というわけで翌日のこと、ヒーロー仮免許の取得試験場である国立多古場競技場へ行くために俺たち1-Aはバスに揺られてる最中だ。試験場と言っても全国津々浦々いろんな会場があり、年2回ある試験の会場の一つというだけで別会場もまたある。B組は同校同士の潰しあいを避けるために別会場に行くということらしい。見事に物間がほっとした顔をしていたのが印象的だった。腹立つけど憎めないんだよなあいつ。
猴は仮免の試験がある今日、俺たちの合格を見届けるためなのか帰る日をちょっと伸ばして明後日にした。「かなでちゃんは見ておくので心置きなく試験に臨むです」とかなでのお守まで買って出てくれてありがたい限りだ。
バスに揺られること結構な時間、相澤先生が到着の合図をくれたのでそれぞれ改良したヒーロースーツを手にした俺たちはそれぞれバスを降りる。前には東京ドーム、いやそれ以上にでかいことで有名な多古場競技場がその威容を見せている。
「試験何やるんだろう・・・はー仮免とれっかな・・・・」
「とるとらないじゃないぞ峰田。とってこい。あとお前らも、この試験に合格すれば晴れてヒヨッ子、受精卵から孵化できるんだ。頑張ってこい」
「おっしゃああ!なってやろうぜヒヨッ子によお!お前ら円陣組んでいつものやるぞ!」
相澤先生の激励にこういう時に頼りになる切島がいの一番に音頭をとって円陣を組む俺たち。なんかこういうの気恥ずかしな、校内じゃなくて校外でやるのは。
「絶対全員で合格するぞぉ!・・・・せーのっ! Plus・・・」
「「「「「「Ultra!!!!」」」」」」「Ultra!!!!」
ん?いま俺たちじゃないやつが混じってなかったか?と円陣を解いた俺たちが後ろを振り向くと帽子を被ったガタイのいい坊主の男子生徒が俺たちの円陣に割り込んでいたのだった。どちら様でいらっしゃる?
「イナサ、勝手によそ様の円陣に加わっちゃダメだよ」
「ああ!しまった!!!どうも大変失礼いたしました!!!!!」
ゴッツン!と地面に頭をぶつけるくらい頭を下げたイナサとよばれった男子生徒・・・なんというか上鳴と切島と飯田を足して極端にしたみたいな感じだな・・・ん?こいつらの制服・・・覚えがあるぞ。たしか・・・士傑高校!東に雄英、西には士傑ありとうたわれる。雄英と並ぶ超難関校だったはずだ。
すでに去っていった彼ら・・・というか夜嵐イナサは雄英の推薦入試をトップで合格したにもかかわらず入学を辞退したことで先生方の間で一時話題となったのだそうだ。ふーん・・・ガタイもよかったし所作からも訓練された動きが伝わってきたからそう驚くことじゃねえが・・・轟を抑えたのか・・・要注意だな。
そうして会場に向かうさなか傑物高校のプロヒーローが相澤先生と知り合いだったらしく、結婚しようだの付き合ってくれだの熱烈な愛の告白・・・というか冗談かを受けている。緑谷の紹介だと彼女はMSジョーク、ヴィランを個性で大爆笑させて戦闘不能にする狂気のヒーローだとか。いろんなヒーローがいるなあ・・・戦闘するだけがヒーローじゃないっていうのがよくわかる。心操みたいなタイプのヒーローだな。
そんなわけで傑物高校の皆さんと一緒に会場に入るとすぐさまヒーロースーツに着替えるように指示が出た。とりあえず相澤先生はこれ以上先には進めないようなので別れ、俺たちはそれぞれ改良を重ねたヒーロースーツに身を包み、試験の説明をする会場に集められたのだった。
「すごい人数・・・」
「軽く1000人くらいいるな。それを収容しちまう会場にも脱帽だがヒーローになりたいやつもここまで多いんだな」
「ヒーロー飽和時代だもんね・・・・」
軽く緑谷とだべってると壇上にすごく顔色が悪いスーツ姿の男性が現れ、ペラペラと原稿をめくり始めた。今にも倒れそうな顔いろをしてらっしゃるけど大丈夫なのか・・・?いろいろ心配になってくるぞ。主に公務員さんのブラック具合とかな。
『えーあー・・はい。じゃあアレ、仮免のやつね、初めて行きます。あー、僕公安委員会の目良です。仕事が忙しくてろくに眠れず人でも足りず・・・今現在もとても眠たい。そんな状況でご説明させていただきます』
ほんとに大丈夫かこの人!?説明の途中でぶったおられても困るんだけど・・・?
