解釈違いの方はお戻りくだされ
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「ドクター!アーミヤー!」
「グラニか、走ると危ないぞ」
「もー子供じゃないんだから大丈夫!」
通路上で話し込んでいたDr.とアーミヤを呼んだのはグラニであった。小走りで駆け寄りDr.に注意された。膨れ面を作るも、すぐさま笑顔に変わる、互いに冗談だということを分かってやっているようだ。
「ところでグラニさんはどうしたんですか?急いでいたみたいですけど」
「そうそう、滴水村に行こうと思って声かけたんだ。近々移動しちゃうでしょ?そうなると簡単に顔出せなくなっちゃうからね」
「なるほど、そういうことでしたか。そうですね...」
近々の予定を思い出そうと顎に指を当てて考え込む。そわそわと落ち着きがないグラニに、アーミヤが答えるよりも先にドクターが口を挟んだ。
「行って来ていいぞ」
「いいの!?」
「ドクター?」
喜ぶグラニに、本当に良いのかと問いかけるアーミヤ。どうやらグラニに任せる仕事があったようで、その確認の意を込めたものだった。Dr.もアーミヤの問いを分かった上で、グラニを促した。
「次会うまで時間が掛かるからな、確り顔を見せて来い」
「ありがとう、ドクター!アーミヤ!」
グラニは手を振り来た時と同様に小走りで走り去っていった。それを見送ったDr.は、アーミヤから書類を受け取ると今後の調整について確認し始める。
あっけなく見送ったDr.に困惑しているアーミヤが問いかけた。
「よかったのですか?仕事の方もですが、
「グラニの仕事はそれほど多くないし、こっちで再度振り分ければいい。揉め事の件も問題ない」
「大丈夫でしょうか」
「ああ、『彼氏面』が、っと噂をすればほら」
「『彼氏面』...?」
Dr.が示した方向、グラニが来た通路とは反対側から蒼色の衣装に身を包んだ人物が近づいてくるのが見えた。
その人物は真っ直ぐと二人の下へと歩を進めると、ただ一言問いかけた。
「グラニは?」
蒼い衣装の人物はスカジであった。そして今日も今日とで極端な物言いで、意図が分かり辛い。本人としてはこれで十分なコミュニケーションだと思っている辺り、尚性質が悪い。
Dr.は初めから何を聞きたいのか理解していたようだが、アーミヤは困惑しつつも言葉を噛み砕き漸く理解する。
「えっと、グラニさんならあっちに」
「そう」
恐る恐る、グラニが駆けた方へと指すとさっさと歩き出した。スカジが聞きたいことを言い当てたことにほっと胸を撫で下ろすアーミヤだが、Dr.が一声掛けた。
「滴水村に行くと言っていたから用があるなら急いだ方がいいぞ!」
Dr.に言われるや否や、スカジは駆け出し直ぐに見失った。
満足げな雰囲気を出すDr.に、呆気にとられるアーミヤの二人であった。
「『彼氏面」ってスカジさんのこと...?」
「そうだぞ。あとスカジは『グラニの話をしていたみたいだけど、何かあったの?』と言ったんだぞ」
「普通分かりませんよ!?何で分かるんですか?」
「ふっふっふっ、指揮する上で理解する必要性があったんだ、そうあったんだよ...」
「...お疲れ様です、ドクター」
哀愁を漂わせるDr.に憐憫の目を向けるアーミヤであった。
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Dr.とアーミヤと別れたグラニは、ロドスの移動基地から既に降り立っていた。側らには栗毛の馬が一頭おり、鞍と轡を装着していた。
馬はグラニが管理飼育しているようで、装着している最中にもグラニに顔を寄せていたりと愛情深いことが伺える。グラニも馬を大事にしているようで、笑顔で時折撫でたりおやつをあげたりしていた。
そんなこんなで、準備を終えると背後から声を掛けられた。
「グラニ」
「あれスカジじゃん、どうしたの?」
声を掛けたのは背に大剣を担いだまま、暫く駆けていたにも関わらず息を切らしていないスカジであった。汗一つかいていないため、急いで来たとは思わせない、実際グラニは気づいていない。
「私も行こう」
「滴水村にかい?いいよ、一緒に行こうか!スカジもキャロル達に会いたいんだねぇ」
スカジの同行にニコニコと了承し、馬の装具の最終点検を行うグラニ。しかしながらグラニに見えてないところでちょっと頬を膨らませるスカジであった。
「あ、でもどうしよう。今残ってる馬はこの子だけだし...」
