遠山桜は正義の味方である   作:カフェイン中毒

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第30弾

 黒霧、ワープの個性を持ったヴィラン連合の移動役、3日前の林間学校で散々辛酸をなめさせてくれた奴だ。怒りに任せてぶん殴りたいところだが・・・狙いがかなでだと知って思いとどまる。

 

 頭をぼりぼり書いてやつの視線を俺の頭に向けさせた隙にポケットの中のスマホを起動してポケットの中で操作、ミュートにして電話帳の一番上の相澤先生に手の感覚だけで電話を掛ける。

 

 ワンコール、ツーコールをバイブの震え具合で確認し、一瞬強く震えたのでつながったと判断、ミュートのため音は出ない。相澤先生が察してくれることを信じて授業で習ったタップ信号を収音機に向かって行う。

 

 「で、黒霧さんよ。不法侵入だぜ?俺の戦闘許可は解けてるっつってもよ、正当防衛は成り立つんだぜ?まあちょっと過剰になっちまうけど許してくれよ」

 

 ヴィランレンゴウ、ソウグウ、ネライハイモウト、キュウエンモトム。これをずっと繰り返す。気づいてくれ、相澤先生・・・!俺が今やれるのは時間稼ぎだ。少しでも長く会話して実力行使まで時間を稼ぎ、情報を多く引き出せ。黒霧は頭を掻き終わった俺から視線を外し、かなでに視線をやりながら鷹揚に応えてくる。

 

 「おや、怖いですね・・・よろしいのですか?違反をして」

 

 「目の前にうちのかわいい妹を攫うっつってるやつがいるのにそんなもん気にしてられるかよ・・・ああそうそう、爆豪は元気にしてるか?寂しくて泣いてんじゃねーかと思うんだけどよ」

 

 ジーサードリーグ製のスマホが逆探知を仕掛けられてる時用のリズムで震えだした。相澤先生、気づいてくれたんだな!タップ信号をやめポッケに突っ込んでた手を出して、ワザとらしく大げさにジェスチャーして訪ねてやる。こういう時に大事なのは余裕と自信、それを相手にぶつけてやれば少なくとも動揺は誘える。

 

 「おや、この状況で他人の心配とは随分と余裕なようですね。ええ、彼は無事ですよ・・・死柄木弔が飽きるまでは、ですけどね」

 

 「そうか。今頃暴れてるかもしれんな?あいつの我慢弱さを俺たちはよーっく知ってるもんでよ」

 

 「それは、ご自分の目で確かめたらどうでしょうか?私の目的はそこの人工天才ですが、ついでにという形であなたもとご指名なのですよ。私の主人がね」

 

 「ああ?俺もか?死柄木には恨まれる筋合いはねーけどな。しこたま殴ってやりたいのは事実だが」

 

 思わず舌打ちが出そうになる。かなでが人工天才ってことがばれてるのもそうだが、どこから漏れたんだ?知ってるのは校長とリカバリーガール、オールマイトくらいだ。他は俺の家族で漏らすなんてありえない。こいつは絶対にかなでの能力まで知ったうえでこんな強引な拉致に出てるんだ。

 

 「ああ、私の主人は死柄木弔ではありません。まあ世話役ではあるのですが、私の主人はオールフォーワン、裏世界の主ですよ」

 

 オールフォーワン・・・!ここでその名前が出てくるのか!オールマイトがあと一歩まで追い詰めたのに生き延び、オールマイトを半死半生にしたヴィラン・・・!

 

 「知らねえ名前だな。そんなんがヴィラン連合の主か?いかにもな偽名しやがって」

 

 「わが主は表に出ることを好みません・・・さてそろそろ、一緒に来てもらいましょうか。ああ、抵抗は無駄ですよ。もう既に、私の霧はこの部屋を覆いました」

 

 ・・・!くそっ!考えが及ばなかった!時間稼ぎをしてたのは俺だけじゃない!妙にぺらぺら話してると思ったらコイツ、部屋の外に霧を展開して部屋ごとワープさせる気だったんだ!

 

 「かなで!捕まれ!」

 

 「はいっ!」

 

 部屋の外から何かが削れるような音が聞こえたと思ったら一瞬の浮遊感とともにズシン、と振動が起きて部屋が着地したような音がした。俺はきつく抱きしめたかなでをいったんおろし、手を握る。行きたくもねえのに虎穴に来ちまった。

 

 「では・・・私はこれで。わが主が直々に案内するようですよ」

 

 黒霧は自分の周りに霧を展開し、消えていってしまった。とりあえず外はともかく中は俺とかなで以外無人だ。。・・・スマホは・・・電波がねえ。転移された時に切れちまってるし、かけることはできないな。

 

 「かなで、俺から離れるな、絶対だぞ」

 

 「お兄ちゃん様・・・」

 

 「大丈夫だ、絶対守ってやる。兄ちゃんを信じろ」

 

 かなでがこくり、と頷いたので万が一のために部屋に隠しておいたサバイバーズキットを引っ張りだし、衝撃でぐちゃぐちゃになった部屋の中から俺の銃と持ち歩いてたナイフ、マガジンを手早く身に着ける。ガントレットとかがねえのが不安だがどうせあってないようなもんだ。自損は覚悟しておこう。

 

 居間を出ると、もう既に真っ黒な闇があたりを覆っていた。・・・地下か、道理で電波が入らねえわけだ。個性を使いながらかなでの手を握り、片手にベレッタを携えて限界まで気を張りながらあたりを警戒する・・・とりあえず・・・誰もいねえか?

