徒然なる方舟のままに   作:玖神 米利

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 アンジェリーナ、トランスポーターの高校生。本名:安心院・アンジェリーナ。


星のトランスポーター (アンジェリーナ)

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 響き渡る剣戟と怒号、ここ龍門郊外にあるチェルノボーグ脱出区内でレユニオンとロドスアイランドが激突していた。

 飛び交う矢と銃弾、漂う硝煙と血の臭い、そして区域内に突き刺さっている源石の塊と混沌を極めていた。

 

 レユニオンは数の有利を生かして力攻めを基本として、時には重装兵などの堅牢な兵士で攻め立て、時には術師や武装ドローンで遠距離から攻撃し、時にはゴースト兵や空挺兵などの搦め手を使う。

 しかしながら、レユニオンの攻勢はロドスアイランドを指揮するDr.の手によって防がれてしまう。堅牢には術を、遠距離にはさらなる遠距離を、搦め手には真っ向からと、その全てを対策されてしまった。

 

 戦端が開かれてから四時間といったところで、レユニオンの攻勢が弱まってきた。さしものレユニオンも攻勢限界が訪れたためである。

 漸くこの度の戦闘の終わりを感じ、張り詰めていたロドス側の空気も緩み始めた。いくら腕利きのオペレーターであったとしても、長時間の戦闘で疲労は溜まっている上リソースも心もとなくなってきていたのだから無理もない。

 

 しかし、それが行けなかったのだろう。一人のレユニオンの狙撃兵が、苦し紛れに放った凶弾がDr.の胸を貫いた。

 

「ぐぅあっ!」

 

「ドクター!?」

 

 疲労があったから、気が緩んでいたから、言い訳など幾らでもある。だが胸から夥しい血を流して倒れ伏すDr.には何の意味もありはしない。

 

「医療班早く此方に!!」

 

 Dr.の一番近くに居たアーミヤが、出血を抑えるため直接圧迫を行いながらも指示を飛ばす。何度もDr.の名前を呼び、目からは涙を流しながら。

 

 

 

 

 

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 今だ戦闘は終わってはいない。しかしながらアンジェリーナは急遽、作戦指揮所から呼び出された。

 レユニオンとの抗争が終わりそうなのに一体全体何なのか。疑問に思いつつも、アンジェリーナは指揮所へと入っていった。

 

「失礼しまーす。アンジェリーナ、只今参りました!」

 

 普段の陽気さを出しながら入室したものの、指揮室内の空気は重苦しかった。面食らったアンジェリーナは足を止めてしまうが、仕切の置くから呼びかけられた。

 

「アンジェリーナさん、こちらです」

 

「え、えっと。分かりました」

 

 その声はロドスCEOのアーミヤであったのだが、どこか憔悴したような力のない声であった。

 恐る恐る仕切りの奥へと足を運ぶと、そこには一つの簡易ベットとそこに横たわるDr.の姿があった。指揮を執っているはずのDr.が何故、と疑問が浮かぶが、それを口にする前にアーミヤの口が開かれた。

 

「心して聞いてください、アンジェリーナさん」

 

 要点を掻い摘むと

 一つ、Dr.が凶弾に倒れたこと。

 二つ、緊急処置は行ったものの重傷なのは変わらないため、ロドスにDr.を運ばなければいけないこと。

 三つ、戦闘の終わりが見えているとはいえDr.が倒れたことを伝えるとどうなるか分からない。最悪、戦線崩壊が起きてしまうかもしれないということ。

 三つ、上記のため緘口令を敷かねばならず少数で運ばなければいけないこと。

 四つ、アーツ特性およびトランスポーターとしての技量を見込まれアンジェリーナが抜擢されたこと。

 以上であった。

 

 思いがけない重大な役割は、アンジェリーナの心に重く圧し掛かった。握られた拳には大量の汗が溜まるほどに。

 

「...頼まれて、くれませんか。アンジェリーナさん」

 

 唇を噛み締め、震える声で頭を下げるアーミヤ。本当は自身が連れて行きたい、そんな思いがありありと分かる姿、だがロドスCEOという立場がそれを許さない。

 アンジェリーナはそんなアーミヤの姿を見て決心する。

 

「任せてください。私がDr.をロドスに連れて行きます」

 

「ありがとう、ございます...っ」

 

 全身が震えるアーミヤをアンジェリーナは抱きしめる。自身より小さく幼い彼女が耐え忍んでいる、ならば自分がやらずしてどうするのか、と。

 何より、アンジェリーナにとってDr.は...。

 

 

 

 

 

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 廃墟と化したチェルノボーグ離脱区域内で、Dr.を背負ったアンジェリーナは無事な建物から建物へと飛び回っていた。

 彼女、アンジェリーナのアーツ特性は少々特殊で、物体を軽くしたり重くしたりすることができる。そのため自身とDr.を軽くすることにより高い機動力と速度を得ている。

 

 アンジェリーナはハーネスで固定されたDr.を気にしつつも、先を急ぐ。なぜならば。

 

「居たぞー!!!」

 

「もう見つかった...!」

 

 レユニオンに追われているからである。

 道中、先のロドスとの戦闘を回避していた部隊があり、それに見つかってしまったのである。Dr.のことを思い、視野狭窄に陥り先を急いだ結果だと自己反省する。

 

「その背負っている男を渡せっ!」

 

「誰があんた達なんかに!」

 

 追われているとは言っても、ビルを飛び回っているため普通の兵士では追いつくことができない。そのため追うことができているのは、背にジェットパックを背負ったレユニオン空挺兵が主である。

