遠山桜は正義の味方である   作:カフェイン中毒

39 / 60
再装填 肆挺目

 猴が見守る中尾白と向かい合う。尾白と俺が同時に構える。俺はいろんな格闘術をチャンポンにしたオリジナルの構え、尾白は空手の基本的な構えだ。一拍おき、準備ができたと判断した尾白がダンと床を踏み込んで一足飛びにかかってくる。売ってくるワンツーのコンビネーションを片手で払った俺は返す刀でフックを仕掛け、それを尾白が防ぐ。

 

 左の回し蹴りを危なげなく受け止め、同じように蹴りを放つが尾白は身をかがめてよけ、そのまま下段の回し蹴りに移行、しかも尻尾を利用した2段蹴りだ。俺は蹴り足に足首をかけてそのまま上へ持ち上げる。合気の応用で力の流れを変えつつ尾白をひっくり返すようにだ。尾白は流れに逆らわず、そのまま伸びあがり腕の力でバク転しつつ尻尾によるサマーソルトを打ってきた。捕まえてた足を離しつつ半身になってよけてそのまま仕切りなおすようにお互い向かい合う。

 

 なるほどね。尾白は既存の格闘術をベースにしているから尻尾を上手く使えてないんだ。尻尾がある人間なんて格闘術が出来上がったころにはいなかったからな。つまるところ尻尾を使うには体ごと回転するか背面を向く必要が出てくる。それは戦闘中において大きな隙となるだろう。これを猴がどう見るかだが・・・

 

 尾白の正拳突き、上段回し蹴りをかわし、いなしながら尾白の動きを引っ張り出すような組手を続けること10分、まあそろそろいいだろと軽く息の上がった俺と尾白がスマホ前に戻ると猴がうーんと考え込んでいた。どうしたんだ?

 

 「猴?おい、猴!大丈夫か?」

 

 『あい!?ごごごめんなさいです遠山!考え込んでたです!おほん、えーと尾白。尾白はその尻尾をどう思っているですか?』

 

 「なにって・・・個性だから、体の一部っていうかんじですけど・・・?」

 

 『いまの組手を見てると猴はそう思えなかったです。まるで武器を扱うように、ここぞというときだけに放つ重い攻撃手段、そんな感じです。いいですか尾白、尻尾は体の一部、私たちだけに許されたもう一つの手足です。拳や蹴りを放つように、息をするように使える必要があるです。蹴りのついで、背面をむけたついでに使う武器じゃないです』

 

 「息をするように・・・・」

 

 尾白がそう呟いて難しい顔になった。まあ難しい話だ。個性である以上、尾白はそれこそ息をするように動かせるし本人もそう思っていた。けど実際に尻尾を使って戦闘している人間からするとそうじゃなかったと断じられたのだ。悩むのは当然だろう・・・なんで猴まで難しい顔をしてるんだ?

 

 『遠山』

 

 「どうした?」

 

 『猴が雄英に行っても大丈夫ですか?尾白の動きは悪くないです。できれば直接教えたい、です』

 

 猴が指をつんつんつつきながらもじもじとそう提案してきた。そう来たか、尾白を考えるなら是非ともお願いしたいわけだが今は正直状況が悪い、先生方に聞いてみないことには・・・・まあ見る限り尾白はやる気みたいなので聞いてみるだけいいか。尾白と顔を見合わせて頷きあう。

 

 「ちょっとそのまま待ってろ。話してみるから。尾白、行くぞ」

 

 「なんかごめんね。俺のせいで」

 

 「気にすんな。仲間だろ。ほれ、相澤先生のとこ行くぞ」

 

 通話をオンにしたまままだB組が使っている体育館γを開けてB組の視線を受けながら相澤先生のところまで行く。途中物間が食って掛かろうとしていたがエクトプラズム先生の義足の一撃を受けて崩れ落ちた。よそ見してるからだ。相澤先生も俺たちに気づいたのかこっちによって話しかけてくれた。

 

 「遠山に尾白か。珍しい組み合わせだな。どうした?まだB組の使用時間内だ。使いたいならあと2時間は待て」

 

