徒然なる方舟のままに   作:玖神 米利

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 今回は余韻を楽しむために前書きにもって来ました。ご了承ください。




 とある方のリクエストから、サリアとイフリータより
 サリアがサイレンスと仲直りしようと決意するお話


生命を奏でる (完結)
ゆっくり歩くような速さで (サリア・イフリータ)


.

 

 

 

 

「サリア、貴女も来てたのね」

 

 

 

 -いつまでもこんな日常が続くと思っていた。

 

 

 

「サリアー遊ぼうぜ!」

 

 

 

 -でもそれはただの儚い幻想だった。

 

 

 

『第■研究室で火災が発生しました。職員は直ちに避難してください』

 

 

 

 -我目を疑った現実から逃げ出し。

 

 

 

「逃げ出した貴女にイフリータは会わせられない...!」

 

 

 

 -友とは深い溝ができた。

 

 

 

「...サリアと会いてーなー...」

 

 

 

 -そして、守らねばならない存在を守れず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は何をやっているんだろうか...」

 

 そう呟く女性は一つため息をついた。ロドス基地の甲板のベンチで風を感じながらも心中は今もざわついてしまっている。

 太陽に照らされながら女性、サリアは流れていく景色をボーと眺めてしまう。

 いつまでそうしていたのか、何も考えず、いや何も考えたくない彼女は近づいて来た人物に気づかなかった。

 

「何をしているんだ?」

 

「ドクターか。いや何も...」

 

「そうか?」

 

 声を掛けられ漸く誰が来たのか知るが、その声には覇気がなかった。Dr.も不思議に思いながらもベンチへ、サリアの隣へと座った。

 サリアはDr.を気にすることなく、また景色を眺め始める。Dr.もサリアが何を見ているのか気になる、同じ様に眺め始めた。

 十分程経ってから、眺めることに飽きたDr.がサリアへと声を掛けた。

 

「悩み事か?」

 

「ッ...!」

 

 Dr.の指摘にビクリとサリアは体を揺らした。サリアはどうしてと言いたげな視線をDr.に向けた。

 

「サリアは分かりやすいからな。大方サイレンスとイフリータのことだろう?」

 

「...そんなに分かりやすいか?」

 

「ああ、いつも気丈なのにあの二人のこととなるとな」

 

「そうか...」

 

 Dr.は元ライン生命組の事情を知っている、数少ない人間の一人であった。そのためサリアがどうして悩んでいるのかも知っていた。

 ため息をついたサリアは、顔ごと視線を下へと向けた。膝の上で握られる両手が小刻みに震えるの見える。

 サリアは胸の内で葛藤する。Dr.に相談した方がいいのだろうか、それとも巻き込まない方がいいのだろうかと。

 

「...」

 

 Dr.は顔を青白くして手の振るえが体全体に伝播するサリアを見ていられなくなった。

 戦闘では守りに回復、事務では周囲に配慮し作業効率を良くしようと動く彼女にDr.は何かしてはやれないかと、そう思う。

 そして何かを思いついたのか、サリアの下がった頭に手を乗せながら。

 

「ここは一つ、余計なお世話かもしれないが一肌脱がさせてくれないか?」

 

「ドクター...?」

 

 顔を上げたサリアの目は不安に揺れていた。Dr.はそんなサリアを元気づけるように一つ笑顔を浮かべると、頭に乗せていた手でサリアの頭を乱暴に撫で回した。

 

「や、やめろ!? ドクター!」

 

「ハハハ、まっここは一つ任してくれないか?」

 

 サリアは手を振り解き、抗議しようとDr.を見る。Dr.は口元に笑みを浮かべてはいるがその目は真剣そのものであった。

 数瞬の間逡巡するサリア。

 

「頼む」

 

「頼まれましたっと」

 

 サリアはDr.に託してみることにした、それが良い方向に向かうのか悪い方向に向かうのかは分からない。だけど立ち止まってばかりも居られない、そう思うから。

 

「それじゃあ準備出来次第、連絡するから」

 

「分かった」

 

 Dr.はそういい、早々に甲板から基地内へと戻っていった。

 サリアが空を見上げると、嫌味ったらしい程に光輝く太陽に眉をひそめた。

 

 

 

 

 -----

 