『はい、じゃあズバリ今から行うのは勝ち抜きの演習です。合格者は・・・先着100名。ここには1500人弱いらっしゃいますのでざっと10%以下になります』
兄さんが仮免とった時の合格者よりだいぶ少ないぞ!?こりゃ枠の奪い合いが激化してくるな。何をするかでこれからの俺たちの動きも変わる。
『ステイン逮捕以後、現代のヒーロー飽和社会に疑問を呈する向きが増えてきました。まあ個人的にはステインの主張には反対ですが・・・とにかく現在の事件発生から解決までの時間は多くのヒーローの尽力によりヒくくらい迅速になっています。もし君たちが仮免許を取得すればそのスピードの中に身を投じることになる』
ステインの主張・・・英雄回帰論か。代々正義の味方なんて奇特なものをやってきた俺たち遠山家にとっては耳の痛い話だ。無償の奉仕は聞こえがいいが、それは持ってるやつのみができること。持たざる者は多かれ少なかれ対価を求めてしまうのは仕方ないだろう。
『酷な話ですが、その激流についていけるスピードを持たぬものははっきり言ってやっていけないでしょう。なので先着順、スピード勝負の先着100名のみ!で、やることですが・・・コレ』
目良さんが出したのはボールと・・・薄い機械だ。ターゲット・・・か?そしてボール・・・ボールあてか。ただの殴り合いよりよっぽどたちが悪く嫌らしい試験だな。協力しにくくしてやがる。同校同士の潰しあいを誘発しかねないだろう。
『君たちはこのターゲットを3つ、体の露出してる場所につけてください。見えない場所は禁止。そしてこれは攻撃用のボールです。これをターゲットにあて、3つ目のターゲットにあてた瞬間ボールを当てた人が倒したことになります。そして2人倒したものから勝ち抜きとします。えーじゃあ、展開後、配るんで全員にいきわたってから1分後スタートということで」
なるほど、つまりターゲットは当たってもいいライフみたいなもんか。そして倒した判定は相手を脱落させることが条件・・・そしてこれは体の硬さなどの防御系個性や発動系個性も何もかも関係ないフラットかつ過激なルールだ。さて、どうしたもんか・・・と考えてるとズズズズズ・・・と部屋の天井が開き、壁が横に倒れていく・・・展開ってそういうことか!?
