徒然なる方舟のままに   作:玖神 米利

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『お茶請け』を『お茶漬け』と読み間違えた人が2名いますが、お茶請けはお茶菓子のことです。


1話完結の短編
ゆるふわクルース (クルース)


.

 

 

 

「やっぱりドクターの執務室は落ち着くよねぇ」

 

 Dr.の作業室にあるソファーに寝転びながら、ダラダラしているクルース。ソファーの前にある机には、コーヒーとお茶請けがあり時折クルースがそれを摘んでいる。

 部屋主であるDr.は、クルースに構わず作業に没頭している。

 カリカリとペンを走らせている音とポリポリと齧る音が室内に木霊する。

 

 Dr.は長時間の事務作業で集中が切れると共に、体の節々が痛むことに気がついた。伸びを1つすると、体中からパキポキという音が鳴る。

 余程、長時間の続けていたのか肺の奥深くから吐き出したため息は重い。イスに浅く腰掛け直し、ゴーグル越しの目はどこか虚ろであった。

 

 虚ろな眼差しで正面に位置しているクルースを眺める。ソファーに座りお茶請けを頬張りながら、左右に体を揺らしている。

 メトロノームのように揺れる耳に目が行く。右、左また右と結ばれたもみあげと共に大きな耳が揺れる。

 

「ドクタ~、こっちこよ?」

 

 視線に気がついたクルースが、自身の隣のスペースを叩く。誘われるがままにDr.は、クルースの隣へ身を投げ出すように座り込む。視線は以前として耳へと注がれているが。

 見詰め合う2人だったが、クルースが何かに気づいたように立ち上がった。

 首を動かす気力もないのか、視界から外れたクルース(耳)を見るのをやめて天井を眺め始めた。働かない頭では思考が働かない、天井のシミを数えるだけで精一杯だった。

 

「おまたせ~。はいドクター」

「...あ、ああ。ありがとう...」

 

 戻ってきたクルースにも、一拍置いてから気づくありさま。手渡されたのは一杯の温かいコーヒー。

 

「砂糖多目に入れたからね~。疲れたときには糖分だよ」

「助かる」

 

 受け取りまず手のひらで暖かさを感じてから口をつける。コーヒーにしては少し甘ったるい、けれども今のDr.にはちょうど良かった。

 一口一口を堪能しながら飲んでいくと、クルースがお茶請けをDr.の口元に差し出してきた。

 微笑を湛えたクルースと摘まれたお茶請けを交互に見るが、未だに脳内がゆるい状態のDr.はお茶請けを食べた。

 

 食して飲む、それを2度3度とお茶請けをクルースから食べさせて貰っている。

 コーヒーを全て飲み終える頃には、残っていたお茶請けも全てDr.の胃の中へと収まった。

 少しながらも食したことでなくなった空腹感と糖分によって活性化した頭だったが、事務仕事の疲れに襲われ欠伸をかみ殺した。

 

「くぅぁ...」

「眠いの?ドクター、はい」

 

 差し出されたのはクルースの太もも、どうやらDr.を寝かせようとしているようであった。Dr.は一瞬考え込むが、クルースによって体を引き寄せられると成すがままに太ももへと収まった。

 Dr.はフード越しから伝わる、ちょっぴり高い体温と柔らかさに目蓋が下がり始めた。せめてもの反撃(?)にクルースの頭へと手を伸ばした。

 

「やっぱりドクターは変わらないねぇ」

「...記憶がないのにか?」

「うん」

 

 大きな耳と柔らかい髪を撫でる。クルースは暫く撫でられていたが、次第に自分からDr.の手に擦り付けるようになった。撫でてほしい所、主に耳を撫でて貰いご満悦な表情である。

 5分ほど続いたが、Dr.の手の動きが緩慢になるとクルースの頭の上からずり落ちた。

 クルースは優しくDr.の手をとると、楽な位置に置いた。

 

「寝ちゃった、かな?」

 

 Dr.の顔を覗き込んで、寝たことを確認する。

 

「ドクターは何も変わってないよ~。1人で頑張るところや、頭の撫で方とか」

 

 微笑みながらやさしくDr.のフード越しの頭を撫でる。

 

 

 ゆっくりと、ゆっくりと、Dr.の存在を確かめるように。

 

 

 

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