 

 

 

 

 それから数日後、サリアはDr.の連絡を受けてとある場所で待機していた。そこは基地内の奥まった角の先の場所にあり、まず誰も通らず人気のない箇所であった。

 Dr.はただ待っていればいい、そうとだけしか言わなかった。

 

「此処に何があると言うんだ...?」

 

 待つこと十分、特に何もなく時間が過ぎていき疑問に思いつつも、サリアはあの日のDr.の目を思い出すと去ることもできなかった。

 さらに数分が経つとカツンカツンと床を蹴る音が響いてきた。サリアは漸く誰か来たのか、もしや何か失敗してやって来たDr.なのではないか、そう思うと待ち疲れがどっと押し寄せてきた。

 ただサリアの予想は外れていた。

 

「え、サリア...?」

 

「っ!? イフリータ!?」

 

「サリア! 久しぶりだなぁ!」

 

 角の先から現れたのは特徴的な角をしたイフリータであった。予想していなかった人物に、サリアは体を硬くした。

 何故どうしてと迷っているうちに、イフリータがロケットもかくやといわんばかりにサリアに突撃した。

 

「ようやく会えた! サリア~」

 

「あ、ああ...。久しぶりだな、イフリータ」

 

 イフリータはサリアの体を両手一杯に抱きしめ、ぐりぐりと顔を押し付ける。初めは戸惑っていたサリアであったが、イフリータの喜びように素直に受け入れ抱きしめ返した。

 

「イフリータ、どうしてここに?」

 

「おう! ドクターがここに来ればいいことあるぞって、あ、でも誰にも秘密だって...」

 

 Dr.との約束を思い出したのか、サリアの腕の中でおろおろし始めた。サリアはあのイフリータが誰かの約束を守ろうとしている、それだけで何故か嬉しくなっていた。

 

「大丈夫だ。私もドクターに呼ばれてここに来たからな」

 

「え、じゃあいいことってサリアに会えることだったんだな...! よっしゃー! サンキュードクター、今度飴やらないとな!」

 

 にししと聞こえてきそうな笑みを浮かべるイフリータに微笑み返すサリア。

 二人は貴重な時間であると認識しており、近くにあったダンボールへと腰掛け語り合った。

 話しているのは基本的にイフリータでサリアは相槌を打ちながら自身のことも少なからず話していた。

 

 二時間ほどだろうか、初めは談笑していたが時間が経つにつれて二人の顔から笑顔が消えていった。話したいことはまだまだある、だけれども無意識だろうが意識的にだろうが避けていた話題に関してであった。

 遂に二人の口が閉じた。

 避けては通れない道である。そしてDr.が今回のセッティングをしたのもそういうことであると、サリアは覚悟を決めて口を開いた。

 

「さ...サイレンスは、元気、か...?」

 

 サリアは覚悟を決めた、だけれどもどうしても口が震えしまう。怖いわけではない、友なのだから。憎んでいるわけがない、逃げたのは自分自身なのだから。ただ、どうしようもなく不安なのだ。

 

「あ、ああ、元気だぜ! めちゃくちゃ、そう、元気元気...!」

 

 イフリータはサリアの負の感情が伝わってしまったのか、わざと明るく告げてきた。

 

「そう、か。そうか...元気、か」

 

「サリア...」

 

 静まり返る通路。サリアはただただ自分が情けなかった、こうなることが分かっていたはずなのにイフリータに心配かけさせてしまったことが。ただ、情けなかった。

 俯くサリアにイフリータは、ただ悲しかった。イフリータの中でサリアは強く気高く、全てから守ってくれるヒーローであった。だからサリアのこんな姿は見たくは無かった。

 

「...なぁイフリータ。イフリータは私が憎くないのか?」

 

「えっ...?」

 

 ポツリと呟いたサリアの言葉に、イフリータは何を言われたのか分からなかった。

 固まるイフリータに、サリアはぽつぽつと話し始めた。自分がイフリータを見捨てて逃げたことを、あの時のことをきっかけに逃げ出してしまったことを。話すべきではない事は伏せて、自分が悪いとでもいうように。

 話していてサリアは漸く気が付く。

 

(私は結局、サイレンスとイフリータに罵って欲しかっただけなんだ)

 

