遠山桜は正義の味方である   作:カフェイン中毒

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再・第十二弾

 梅雨を乗せてノックスを走らせる。パトロールに出て10分ほど立つが特に何か怪しいものもないし、それはリューキュウ側の方も同様。時折「あ!雄英の子!おーい!」みたいな感じで手を振ってくれる人がいるので梅雨が振り返したり俺が振ったりとファンサービスを体験することになった。空から見てる、というか巨大な影を見上げながらノックスを飛ばす。

 

 『いいわね~ヒーローにはファンサービスも重要よ。まあ私はそんなに得意じゃないけどね』

 

 個性「ドラゴン」・・・リューキュウの莫大な人気を支える超強個性だ。巨大なドラゴンにその身を変え空を飛び、爪で切り裂き、パワーで押し潰す・・・Mtレディというヒーローと似通った個性だ。屋内戦に向かない代わりに屋外戦では規格外と言っていい力を誇る。正直かっこいいよな。俺もそう思う。

 

 『エネイブル、ここでいったん分かれるわよ。次を左折して5ブロック先で右折して合流しましょう。この後は高速道路行くからねー』

 

 「了解っす。フロッピー、いったんリューキュウと別行動とるぞ。合流したら高速行くからな」

 

 「わかったわ・・・にしてもノックスちゃん、すごい乗り心地いいのね。もっと揺れるものだと思ってたわ」

 

 「こいつが特別なだけだ。もっとやばいぞバイクは・・・っし、ここだな」

 

 そんな会話をしながら指定された場所を右折する。梅雨は結構しっかり抱き着いてくるので梅雨の体臭というか、さわやかないい匂いがする。俺は割と鼻が利くからこういうのは非常によろしくない。せめてもの救いは押し付けられてる体(特に胸)の感触はつけてる装甲のおかげで一切しないってところだな!正直こんなに女子と密着し続けたことはないので現状とても怪しいのだが・・・何かの拍子にヒスってなんかやらかしたら拳銃自殺ものですね。実弾になったし。

 

 大通りから離れて裏路地みたいなちょっと薄暗い道を飛ばしていると、梅雨が話しかけてきた。

 

 「ねえ、遠山ちゃん。どうして貴方はリューキュウの事務所を選んだのかしら?体育祭の指名を考えるともっと長所を伸ばせるところがあったと思うの。どうしてわざわざ苦手な場所に来たの?」

 

 「そうだな・・・まずトクメンをとったこと。こいつのおかげで俺の移動速度は格段に上昇した。そうすっとどっかでコイツを乗りこなす経験を積む必要がある、通形先輩みたいにな。俺の強みは手札の多さ、誰よりも引き出しを多く確保しておかなくちゃならん。ここまでいやわかるだろ?」

 

 「・・・弱点の克服が、長所を増やす結果になるのね・・・やっぱり、さすがだわ」

 

 なんかいやに今日の梅雨はしおらしいな。声に覇気がない、俺と一緒になってから。チラ見するとパトロールしながらではあるがその横顔は愁いを帯びているように思える。こいつのこんな表情初めて見る。なんとなくいつもより幼く見える梅雨が気になった俺は・・・

 

 「いいたいことがあるなら、言ってみろよ。思ったことをすぐ尋ねる、お前の良いところだろ」

 

 通信はオンのままに、マイクはミュートにする。会話を聞かれるべきじゃない。幸い合流地点まで20分はある。ちょっと話すくらいは問題ないだろう。梅雨は寮に入ったあの夜のように躊躇ったが、ややあって話し始めた。

 

 

 

 「悔しいのよ・・・ねえ、遠山ちゃん。遠山ちゃんは気付いてないかもしれないけど、入学した時から私の目標は、貴方だったの。入学時から強かった貴方に追いつきたかったわ」

 

 「俺が・・・か?俺とお前じゃ方向性が違うだろ?共通点はそんなにないはずだ」

 

 意外だった。クラスの中でもオールマイティに優秀な優等生の梅雨が戦闘一辺倒の俺を目標にしてたなんて。背後で首を振る気配がある。俺は黙って続きを促した。

 

 「そうね・・・私が一番向いてるのは水中戦だもの。でもね、USJのこと、覚えてるでしょう?貴方は脳無の攻撃から相澤先生を守り切り、反撃したわ。私も、緑谷ちゃんも峰田ちゃんも・・・怖くて動けなかったのに。悔しいの・・・何もできなかった自分が。お友達になったばかりの貴方が血を吐いて倒れたのを見て、怖くなったわ」

 

 「でも、お前はここにいる。その恐怖を乗り越えて仮免を取得して、インターンに来てるだろ」

 