ここで移動手段がないことに気づき頭を悩ませるグラニ。唸っている横で、スカジが何かを閃いたのか行動に出た。尚、表情が何も変わっていないのだが。
グラニの背後へと周ると、そのまま持ち上げた。
「わわっ!どうしたのスカジ!?」
「乗って」
突然のスカジの行動に驚くものの、スカジの脈絡のない行動には慣れているのか素直に言われたとおりに騎乗する。頭の中に疑問符が一杯になるも、黙ってスカジを見守った。
グラニを騎乗させたスカジは、装具を新たに調整し直していた。そして全ての調整、最終点検を終えるとひらりとグラニの後ろに騎乗した。
「二人乗りで行くの?」
「そう」
「スカジの大剣重いけど、大丈夫?」
ここで漸く意図を掴めたグラニは、馬に問いかけると馬は大丈夫だと言う様に一つ嘶いた。グラニは馬に感謝するように撫でた。
「それじゃあ、行こっか」
「ハッ!」
手綱を握り締めたスカジは馬を歩かせ始めた。片手でグラニをしっかりと抱きしめながら。
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滴水村、ひと時は財宝騒ぎで荒れていたものの今はそれも落ち着き平穏が戻ってきていた。荒らされた村や田畑も少しずつではあるが復興していっている。
そんな滴水村の一角で、前は騒動の一翼そして今は復興の手助けをしているビック・ボブと滴水村の村長であるキャロルが話し合っていた。近くでは仮面を脱いだ元レユニオンと村人が手分けして復興作業をしており、彼らが受け入れられているのが見受けられる。
「キャロルー!ボブおじさーん!」
二人に大きな声で呼んだ人物がいた。
「グラニ!」
「お嬢ちゃんじゃないか」
グラニであった。二人のも下に駆け足で近寄り、キャロルとボブに握手を交わす。またグラニに気づいた村人や元レユニオンも各々声を掛け、挨拶を交わす。グラニも律儀に一人一人に返答していった。
「どうしたの突然」
「いやーそれがね。近くまで来てたロドス移動基地が、そろそろ移動するみたいなんだ。だからお別れを言いにね」
「そうだったの...。寂しくなるね」
「大丈夫、文通はできるからね!」
キャロルにとっては数少ない同年代、かつ冒険をした仲のグラニとの別れに顔を歪ませる。けれどもグラニの太陽のような笑顔と、これからも連絡を取り合えることに顔を綻ばせた。
女子二人で仲睦まじそうにしているなか、ビッグ・ボブはグラニへと問うた。
「そういえば、一人で来たのか?前よりかは安全になったとはいえ、
「それなら大丈夫だよ。スカジも一緒だから、ほら!」
ビッグ・ボブの心配を晴らそうと、胸を張って自身の隣を手で示すものの。
「居ないよ、グラニ」
「ああ、居ないな」
「ええ!?」
隣には件のスカジは居らず、二人に指摘されて始めて気づいたグラニは来た道を振り返った。そこにはグラニと一緒に来ていたはずのスカジが、牛歩の歩みで近づいており漸く顔の識別が出来るほどの距離であった。
「スカジー!遅いよー!」
グラニが叫んで呼ぶものの、当のスカジは足を速める気配を見せない。10秒、20秒と一応は待ってみせるグラニだが、距離は遅々として縮まらない。
「ああ!?もう!」
「会ったときからですけど、スカジさんはマイペースですね」
「あれをマイペースと言っていいものか...?」
業を煮やしたグラニがスカジへと駆け寄った。どうやら連れて来るようであったが、合いも変わらないデコボココンビにキャロルは微笑み、ビッグ・ボブは首を傾げた。
「ぜー、はー、やっと連れて来れた」
「私は話すことがない」
スカジの背中を押してきたグラニは大袈裟に息を切らしていたが、連れてこられたスカジはいつものスカジ節。流石のグラニも、だまらっしゃい!と凄い剣幕で怒り、スカジも勢いに押されたのかたじろいだ。
二人のやり取りに、思わず笑いがこぼれるキャロルとビッグ・ボブ。
「もう二人に笑われちゃったじゃん」
「...私のせいでは」
「スカジ?」
「ごめんなさい」
コントのようなやり取りに、耐え切れなくなったキャロルとビッグ・ボブは声を出して笑い出した。一方はあの冷血な女性が、もう一方は賞金稼ぎのスターがと今までのイメージを崩された故に。
「まったく、じゃあボクは村の見回りと挨拶をしてくるね。二人ともスカジをよろしくね」
「...私は子供じゃない」
「子供じゃないならしっかりコミュニケーション取れるよね?じゃ、そういうことでまた後でね!」
そういい残すとグラニは来た時と同様に駆けて行った。道々にいる村人と元レユニオンに声を掛けながら。
