・今回は、危ない時に一緒にいてあげられなくてすまなかった・・・爆豪少年は必ず助けて見せる、だから安心して静養してほしい」

 

 「はい、オールマイト。どうか爆豪をお願いします。・・・八百万、脳無につけたアレ、どうなんだ?」

 

 「さっき確認しましたが、きちんと動いていますわ。塚内警部、オールマイト先生・・・これを」

 

 八百万が渡したのはGPSの傍受装置だ。あの脳無に泡瀬がつけた発信機は、正常に動作しているらしくその居場所を示している。

 

 「これは、発信機の傍受装置か!どうやって・・・」

 

 「遠山さんと切島さんが行動不能にした脳無に、泡瀬さんがくっつけたんですわ。捜査の役に立ててください」

 

 「ありがとう!八百万少女!相澤君は君を咄嗟の機転に欠けると分析していたが、立派に成長したみたいだね。あとはプロに任せなさい。遠山少年も、よく頑張った」

 

 そう言って、オールマイトと塚内さんは慌てた様子で部屋を出ていった。八百万がもたらした情報の大きさゆえだろう、捜査が一気に進展するかもしれない。

 

 

 翌日、午前中に現れたリカバリーガールに心配の言葉と緑谷がまた無茶したことについての愚痴を聞かされながら治癒をしてもらい、一気に楽になった。聞けば緑谷も俺より相当強く治癒をかけたみたいでもうすぐ目覚めるだろうとのことだ。・・・とりあえずは無事に治りそうでよかった。

 

 

 

 リカバリーガールが去って1時間くらいしたらまた病室の扉をノックする音があった。返事をして扉を開けてきたのは切島だ。

 

 「よう、二人とも、大丈夫なのか?」

 

 「ええ、私はもう大丈夫ですわ、明日の夜遠山さんと一緒に退院という形になります」

 

 「そっか、よかった。・・・なあ」

 

 「爆豪を助けに行きたいって話ならなしだぜ、切島」

 

 思いつめた表情で切り出そうとした切島の話をさえぎって俺が先に否定する。悔しい気持ちもわかる、目の前でさらわれたのだから。でもそれとこれとは話は別だ。俺たちは何の権限もないただの学生、ここで個人的に動けばそれはヴィランの行いだ。

 

 立ち上がって切島の目の前まで歩いていく、俺に気圧されたように切島が思いのたけをぶちまける。

 

 「・・・それは、わかってる!わかってるけどよぉ!何もできなかったんだぞ!脳無だって、お前がいなきゃ全員無傷なんて行かなかったし、爆豪の時にいたっては俺ぁ見てるだけだった!このまま俺は、ヒーローにも、漢ですらなくなっちまうんだよ!」

 

 「んなことで動いていい話じゃねえんだ。俺だって許されるなら今すぐ家帰ってチャカ持って助けに行きてえよ。でもな、それやっちまったらヴィラン連合のやつらと同じだ!そんなことして助けられたら・・・俺だったら、嬉しかねえ。・・・でもそれは俺の選択だ。お前に如何こう言える立場じゃねえのはわかってるし、強制もできねえ。止めるように言うだけだ。・・・これ以上は、もう言わねえぞ。やめてくれ、切島」

 

 そう言って俺は切島の横を抜けて病室を出る。ドアをでて、トイレまで行き、スマホを立ち上げる。そして病室に置いていった財布の盗聴器をオンにし室内の会話を拾う。どうせああいったって切島はやるだろう。もしやるなら最後の最後で止めなきゃならん・・・それが中途半端とはいえ話を聞いた俺の役目だ。

 

 「・・・だから、頼む!お前はいかなくてもいい、少し協力してほしいだけなんだ・・・行くのは明日の夜、考えといてほしい」

 

 「・・・・考えさせてください・・・」

 

 「ああ、無理いってごめん。最低だってわかってる・・・でも、頼む」

 

 ドアが開く音が聞こえる。切島は帰ったらしい、機能をオフにして少しだけ時間を空けて病室へ戻る。微妙な空気の中、帰ってきた俺に対し八百万は少しだけ罪悪感にまみれたような、そんな顔をしていた。