 ジェットパックという装備の関係上、空挺兵自体少なく今回追ってきているのも四人のみ。そして今、ビルを越えようとした空挺兵はアンジェリーナに体を重くされ、羽を失った鳥のように地面へと落ちて行った。

 

「早く、もっと早くしなきゃ...!」

 

 アンジェリーナは先を急ぐ。今はまだ防衛出来ているが、それをいつまで続けられるのか。アーツの扱いがまだ未熟なアンジェリーナではそうはもたない。

 今現在も、自身とDr.にアーツを行使しながらである。限界は近い。

 暫く追いかけっこの状態が続き、膠着していたが緊張と疲れからからアンジェリーナの足が遅くなる。そしてビルへの着地を失敗し、ふらつき体勢を崩してしまう。

 それを見逃すレユニオンではなかった。

 

「そこだ!」

 

「きゃっ!?」

 

 レユニオン空挺隊長が投げたのは、長い紐の両端に重石がついたボーラと呼ばれる捕獲投擲武器であった。

 足にボーラを受けたアンジェリーナは、元々体勢が悪かったこともあり簡単に倒れこんでしまう。その際、なんとか背負っていたDr.を下敷きにならないように庇ったが、出来たのはそれだけであった。

 

「いっつぅ...」

 

「漸く止まったな」

 

 背後から迫るレユニオンに、すぐさま体を正面に向けDr.を庇う。しかし相手は三人に加えて自身は動けず、またアーツによる攻撃は威力が低くましてや三人を同時に攻撃する術はなかった。

 隊長が剣を引き抜き、振り上げる。

 

「こいつを殺せば有利になる。悪く思うなよ」

 

 アンジェリーナは万事休すと、目を閉じた。

 剣が振り下ろされる、その時。

 

「諦めるのは早いんじゃないかしら?」

 

 凛とした声と共に、鈍い音が二つ鳴り響く。

 

「なんだっ」

 

「ハンティング」

 

「ぎゃっ!」

 

 そして残っていた空挺隊長は、背後から忍び寄られた凶刃によって倒れた。

 

「プラチナさん、レッドさん...!」

 

 凛とした声の正体はプラチナであり、鈍い音は放たれた矢が空挺兵の頭部を貫いた音であった。そして空挺隊長を背後から襲ったのはレッドであった。

 二人の助太刀により、窮地を脱したアンジェリーナは目に涙を溜めていた。ロドスのオペレーターとして活動していても、アンジェリーナはまだ高校生であり若く、ことこういう命の取り合いはまだまだ慣れていない。

 

「...取れた」

 

「ありがとうございます。レッドさん」

 

 足元に絡み付いていたボーラをレッドに切り取って貰い、手を借りて立ち上がる。今一度、背に居るDr.を確認するも血が滲んでいることもなく外見上は無事であった。

 そのことにほっと一息つき、二人へと向き直る。

 

「頑張ったわね。今からは私達が護衛に付くわ」

 

「レッド、二人、護る」

 

「ありがとうございます...っ!」

 

 思いがけない援軍、それも暗殺者として高い技量を持つ二人が共にすると聞き決意を新たにする。

 

 

 

 その後は三度程、レユニオンと交戦するも全てプラチナとレッドが処理、安全にロドス基地へと着いたのであった。

 

 

 

 

 

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 Dr.が負傷してから三日が経った。ロドスについてからの処置により、Dr.は命の危機から去っていた。

 ただ、戦闘が終わってから知らされたオペレーター達は、ハチの巣を突いたような騒ぎになった。皆Dr.が心配で一斉に面会を申請するなどの混乱があったが、ケルシーの鶴の一声によって取り下げられた。

 そしてDr.の容態は安定していると伝えられると、混乱も徐々に収まっていった。

 もっとも、見舞いの品が次々と運ばれたのだったが。

 

 三日目の夜。快晴かつ満月のこの日、Dr.は目を覚ました。

 

「...ここは、病棟か?」

 

「ドクター...!」

 

「アンジェリーナ?」

 

 この日の当番として、Dr.の側に控えていたアンジェリーナ。目覚めたDr.に気がつき、目尻に涙を浮かばせた。

 

「俺は、たしか銃撃を受けて...。何日経った?」

 

「三日だよ。ずっと寝てて、皆心配して...」

 

「そうか、すまなかったな」

 

 その後のことをDr.はアンジェリーナから聞いていく。戦闘は無事終わったこと、Dr.の病室に多数のオペレーターが詰め掛けたこと、部屋一つ埋めるほどの見舞いの品があること、そして自身がDr.を運んだことを。

 

「ありがとうアンジェリーナ。お陰で助かった」

 

「プラチナさんとレッドさんに護ってもらったから...」

 

「だが運んだのはアンジェリーナだ。だからありがとう」

 

「...どうしたしまして」

 

 真正面から真摯にお礼を言われてしまえばアンジェリーナも受け取らないわけにはいかなかった。ただ気恥ずかしいのか、はにかみながらであったが。

 

 ふとDr.は窓から空を見上げた。そこにはいつもなら一人で孤独に輝いていた星に、寄り添う形で小さい淡い赤色に輝く星が存在していた。

 

「いつかパートナーになる星を見つけて、抱き合ったりする、か」

 

「ドクター?」

 

 ぼそりと呟かれた言葉はアンジェリーナには聞こえなかった。

 Dr.はそっと窓から見える二つの星を見るように、指を指した。

 

「これからも頼むよ。パートナー」

 

 

 

 

 

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 安心院って名前、世界観的に凄い違和感を感じてしまう...


 評価、お気に入り、感想ありがとうございます!

「しっかりものアンセル」の誤字報告ありがとうございます!
意図的じゃないです、素の誤字です...。いやほんと報告ありがとうございます。
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