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蘭々と照明が照らすどこかの医療室の一つ、手術台の上には一人の男が手術衣姿で横たえていた。
その手術台を挟むように、全身黒色の衣装を纏い側頭部に角を生やした女性と白い白衣の上に黒いコートを着ている男性が立っている。
手術台の上の男が起きるのを待っているのだろうが、この部屋の中で異質なのは二人の男の顔が同じなのだ。似ているという次元を通り越して瓜二つなのである。
「眩しい...」
「起きたか、体調はどうだ?違和感はないか?」
「Dr.、いえ大丈夫です」
起きたばかりの目に照明の光が入り、眉間を険しくさせながら男がゆっくりと手術台から立ち上がった。
ふらつく事もなく、しっかりとした足取りで床を踏み締めるとヒヤリとした冷たさが足元から駆け上がった。
冷たさはそのまま背筋を通り、男は身震いすると直ぐ横に置いてあったスリッパを履いた。
「手術は成功のようだな」
Dr.と呼ばれた男性が手鏡を差し出しつつ言った。
手術台から立ち上がった男性は、適度体を動かしながら鏡を見つつ自身の顔を確認し触りだす。
「不思議な感じです。自分なのにDr.の顔になっているなんて」
ぺたぺたと触り、右へ左へ顔の角度を変えつつ鏡に映った不思議な顔をした自分を見つめる。
「本当に良かったのか...」
低い声で悔恨を滲ませつつDr.が問いかけるが、男は朗らかに笑いながら受け流した。
「今更ですよDr.、後悔もしていませんしむしろ嬉しいぐらいです」
「...嬉しい?」
「ええ、これで漸くDr.に恩を返せるのですから」
「今までのお前の活躍で十分返して貰っているさ。だが、ありがとう」
浮かない顔と晴れやかな顔、対照的な二人はお互いを称えるように抱擁した。浮かない顔の男は背を数度叩き、晴れやかな顔の男はしっかり抱きしめた。
「でもDr.良かったんですか、アーミヤちゃんやケルシーさんに何も言わずに」
抱擁を解き、Dr.に問いかける。
「ああ、知っている人物は少ない方がいいからな」
男としては、家族のように思っている二人には事情を伝えるべきだと思うのだが、覚悟を決めた顔で返答するDr.に何も言えなくなってしまう。
固い表情になった男に気づいたDr.は、表情を緩める。孤児だった男を保護した時は、周りに警戒心むき出しだったあの男が、と。
「特にアーミヤは繊細だ、教えても背負い込んでしまう。ケルシーは聡い、恐らく何かをしようとしているぐらいは気づいているだろうな」
男に注意しつつも、Dr.の胸のうちは穏やかであった。心根が優しく、これからすることがあったとしても家族同然のロドスを任せられると。
労わる様に肩を叩きつつ、注意事項を挙げていった。
「ケルシーはまぁ大丈夫だろう。だがスカジとレッドには気をつけろ。勘と臭いに鋭いからな」
「ええ、よく分かります。特にレッドの嗅覚には助けられましたから。といっても、ですが」
「最後になる語り合いなんだ、細かいことは気にするな」
苦笑しつつ業務事項であっても、Dr.との語り合いに花を咲かせる。
Dr.に拾われた事、お互いギクシャクしつつも距離を縮めようと頑張った事、新天地のロドスで一悶着あった事などなど、今までのことを思い返すように。
一時間ほどだろうか、十分に語り合い会話が途切れた。それを見計らった女が二人へと声を掛ける。
「『Dr.キング』、『ルーク』そろそろいいかしら」
「『W』、そうだね」
「すまないな」
「構わないわよ。最後になるかもしれないんでしょ...」
Wは二人の事を思い、もっと語り合わせるべきだったとそう思ったのか顔を暗くする。手術衣の男、ルークがWに近づき抱擁した。
視線を落としていたために、気づかなかったWが驚愕するが素直に受け入れて抱きしめ返す。
「ありがとうW。でも大丈夫、やり遂げてみせるさ。Dr.もWも居るしね」
「...馬鹿ね、ほんと」
小さい頃にWもDr.に治療してもらい、ルークには心を救われた。今まで救われてきたばかりの自分が漸く恩を返せると、そして無条件の信頼に応えたいと決意を新たにする。
息子のようなルークに、娘子のようなWに涙ぐんだDr.は感極まり二人を包み込むように抱きしめた。
「うわっ!」
「きゃっ」
勢いが強すぎたのか、二人の踏ん張りが利かずに三人して床へ倒れこんだ。謝るDr.にルークとWは顔を見合わせると笑い合い、Dr.も釣られる様に笑い始めた。
笑い、笑い、笑う。これからの不安を吹き飛ばすように、これからの未来に希望を見出すように。
笑いすぎて涙目になった三人は立ち上がり、意を決する。
「それじゃあルーク、これを着て手術台に」
「分かりましたDr.」
Dr.から手渡されたのはDr.と同じ着衣であった。白衣に黒のコートと頭巾、そしてバイザー。
全てを着込み、手術台へと再び横になる。
「ルーク」
「ありがとう、W。Dr.のことを頼むよ」
「任せなさい」
Wから手渡されたのは、水の入ったグラスと白い錠剤。受け取ったルークは錠剤を水で流し込んだ。
「記憶を消す薬、治療薬もあるしショックで戻ることもある」
「大丈夫ですDr.のことは信頼してますから」
バイザーによって顔が隠れてしまっているが、恐怖を一切感じさせない声音でむしろDr.のほうが安心させられた。
副作用の眠気が徐々に徐々にルークの意識を遠くする。
「行ってきます。『父さん』、また、あい、ま、しょ...」
「っ!ああ、いってらっしゃい、『息子』よ」
深い眠りに落ちたルークに、最後の別れが聞こえたのか、それは記憶を取り戻した本人にしか分からない。
「行こうか、W」
Dr.は別の衣装へと着替えていた。それはWと似たもので黒と赤を基調としたものだった。牛のような仮面を被り、側頭部には角が取り付けてあった。
「私には娘って言ってくれないの?『お父さん』」
「ふ、そうだな。行こう『娘』。オペレーション『Castling』、始めよう」
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記憶のない人間は本人であると証明する術はない。
という発想から、あのドクターは本人なのか?と始めた当初から疑問に思ってました。まぁそんなことないんだろうけどね。
一応連載のプロローグ的なのですが、こんなん続けられるわけがねぇ!
色々考えている裏設定なのもあるけど、続けないから別にいいかなと省いてたり。
誤字訂正
最神話→最新話 (神話じゃ)ないです
評価くだちぃ