遠山桜は正義の味方である   作:カフェイン中毒

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再装填 捌挺目

 猴の近接格闘講座、滑り出しは最悪である。みんながみんな微妙な顔をしているわけで・・・きちんとこっちを見てるのは猴のことをあらかじめ知っていた緑谷、尾白、拳藤くらいのもんだ。とりあえず咳払いした猴が自己紹介を終えるとセメントス先生に合図。セメントス先生は頷くとTDLのコンクリを操って猴の前に一つの大きな立方体を作り出した。猴のおおよそ2倍のその立方体に前に立った猴は何事かとこちらを見る生徒たちに向かって語り掛ける。

 

 「・・・今の時代、戦闘は個性に支配されてるです。テレビをつければ必ずヒーローの戦闘がどこかのチャンネルで映り、そしてその個性戦闘に子供たちはあこがれる。いつか自分も自分の個性を使ってこうなってみたいと。けどそれは上澄み、ヒーローの仕事のほんの一部。派手な個性戦が許されるのは開かれた屋外が通例です」

 

 猴が拳をゆっくり構え、ゆるゆるとその立方体に近づける。コツン、とコンクリの箱にぶつかった拳を猴がすっと引く。すると数瞬後まるで内側から崩壊するかのようにコンクリが静かに崩れ落ちた。思わずそれに舌を巻く。おそらく日本でいう鎧徹し、それと中国武術の基本技、発勁だ。俺が使う無寸勁より難しい、動かしながらの脱力と力みの落差を極めに極めた先が今の内側から爆発する衝撃に代わったのだ。

 

 全員が全員目を見開いて目の前で起きたことを信じれないという感じだ。個性を使えば可能なやつらはもちろんいるが猴は物を内側から崩壊させる個性じゃないうえ、訓練を受けている俺たちにはいやでもわかっちまうのだ。いま目の前で行われたことは個性でも何でもないただの技術であると

 

 「わかるですか。個性なしでも人は鍛え上げればこんなことができる。そして今のような技術は()()()()()()()。たとえそれが狭い屋内でも、開けた屋外でも・・・相手と自分の体があれば戦うことができる。猴が今から教えるのは個性抜きの戦い方。武器を使わず己が五体で相対する方法です。雄英でももちろん徒手格闘は習うでしょうが、猴はその一歩先の技術を教えるです。技術は個性だけではなく体の動かし方もしかり・・・きちんとついてくるですよ」

 

 「「「「はいっ!!!」」」」

 

 「いい返事なのです。じゃあまず、猴とみんなで個性なしの組手するです。全員一緒でだいじょぶです。みんなの強さ、猴に見せてください」

 

 要は乱取りか。相澤先生とセメントス先生が生徒を立たせて猴を中心に円形になって囲む。さすがにあんなことをされあ後だともう猴のことを侮ってるやつはおらず全員が全員真剣な表情をしている。俺は残念ながら審判側に回る必要があるため不参加だ。くっそー・・・猴と組手するなんてなかなかできることじゃないんだがなあ。住んでる国違うし。

 

 「じゃあ、全員準備はいいな?・・・はじめ!」

 

 

 初っ端先手を取ったのは猴を呼ぶ理由にもなった尾白と、真後ろにいた庄田だ。どうやら庄田も武術の心得があるようで歩法も悪くはない。庄田が真後ろから拳を、前から尾白が飛び後ろ回し蹴りを放つ。猴はそれを

 

 「勢いはよし、けど攻めとタイミングが甘いです。もう少し息を合わせてみるですよ。咄嗟の時のチームアップ、これもヒーローに必要なものです」

 

 ストンッと足を前後に開脚し、地面に腰を落として両方とも避けてしまった。構えが古流ではあるが多分花拳(ファカン)という拳法だったはずだ。尾白の飛び後ろ回し蹴りが頭上を通過し庄田に当たってしまう、というタイミングで

 

 「おっと、同士討ちに気を付けるです」

 

 なんて言ってそのままねずみ花火のように回転、足で庄田に足払いをかけ手で腰をつかんで蹴りの軌道から庄田を外して優しく投げた。猴を飛び越えて着地した尾白と立ち上がった庄田が構えをとる中遅れて攻めてきたのはカチコチコンビ、切島に鉄哲だ。2人とも男らしく正面突破を選ぶようで意外に気は合うのか、切島がタックルを仕掛け、鉄哲は猴を顔面からぶん殴りに来た。

 

 「おお、息ぴったりですね。攻撃も思い切りがよくて花丸あげるですが、ちょっとまっすぐすぎます」

 

