徒然なる方舟のままに   作:玖神 米利

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 『止まった時間は次第に速くなり』の続き
 『生命を奏でる』シリーズの最終話
 イフリータメインで、三人の仲が戻ったことを実感する話



活発に生き活きと (イフリータ・サリア・サイレンス)

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「また逃げてきたのか、しょうがないな」

 

 

 

 -いつもの日常。

 

 

 

「あと少しだからがんばりましょ?」

 

 

 

 -楽しかったあの頃。

 

 

 

「...そういうつもりじゃなかったんだ」

 

 

 

 -変わってしまった関係。

 

 

 

「近づかないでって言ったでしょ!?」

 

 

 

 -苦しくて、辛くて、何かもぐちゃぐちゃで。

 

 

 

 -でも

 

 

 

 -今はもうそうじゃなくて...! 

 

 

 

 

 

「なぁイフリータ、良い話と悪い話があるんだがどっちから聞きたい?」

 

「えぇ、何だよドクター。んー、じゃあ良い話からで」

 

「実はな―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イフリータがロドス基地内を駆ける。イフリータが横をすれ違い、スタッフ達は驚く。その足の速さで驚いているわけではなく、イフリータの顔が満面の笑みであったからである。

 イフリータがロドスに来た当初は、怯えておりそれを隠すように周囲を威嚇していた。時が経ち、精神的に余裕ができてからもここまでの笑顔を浮かべていたことはなかった。

 眉間に皺が寄り、険のある表情ではなく年相応の無邪気な姿に、スタッフ達は眉尻を下げて温かく見送った。

 

 見守られているとは露知らずイフリータは、そのまま目的地であった食堂へと駆け込んだ。時間にして昼前であるが、既に食堂内は人で溢れていた。

 食堂内でズラリと受付に並んでいる人の列に、イフリータもその最後尾へと並ぶ。キッチンはフル稼働しており、どんどん人の列が少なくなる。

 

「早く順番こねーかな」

 

 イフリータの落ち着きがない呟きが漏れる。イフリータの前後にいたスタッフは冷や汗を流す、いつもだったら癇癪を起こしているところである。しかしいつまで経っても焦げ臭さやボヤ騒ぎは起こらない。

 気になった前に居たスタッフが、後ろをチラリと振り返る。そこにはそわそわして落ち着きはないが、こうして待っている間も楽しんでいるかのように喜色に染まっていた。

 

 前に居たスタッフは相好を崩し、目が合った後ろのスタッフに大丈夫だとジェスチャーする。後ろに居たスタッフは、首を傾げながらも気にしないことにした。

 それから十分ぐらい経って、食堂内に人が溢れ出すようになった頃にようやくイフリータの番が来た。イフリータは待ちきれないとばかりに受付へと食いついた。

 

「おばちゃん! 頼んでたやつ出来てる!?」

 

「はいはい、そう慌てなくてもちゃんと出来てるよ」

 

 イフリータは待っている間、受付台に手をついて小刻みにジャンプする。対応していた壮年の女性は苦笑しつつ、必要なものを取りに行くために一度奥へと姿を消した。

 まだかなまだかな、とぴょんぴょんジャンプするイフリータに後ろにいたスタッフがほっこりする。

 

「お待たせイフリータちゃん。はい、頼まれてた遠足用のバスケットだよ」

 

「ありがとなおばちゃん!」

 

 イフリータは満面の笑みでバスケットを受け取り、抱きしめるように抱えると食堂へ来た時のように走って出て行った。

 

「やれやれ、元気なのはいいことだけど走るのはいただけないね」

 

 なんて言う受付の女性だが、その顔には微笑みが浮かんでいた。

 

「まぁまぁおばちゃん、あの娘がああいう表情することなんて今までになかったんだから多目に見てやってよ」

 

「勿論分かってるさね。だけどね、まだそんな歳じゃないよ。お姉さんと呼びな!」

 

「ひっどいなーもー」

 

 軽口を叩く二人は、食堂の出入り口を暖かく見つめていた。

 

 

 

 

 

 

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 バスケットを受け取ったイフリータは、ロドス内にある休養施設である療養庭院へと来ていた。事前に話しが通っていたため、庭園の一区画に準備されていたイスへと腰を掛けていた。

 クロスが掛けられたテーブルにバスケットを乗せ、イスが三つある内の一つにイフリータがもう一つに管理人のパフューマーが座っている。

 

「この紅茶どうかしら、お口に合うといいのだけれど」

 

「...うん」

 

 パフューマーは待ち人が来る間、イフリータの話し相手になっていた。なのだが、当のイフリータは浮ついているのか生返事ばかりであった。

 イフリータの様子にパフューマーは機嫌を悪くする、所か我ことのように嬉しそうにしていた。

 

「ふふ、楽しみなのね」

 

「やっぱり、分かるか?」

 

 クスクスと微笑ましいものを見るパフューマーに、イフリータは罰が悪そうに顔を背けた。

 

「ええ、誰が見てもね。...でも良かった」

 

「?」

 

「こっちの話、気にしないで」

 

「おう、そうか?」

 

 その後、イフリータはパフューマーと会話を弾ませる。普段あまり喋らない相手ではあったが、パフューマーが聞き上手であったため苦にならなかった。

 話を進めていくうちに、浮ついた気持ちも落ち着いたイフリータ。既に時刻は十三時過ぎ、その頃になてようやく待ち人の一人が姿を現した。

 