 「いえ、そうではなくご相談が・・・尾白」

 

 「うん。えっと・・・相澤先生、遠山が俺の必殺技を完成させるために人を紹介してくれたんです。今その人に俺の動きを見てもらったんですけど・・・直接教えたいって言ってくれて。だから、その・・・雄英にその人を入れるか俺が外出する許可が欲しいんです」

 

 そう伝えると相澤先生が微妙に反応に困ったような顔をした。今雄英から人を出したくはない。出したくはないのだが入れたくもない。だけど尾白が強くなるチャンスを逃したくないみたいなそんな顔だ。渋い顔をした相澤先生に反応したのかエクトプラズム先生(本体)とセメントス先生が何事かと様子を見に来た。彼らにもかくかくしかじかと理由を説明すると同じく渋い顔になった。さもあらんってかんじだな

 

 「・・・ともかく、そいつと話させてくれ。とりあえずそれで考えてみよう」

 

 「うっす。猴?猴―?まだいるか?」

 

 『あい、いるです遠山。変わってもらってもいいです』

 

 「はいよ。相澤先生、どうぞ」

 

 「・・・遠山、お前の人脈が時々恐ろしくなってくるんだが。改めまして、雄英の相澤です。ヒーローネームはイレイザーヘッド。お噂はかねがね・・・孫さん、でよろしいですか?」

 

 『猴はそんなかしこまられるようなものじゃないです。遠山と同じような感じでいいです。それでです、Mr.相澤、猴に雄英に入る許可をくださいです。尾白、あの動きじゃもったいないです。尻尾の使い方から功夫までみっちり仕込んでやりたいです』

 

 などと相澤先生と猴がごちゃごちゃやってるのをぬぼーっとした顔で眺めているとトントン、と肩を叩かれた。後ろを振り向くとチャイナドレス風のヒーロースーツに身を包んだ拳藤だ。その後ろで相変わらず物間はこっちにこようとしてエクトプラズム先生に制裁されているがそれはどうでもいいとして何の用だろうか?

 

 「必殺技、いいのか?」

 

 「休憩中。それよりもどうしたの?相澤先生に用事?」

 

 「ん?まあそんなとこだ。ほら、俺とかそこにいる尾白って格闘術メインなんだよな。まあそれで雄英じゃない別のヒーローにちょっと頼もうかと思って相澤先生にお願いしてんだよ」

 

 「へー・・・そんなこといいの?」

 

 「イイカワルイカデイエバ、別ニ構ワナイ。必要ガアルナラバ外部ノ人間ヲ頼ノハイイコトダ」

 

 「でもね、今は少し時期が悪いんだ。許可が下りるかどうかは校長次第かな」

 

 エクトプラズム先生にセメントス先生がそう注釈を入れてくれると拳藤は納得したように頷いた。先生二人は指導に戻っていってしまったがまだまだ気になるらしい拳藤が聞いてくる

 

 「それで、頼むヒーローって誰なの?職場体験先の人?」

 

 「いや、外国のやつだ。知ってるかはわからんがモンキーヒーローの孫。知り合いで尻尾あってちょうどよかったからな。向こうも乗り気だし」

 

 「うそっ!?孫って中国のヒーローのチャートだと毎回10位以内にいるあの人!?あたしファンなんだ!いいなあ・・・」

 

 そうなのか。時間あれば猴も組手くらいはしてくれるんじゃねえの?B組とA組が合同でやらない限り一緒に訓練する時間なんてないはずだからな・・・そうすると相澤先生と尾白が俺のスマホをもってこっちに来た。話は終わったのだろうか・・・尾白にとっていい方向に行けるといいのだが。

 

 「遠山、返すぞ。とりあえず話は校長までもっていって今日中に結論を出せるようにする。多分来てもらうことになると思うがな。それとさすがにこの人一人を尾白につきっきりさせるというのは不公平だ。参加自由の講座という形で呼ぶことになるだろう。もしそうなったらお前参加して運営側で手伝え。まあ責任というやつだな。いいな?」

 