 すでに立ち上がっていた猴は、切島の体を両掌で受けてずらし、体格差があるにも関わらずそのまま止めた。軽く見えたが一瞬足を踏み鳴らし震脚を入れて体を固定したな。鉄哲の拳は顔面をとらえはしたが頬に入った瞬間力のベクトルをずらされて掠るだけに終わる。ありゃ太極拳の化勁だ。止められた切島は猴が受け止めたまま両手の発勁で強く押して飛ばし、鉄哲に衝突させる。続けてきたのは拳藤に常闇、そして飯田。それぞれ掌底、パンチ、蹴りを仕掛けるが見事に猴にそらされる。猴の訓練は実戦形式で徹底的に相手の欠点を自覚させ、それを克服させるか補えるように長所を伸ばしていくのが特徴だ。だから組手の最中でも猴はアドバイスをやめない。何かしらの助言をしながら攻撃をさばいていくのだ。

 

 麗日の捕縛術を逆に捕まえなおして軽く投げ飛ばす。穴田と取蔭、障子も3人の同士討ちを誘発しつつ同士討ちが直撃する前に攻撃をそらしてやって振り回すだけ振り回して転がす。分析に時間をかけ最後に残った緑谷に対しては

 

 「分析力はあるですけど思い切りが足りないです。歩くより走ることが正解の時もあるですよ。有名な言葉にするなら、考えるな、感じろ。というやつです」

 

 と言って最後の締めなのか中国武術の蹴り技にしては派手なことで有名な旋風脚を入れて蹴り飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 「それじゃ、今日はこれで終了なのです。また明日、やるですけど合わないなら途中でやめてもよし。まだ続けたいなら歓迎するです。それじゃ、再見(ツァイチェン)

 

 「「「「「ありがとうございました」」」」」

 

 結局のところ全員今日は猴にクリーンヒットを入れるどころか有効打を与えることが出来ずに終わった。途中から組手形式ではなく俺も混ぜてのフォームチェックや基本的な格闘術の理論に至るまでの総さらいみたいな感じになったけどな。けど雄英の格闘術とはまた別アプローチでの訓練に手ごたえを感じている奴もいるようで多分脱落するやつは出ないだろう。強さに飢えるやつほど猴の訓練に食らいつきに行くはずだからな。

 

 「猴さん、今日はお疲れさまでした。こちらとしては1日やってくれるだけでもありがたかったのですが・・・よろしいのですか?自国のこととか」

 

 「あい、とりあえずこちらでいう仮免の試験くらいまでは猴は休みをもらっているです。面倒見るからにはとことん付き合うのが猴の流儀、中途半端で投げ出すのは逆に危ないです。初めの時に脱落するなら元から合わなかっただけのこと、残った子たちに心血注ぐ。それが師というものです」

 

 なんてことを話しているとみんなが疲れて倒れてる中緑谷が何とか立ち上がってこちらに来るところだった。すげえな緑谷、比較的体力がある飯田でさえ無言で眼鏡を曇らせてぶっ倒れてるのにもうたったのか。ちなみに武術やってる組は猴が比較的厳しく当たったため死に体だ。怪我は一切してないけどな。全部疲労だ。

 

 「えーと、あのちょっといいですか?」

 

 「あい、緑谷。どうしたですか?」

 

 「えっと、その・・・遠山君が電話した時にちょっと出たと思うんですけど・・・僕は今拳から蹴りに攻撃手段を移行してるところで、さっき猴さんが僕に打った蹴り技が気になってて・・・どういうものなんですか?」

 

 「ああ、そんなこと言ってたですね。さっきのは旋風脚、映画とかでもよく見る技です。拳から蹴り・・・(シィ)、わかったです。功夫でよければ猴がちょっとだけお手本を見せてあげるです。必要なら撮っておくといいです」

 

 「ほんとですか!?ありがとうございます!」

 

 緑谷がいそいそとスマホを取り出して撮影モードにしたのを確認した猴がちょっと離れる。ぶっ倒れてたやつらも身を起こして何が起こるのかを見ているようだ。まず猴は拳礼をして構えをとる。少林拳だ。

 

 「功夫の蹴り技はそこまで多彩ではないです。どちらかと言えば八極拳に代表されるように掌打の技の方が圧倒的に多いですが、今の時代残った技はどれも磨き抜かれた実践的なもの。例えば先ほどの旋風脚」

 

 猴が静かに動き出し、きれいな弧をえがく旋風脚を放つ。そこから演舞のように多彩な蹴り技を放っていく、足の裏で真上を蹴り、踵を落とし、膝をあげ、足刀を切る。磨き抜かれた柔軟性と技術が織りなす蹴りのみの演武はまるでそれが一つの芸術作品のようだ。蹴りが空を切る音と猴が足を踏み鳴らす音以外の音が消えるほど、全員がその演武に目を奪われていく。

 

 穿弓腿、前掃腿、提腿栽捶、斧刃脚に連環腿と中国武術の足技がとてつもない精度で繰り出されていく。カメラで撮ってるからゆっくりやっているはずなのにキレだけは全く衰えていない。例えば蹴りの軌道上に何かあってもそれを切り裂いてしまいそうな鋭さがある。

 

