あとタイトルオチです。
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「こうして休日が被るのはいつ振りだったかな」
「18日振りですね」
「律儀に数えていたのか?」
龍門市街で近衛局所属のチェンとホシグマが隣り合って歩いている。この日は二人の休日が被った日であり、久しぶりに一緒に食べに行こうと街を練り歩いているとこであった。
ただこの二人、休日というにも関わらず仕事着でありましてやチェンは帯刀しているのである。どこかの製薬会社に文句を言えないぐらいの社畜具合である。ホシグマが愛用の盾、般若を持ってきていないのはその大きさ故だろうが。
「さーて今日はどこに入ろうか!」
「既にリサーチ済みです」
「そうかそうか、ホシグマが見つけてくる店にハズレはないからな。今からが楽しみだ」
休日ということもあり浮かれ気味、というよりスキップするぐらいには浮かれているチェン。普段見せる、凛々しい隊長としての姿はそこにはなくリラックスしていることが見て取れる。
ホシグマは公務中と変わらないものの、その足取りは軽い。そして視線はスキップしているチェンに向いており目尻も緩んでいる。姉か母か。
「私も楽しみです。しかし浮かれすぎると周りに迷惑を掛けてしまいますよ」
「おっと、私としたことが」
ずっと見ていたい気持ちをぐっと堪えて、ホシグマが念を押す。チェンはスキップをやめ、恥ずかしそうにはにかんだ。ホシグマの魂がちょっと昇天した。
「ホシグマにはいつも迷惑かけるな」
「些細なことです。お気になさらずに」
「これからも、よろしく頼むぞ」
チェンはパシっとホシグマの肩に軽く拳を当て、顔には満面の笑みが浮かんでいる。ホシグマは当たり前です、と見た目平常心で応える。内心、昇天しかかっているが。
「さーて案内してくれ、ホシグマ!」
「...」
「ホシグマ?」
「はっ! ああいえ、何でもありません」
勇むチェンに、魂ココにあらずのホシグマ。微妙に噛み合わない二人であった。
「美味しかったー!」
「お口にあったようで」
昼食を済ませる店舗から出ると、チェンは満腹になったお腹をさすりながら満足した顔で言い放った。
「流石はホシグマだ。ただ良かったのか? ホシグマの趣向じゃなかったろ?」
チェンに褒められて得意げなホシグマであったが、続けられた言葉にギクッと肩を跳ね上げさせる。それもそのはず、今回どころか普段からリサーチしている飲食店はチェンの好みに合わせているからなのである。
「いえ、そんなことは...」
「思い違いだったか? たしかチュアンツァイ系が好きだったような、今回はジアンスーツァイ系だし」
「...よくご存知で」
まさか自分の好みを知られているとは思ってなかったホシグマは、ついに白旗を上げた。白状したホシグマにチェンは苦笑を漏らす。
「私に合わせなくてもいいのだがな...。だが、ありがとうな」
「...」
「すみませーん、近衛局の隊長さん」
「どうした?」
満面の笑みのチェンにホシグマ、昇天。
だが幸か不幸か、料理店の店長がやってきてヘヴン状態の顔を見られることはなかった。
「貰ったサイン、お店に飾ってもいいですか?」
「勿論構わないとも」
「あとお二人の写真も」
「構わない。美味しい料理を食べさせてもらったんだ、なぁホシグマ」
「...」
「ホシグマ?」
「はっ! え、ええ構いませんとも?」
再起動を果たしたホシグマに、不思議そうな視線を送るチェンだったがとりあえず横に置いておく事にした。
店長を挟み、二人で並ぶとカメラを持った店員にパシャリと撮られる。
「ありがとうございます。いやーこれはいい宣伝になるなぁ」
ウキウキとした商魂逞しい店長に、苦笑を漏らす二人であった。