 

 「やあ・・・よく来たね。と言っても君たちに拒否権はなかったわけだけども」

 

 バッと振り返る。誰もいなかったはずの背後、俺の部屋があった場所には、何もなくなっており、代わりにスーツを身に着け、頭に呼吸器のような複雑な機械をつけた異形の男が立っていた。音もしなかった・・・俺の部屋がなくなる音も、その男が現れたということも。ワープ?入れ替え?黒霧以外にもそんなことが出来るやつが・・・・!?

 

 「驚かせてすまないね。年を取るとどうも刺激を求めるんだ、まあちょっとした個性の一つさ。さて、改めてようこそ、ジーセカンド、ジーフィフス。僕が、オールフォーワンだ」

 

 そう言った、男の、圧が俺たちを襲った。かなでは過呼吸に陥り、俺も膝をつかないでいるのが精いっぱい・・・こいつが、オールフォーワン・・・・!父さんが本気で怒った、それ以上の圧。俺たちに明確に死を想像させ、気を張ってなければ即座に俺の心を折っただろうその男は、俺たちのことを興味と微妙なイラつきがないまぜになったような空気を放ちながら鷹揚にまた話し出す。

 

 「ああ、すまないね。君たち遠山の一族には何度も何度もやりたいことを邪魔されてね、つい、イラっとしてしまった。この体になってからどうも個性のストックも、感情の制御もうまくいかなくてしょうがない」

 

 体が軽くなる。かなでの呼吸も戻り、俺は脂汗を掻きながらそいつを睨む。片手でかなでを引き寄せ無駄と知りつつも銃口を向ける、向けないと心が折れそうだ。イラついただけでここまでの重圧、こいつが本気で怒ったところなんて想像もしたくもない。

 

 「・・ついてきなさい。ああ、間違っても拒否はしないほうがいいと思うよ。目的の子はジーフィフス。ジーセカンド、君はおまけだ。やろうと思えばすぐに君なんて殺せる」

 

 「だろうな。おとなしくさせてもらうぜ。・・・どこに行くんだ?」

 

 「ふふ、賢明だね。すこし、話をしようじゃないか。お茶はないけど、許してくれたまえ」

 

 「いらねーよ。さっさと返してくれれば一番嬉しいんだけどな」

 

 「君たちの返答次第だとも」

 

 ・・・ケッ!どうせ返す気はないのが見え見えだぜ。消耗したかなでを抱き上げておとなしくついていく。ついた部屋は、モニターがしこたま並んだ部屋だ。その中の一つに雄英の校長と相澤先生が並んだものがあった。ニュースの記者会見だ。俺がさらわれたなんて発表できないから警察に電話を預けて逆探知をかけてもらってたんだろう。

 

 豪華な椅子に腰かけたオールフォーワンが慇懃無礼に口を開く。

 

 

 「さて、君たちに来てもらった理由はだね。御覧の通り、僕はオールマイトと君たちの父親のおかげでひどい怪我を負った。使える個性は減り、こんな不格好なものをつけてなければ呼吸すらままならない」

 

 「なぜ父さんの話が出てくる?」

 

 「ああ、君たちの父を殺したのは僕だ。オールマイトは取り逃がしてしまったけどね。話を戻そう、僕に協力してくれないか?ジーフィフス、君の個性・・・この社会で生きるには大きすぎるだろう?僕に、譲ってくれたまえよ」

 

 

 さらっと出てきた親父の死因、その仇が目の前にいる事実に怒りで頭がどうにかなりそうになる。衝動的に銃を向けそうになるが、ぎゅっと俺の服を握って寄りそう腕の中のかなでを見てすぐに冷めた。今は親父のこととかそういうのはどうでもいい。こいつからかなでを守れれば、俺がどうなったって構わない。

 

 「・・・いやです。この個性は私のもの、それが実験で作られてもこの世界で生きにくくても!私の、私だけの力なんです!」

 

 「そうか、残念だよ。なら、勝手にもらっていこうか。君たちの死体からね」

 

 かなでが強く拒否したのに機嫌を悪くしたのかオールフォーワンはゆっくりと立ち上がり、羽虫を払うように手を振った。俺の体が直観で動く、かなでをかばうように背中を反転させた俺の背に不可視の力がぶつかった。

 

 簡単に俺の体がピンボールのように吹っ飛び、2度、3度とバウンドする。腕の中のかなでを傷つけまいと固く抱き留め、背後の機械群に体の向きを調整し背中から突っ込む。激痛とともに機械にめり込んだ。ダメージはまだ軽い。手足は動く。大丈夫だ、ちょっと口から血が出ちまっただけ。つばとともに吐き捨て、立ち上がる。

 