 「了解しました。猴も悪いな、いきなり電話してこんなこと頼んじまって」

 

 『いいです遠山。藍幇の上の方からも休め言われてました。ちょうどいいので少しだけ日本で休むことにするです。会ってくれるですか?』

 

 「そりゃもちろん。じゃあ結果聞いたらすぐ連絡するぜ。あ、ちょうどお前のファンと一緒にいるんだ。サービス頼むぜ」

 

 そう言ってポイっとスマホを拳藤に投げる。「うぇえ!?」とわたわたしながら受け取った拳藤は猴をみると顔を真っ赤にして一言「・・・ファンです」と言って黙ってしまった。猴が「名前教えてほしいです」というと拳藤は「け、拳藤一佳、です!」とかみかみで自己紹介した。

 

 猴はいつもヒーロー活動の時にやってるキャラで対応することを決めたのか勇ましい男口調で「じゃあ一佳!いつも応援ありがとな!」と言って「ひゃ、ひゃい」となった拳藤に元に戻って「日本であうのを楽しみにしてるです。遠山、連絡待ってるですよ」と言って電話を切った。猴と孫はキャラが違いすぎるんだよなあ。とりあえずスマホを返してもらって腰が抜けたらしい拳藤を立たせてやる。拳藤は

 

 「絶対講座参加する!だから今日も頑張るんだ!ありがとう遠山!やる気出たよ!」

 

 「お、おう。まあ参加するときはよろしくな」

 

 「うん!」

 

 そう言ってやる気をチャージしたらしい拳藤はふんすと訓練に戻っていった。俺と尾白も顔を見合わせて体育館γから出ていき、尾白はまた自分で自主練するらしいのでちょっとサポート科に用があった俺は尾白とそこで分かれて校舎に入りサポート科を目指す。

 

 サポート科、ヒーロー科に次いで人気が高い科だ。彼らはヒーローではなくヒーローを支える裏方になる道を選んだ。自分ではなく他者を支える立派な心意気だと思う。彼らが行うのはヒーローのサポートアイテムの開発やコスチュームの開発、そしてゆくゆくはデザイン事務所への就職や個人で開発工房を構えることだ。

 

 そして俺が向かっているのは雄英の開発工房、ここでならコスチュームの変更や改造を行い、デザイン事務所・・・俺の場合はジーサードの会社へ申請を通してくれるのだが俺のコスチュームはなんだかんだ言って先端科学兵装の塊だ。弄るにはそれ相応の技量を持つやつかジーサードリーグへ送る必要がある。けどまあ同中出身でそういうやつに心当たりがある俺は早速そいつにいろいろ頼んでみようとサポート科を目指しているわけだ。そんなこんなでサポート科の開発工房・・・に・・・?・・・扉が吹き飛んでやがる。何があったんだ?

 

 焦げ臭いドアを一応警戒しながらくぐると部屋の中にはパワーローダー先生とたしか体育祭の時に緑谷と組んでた発目ってやつ、あと緑谷、飯田、麗日があーでもないこーでもないと話し込んでた。

 

 「どうもっす。パワーローダー先生、これ何事ですか?」

 

 「ああ・・・コイツのせいだよ。君もコス変の件かい?だったら説明書を見せて。許可証もってるからいじれるところは俺がやるよ」

 

 コイツ、と言って発目をその鉄爪で指さすパワーローダー先生、その先では足のラジエーターを強化してほしいという飯田の提案をまる無視して腕にブースターをつけられた飯田が天井に激突するところだった。なんじゃあれ、使われている技術は先端科学兵装並みなのにオーダーに合ってないないんだけど?腕は確か見たいだけど性格がちょっとアレなのかね?とりあえずあっちは置いといて。説明書を見せると読み込んでいくパワーローダー先生がひどく難しい顔をしている。まあきついわなあ。

 

 「これは・・・少し弄るだけでも大仕事だな・・・多分デザイン会社に渡すことになると思うけど大丈夫かい?」

 

 「あー・・・最終的にはそうなりますけどとりあえずこっちでできる所は何とかしたいので。平賀さんいます?」

 