滴水村組の二人は手を振り見送るが、スカジは呆然とグラニが駆けて行った方向を見つめていた。恐らく、本人も意識していないのだろうが一歩、足が動いた。
「いいのか?グラニのお嬢ちゃんとの約束を破ることになるぞ?」
「!」
意地が悪いことだと思いつつも、スカジに声を掛けたビッグ・ボブ。スカジは指摘されて、二歩目は続かなかったものの踏み出した一歩は戻らなかった。渋々といったようにビッグ・ボブに顔を向けた。
「話すことはない」
「やれやれ」
「くすくす」
キッパリと言い放つが、スカジが拗ねた子供のように見えるため、肩を竦めるのと忍び笑いを誘うことにしかならなかった。二人の反応に余計、拗ねたように口を尖らせ顔を背けるスカジであったが。
「でも良かったです。グラニの近くにスカジさんが居てくれて」
「だな」
「...何故そう思うの?」
当初、会話をするつもりがなかったスカジだが聞き流すには惜しい言葉が耳に入り、思わず聞き返した。スカジが横目で見たキャロルとビッグ・ボブには安堵の表情が浮かんでいた。
「グラニって正義感が強いから、今回の私達の村みたいに無茶しちゃうんじゃないかなって」
「その点、お前さんなら腕っ節が立つからな安心という訳だ。まぁコミュニケーションに不安があるがな」
「むっ」
スカジとしては、自身にまつわることは厄介ごとのため周りに迷惑がいかないようにしているだけなのだ。まぁそれが良い方向へ行くことはなく、本人が気づいていないため厄介極まりないのだが。
「コミュニケーションに関してはグラニに任せればいいんじゃないかな」
「まさしくデコボココンビだな。お互いを助け合えるいい関係じゃないか」
「コンビ...」
二人してお似合いだと言われ、どことなく嬉しそうにするスカジであった。けれども次の瞬間には顔に影を落とした。スカジの事情を知らない二人は首を傾げるのであった。
「私が、私がグラニの側にいても...」
いいのだろうか、その言葉が続かなかった。
心配そうなキャロルに、ビッグ・ボブは顎に手を当てながら。
「いいんじゃないか?
スカジ、お前さんがどんな過去を過ごしてきたのか俺には分からん。
だがな、グラニの嬢ちゃんはお前の過去に何があって今もその厄介ごとを背負ってるとしても、気にするような奴だったか?
俺にはそうは思えん。何せ敵対してたはずの俺のことを最後まで信じてたお人よしだ。
スカジ、グラニはお前を見捨てるような奴だったか?」
「違う!!!あっ...」
「はっはっはっ!答えは出てるじゃないか」
気づかされたとスカジは目を丸くし、ビッグ・ボブは豪快に笑った。側でハラハラしていたキャロルも、スカジの反応に胸を撫で下ろしていた。
「スカジさん、何も心配いらないんですよ。グラニですから」
「グラニだからな」
「...分かった。ちょっと、考えてみる」
「でもグラニのことは心配ですから」
「お嬢ちゃんだからなぁ」
「だから頼んだぞ」「頼みますね」
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夜、 滴水村から出立しロドス移動基地との中間地点にグラニとスカジは野営していた。スカジが警戒と焚き火の管理している間、グラニは一時の眠りについてた。
パチパチという音と共に寝息だけが聞こえる世界。グラニは昼間に村中を駆け回っていたため、起きる様子はない。
「...」
側に居てもいい、スカジは隣で眠るグラニを見つめつつ思い出す。
寝ているグラニの顔は安らかであり、昼間の太陽のような笑顔はない。けれどもスカジはグラニが近くにいる、それだけで胸の内が暖かくなる、そんな気がしていた。
「...グラニ」
口からこぼれたのは、スカジが今まで出会ったことのない人であり、心地よさを感じさせてくれる人の名前。
そっと、隣で眠るグラニの頬に手を添える。触れ合った部分が暖かい。
「...ス、カジ」
「っ!」
寝言だったのだろう、グラニから呟かれた己の名前に驚いたスカジは手を引っ込めた。グラニが起きる様子はなく、むにゃむにゃと口を動かすのみだった。
「だめ、だよぉ...スカジィ、ちゃんと、しないとぉ...」
「...ふふ」
夢の中でもスカジはグラニに迷惑をかけている。それはグラニの日常にスカジが居ることが当たり前になっているということ。その事実に頬が緩むスカジであった。
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百合は未履修やけん...