 「ううん、今も怖いままよ・・・怖かったけど・・・それ以上に自分が情けなかったわ。だから貴方に頼られるくらいに強くなってやろうって頑張ってきたつもりだった。だけど、努力をすると余計に痛感しちゃうの、貴方と私の差が、どんどん広がって・・・かなでちゃんのことだってそう。私たちは貴方に頼ってはもらえなかった。信用されてなかった・・・貴方は全部一人でやろうとする。何かあるたびに緑谷ちゃんみたいに怪我して、なのに私たちには何も言ってくれない。悔しくて、悔しくて・・・」

 

 そう、だったのか・・・クソッ透の時となんも変わってねえじゃねえか俺は・・・!情けねえ、ああくそ、自分にここまで怒りが沸くとはな。仲のいい奴ほど、俺は問題を押し付けてる、心配させている。信用してる・・・つもりだったのに。そう思わせられてない、それどころか除け者扱いしてると思われてるんだ。

 

 「・・・そうかもしれん、俺は確かに自分やかなでのことを全面的にお前らに明かそうとはしてない。言い訳だが、お前らに危険な目にあってほしくなかった」

 

 「確かに、貴方と比べて私は弱いわ。でも、相談相手くらいにはなれると思ってたの・・・お友達だもの、貴方とかなでちゃんの役に立ちたいの。ただ貴方が傷ついてく姿を見てるだけなのは嫌だわ」

 

 「・・・確信に触れない部分だけ、話してやる。かなでが相手にしてるのは国だ、国家だ。あの子の個性にはそれだけの価値がある」

 

 「ケロッ・・・話して、くれるのかしら」

 

 「根負けだよ。結局俺の独りよがりだからな。ばらそうと思えばクラス全員に明日はなすことだってできる。でもそれをするには俺も、お前らも足りないものが多すぎる。今は雄英にいるから大人しいが、中学の頃は実家にいたころに何度が襲撃だってあった。ジーサードがアメリカで守ってても同じように、いや海外だから規模が大きくなったか・・・とにかく、知っているあらゆる組織がかなでの個性を欲しがってる」

 

 「あのヴィラン連合のボスも、かしら」

 

 「そういうことだ。もう、人体実験の被検体なんてさせたくねえんだ。だからわざわざ雄英付属に入らせて先生たちに守ってもらってる。情報漏洩に備えて最低限の人にしか説明してないし、かなで自身も極力人前で個性は使わせてない。あの子を守るのに必要なのは超法規的な組織力なんだ・・・普通の、女の子なのにな」 

 

 「遠山ちゃん・・・」

 

 自重するように皮肉を言った俺を痛ましげなものを見るように見ている梅雨。なんでこう、雁字搦めになってるんだろうな・・・普通の生活をさせたやりたいだけなのにな。

 

 「正直言うなら、お前に全部話してあの子の理解者になってほしい、とは思う。お前はクラスの中でかなでと一番仲がいいし、扱いがうまいからな。かなでも、隠してることについては後ろめたく思ってるから・・・だから、こう頼む。かなでのこと、できるだけ気にかけてやってくれないか。俺が何かあった時、お前が助けてやってくれ」

 

 「冗談でもそんなこと言わないで頂戴!私は、いやよ。かなでちゃんのお兄ちゃんは、遠山ちゃん・・・貴方だけなの。お願いだからもう・・・自分から傷つきに行かないで・・・」

 

 言葉を荒げた梅雨に押し黙ってしまった俺は、正直どうすればいいのかわからなかった。梅雨としては善意からくるもので純粋に俺を心配してくれてるのだろう・・・けどそれを素直に受け取るには俺もかなでも個性社会の暗部に近すぎる。どうしたって巻き込むんだ。せっかく高校で出来た友人、自分のせいで失うのは嫌だ・・・。

 

 「・・・なあ、梅雨、俺は『エネイブル!?聞こえるかしら!?緊急通報よ!高速道路で暴走車が暴れまわってるらしいの!貴方たちの方が近いわ!すぐに現場へ追いついて頂戴!』了解!すぐ現場へ行きます!・・・フロッピー、話は後にする。仕事だ!飛ばすぞ落ちるなよ!」

 

 「・・・!了解よ!お願いね」

 

 俺が口を開こうとした瞬間、リューキュウからの通信が入った。初仕事だな・・・この気持ちは置いておいて後できちんと梅雨と話し合おう。瞬時に気持ちを切り替えた俺がテラナで現地までのナビを始めノックスを一気に加速させる。ハンドルをいじくってテールの回転灯をつけてサイレンを鳴らしつつ梅雨と一緒に現場へ急ぐのだった。

 

 

 「エネイブルちゃん!多分あのトレーラー!あれが通報のあった暴走車だわ!」

 

 高速道路に入ってノックスのリミッターを解除し青い残光を残しながら車の間をすり抜けつつ加速し続けていると前方に強烈な蛇行運転を繰り返すトレーラーがあった。めんどくさいことにトレーラーのコンテナはご丁寧に窓を開けられそこから突撃銃で武装した幾人かの覆面が何かを叫んでいる。

 

