私も羽欲しいな
.
「サイレンス、居るか?」
「ドクターか。どうかしたのか?」
談話室内にDr.が入室する。どうやらサイレンスを探していたようで、手元には種類の束が握られていた。仕事の話のようだ。
「実は頼みたい仕事があったんだが...」
「ん、分かった」
サイレンスも凡その用事の検討が付いていたのか、手に持っていた物を置くと立ち上がった。しかし、Dr.の歯切れが悪いのと、どこか様子がおかしいことに気が付く。
「...てどうかしたのドクター」
「あーいや、お取り込み中だったかな?」
「ああ、これ」
頬を掻きながら申し訳なさそうにするDr.だが、サイレンスは気にすることなく自分の目の前の人物を指差した。
「たまにこうして、フィリオプシスの髪を梳いてやってるの」
「そうだったのか。すまないな邪魔をして」
手に持っていたのはブラシであり、それで梳いていたのであった。サイレンスは気にしないで、と一声掛けるとDr.から書類を受け取った。
サイレンスはパラパラと流し読みし、全部読み終わるとため息を一つついた。
「なるほどね、確かにこれは私じゃないとダメみたい。行って来るわドクター」
「頼んだ」
サイレンスは書類を持って談話室から出ようとするが、後ろからDr.も着いて来ていることに気づく。
少し考え込みながら、ドアを通り抜けようとしたところでサイレンスは名案を思いつく。
「そうだ。ドクター、ここに残って貰ってもいいかしら」
「談話室に? 何故...?」
指を一つ鳴らし、振り返りながら提案をする。Dr.はサイレンスの意図が分からず、首を傾げた。
そんなDr.の様子に、サイレンスは得意気になりながら手に持っていたブラシを手渡した。
「はい」
「...はい?」
素直に受け取るDr.だったが、未だに意図が分からず首をさらに傾けた。
戦場ではその手腕を遺憾なく発揮するDr.であったが、こと人間関係となるとポンコツになってしまう。サイレンスは今一度このDr.悪癖を会議に掛けるべきでは、と頭を痛めた。
「この仕事は私だけで十分。だからフィリオプシスの梳かし、頼むね?」
「いや頼むって...。ああ、おい!」
「頼んだよ~」
バタンと、サイレンスはDr.を談話室内に残したままドアを閉じたのであった。
室内には綺麗な姿勢で眠るフィリオプシスと、ブラシ片手に呆けるDr.しか居なかった。
「...女性の髪を梳くなんて、やったことないんだが」
Dr.の呟きは、静かな室内で響いただけだった。
「...」
「ふんふふ~ん」
結局Dr.はフィリオプシスの髪をブラシ(軟毛)を梳いてやっている。しかも鼻歌を歌うほどに上機嫌で。
「しかし、綺麗だなフィリオプシスの髪は。それにサラサラでついつい触っていたくなってしまう」
どうやらDr.は、フィリオプシスの触り心地を気に入ったようで二回梳いては一回軽く触る。これを繰り返しており、中々進められていないようであった。
暫くそうしていると、Dr.の目には次のターゲットが目に入った。それは
ミミズクにある、頭部に見られる左右一対の羽毛の束のことなのだが、フィリオプシスにもありそれが目に付いてしまったのだ。
触りたい。その思考に脳内を占められたDr.はそわそわとしだす。
「...」
まだ寝ている今がチャンスだ、と
寝ている女性に無闇に触ってはいけません、と
もんもんと天使と悪魔が脳内で口論をするが、悪魔の「 既 に 触 っ て い る 」この一言で悪魔の勝利が確定したのだった。
「すまないフェリオプシス...! 羽角を触らせて貰うぞ...!」
「はい、どうぞ」
「!?!?!?!?」
どんがらがっしゃん。意を決したDr.だったが、意識外の返答により後ろへひっくり返ってしまう。
「フィ、フィリオプシス起きてたのか!?」
「はい」
「い、いつから...?」
「髪が綺麗だと言われた辺りで、スリープモードから再起動しました」
「大分前じゃないか...!」
予想外事態に、Dr.は床へ両手をついて凹む。当のフィリオプシスは微動だにせず、綺麗な姿勢のままイスに座っている。ただ、頬はほんのり上気しているようだったが。
「はぁ~....。あー、すまなかったな」
たっぷり三十秒、落ち込みから立ち直るとフィリオプシスへと謝罪した。もうやらないという意志表示なのか、ブラシをとりあえずポケットに突っ込んでいる。
「いえ、気にしていません」
背後から話しかけられたにも関わらず、フィリオプシスは振り返りもせずただじっと同じ姿勢で待ち続けた。
さすがに何かがおかしいと、恐る恐るDr.は問いかけた。
「あの~、フィリオプシスさん? 動かないんですか...?」
「動く...? それよりもDr.、触らないんですか?」
「...いいのか?」
「どうぞ」
よもやDr.は、本人の許可が出るとは思わず聞き返してしまった。しかしフィリオプシスは拒否せずにそのまま了承の意を唱えた。
先ほどのこともあり、Dr.は慎重に慎重にフィリオプシスの羽角へと手を伸ばした。
「ん...」
「お、おお...!」
さわり、と一撫でするとくすぐったいのかフィリオプシスは声を漏らした。ただDr.は触れたことに感動し、またその触り心地にも感動していた。
「硬いのに、滑らか。それでいてずっと触っていたくなるこの気持ちよさ」
「...っ。そんなに、いいですか?」
「....ああ!」
頬を上気させたフィリオプシスに、Dr.は力強く返した。
その後もDr.の満足いくまでフィリオプシスは羽角を触らせた。
「ありがとうフィリオプシス。良い者を触らせて貰った、あ゛...」
「どうしましたか?」
突然のDr.のダミ声に、フィリオプシスは振り返りもせずに問うた。
Dr.の手の中には羽が一枚、どうやら触っている間に羽角の一枚が抜けてしまったようであった。
「すまない、フィリオプシス...」
「いえ大丈夫です。抜け代わりだったのでしょう。痛みもありませんでした」
「しかし...」
問題ないと言うフィリオプシスに、Dr.は言い淀んでしまった。これにはフィリオプシスも気にしすぎだと思うものの、ふとサイレンスの羽のことを思い出す。
「でしたらそれはドクターに差し上げます」
「いいのか?」
「はい。ドクターの黒の衣装には私の白い羽は映えるでしょうから、アクセサリーにでもしてください」
そう言われてDr.は手の中に納まる羽を見つめる。たしかに羽先が黒でそれ以外は白の羽は、黒いジャケットには映えると思われた。
「ならありがたく頂こう」
Dr.は大事に羽を仕舞った。
フィリオプシスはその一言を聞くと立ち上がり、談話室のドアを開けた。退室する直前に。
「大切にしてくださいね」
という一言を残して。
贈り物であるのだから、当然大切にすると誓うDr.だが、ふとここで一つあることに気がつく。
「そういえば、フィリオプシスの顔見てないな...?」
Dr.は知らない、彼女は顔を紅潮させていたことなどを。
後日、Dr.は胸ポケットに白の羽をアクセサリーとして身につけていた。
それに気づいたサイレンスは、その日一日フィリオプシスに生暖かい視線を送っていたのであった。
前回、言い忘れていたのですが、お陰様で評価に色が着きました!
ありがとうございます!
始めて色が着いたので嬉しかったです、本当にありがとう!