 

 

 

 翌日、朝飯を食って少しだけ休んでいると、バン!というすさまじい音とともに病室の扉が開いた。扉の先にいるのは・・・かなでだ。どうやら実家からこっちに戻ってきたらしい・・・参ったな、また怪我してるのがばれちまった。

 

 「お兄ちゃんさまああああああ!!!!」

 

 俺の姿を確認したかなでは泣きながらこっちに突っ込んできた。ぎゅっと抱き着くかなでの小さな体を抱きしめてやり謝る。

 

 「心配かけて悪かったな、かなで。もう治ってるから今日退院する。お詫びになんか食べに行こうか?」

 

 「いえ、よかったです・・・。お兄ちゃん様がまた事件に巻き込まれたって聞いて気が気でなくて・・・お爺ちゃんは「遠山の男にはよくあることじゃ。心配せんでも死んだら勝手に生き返るわい」なんて言ってたのですがどうしても心配で・・・」

 

 でたな爺ちゃんのザ・遠山家な発言。死んだらどうやって生き返るっていうんだよ、羅刹食らったかんじか?あれなら何とかできそうだけどさ。おれはかなでの頭を撫でながら笑ってしまった。

 

 「そうだな、まあ爺ちゃんのは無茶ぶりだけど出来るだけ死なないようにするから、大丈夫だぞ。兄ちゃんを信じろ」

 

 「はい!・・・えっと百お姉さん、こんにちは。大丈夫ですか?」

 

 「かなでちゃん、お久しぶりですわ。ええ、もうすっかり元気です。ご心配かけて申し訳ありませんわ・・・」

 

 「それはよかったです!あ、これお見舞いのゼリーです!どうぞ!」

 

 そのあと、林間合宿からはじめて笑いながら話ができた気がする。午後5時ほどになり、俺らは八百万よりも一足先に帰らせてもらうことになった。暫くこの辺でウロチョロしてよう。かなでを連れているからアレかもしれないけどあいつらは絶対、切島の様子だと緑谷にも誘いかけそうだし、もしいくなら止めるだけ止めなきゃならん。

 

 かなでにも事情を話したところ、協力してくれるそうだし仕方ないが・・・あいつらを無駄死にさせるわけにはいかない。

 

 

 午後7時ごろ、八百万の隊員時間に合わせて病院から駅に行く道で待っていると・・・やっぱりきたか。切島、轟、飯田、緑谷・・・そして八百万。協力することにしたのか・・・はあ。

 

 暗がりから俺が見える位置まで来たあいつらは、俺がいることに気付いて歩みを止めた。

 

 「・・・遠山」

 

 「よう切島、それとお前らも。目的は大体わかってるが・・・もう止まるとも思わんが言わせてもらうぞ。やめろ、行くんじゃねえ」

 

 「わかってるよ遠山君、僕らの戦闘許可は解けてる。だから、戦闘をしないで助け出す」

 

 「・・・ほぉ。お前らそれができると思ってんのか。まあやりたいこともわかるけどな、飯田まで協力するとは思わんかった。はっきり言うぞ?犬死するだけだからやめとけ」

 

 「・・・遠山君、信じてもらえないかもしれないが僕と八百万君は万が一の時彼らを止めるためについていく。もう彼らは・・・言葉では止まらない」

 

 「だろうな。昨日の昼も俺は止めたからよくわかるぜ。んでもう一回いうぞ。戦闘なしで潜入して爆豪を救出だ?無茶苦茶言ってんじゃねえよ。そんなことできたら警察もヒーローもいまうだうだ会議なんてやってねえ。ましてや学生で力量が劣る俺やお前らができるはずもないのはわかるはずだ。わかったら今ここで全員で別れて家まで帰れ」

 

 俺の冷たい言葉にぐっと言葉を詰まらせた緑谷がなおも反撃しようと口を開く。

 

 「そんなの・・・そんなのやってみなきゃわかんないじゃないか!」

 