現れたのは様々な地形を再現したバトルフィールド・・・無駄に大掛かりかつ金がかかってそうだ。とりあえず俺はどうするか・・・単独行動が無難か?みんなで固まってると誤射に気をつけなきゃいけないせいでこういう時に大活躍する銃が使えなくなっちまう。誤射ってのは危ないからな。意図しないところに当たるせいで失明なんかのリスクを背負うことになる。自分一人で集中できりゃ基本大丈夫だと思うからな。
「飯田、緑谷、俺は単独で行く。チームアップが必要そうなやつらはお前らがまとめろ。多分、いの一番に狙われるのは俺たち雄英だ」
「やっぱり・・・!それなら遠山君も僕らと一緒にいるべきだよ!わざわざ一人になるなんて危険すぎる!」
「いや、確かにお前らといた方が安全なのはそうだろうな。が、お前らと一緒にいると俺の手札が狭まる。誤射のリスクを負うくらいなら最初から単独で動いたほうがいいんだ。それに、多分俺はよく狙われるだろうからな」
「狙われる・・・?何を言っているのかわからないが勝手な行動は慎みたまえ。全員で合格できるようにするべきだ」
「そうなるように俺が離れるんだよ。いいか?俺は体育祭で優勝し、神野の件でもテレビで戦闘を撮られた。外からすりゃスタイルが全部割れたネギ背負ったカモなんだよ。そんなんが一人で歩いている、囮には最適だろ?それに言ったはずだぜ、戦場で多対一は当たり前だって。勝算はあるから心配すんな、じゃあ後でな」
「うん、わかった・・・みんな!チームアップだ!できるだけ一緒にいよう!」
緑谷の掛け声を背に受けて、俺はガジェットを受け取って早速装着する。場所は左胸、右腰、左足。そうして向かう場所は俺の得意とする銃技が最も輝く場所・・・コンクリに囲まれ閉所が多いビル街のエリアだ。あいつらから遠く離れて俺の存在を誇示することができれば、最初の様子見の段階で俺の方に引き付けることができるだろう。
『全員にいきわたりましたのでもうすぐ開始させてもらいます・・・・5,4,3,2,1・・・はじめ!』
開始の合図後すぐさま堀蜥蜴でビルを駆け上り、屋上に入る。地面を見ると・・・いるわいるわ混戦模様の俺と同じヒーロー候補生が。そんで、俺の後ろに3人、横に2人、前に3人と。隠れてるつもりらしいがまだまだ甘い。個性でヒスりつつポリポリ頭をかき、、抜き打ちでベレッタを8発撃ってやる。
「えっ!?」「おわっ!?」「うそでしょ!?」「まじか!?」「痛っ!」「ぐっ!」「なんで!?」「くそっ!」
「どーも、諸先輩方。もう少し気配を隠す方法を学んだ方がいいですよ・・・今、実践なら殺られてましたからね」
複雑に壁を跳弾した弾丸がそれぞれ気配を隠してたやつらのターゲットど真ん中に一発ずつ着弾した。透のおかげで風の吹き方で遮蔽物の先をイメージしやすくいなってたのが功を奏したな。ま、まだ時間を稼ぎたいからボールは使うつもりはねえ。もう少しだけ銃で挑発してやる。
ジャッと見せつけるようにカッターマガジンで使った弾丸分リロードした俺が銃底でがりがり頭をかいてあからさまに挑発してるとさすがにしびれを切らしたのか8人全員がこちらを囲って姿を現した。腹立つのはやってるからよくわかるんだけど俺一人潰すよりほかの人を狙った方がよくない?
『合格者が早速出ました・・・一人で・・・120人!?一気に目が覚めた・・・』
「へえ、早いんだな。雄英だといいんだけどな」
「「「「「無視すんなぁ!!!!」」」」
「ちゃんと見てますよ。なめてんのはそっちだろ」
バチッとデザートイーグルも出して2丁拳銃に、そこからバリバリバリ!と機関銃のように銃を乱射する。ただし、きわめて精密に。先にはなった弾丸が跳弾し、後続の弾とぶつかり続け、軌道を変えて弾丸の檻を形成していく。思わずたたらを踏んで止まってしまった先輩方に最後に仕込んだ弾丸が真後ろで跳弾し、それぞれ首の真後ろを強烈に叩いた。するとどうなるか、強い圧迫を受けた脊椎は一時的に麻痺し運動機能が完全に停止する。ぶっ倒れた先輩方は何が何やらわからない様子だ。
「
