ちょっとカリスマ性薄いかな? シリアスっぽいかな?
あとこの話は書いてよかったのだろうかと心配になります
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ズィマーにとって、ウルサスの勉学というのは無意味でありまったくの無駄であるという認識であった。何故ならウルサスの教育というのは、思想の押し付けであったからだ。
やれこうしろ、やれああしろと言われ、少しでも外れたら頭ごなしに否定され押さえつけられた。
だがズィマーは勉学が無意味なものであるとは思っていない。語学と数学ができなければ日常生活に支障をきたすし、他の学問も見識を広めるための下地として必要不可欠なのだから。特に軍事学を好む彼女にとって、勉学の必要性は熟知している。
ただそうであったとしても、彼女は学び舎である学校を好きになることはなかった。凝り固まったウルサスの思想を学ぶよりも、己を鍛えるために他学区に殴り込んだ方が自身の益となるからだ。
ズィマーは手始めに東区の学生自治団を制圧した。そして北区を始めとして中央区、南区、西区と街中の学生自治団を全て手中に治めた。
ズィマーは全ての学生自治団を治めるようになったが、自治団を経営することはなかった。君臨すれども統治はせず、その代わりにズィマーの右腕となっているイースチナに全部負担がいってしまっているのだが。
嫌な授業には出ず、気ままに他区の自治団に赴いては力試しをする。そんな生活を繰り返していた。
彼女自身もそんな生活を来る日まで続く、そう思っていた。
レユニオンがチェルノボーグを襲撃したと知るまでは。
チェルノボーグが襲われてから一時間が経過しているとき、ズィマーは自身が在籍している学校の体育館にいた。
壇上で片膝を立てて座っているズィマーの側らには、竿に括り付けられた団旗と万能斧と呼ばれるファイアーアックスが転がっていた。斧を武器として使っていたのか、刃の部分には血がべっとりと着いていた。
所々血と煤が付いた普段着のズィマーは、何かを待つように目を閉じていた。
「ズィマー、用意できたわ」
「...そうか」
声を掛けられ、ゆっくりと目を開ける。壇上の下にはズィマーの右腕たるイースチナが、そしてズィマーと同じ様に血と煤を身に纏っていた。そして何時もは手に持っている学術書はなく、携帯電話とアーツ媒体が組み込まれた特殊な本を持っていた。
「これで全員か」
「...ええ」
ズィマーは立ち上がり、館内を見渡す。そこには老若男女問わない人々がいた。皆一様に煤や埃だらけであり、そして怯えていた。ここに居るのは、レユニオンの襲撃から逃れてきた者達だ。
ただ館内の一角に集まっている若者だけが怯えていてもその目は死んでいなかった。
「計117人、その内81人が武器を持てるわ。...戦えるかは分からないけど」
「十分だ。後は私がなんとかする」
ズィマーは側らにある団旗を手に持ち壇上から立ち上がり、石突を壇上へと叩きつけた。はためく赤一色の団旗には、黒色の角ばった熊の手形が刺繍されている。ズィマーが率いている自警団のマークだ。
避難してきた人々は、何事かと壇上のズィマーに顔を向けた。
「聞けぇーっ! 避難してきた市民共!!」
咆哮、そう呼ぶに相応しい程の肺活量に館内の人間は気圧される。
「今ここチェルノボーグはレユニオンの襲撃を受けている! 奴らは老若男女も! 武装していまいおかまいなしにな!」
ズィマーの言に市民は恐怖で顔を引きつらせる。彼等彼女等は実際見てきたのだから、親類が友人がレユニオンの手に掛かるのを。
ざわつき、悲鳴が上がる館内だがズィマーはもう一度石突を鳴らし、市民を黙らせる。
「よって! 私達はここチェルノボーグから脱出することを決めた!!」
静まり返る館内、だが一人の男が声を上げた。
「だ、脱出することはないだろうっ。軍が、そう! 軍が直ぐに鎮圧しに来てくれるはずだ!」
