警備をしているクーリエと一緒にいるプラマニクスにドクターが差し入れする話
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ロドス・アイランドが積雪のために一日休日となった当日。もちろん最低限、基地を維持するために従事しているスタッフはいるが。
昨晩、雪見酒を堪能したドクターであったが、朝日が昇ると同時に起床していた。
「ん~、早起きした甲斐があった」
自室の窓から外の景色を眺めると、夜の間に積もった雪が朝日を照り返しており光のキャンパスのようになっていた。
ドクターは一つ伸びをすると、コーヒーを淹れようと窓から離れようとした。が、チラっと視界の隅で人影を捉えた。
「あれは、クーリエ?それと...プラマニクス?」
自室から見える搬入口の一つに立っており、どうやら自主的に警備に就いているようであった。ただプラマニクスが一緒にいる理由が分からない。さらにいうとイスを持ち出していることも。
「...ふむ」
ドクターは窓から眺めつつ、顎を擦る。そして何かを思いついたのか、指を鳴らすと自室から退室していった。
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朝日が少し昇った頃、晴れていた空が次第に曇り空に変わってきていた。警備を行っていたクーリエは、朝日でしかめていた表情を和らげた。
「これは、降ってきますね...」
重苦しい灰色の空を見上げながら、ポツリと呟いた。
隣でイスに座ってるプラマニクスは、反応することなく持ってきていた棒針で編み物を編んでいた。
それから暫く、どちらも口を開くことなく時間が過ぎる。口から白い息が漏れるなか、二人の後方から足音が響いてきた。
「やぁクーリエ、プラマニクス。おはよう」
「ドクター、おはようございます」
「...おはようございます」
「朝早くからどうされたんです?」
足音の主はドクターであった。二人に声を掛けたドクターは、手には水筒とコップを持っていた。
クーリエは何故ここに来たのかと首を傾げた。
「差し入れにコーヒー持って来たんだけど、飲むかい?淹れ立てで温かいよ」
寒い中、自主的に警備に従事している二人(一人は違うのだが)にドクターは差し入れを持って来たのである。
ドクターからの心遣いに、クーリエは顔を綻ばせた。ただプラマニクスは、コーヒーを飲んだような苦い顔をしていた。
「大丈夫、嫌な苦さを出さないような淹れ方をしたから」
「本当ですね?」
「ほんとほんと」
プラマニクスは別の機会のときに、ドクターから差し入れられたコーヒーを飲んだことがある。そのときはドクター好みの眠気覚まし用濃いブラックだったため、口に合わず盛大に顔をしかめた。
ドクターもそのことを分かっているため、今回持って来たコーヒーは一工夫してきていたりする。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「...ありがとございます」
コップにコーヒーを注いだドクターは、二人へと手渡した。淹れ立てのコーヒーからは湯気が立ち昇っていた。
コーヒーを受け取ったクーリエは一嗅ぎした後、口にした。
「香ばしさ、それに随分マイルドですね」
「かなり気を使ったからね。豆を粗くしたり軟水使ったり、温度もね」
「お店に出せるレベルですよ」
クーリエはコーヒーを気に入ったのか、ドクターを褒め立てた。少々強張っていたドクターは、クーリエの言葉にホッと一安心する。その後、クーリエとドクターはコーヒー談議に花を咲かせた。
その様子をぼけっと見ていたプラマニクスは、視線をコーヒーに落とした。暖かい湯気と共に、コーヒー特有の香りが鼻腔をくすぐる。
「ん...。苦、い...?」
一口飲んだプラマニクスは眉間に皺を一瞬寄せたが、目を瞬かせて首を傾げた。
苦いことは苦いのだ、ミルクも砂糖も入っていないブラックなのだから。けれども今回のコーヒーには、舌がひりつく様な嫌な苦さがなく酸味も少なく感じた。
プラマニクスは二口三口と、続けて口にするが顔をしかめることはなかった。
「どうだいプラマニクス」
「...このコーヒーは好きです。スッキリ?しますね」
「よかったよかった。前回のでコーヒー嫌いになられたら、悔やんでも悔やみきれないからね」
「これと比べると、前のは泥水でしたよ」
「ドクター、なんてもの飲んでるんですか」
美味しそうに、とまでは成らずともコーヒーを気に入ったプラマニクス。クーリエとドクターが軽口を言い合うのを、どこか遠い目をしながら眺めていた。
