徒然なる方舟のままに   作:玖神 米利

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プラチナさんがロドスに来てから大分たった後のお話
初心白金さん


絆された後の白金さん (プラチナ)

 .

 

 

 

 カタカタとキーボードを叩く音、カリカリと紙にペンを走らせる音。二つの音と二人の人物の呼吸音だけが室内に木霊する。

 

「...そんなに見つめて何が楽しいんだ?」

 

 ピタリと音が止み、そう言うのは部屋の主であるDr.であった。デスクに落としていた視線を上げ、対面の人物へと話しかけたのであった。

 

「別に~、何も楽しくはないわよ」

 

 プラチナブロンドに馬のような縦長の耳を持つ人物は、デスクに顎を乗せDr.からは頭からしか見えない状態である。その人物、コードネーム『プラチナ』は楽しくないと返すものの口角が僅かに上がっており、確かに何かを楽しんでいるはずなのである。

 

「...そうか」

 

「そうよ?」

 

 オウム返しされ、作業に戻るDr.は一体何が楽しいのか皆目検討がつかなかった。

 作業の音がまた室内に木霊するも、先ほどより幾分か音に間隔がある。何故ならDr.が集中しきれずに、プラチナの顔をチラチラと見ているからである。

 

 視線がバイザー越しとはいえ、無冑盟の騎士殺しのアサシンであるプラチナが気づかないはずがないのだがその視線すらも楽しんでいるのか、口角がさらに上がっている。

 Dr.は気が散り、作業が遅々として進んでいない。邪魔をされている訳でもないのに、今日は特に進みが遅くその原因を思い浮かべる。

 

 昼過ぎまではいつもと同じであった、順調に仕事を消化していたのだったが流れが変わったのはやはりプラチナが来てからであった。

 

「ドクター、お邪魔するわよ」

 

 ドアをノックせず、ひょっこり顔を覗かせながら入室してきたのである。といっても最近、ノックをしないことに慣れてしまったDr.はそのままプラチナの入室を許した。

 

「プラチナか、今日は非番だったか?」

 

「ええ、だから面白いこと探しに来たの」

 

「何もないと思うがな」

 

 いつもといえばいつものプラチナに、Dr.は気にも留めない。そして当のプラチナも、勝手知ったる我が家のようにコーヒーとお茶請けを用意し始める。

 

「はい、どうぞ」

 

「ん、助かる」

 

 プラチナは淹れ立てのコーヒーをDr.に差し入れると、ソファへと座りコーヒーを楽しみつつお茶請けを消費していった。

 それから暫く、コーヒーがなくなればまた淹れるという行為を繰り返していると、ふとDr.がプラチナに目をやるとすっとずっと自身に目を向けていることに気がつく。

 初めは気にならなくとも、時間がたってから目を向けてもDr.を見ている。プラチナが別のことをしていても気がつけばこちらに視線を向け、いつしか距離が縮まり、現在では。

 

「...顎、痛くないか?」

 

「そうでもないわよ」

 

「...そうか」

 

 隠す気もなくじっくりと至近距離で見てくる始末である。

 さしものDr.も、気にならないわけもなく集中を途切れさせてしまっている。

 手が止まり、Dr.を見つめているプラチナをDr.も見つめ返す。不思議に思ったプラチナは、頭をコテンと傾ける。

 

「どうしたの?」

 

 揺れる自身の名前を関する色をした髪と耳、Dr.は何を思ったのかおもむろにその耳へと手を伸ばした。

 

「あ...」

 

 Dr.の手が触れるとピクリとプラチナの耳が動く。

 プラチナの声で、漸く自分が何をしたのか理解したDr.は手を引っ込めるとすぐさま謝った。

 

「え、あっ! す、すまない」

 

 仲が良くなったとはいえ、プロ意識が高い彼女のことだから怒られると思って覚悟をするDr.。目を瞑りその時に備えるものの、何も起こらない。

 恐る恐る目を開けると、そこにはそっぽを向きながらも怒った様子はなくむしろ満更でもない顔のプラチナがいた。

 

「...優しくしなさいよね」

 

 カァッと頬が紅葉するプラチナ。Dr.は思いがけない事態に目を白黒させるものの、そろりそろりとプラチナの耳へと手を伸ばした。

 

「...ん」

 

 さわさわと控えめに耳を触ると、くすぐったいのかプラチナの口から声が漏れる。

 

「柔らかい...」

 

「当たり前、でしょ。ん、女は髪が命、なんだから。あ...」

 

 次第に遠慮がなくなってくるDr.の手に、プラチナは体を震わせる。

 

 どれほどそうしていたのか、Dr.は片手から両手に、そして耳以外に髪や頭さえも撫でるようになっていった。

 Dr.が遠慮しなくなってくるのと同時に、プラチナは強く目を閉じ体を強張らせていた。ただ、俯き加減になって見え辛い顔には朱が差している。

 

「...キレイだ」

 

「なっ!?」

 

 思わずといったようにDr.の口から漏れ出た言葉に、プラチナが大きく反応した。ガバリと身を起こし、Dr.から少し距離をとる、その顔は真っ赤に熟れたトマトのようになっていた。

 

「あっ」

 

「と、突然なに言うのよ!?」

 

 手から心地よい感触が離れたDr.の口から名残惜しそうな声が出る。

 

「もう、もう終わり! 今日は終わりよ!」

 

 そうプラチナは声を張り上げると、退出するのかドアを開ける。ただ、退出する前にDr.には顔を向けずに。

 

「ま、また今度、だから....」

 

 小さい声でそう言ったのであった。

 

 

 

 

 

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初心初心~


※前回の誤字報告ありがとうございます。とても助かります。
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