 『そこのトレーラー!武装を捨てて路肩に停まれ!ヒーローだ!抵抗すると罪が重くなるだけだぜ!』

 

 ノックスに仕込まれてるマイクを使って停止命令を出すが返ってきたのは鉛玉だった。ハンドル操作で避けた俺と梅雨が言葉を交わす。

 

 「停止命令無視、ヴィランだな。なんだってこんなことしてるんだが・・・さて、どうするか」

 

 「とにかく銃を何とかしないとダメだわ。遠山ちゃん、私飛び乗るからつけてもらっていいかしら?」

 

 「よし、頼んだ。後ろのやつは俺が何とかするから運転席の方頼む。リューキュウ!現着しました!車種はトレーラー!コンテナ部分を改造し武装を済ませています!実力行使の許可を!」

 

 『許可するわ!私たちももうすぐ着く!危険だと思うならそのまま待機してなさい!」

 

 「危険そうなら待機だってよ。どうする?」

 

 「困ってる人がいる、なら私たちのお仕事よ」

 

 「まあ聞くまでもないわな」

 

 そう言って後ろの梅雨がスーーーッっと周囲の景色に溶け込んでいく。確か梅雨が開発した必殺技「保護色」だったはずだ。すげえな、光屈折迷彩みてえだ。ガントレッドの中から煙幕弾と閃光弾を取り出して握り込む。コンテナの窓は壁を雑にくりぬいただけだ。隙間なんぞ沢山ある。ノックスの加速力に物を言わせて一瞬、近づいて二つの特殊弾を投げ込み、反応してくる覆面にデザートイーグルで威嚇射撃する。自分の顔面の真横にマグナム弾が着弾した覆面どもはひぃ!!と情けない悲鳴を上げて窓から消えた。

 

 「いまだ!行け!」

 

 「ケロォっ!!」

 

 隙をついて限界までトレーラーに近づくと俺の後ろから梅雨がジャンプしコンテナに張り付きペタペタと登って車体の上まで移動していった。ついで閃光弾と煙幕弾が炸裂、トレーラーの中は阿鼻叫喚、悲鳴と誤射したらしき銃声が響き、当たったのか絶叫も聞こえてくる。あーあーあー・・・銃に関しちゃトーシロだな。ってことは裏チャカか・・・

 

 ペタペタと四つん這いでトレーラーの上を移動する梅雨に会わせて俺も前の方に。ダメ押しとばかりに音響弾を取り出してコンテナ内に投げ込んでおく。中は響くだろうから鼓膜くらいはやぶれちまうかもな・・・まあ恨みたきゃ恨め。罪を償った後なら話くらいは聞いてやるよ。

 

 「てめえ!こいつが目に入ったんなら今すぐ・・・・え?」

 

 「すまん、あんまりにも隙だらけだったから先に手が出ちまった。フロッピー!」

 

 「お任せよ!観念して!」

 

 運転席側に俺が近づくと無防備にも片手に拳銃を握った恐らくリーダー格の覆面が窓を開けて片手運転しながら身を乗り出して銃を向けてくるので抜き打ちのベレッタで銃口撃ちしてやると握力が足りなかったのか銃を取り落とす。梅雨が運転席の真上から舌を鞭のように伸ばして男の顎を正確に強打、脳震盪を起こした男は気を失ってしまった。

 

 梅雨はあいたままの窓から運転席に入り込み、目を回してる男の代わりにハンドルを握る。こういう時に備えてヒーロー科では車両のことを学ぶからブレーキとハンドル操作程度は皆できる。実戦で出来るかどうかは別の話だが梅雨は器用に左ハンドルを切って減速し、路肩にトレーラーを停める。そしてそのまま携帯してるワイヤーで犯人を縛りだした。

 

 俺もノックスを停めて三角表示板を取り出して地面に投げつける。ひとりでに組みあがった表示板を確認してトレーラー内へ。やはりというかなんというか耳を抑えたり誤射した部分を抑えたりしたやつらを縛り上げ、その場で応急処置をすます。10人も集めた割にはあっさり終わっちまったな・・・

 

 「エネイブルちゃん!どうかしら?」

 

 「おう、大丈夫だぜ。なあ、さっきの話の続きだけどよ」

 

 「・・・ええ」

 

 「俺はお前らが思ってるよりもお前らのことが大切なんだよ。だから危ねえことには近づかせたくないし怪我させるかもしれねえなら俺が代わりにする。だけどやっぱりきついんだわ・・・あー・・・だからだな、その・・・もう少しだけ、お前らを頼ってもいいか?」

 

 俺が照れて頬をポリポリ掻きながら梅雨にそう伝えると梅雨は少しだけ驚いたように目を見開いてから、まるで雨が上がるような晴れやかで、かわいい笑顔を浮かべてこう返してくれたのだった。

 

 「もちろんよ。だって・・・お友達だもの!ケロッ!」

 




ヴィランども「イチャイチャしてんじゃねえよ・・・ちくしょう」 
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