 あの比較的理知的な緑谷からそんな言葉が飛び出すなんてな、正直驚いた。俺ははあ・・・とため息をついて否定の言葉を口にする。

 

 「無理だ。少なくとも、後ろのやつに気付いてないお前らにはな」

 

 俺の言葉で全員がバッと後ろを振り返り、緑谷の背中にもう手が触れるぐらいまで近づいている悲しそうな顔をしたかなでに気付いた面々が、ばつが悪そうな顔をしてこちらに向き直る。

 

 「別にお前らが心配なだけで俺は止めてるわけじゃねえ。その心配の言葉は飯田と八百万あたりがさんざん言っただろうしな。俺が心配してるのはな、お前らという不確定要素が入り込んでプロの仕事を邪魔するっていうことに対して心配してるんだよ。酷なこと言うけどな、なんでわざわざ爆豪の生存率下げるようなことしてんだ」

 

 「っそんなこと!」

 

 なおも否定しようとする緑谷と切島にたたきつけてやる。

 

 「あるんだよ。お前らみたいな子供がアジトに潜入してるってことはまず普通にバレるぞ。かなでに気付けなかったくらいだからな。でヴィランのボスはもしかしたらこう考えるかもしれない。「さらった生徒に発信機がついてるかもしれない」と。そうなったら腹いせに殺されても不思議じゃねえぞ。相手は発信機がついてるのが脳無とは知らねえはずだからな」

 

 「それでも、僕はいく。行って、かっちゃんを助ける」

 

 ・・・こいつ。・・・はあ、こいつらとの学生生活、楽しかったんだけどな。俺はすっと道を開けて通れるようにしてやる。あれだけ止めたのにと懐疑的な顔をしてる緑谷たちに対して

 

 「もういい。・・・何言っても無駄みたいだしな。行くなら勝手に言ってこい。もう俺は、たとえ生きて帰ってもお前らをヒーロー志望とはみねえ。好きに行って、好きなだけ自由に暴れてこい。・・・ま、死なないようには祈っておいてやるよ。・・・かなで、いこう」

 

 「っ遠山君!」

 

 「もう呼ぶな、お前らはそれを選択したんだ。知ってるやつらは止めたろ?それを全部振り切ってお前らはそこに立った。ならもう迷うな、やりたいことやってりゃいい。どうなるかの責任は自分でとれ、絶対にプロや学校に迷惑かけてくれるな。もう、それだけやってくれればいい」

 

 吐き捨てるようにそう言って、俺はかなで連れてそこから去った。ヒーローは曲がりなりにも法の下でヴィランを捕まえる。勝手な自警団活動はそれがどんな理由であったとしてもヴィランとして処理される。それが今の俺たちの社会だ。ルールがあるから表面上とはいえ平和があるんだ。そのルールを逸脱するアウトローになるんだったらもうそれはヒーローでも、ヒーロー志望でもない。

 

 遠山家は「義」・・・正義の一族、それはけして個人の正義とかそういうものではなく、法の下である正義だ。そうして昔から法の下で悪人を裁いてきた。でも・・・こうやって自分から友人を切り捨てるのは初めての経験で・・・どうしたって、胸にぽっかりと穴が開いたような、そんな気分になってしまうのだった。

 

 

 

 

 無言で電車に乗り、かなでを連れて家まで帰る。玄関を開けると・・・居間のほうに違和感があるな・・・誰かいるような・・・ははあ?またジーサードあたりか?そう思ってかなでを見ると・・・ふるふると首を振られたので、音を殺して歩き、ドアをバッとあける・・・!?・・・どうして、どうして「こいつ」がここにいる!?

 

 

 「おや、遅いお帰りですね。改めまして遠山君、黒霧です。君の妹を、迎えに来ました」

 

 

 

 




 だいぶ厳しいことキンちゃんに言わせましたが、あの場で勝手に動くのってやっぱりよくないと思うんですよね。
 特にキンちゃんは法の下で動くって意識が強いのが原作からよくわかりますし・・・

 次回もよろしくお願いします

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