 5分ほど演武をした猴はまた拳礼をとって構えを解いた。わっと周りが沸いてぶっ倒れてたやつらが猴の周りを取り囲んでわちゃわちゃやってる。急に囲まれてあわあわやってる猴に口々にすごいだのきれいだっただの言われてお目目がグルグルしてきた猴を助けに俺は歩を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 そうして訓練の日々はあっという間に過ぎていった。猴の講座のおかげで受けたやつの格闘能力は飛躍的に伸びているし、俺も大和や万旗のことについてアドバイスをもらい何とか通常状態でも万旗を使用可能なレベルに持っていけるようになったし、大和も完成が近いだろう。緑谷も発目が開発したアイアンソールと腕のサポーターをヒーロースーツに取り入れ、シュートスタイルという新しい必殺技にたどり着くことに成功した。

 

 尾白も猴のテストを無事クリアし、思ったより合格が早かったという猴からオリジナルの尻尾を使った投げ技を直接伝授されてたよ。ファンだって言ってた拳藤も猴が掌を使う個性ならこれがいいと八卦掌のさわりだけ教えていたりしたしな。

 

 そして仮免試験一日前の今日、やっとジーサードの会社に送った俺のヒーロースーツが大改修を終えて戻ってきた。さすがにぶっつけ本番で機能を使う度胸はないので消灯時間間近ではあるが、相澤先生に頼み込んで機能の確認をやらせてもらっている。

 

 まず第一に俺のスーツは装甲の中にマガジンを入れてそれを電磁レールで手元に送る方式を採用していたが、発目と平賀さんがそれを改造、開発して全く新しいシステムに変えてしまった。まず装甲の中に拳銃弾を特殊繊維でより合わせた弾帯を仕込み、適宜必要数を装甲から出して繊維をカットすることで手元に送り届ける方式に代わる。そしてそれのために作ってくれた専用のマガジン、カッターマガジンを装備した。上着のジャケットも改良され以前よりスムーズに、腕や足が曲がってても弾を届けられるように専用のルートが服の中に用意されている。

 

 これによりフルオート改造が施されている俺の拳銃は疑似的に機関銃に代わるのだ。あの夜発目に平賀さんが嬉々として説明してくれたシステムがこうも見事に完成されてるのは感動を覚えるな

 

 さらに装甲も増えたがその分薄く軽量になっている。そしてその増えた装甲のおかげでまた別の新しいシステムを仕込んでくれたのだ。今俺の体は前のスーツの時にあった装甲はそのままに何もなかったところにも細かく分割された装甲が覆っている。それは俺の体の動きに合わしてフレキシブルに連動し、打撃の際に電磁石で強力にくっついて固定され疑似的な外骨格に代わる。これにより打撃の際に帰ってくる反動が大幅に軽減され、本来なら自損してしまう威力で大和を打ったりしても問題なく体を動かせるくらいには負担は軽減されている。

 

 装甲自体の強度も上がり、スペック上ではマッハ4の衝撃までなら耐えられるそうだ。つまりマッハ4で桜花や天抛、威力を増強させた鷹爪狼牙を放つことができる。ある意味で俺の弱点でもあった「技の威力に装備が耐えられない」というのも解決してくれた形である。

 

 新しく装備に加わった流星刀についても進展があった。専用のアタッチメントを鞘に増設することで背中、腰の後ろ、そして両腰の横につけられるようにできていたのだ。これは確かにジーサードが気を利かしてくれた形になるな。ついでに平賀さんに「名前を付けてあげるといいのだ」なんて言われて、確かに刀は武士の魂と言うしなと納得してしまった俺は遠山の技によく花の名前が使われていることになぞらえてこう名付けることした。

 

 無銘「梔子」・・・・それがこの刀の新しい名前だ。由来は口無しと朽ちなし、口ではなく実力で示すという自戒と長い間地面に埋まり、じいちゃんが40年使いこんでも全く朽ちなかったこの刀への称賛を込めてこう名付けることにした。

 

 総括してベットネームは「八岐大蛇(メタルストーム)」。俺の新しいヒーロースーツだ。多少は重くなったが俺も夏休み前よりはだいぶんフィジカルも成長している。そこまで問題はないだろう。カッターマガジンの調子も良好、テラナでの指定通りの弾数が装甲からきちんと出てきた。フルバースト用の弾帯も同様。電磁石による反動吸収システムも問題なく動いている。これなら明日の仮免試験も怖くはないな。

 

 『遠山、そろそろ時間だ。明日に備えてもう休め」

 

 「了解しました。お付き合いいただきありがとうございました。相澤先生」

 

 

 さあ、明日は大一番だぞ。雄英で習ってきたこととここ10日間で猴に倣い、自分で磨き上げた技術を総結集するときが来たんだ。

 

 俺は気合を入れつつ、着替えるために更衣室へ向かって着替え、明日に備えて睡眠をとるのだった・・・・なんでかなでは兎も角猴まで俺の布団で寝てるんだ・・・?

 

 

 

 

 




 さすがに本編進まなすぎなんでバッサリカットさせてもらいます。

 次回からまた原作に戻る感じなのでほどほどにお付き合いしてくれると嬉しいです
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