 「彼女と知り合いなのかい?発目ならともかく平賀を知ってるなんてね。どこで知り合ったんだ?いるよ、そこの扉の先だ」

 

 「同じ中学だったんですよ。中学時代から拳銃のメンテもあいつに頼んでますからね。プロになったら一番に仕事頼みたいくらいです」

 

 そう言ってパワーローダー先生が指し示した扉へ向かう。こんこんとノックを入れると「はーい!今行くのだ―!」ととっても元気な女の子の声が響いた。ややもしてガチャ、とドアが開いた。扉の中から顔を出したのは推定身長140cmのミニマム女子高生、中学時代から銃整備士のプロ免許をもつ天才、中学の時からの腐れ縁の平賀文だ。

 

 「あー!とーやまくんですのだ!あややに直接会いに来るなんて雄英にはいってから初めてですのだ?今日は銃のオーバーホールなのだ?」

 

 「おー、悪いなご無沙汰になっちまって。それももちろん頼みたいんだけどよ。コスチュームの改良付き合ってくんね?どっちにしろ会社に戻すんだけどよ、先端科学兵装の塊なんだ。そういうの好きだろ?」

 

 俺がそういうと平賀さんは目を輝かせて元気に笑った。彼女は既存技術を発展させて改良するのが大得意だ。それは先端科学兵装も当てはまる。部屋の隅の初目が開発したものを見る限り新しい技術を生み出すのが発目、技術を発展させて昇華させることができるのが平賀さんだ。世話になりっぱなしだから、尊敬の意味を込めて基本呼び捨ての俺も彼女だけにはさん付けする。俺の拳銃に3点バースト、フルオート機能を付けたのも彼女だからな。たまに不具合が出るがそれもご愛敬ってやつだ。

 

 「遠山くん、彼女は知り合いなのかい?」

 

 「飯田、ぶつけた頭は大丈夫か?俺と同じ中学の出身なんだ。名前は平賀文。物を改造させれば右に出るものはいない、って俺は思ってる。ラジエーター強化したいんだろ?頼んでみたらどうだ?」

 

 「そうなのか・・・俺は飯田天哉!遠山君とは同じクラスなんだ!物は相談なんだが・・・この足のラジエーターを強化してほしいんだ」

 

 飯田がコスチュームの説明書を平賀さんに見せる。平賀さんはちっこい手で受け取ってフムフムと図面を眺めかがんで飯田の足をペタペタ触っている。ややあって彼女は立ち上がって図面を飯田に返した。

 

 「図面によると空冷式のラジエーターですのだ?重くなっていいのなら油冷式と組み合わせて冷却効率を倍にすることは可能ですのだ。どうするですのだ?」

 

 「俺はスピード型なんだ、できれば重くなるのは避けたい・・・どうにかならないだろうか?」

 

 「なるほど、それは問題ですのだ。うーんじゃあ・・・ラジエーターの素材をこの前開発された新合金に変えて、比重の軽い冷却用の油と空冷式でできるだけ軽く作ってみるのだ。これならそこまで重くならないはずですのだ。あややが図面を引くので1日待ってほしいですのだ。そしたらデザイン会社に新しいものを作ってもらうといいのだ~。重心の変化はデザイン会社と応相談、ですのだ。はつめんとどっちを選ぶかはお任せするのだ~」

 

 ポンポンと出される改善案に飯田が驚いた顔をして、考えた末「ああ、頼む」と返事をした。一通り被害を受けたらしい緑谷と麗日がへろへろになってこっちに来た。発目はもう別の機械を弄っていてこちらの話は聞いてない。めっちゃ自分本位だな。

 

 「くけけ・・・発目も天才だが、平賀も別方面でまた天才だ。彼女たちとの縁は大事にした方がいいよ・・・まあ平賀の依頼料は高くつくがね」

 

 「どーせ今は雄英もちなのだ。だから取れるだけとってやるのだ。今後ともごひいきに!ですのだ!」

 

 平賀さんが人差し指と親指で円を作ってにっこり笑うのを俺は久しぶりに見て懐かしい気持ちになるのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。