そうこうしている内に気温がさらに低くなったことを感じたプラマニクスは、両手で包んだコップの暖かさを感じながら空を見上げた。
「降ってきましたね」
「やはりですか」
「おー寒い寒い。炬燵を全部出しておいて正解だった」
はらはらと疎らな雪が空から降ってくる。寒さに慣れていない厚着をしたドクターは、両手を擦っているが、雪国出身の二人は自然体で空を眺めていた。
ただドクターは、プラマニクスにどこか哀愁を感じた。
「プラマニクス、どうかしたかい」
「...久しぶりに雪をみたせいでしょうか、昔を思い出すんです」
「昔というと、ロドスに来る前のことかい?」
「いえ...。それよりももっと古い時のことです。私とあの人、兄がまだ家族であった頃を」
プラマニクスの言葉に、クーリエはハッと息を呑んだ。
プラマニクスとその兄、シルバーアッシュには確執がある。カランドの巫女を選抜する儀式を行うときに、プラマニクスは儀式の参加を拒否した。
だがシルバーアッシュは家の再興に利用できると踏んで、プラマニクスを半ば無理やり儀式へと参加させたのである。
そのような経緯もあって、プラマニクスとシルバーアッシュとの間にはとても深い亀裂が生じてしまったのである。
「ふむ...。こう大きな家で、暖炉の前で編み物をしているプラマニクス。そして近くで読書を楽しむシルバーアッシュ、元気一杯なクリフハートに振り回されるクーリエ。そこにお菓子を焼いてきたマッターホルン。ここまでは想像できたぞ!」
そんな少々重い空気の中、ドクターの口から出たのは場違いともいえるものだった。家族団欒、いいないいな!とドクターは、どこか浮かれている様子である。
そんあドクターに、二人は呆けてしまう。特にクーリエは困惑も大きく、何を言えばいいのかと迷ってしまう始末だった。
「ふふっ」
ただ困惑しているクーリエを他所に、プラマニクスはくすくすを笑いを漏らした。ドクターが的確に過去実際あったことを言い当てたからなのか、それともそんな未来があったかもしれなかったのか。
「おかしかったかい?」
「いえ。ただありそうだなって、在り得たかもしれかったのかなって...そう思っただけです」
プラマニクスは、しんみりとした声でぬるくなってしまったカップの中を覗いた。
家族団欒とはプラマニクスにとって既に過去のものだった。家というものに取り憑かれているとしか思えない、そう思うと自然と視線が下がってしまう。
「ああ、確かに先のことを考えるとクリフハートはもうちょっと落ち着いてるかもしれないね」
「...え?」
「年齢を重ねて経験を積むと、自然とそうなるものなんだよね。...例外はいるけどさ」
顔を上げてドクターを見るプラマニクスであったが、ドクターは呑気にコーヒーを飲んでいた。プラマニクスは困惑を隠しきれないままクーリエを見るが、何かを悟っているのか苦笑してるだけであった。
「あの、ドクター...。先、とは...?」
「ん?『今』は無理かもしれない、だけど未来である『先』はまだまだ分からないだろう?」
ドクターは事も無げに伝えた。
確かに未来ではどうなっているのか分からない、だがプラマニクスの中には、また裏切られてしまうのではないかと不安もあった。
「大丈夫さ」
「ですが...」
期待と不安に瞳が揺れる。
「クーリエがいる」
「無論です」
胸を張り答えるクーリエ。
「マッターホルンも大分気に病んでいたよ。それにクリフハートもいる」
指を折りながらつらつらと上げていく。
「まだまだ居るぞ、ロドスの皆もそうだ。もちろん私もね」
「ドクター...」
「君たちはここに来てから変わってきている。そうだろう?」
「...はい」
不安に揺れていたプラマニクスの瞳は、しっかりとドクターを見据えていた。ただ、嬉しいのにどこか泣きたくなるのを我慢するために視線を外へと向ける。
ドクターとクーリエも釣られるように、意図してプラマニクスを見ないように雪が降りしきる外へと向けた。
「ん~、大雪だな」
「これでは明日も業務に支障がでそうですね」
「それは困るんだけどなぁ~」
はらはらと落ちるのは外の雪なのか、はたまた...。
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このシリーズの次話からはちょっとギャグっぽくなる、かも?シリアスちっくにはなりません(宣言
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