初めは震えていた声が、僅かに見出した希望により強くなる。男の言葉に触発されるように、次々と声を上げ始める。
待てばいい。篭城すれば問題ない。何様のつもりだ等々、次第に立ち上がったズィマーに罵詈雑言さえ飛んでくる始末。
しかし、言われた本人であるズィマーはどこ吹く風といった様子。そして肺一杯に息を吸い、一息に吐いた。
「 黙 れ !! 」
まさに爆発。窓ガラスどころか館内が揺れた、そう思わせるほどの迫力であった。立ち上がっていた男も、尻餅をついている。
再度静まり返った館内に、ズィマーはイースチナに顎で指した。
「今から流すのは、本日午前四時頃に入手した天災の早期警戒情報です」
そう言ったイスーチナは、録音機器の電源を入れた。
『こちら天災トランスポーターのプロヴァンスです! 現在チェルノボーグから距離十キロメートル地点に居ます! 聞こえていますかチェルノボーグ通信!? 早く進路を変更してください! 本日正午過ぎに天災が起きることが予想されます!! 聞こえていますかチェルノボー...』
ここで録音は途切れていた。天災トランスポーターの身に何か起こったのだろう、だが問題はそこではなかった。何故なら、聞いていた全ての市民が顔を青褪めさせていたからだ。現在の時刻十二時十四分。
時間は既になかった。
「だ、だが天災さえやり過ごせれば...!」
苦し紛れの男の弁に、イースチナは首を横に振った。
「現在、ウルサス帝国はチェルノボーグを中心とした各都市が襲撃されています。恐らく陽動でしょうが帝国としては見過ごせない問題です。そのため、既に手遅れのチェルノボーグは見放される、いえされているのです」
「どこに証拠が!」
「今、帝国放送局で流れてるのが全てです。あの映像は、チェルノボーグ以外の都市の様子です」
愕然とする男、だが男だけに限らずほぼ全ての市民がそうであった。国に見捨てられた、その事実を目の当たりにしたために。
「これよりこの私、東区学生自治団の団長"冬将軍"のズィマーが脱出を指揮する!」
壇上で堂々と宣言する。自信に溢れ、気負うことがない姿のズィマーに市民達は希望を見出す。そして彼女の"冬将軍"というと通り名も後押しした。
「俺は着いて行くぞ! 待って死ぬのなんてごめんだ!!」
「俺もだ!」
一人、また一人と賛同し、立ち上がる。次第に声は多くそして大きくなっていき、館内を震わすほどになっていった。
連呼されるズィマーの名前、だが本人は苦々しい顔をしていたことは一番近くにいたイースチナだけしか気づけなかった。
「生き残る。そのために付いて来い!!!」
雄たけびが館内に木霊した。
「ズィマー団長、B班準備完了しました」
「こちらC班、こっちもOKですぜ」
「D班、完了」
「ご苦労」
ズィマーは館内の壇上で、報告を受けていた。宣言のあと、避難してきた全ての市民が脱出に賛同した。
幾つかの班、戦闘とそれ以外に分けており、ズィマーは戦闘班のリーダーとしてどっしりと構えていた。
危機的状況である現在、旗頭となっている自信が慌てるわけにはいかないと。
「ズィマー、こっちも準備できたわ」
「分かった。イースチナ、行くぞ」
頷くイースチナ。斧を手にし、団旗を掲げながらズィマーは歩き始めた。後ろには武装した市民、中にはズィマーと同じ年頃で東区自治団のマークを入れている若者達もいた。
「これよりチェルノボーグから脱出する!」
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チェルノボーグ東区画は既に大半がレユニオン占拠されている。区画の中でも大きな通りをズィマー達は駆けていた。
家々は焼かれ、略奪されたのか無事な建物はなく、さらに道々には多くの遺体が打ち捨てられていた。
顔を顰めながらも、歩みは止めなかった。
「生き残り...! 生き残りがいたぞー!!」
脱出まで半ば程、奇妙なまでにレユニオンと遭遇しなかったズィマー達だったが、ついに見つかった。