「どうして・・・倒していかないんだ?そうすれば君は合格できるのに・・・」
「雄英から先んじてつぶすのは多分恒例なんだろ?じゃあ一番戦闘映像が多い奴ほどよく狙われるよな。そんなら情報戦が終わるまで囮になりゃほかのやつらは多少楽になるだろ。機を見て合格を狙えばいい。一番に意味はない試験ならな」
そう言って屋上を後にする。途中で『30人合格!残り70人ですよ!』という声が聞こえた。60人超えたあたりが後半戦だろう。じゃあ目安はそこだ、それ以上は悪いけど面倒見切れないんでな。
「一人とは余裕だな雄英ぃ!!!」
「おっとあぶねえ」
ビルから出た途端湧いて出てくる他校の群れ。個性を合わせて投げてくるボールをデザートイーグルで迎撃する。初弾からフルスロットルだ。飛んでくる100発以上のボールを軌道計算、当たるやつのみに発砲し連鎖撃ちを併用して後続のボールを次々はじいていく、個性が作用してるやつはどう動くかわかったもんじゃないので四方八方どこに動いでもはじけるようにはじいたボール同士をぶつけて誘導する。
バァッと俺だけを避けるようにボールが通り過ぎ、俺にはかすり傷一つ与えられてない。そろそろ一人くらいとっとくか?腰から2つボールを取り出し放る。そこからデザートイーグルで放ったボールを銃撃する。個性を使用する関係上ボールは結構頑丈だ。スーパーボールのように跳ね回り、近くで様子をうかがっていた一人の生徒に襲い掛かった。
「うわっ!?くそっ!」
「悪いな先輩。もらってくぜ」
そう言って、もう一発発砲、2つのターゲットに当たって跳ね回ったボールをまた反射、最後のターゲットに命中し、先輩は脱落、俺は一人倒した扱いとなる。愕然とする先輩に申し訳なく思いながら、戻ってきたボールをキャッチし迫る軍勢に突っ込んでいく。
『50人合格、残り半分です!』
迫るボールと個性を銃と体技でさばいていく。幸い俺のターゲットは体の前面にあるから後ろはそこまで気にしなくていい。何だったら装甲で滑らせれば解決する。梔子を取り出してデザートイーグルとの一刀一銃へ、目の前に至るボールをマッハ2の桜花で振った梔子で一刀両断、余波の衝撃波が攻撃者を叩く。恐れおののくように逃げるやつが何人かいるがそれが正解だ。
こう言ったら非常に失礼な話なんだが、ここに来てるやつらは俺ら雄英と違って実戦経験が不足している。といっても俺らが積まざるを得なかった理不尽な実戦のことなんだけどな。つまるところその微妙な差だ。力量だけでいえば俺たちよりできる人の方が多いだろう。だが、不慣れな環境、慣れない対人戦、合格人数を絞ったことによる焦りで大部分が実力の半分も出せてない感じだ。まあ多分、俺ら雄英はどこに置かれてもいつも通り実力を出せるだろう。そうしなきゃ死ぬ環境に何度も立ち会ってきたのだから。
デザートイーグルで迫るボールを迎撃し、梔子を振った衝撃波で個性を対処する。結構ばらついてきたな・・・もうそろそろいいか。トン、トン、トンと秋草のベリーショートキックを地面に打ち込み陸奥轟酔の準備をする。幸い飛行可能な個性もちはいないみたいだし全員どうしたもんかと俺を囲って睨みあってる状態だ。そんなことしてる暇あったら別のやつ狙えばいいのにな。
『70人突破!残り30人!』
「よし、行くか。先輩方、お先に失礼します!陸奥轟酔!」
バキン!と最後の秋草のショートキックを地面に打ち込むと、周りで俺を囲っていたやつらはぐらりと傾いて倒れた。もがくように立とうとするやつや揺れに弱い体質なのか嘔吐してしまってるやつもいる。常闇に使った時よりだいぶ威力上げて撃ったからな・・・とりあえず近場にいるやつのターゲットにボールをタッチさせる。すると俺のターゲットが3つ全部点灯し、合格を告げ待機所まで行くように促してくる。
陸奥轟酔で倒れた残りのやつは放置する形になるが・・・ま、運が悪かったと思ってくれ。自分を捨てて仮免の合格を逃したくないからな。俺は案内通りにその場を後にし待機所へ向かうのだった。
仮免取得編って原作の描写があまり多くないから駆け足気味になっちゃうなあ・・・