「あら、来たみたいよ」

 

「え。あ、サリア!!」

 

「すまない待たせてしまったみたいだな」

 

 ゆっくりとした足取りでサリアがイフリータ達の元へとやってくると、残っていたイスへと座った。

 

「それじゃあ私はお暇するわね」

 

「パフューマー、また話そうな!」

 

 サリアが着席したのを確認したパフューマーが、気を利かせて立ち上がった。イフリータは思いのほかパフューマーとの会話が楽しかったのか、再度会う約束をしていた。

 ただサリアは首を捻った。庭園にはイフリータの誘いを受けて足を運んだのだが、てっきり自身とイフリータ、そしてパフューマーの三人で昼食会を行うのだと思っていたからだ。

 

「私よりもっと適任がいるわ」

 

「パフューマーよりも?」

 

 口に手を当て上品に笑うパフューマーに、サリアの頭に疑問符が増える。どういうことなのかと、イフリータに顔を向けても笑顔を浮かべるばかりであった。

 サリアは視線を交互に二人に向けるが、回答を得られず仕舞い。そうこうしている内に、足音が、それも小走りでやってくる音を耳が拾った。

 

「さて、来たみたいだから邪魔者は消えるわね」

 

「またなパフューマー」

 

「ふふ、またねイフリータ」

 

 立ち去るパフューマーと入れ替わるように、足音の主がやって来た。どうやら急いで来たらしく、荒い息遣いをしていた。

 

「ご、ごめんなさい。遅くなっちゃって」

 

「サイレンス...?」

 

「サリア!? ...貴女も呼ばれてたのね」

 

 振り返ったサリアの前には、最近になってようやく関係が修復できたサイレンスが居た。目を見開き驚くサリアにサイレンスも同様で、お互いが呼ばれていたことを把握していなかったことが伺える。

 

「これで揃ったな!」

 

 仕掛け人のイフリータは、悪戯が成功したと満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

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「実はな、サリアとサイレンスの仲直りに成功したんだ」

 

「マジか!?」

 

 予想していなかった朗報に、イフリータは飛び上がらんばかりに喜んだ。研究所に居たときは、仲の良い二人を知っているため喜びも一入であった。

 全身で喜びを表現しているイフリータに、Dr.は今まで三人のために苦心した苦労が報われた気がした。

 

「ただな、イフリータ。仲直りしたとはいえ今までが今までだったんだ、まだわだかまりがあるはずんなんだ」

 

「...そう、だよな」

 

 神妙な声音のDr.にイフリータも思い当たる節があるのか、喜びが一転して沈痛な面持ちに変わる。

 

「そこでだ、私にいい考えがある。いいか」

 

 Dr.は誰にも聞かれないように、イフリータへ耳打ちをする。イフリータはDr.の考えを聞いていくうちに、強張っていた顔はどんどん解され最終的には真剣な顔で聞き入っていた。

 

「という感じだ。できるか?」

 

「あったり前だろ! 俺様を誰だと思ってる!」

 

「よし、その意気だ」

 

 あの二人のためなら幾らでもやってやる、そんな決意を抱いているイフリータは胸を張るように宣言する。

 Dr.はその様子に満足したのか、イフリータの背中を押してやる。

 

「善は急げだ。こっちでもお膳立てはしておいてやる」

 

「おう! とと、そうだDr.悪い話ってのは何だったんだ?」

 

 押されるがままの勢いでイフリータは駆け出そうとしたが、最初に聞いた話が気になり慌てて止まる。

 

「ああ、悪い方か。それはな―――

 

 

 

 

 

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 時刻は十五時に差しかかろうとしていた。

 昼食会が始まった頃は、サリアとサイレンスの間にはどこかギクシャクとした空気が流れていた。けれどもイフリータがDr.から受けたアドバイスを参考に、二人の架け橋となることで次第に和やかになった。

 イフリータが食堂で受け取った昼食用のバスケットの中身は既になく、三人は午後のティータイムを楽しみながらロドスに来てからのことを語り合う。

 

「でさーDr.なんて言ったと思う?」

 

「なんて言ったんだ?」

 

「『勉強見てくれる人が増えるからこれから大変だぞ』って言うんだよ!」

 

「良いこと聞いた。これからはサリアにも手伝って貰おうかしら」

 

「そうだな、教えれる範囲で私も手伝おう」

 

「はぁ!? 勘弁してくれよ~」

 

 テーブルに項垂れるイフリータ、それを見て微笑ましいように見つめるサリアとサイレンス。

 過去にあった光景で、前までなかった光景、それが今目の前にある。その事実にイフリータは胸の奥が暖かくなっていっているを感じる。

 

「...また、三人で居られるんだよな」

 

 

 

 

 

 

「「勿論」」

 

 

 

 

「へへっ」

 

 

 

 

 .




 あとがき


 これで『生命を奏でる』は完結となります。読了ありがとうございます。

 元はリクエストで書いたものでしたが、投稿後続き書けるのではとふと思いつき書き始めました。
 いつものように行き当たりばったりでしたが、個人的にはよく仕上がったのではと思います。

 また、この話を投稿する間に、サイレンスメインの短編を一本投稿しましたが、このシリーズとは関係ありません。(そのときに書いておけばよかったと今更後悔)


 評価・感想・お気に入り、ありがとうございます。
 誤字報告も毎度ながら本当にありがとうございます。とても助かっております。(今回も多分あるかも...)

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