「キャー! ひったくりよー!」
二人が写真を撮った店員と料理談義をしていると、通りで女性の悲鳴が上がった。
悲鳴からしてひったくりのようで、男が走ってくるのが見て取れた。
「クソ! どけ!!」
人ごみを掻き分けながら通り過ぎる男の手の中には女性もののバックが。
「ホシグマ」
「無論です、チェン隊長」
お互い確認を取り合うとひったくり犯に向かって駆け出した。残された店員に向かって、また食べに行くと告げながら。
「近衛局だ! そこのひったくり犯止まれー!」
「自首すれば今ならまだ間に合うぞ!」
「ゲェッ!? なんで近衛局が追ってくるんだ!?」
犯人を追い、制止させようとするものの犯人の足は止まらない。そして今だ人ごみを掻き分け、時には通行人を転倒させているためいつ怪我人が出てしまってもおかしくない状況。
「どけ、どけぇ!」
「うわっ、痛ぅ...」
「貴様!」
そしてついに負傷が出てしまった。突き飛ばされた男性が受け身を取り損ね、片手を抱え込んで蹲る。さしものチェンも我慢がならず激昂した。
「ホシグマぁ! 飛ばせぇ!」
「お気を、つけてぇ!」
チェンの合図と共に、ホシグマは重ねた手を差し出しその強力を持ってチェンを投げ飛ばした。
「おぉ!」
「壁を走ってるぞ!?」
「正義の使者だ!」
どよめく民衆。それもそのはず、チェンは建物の出っ張りを利用しながら壁を走っているからである。
逃走する犯人を上から監視し、気を伺う。その間も勢いが落ちると共に、高度も下がっていく。
そしてついに、犯人の周りから人が居なくなり好機が訪れる。
「そこだぁ! ...っ」
チェンは飛び上がるのと同時に、刀を鞘ごと犯人の足めがけて投げつけた。
「ぬぉわっ!?」
うまい具合に刀が犯人の足を絡めとり、前のめりに倒れこむ。そしてチェンは地面目掛けて落下していくが、体勢がおかしい。
どうやら飛び上がった瞬間に足を打ったのか捻ったのか、万全であれば問題なく着地できたはずなのにである。
「隊長ぉぉおおお!」
いち早くチェンの異常に気づいたホシグマが駆ける。倒れこんだ犯人さえも踏みつけて。
「ぐぅえっ....」
哀れ犯人、余りの痛さに気を失う。
そして犯人を踏み台にしたホシグマは、空中でチェンを横抱きにキャッチする。
「大丈夫ですか、隊長」
「すまないホシグマ...」
お姫様抱っこのまま、綺麗に着地したホシグマに遠巻きで見ていた民衆から拍手が巻き起こった。
「なんか恥ずかしいな」
「...」
近衛局として、当たり前のことをしただけだと恥ずかしがるチェン。対するホシグマは堂々な姿で受け入れている。のではなく、チェンをお姫様抱っこできた喜びに昇天しているだけなのだ。
「近衛局の警視よ! 犯人はどこに...あ」
「ゲっ!」
「...」
そこに通報を受けた警官数名がやってきた。そのうちの陣頭指揮を執っている一人が、チェンを見て固まった。指揮を執っている人物、スワイヤーを見たチェンも変な声をだして固まった。
「チェ、チェン貴女...」
「放せ、放せホシグマぁ!?」
フルフルと震えるスワイヤーにホシグマから逃れようと暴れるチェン。近くにいた他の警官は慣れたもので、テキパキと犯人を縛り上げている。
「ぶっわっはっはっはっ!! あ、貴女、お姫様...っ!」
「放せホシグマぁああああ!」
「....嫌です」
龍門スラングは今日も平常運行である。
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チュアンツァイ:川菜、日本だと四川料理のこと
ジアンスーツァイ:江蘇料理のこと
つまりチェンは旬の素材のうまさを引き出した料理が好き
ホシグマは痺れるような辛さの料理が好き