 「・・・かなで、個性の倍率、あげてくれ。限界まで」

 

 「お兄ちゃん様!でも・・・!」

 

 「言ったろ?兄ちゃんを信じろって。妹の力を受け止めなくて何が兄貴だって話だ。・・・協力してくれ、かなで。お前の力が必要だ」

 

 そのマリンブルーの瞳を涙で潤ませたかなでがなおも何かを言いつのろうとしたが、俺の顔と目の前の敵をみて、覚悟を決めたのだろう。すぐに俺の体がうすぼんやりと光りだした。

 

 体感できる個性の倍率が上がっていく。30、50・・・そしておおよそ70倍で止まった。そこから遅れてドクッとさっきの攻撃によるアゴニザンテに入る。ヒステリアモードの30倍と、かなでの個性による強制ブースト。それが合わさって・・・

 

 

 100倍ヒステリアモードだ。

 

 

 ぱち、ぱち、ぱちとオールフォーワンが余裕たっぷりな様子で拍手をしている。通常のおおよそ3倍の個性とヒステリアモードの頭がオールフォーワンの動作全てを見逃さんとフルに働いていく。勝てはしねえ、生き残るのだってきっと無理だ。でも、あきらめる理由にはなりはしない。

 

 「素晴らしいね、その個性。益々ほしくなったよ。それにジーセカンド、君もだ。さっきのは二人とも殺すつもりだったんだけどね。思ったより君は強いらしい。・・・いい脳無の素体になりそうだ。是非とも原形をとどめておきたいね」

 

 「お褒めに預かっても嬉しかねぇよ。簡単に殺せると思うなよ?さっきの100倍は強いからな」

 

 「だろうね。こんなのも躱せそうだ」

 

 そう言ったヤツが手を振ると同時にさっきはとらえられなかった不可視の力が俺を襲おうとし始める。さっきは見えなかったけど今はくっきりと力の動きが空間のゆがみを伴って俺に両脇から攻めてくる。かなでを抱えながら桜花でジャンプし身をひねりながらやつのほうに顔を向けると、こちらに指鉄砲を構えていた。

 

 視認してすぐに何かがやつから発射され、正確に俺の顔面に迫る。超音速だが、見せた時点で俺は対処を終わらせていた。手に握ったままのベレッタの側面を使って横から殴り発射されたものを逸らす。音速程度なら見てからでも動ける。今の俺ならな。

 

 トッと着地した俺を興味深そうにしながらオールフォーワンが嗤う様子がわかる。様子見どころか完全に遊んでやがる。やはり実力差は大きい、勝てる気なんて微塵も感じない。

 

 「いいね、君の強さは個性だけでなくその修練の果てに積んだ技量だ。実戦経験は少ないけど・・・やはり、欲しくなってきたよ。君を殺すのはやめよう。洗脳でもした方が、面白そうだ」

 

 「勝手に決めてんじゃねーよ。俺はヴィランになんてならんぞ。その前に舌噛み切って死んでやるからな」

 

 「そしたら脳無にするだけさ。・・・・うん、事情が変わったよ。また一緒に、来てもらおうか」

 

 そう言ってヤツが手をかざす、そうすると俺の口から黒い液体が飛び出し、俺とかなでを包んでいく、なんだこれ・・!?どうする気だ!?

 

 「どうやら、また失敗したようだね弔。でも大丈夫。今から私が表に出よう。ちょうど、減ったストックを取り戻したかったところだ」

 

 その言葉とともに、俺の視界は暗転した。

 

 

 ドサッと俺の体が地面に背中から落ちる。そこは建物の一室だった。腕の中にかなでがいるのを確認して一安心した俺は、周りを確かめる。外を見れば警察車両とヒーローが何やらどんちゃんやっているが・・・そこにすさまじい風の砲弾がすべてを抉っていった。まちがいねえ、ヤツがやったんだ。

 

 「かなで、大丈夫か?個性は使えるか?痛いところは?」

 

 「大丈夫です!お兄ちゃん様こそ・・・!」

 

 「俺はいい。・・・クソッご丁寧に鍵かけてやがる」

 

 その金庫のような全金属製の分厚い扉は秋水や桜花だけでは抜けそうもない。大和当たりならいけるかもしれないが反作用で部屋がぶっ壊れるかもしれん。ちっ針金かなんかあればすぐに開錠できるのに・・・・!

 

 

 そう考えてると唐突にまた黒い液体が俺の口から噴き出た。同じように俺たちを包み込み、転移させる。今度はどこに連れていこうってんだ!

 

 

 

 視界が開ける。今度は外だ。風の砲弾でえぐれて大惨事になった建物の跡地に転移させられたようだ。俺とかなでが現れたのに一瞬遅れて、後ろでドサッという音がした。すぐさま振り返りベレッタのトリガーに指を掛けながら銃口を向けると・・・こいつは!

 

 

 「爆豪!?無事だったんだな!?」

 

 「ゲッホ、くっせえ・・・・あ?ネクラ野郎!?てめえなんでここにいるんだ!?」

 

 




なんとなく書きたいところを書けたので個人的には満足ですが、まだ続きます。

次回もよろしくお願いします
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