日常というよりイチャイチャ?まぁこれも日常でしょう、たぶん
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明朝の朝日が今だ顔を出していない時刻に、Dr.はエフイーターと共に居た。
「いいか、エフイーターもう一度聞くぞ」
そして二人は三十階もあるビルの屋上、その縁へと立っていた。
「本気でここから飛ぶっていうのか...っ!」
眼前にはビル群があるもののその全ては足元より低く、そして眼下には豆粒のようになった人と車両が行きかっていた。
これにはDr.も体を震わせる。
「当ったり前じゃない!」
震え上がっているDr.だったが、隣にいるエフイーターは胸を張り自信を持って答えた。
分かりきっていた答えではあったが、だがほんの僅かな可能性に賭けていたDr.は無残にも潰えたのであった。
「クソが! 冗談じゃない! こっちはただの医者だぞ!?」
両手で頭を押さえながらオーバーにリアクションをとり、体全体で拒否を示す。
「でもさドクター、もう逃げ場はないんだよ?」
肩をすくめたエフイーターからの言葉に、Dr.はピタリと動きを止める。
彼だって分かってはいるのだ。武装勢力に追いかけられ、なんとかエフイーターが対処をしていたもののこのビルの屋上に追い詰められてしまっている。そんなことは。
だからといって、地上120mからの落下など助かる見込みはないのだが。
「だ、だからといってなぁ...」
頭で理解はしていても、生物の根源的な恐怖には抗えない。Dr.は決心が付かず尻込みをしてしまう。
そんな情けない姿のDr.だったが、エフイーターは仕方がないというようにDrに語り掛ける。
「ドクター、私はエフイーターよ。ロドスのオペレーターで、ドクターの手足よ! 私がドクターの期待に答えられなかったことなんてある?」
「...いや、ない。エフイーターにはいつも助けられている」
「でしょ? だから私を、信じなさい!!」
両手を腰に当て堂々とするエフイーター。だが僅かにだが、手足が震えていることにDr.は気づく。
「エフイーター、お前...」
エフイーターも怖いわけがないのだと、そのことに漸く気づいたDr.は決心した。
「俺の命、お前に預けるぞ!」
「任せなさい!」
エフイーターから差し出された手を取る、その瞬間に屋上へと繋がる扉が破壊された。
「居たぞ、こっちだ!」
声が上がると、ドアの向こうからぞろぞろと武装した集団が沸いて出てきた。
エフイーターは、ドアが破壊された瞬間にはDr.と自身をベルトで固定し始めていた。一瞬のことでありDr.は成すがままにされる。
「もう逃げ場はないぞ!」
「大人しく捕まれ!」
各々武器を構えながらにじり寄って来る集団に、エフイーターはにやりと笑みを浮かべる。
そしてDr.を抱えたまま。
「バカ、止めろ!」
「アディオス!」
集団からの静止を聞かず、そのままビルから飛び降りた。
人は落下すると重い頭から落ちていく、その例に漏れず二人はどんどん近づいていく地面を高速で過ぎ去ってくビルの窓を視界に納める。
「エフイーター! 何か考えがあるんだろ!?」
既に二十階まで降りたところでDr.の悲鳴のような声が上がる。
「...」
しかしエフイーターは何も答えない。
「オイ、オイオイ! 冗談だろ...っ!」
覚悟は決めた、だがいざとなると肝が冷えていくのは人間故か。
十五階、十二階と来て最早これまでとDr.は諦めに入っていた。だが十階に到達する、その時。
「Flyawayーーー!!!」
「おわっ!?」
エフイーターの掛け声と共に、Dr.は体に浮遊感を感じた。見る見るうちに地面からもビルからも離れていき、下から吹き上げる風ではなく正面から風を受けているのを感じた。
恐る恐る背後を振り返ると、エフイーターの満面の笑みと背からは大きな三角形の帆、ハングライダーが展開されていた。
「どうドクター。スリルあったでしょ」
悪戯が成功したようなエフイーターの笑顔に、Dr.はドッと疲れが押し寄せてくるのを感じる。
「満点過ぎるぐらいにな...。せめて一言ぐらいくれないか...?」
エフイーターの腕とベルトだけという、頼りないはずなのにDr.はそれに安心感を覚える。
「ニヒヒ、でもDr.は信じてくれたんでしょ?」
「まぁな」
「...あ、ドクター見て。朝日だ」
ビルとビルの間を滑空しながら、遊覧飛行を楽しんでいると太陽が顔を出してきていた。
綺麗な朝日に見惚れる二人、ただDr.は朝日に照らされたエフイーターも見ており。
「綺麗だ」
「そうだね」
そう溢したのだった。
「カーーーット!!」
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ガヤガヤと撮影道具やセットの機材などを片付けている現場の一角で、Dr.は横になっていた。
エフイーターも隣、というよりDr.を膝枕をしている。
「あ゛ー...しんど...」
「お疲れ様ドクター。いやードクターもいい俳優になれんじゃない?」
「よしてくれ...今日のあれはほぼ素だ」
「素で俳優の素質があるってことじゃん」
疲労状態のDr.が言っていたように、本日はDr.とエフイーターのワンシーンの撮影であったのだ。
このワンシーンの発案は勿論エフイーター、だが幹部会ではそもそも撮影するメリットがないと却下されていた。
それを広告に使えるのではとDr.が働きかけたことにより、実現したのだった。もっとも本人は出演することなど知らなかったのだが。
「でも、ありがとねドクター」
「気にするな、メンタルケアも医者の務めだ」
膝枕しているDr.の頭を撫でながら、エフイーターはお礼を言った。
彼女は武術の達人であり元アクションスターであった。それが鉱石病に罹患し、スターの道は閉ざされてしまった。
ロドスに来てからも刺激的で充実した毎日を送っていたのだが、やはりどこかで俳優としての心が燻っていただろう。それに気づいたDr.が働きかけをしたという経緯なのだ。
「でもこれで吹っ切れそうだよ」
俳優としての道も心も諦めた、そう言うエフイーターだった。だけれどもDr.にはその顔が泣くのを我慢している、そう見えた。
「諦める必要はないだろう」
「ドクター...?」
そっと、Dr.はエフイーターの頬に手を当てる。
「お前の病気は治すさ、この俺がな」
驚くエフイーターにそう宣言したDr.の顔は、とても真剣であった。その顔にドキッとさせられたエフイーターは、膝枕したままDr.の胸に顔を押し付けた。
「キザっぽいぞドクター! このこの~」
恥ずかしさを、赤くなった顔を悟らせないように、おどけるながらグリグリとDr.の胸に顔を押し付けた。
「キザってなぁ...」
「でも、ありがとうドクター...」
見えずとも、はにかんだ言葉だと分かったDr.は何も言わずに受け取った。
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