 それは逃げである。そう分かってはいても、望んでしまう。

 サリアはそんな薄暗い感情を持ちながら話し終え、ゆっくりと顔を上げてイフリータを見る。イフリータは涙ぐんでいた。

 サリアがギョッと驚くが、サリアが何かを言う前にイフリータは声を張り上げた。

 

 

 

「俺がサリアを憎んでるわけねーだろ!!!」

 

 

 

 呆気に取られるサリアにイフリータはボロボロ涙を流しながら言葉を続けた。

 

「俺には難しい、ことはわかんねー。けど、けどな、『家族』であるサリアとサイレンスが、喧嘩してるのは嫌なんだ...」

 

「イフリータ...」

 

「あそこで、俺に良くしてくれたのは、二人だけなんだよ。二人だけなんだよぉ! だから家族だって、そう思ってたのに...」

 

「イフリータっ! すまない、本当にすまないっ!!」

 

 イフリータの慟哭に、サリアは強く抱きしめた。

 

「サリアぁ...」

 

 泣き続けるイフリータに服が濡れるのを構わず、強く、強く抱きしめた。

 サリアの中には先ほどまでの薄暗い感情はなくなった。だがそれと同時に激しい後悔が胸の内を支配した。

 自分は一体何をしていたのか、幼い彼女を苦しめていただけではないか。そう、後悔するものの時は戻ってくれはしない、ならば前へと進むのみ。例え彼女に嫌われようとも。

 サリアはそう決意した。

 

 

 

 二人で一頻り泣いた後、抱きしめあっていた手を緩め離れた。そのさい、イフリータはサリアのベルトにサイレンスの贈り物が着けられているを視界にいれた。

 

「サリアは、サイレンスと会うことあるんだよな...?」

 

「ああ、そうだが...」

 

 サリアは不思議そうにするイフリータに首を傾げた。イフリータは自分が身に着けている、サイレンスの贈り物を手に取りサリアへ見せた。

 

「たぶんサイレンスもサリアのこと嫌ってない、と思う...。だって、サリアにあげた羽飾りを着けてるの許してるもん」

 

「...!」

 

 イフリータに言われて漸く気が付く。あの口下手のリーベリは直接口では言わず、親しい心を許したものにだけ自身の羽飾りを贈っていることを。

 サリアはサイレンスの羽飾りを片時も離していない、だから会うたびに口論になっているときもサイレンスは気づいているはずなのだ、自分が贈った羽飾りを。

 

「ああ、ああ! ありがとうイフリータ!」

 

「わっぷ!? ど、どうしたんだサリア?」

 

 自分はいつも気が付くのが遅い、でもまだ手遅れじゃない。そう確信を得られたサリアは喜びのあまりイフリータへと抱きついた。

 訳が分からないイフリータであったが、サリアの笑顔にイフリータも嬉しくなった。

 

「イフリータ、私はサイレンスと仲直りする。絶対にだ」

 

「ほんとか!?」

 

「ああ! なんなら指きりしようか?」

 

「絶対だかんな!」

 

 ロドス基地の奥まった通路の先、そこで指きりげんまんの声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サリアとイフリータ、二人の声が響く角の先に二人の人物が耳を澄ませていた。

 

「これでもまだ許さないつもりか? サイレンス」

 

 黒のジャケットに身を包んだ男、Dr.は隣にいる女性に問いかけた。女性、サイレンスは嬉しいような怒っているような、変な顔になっていた。

 

「...許すつもりはないわ」

 

「そうか...」

 

 ダメだったか、と頭を掻くDr.だがサイレンスは言葉を続けた。

 

「でも、少しは考えてみる...」

 

 ぽつりと溢したサイレンスの言葉にDr.は漸く一歩、歩き始めることができたことを実感する。

 

「じゃあ私は行くから」

 

 心中の感情のうねりに耐え切れなかったのか、サイレンスは早足でその場を去った。

 Dr.は去っていくサイレンスの背に言葉を投げかけた。

 

「...ああ。今はそれでいい、ゆっくり歩くような早さでいいんだ。焦ることはない、時間はあるのだから」

 

 

 

 

 

 

 .

 

地の文の『ドクター』はどっちがいいですか?

  • 『ドクター』
  • 『Dr.』
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