数人の小隊だったレユニオンは、声を張り上げると武器を構えた。
自治団のメンバーは荒事に慣れているためか、少々の緊張で済んでいるが市民はそうはいかなかった。顔は強張り、息は荒く歩みもぎこちなくなっていた。
「私に続けー!!」
そんな市民達を鼓舞するように、ズィマーは先陣を切った。
振り上げた団旗でレユニオンの一人の頭をかち割ると、逆の手に持っていた斧でもう一人の首を力任せに飛ばした。
「「「おおおーーーー!!!」」」
自治団の若者達もズィマーに続き、残りのレユニオンを撲殺していった。
無論、市民達も釣られるように雄叫びを上げながら、レユニオンへと襲い掛かった。
「こっちだ! 生き残りが大勢居る、他の区画から増援を呼べ!」
最初に遭遇したレユニオンをあっさり片付けるものの、レユニオンは次々現れた。だが同時に、ズィマーは数が少ないとも感じた。
その証拠に、レユニオンの数は今ある戦力で突破できるほどでしかなかった。
「どういうことだ...?」
疑問に思いながらも、追加でやってきたレユニオンを全て倒し終える。
「足を止めるな! 進め!」
血に濡れた団旗を掲げ、再度行軍し始める。
駆け始めると、ズィマーの側にイースチナがやってきた。だがその顔は青い。
「どうした、何かあったのか?」
「ズィ、ズィマー、これ...」
震える声で差し出されたのは携帯電話だった。しかも繋がっているようで、相手は東区の元自治団団長である。
『よう、いるかズィマー団長』
携帯はスピーカーになっているようで、憔悴した声が聞こえてきた。
『イースチナ副団長から聞いてる、脱出するんだろう?』
「ああ、そうだ。お前は今何処に」
居るのか、そう問いかけようとした瞬間、携帯から轟音が鳴り響いた。どうやら通話相手の背後で大きな爆発があったようで、轟音の後からは怒声と悲鳴、そして戦闘音が鳴り響いてきた。
「戦闘音!? どういうことだ! いや、そもそも何故集合命令に...っ!?」
『まぁ気づくよな...』
「馬鹿が! 何を勝手に"囮"を、誰が頼んだ!?」
驚愕の余り斧を落とし、携帯に齧り付く。そしてズィマーの足が止まったことにより行軍していた全員が止まってしまう。
ズィマーもおかしいとは感じていた。自分ほどじゃないにしろ、そこら辺の
そして気づく、他の区画の元団長達も応じなかったことに。
「まさか、貴様ら全員...っ!」
『ああそうだ』
「っ!」
『助けようだ何て思うんじゃねぇ!!!』
思わず、踵を返そうとしたズィマーに静止の声が入った。
『今、お前が預かっている命はどうなる!
いいかズィマー! 俺達は無駄死になんかじゃねぇ! 託すんだお前に!
俺たちの全てを、チェルノボーグ学生自治団の団長たるお前に!!!!』
その言葉を最後に、激しい爆発音が携帯から聞こえてくる。
『頼..d...ぞ...!』
携帯の通話が切れる。
「ズィマー...」
棒立ちになるズィマーに、イースチナは携帯を仕舞いながら声を掛ける。
俯き、微動だにしない。だが時は待ってはくれず、増援に駆けつけたレユニオンがやってきた。
「生き残りは殺せ!!」
一気呵成に攻撃を仕掛けてくるレユニオンに、旗頭が止まった市民達は浮き足立つ。
なんとか自治団の若者達でレユニオンの攻勢を防ぐが、長くは続かないだろう。
「死ねぇ!」
「ズィマーの姉さん!?」
「ズィマー!」
前衛の隙間を掻い潜ったレユニオンが一人、ズィマーに向けて剣を振り下ろした。周りが守ろうと動くが、距離があり間に合わない。だが隣にいたイースチナがズィマーを突き飛ばそうと、力を込める。
「ガッ!? は、離せ!」
しかしズィマーはイースチナの力ではびくともせず、逆に向かってきたレユニオンの頭を空いている手で鷲掴みにした。
痛い、離せと叫びながらもレユニオンの兵士は振り解けないでいる。次第に兵士の頭から嫌な音が立ち始めた。
メシリ、メシリと音が立つたびに、兵士の口からは泡を吹くようになり、そして最後には、グシャリという音ともに頭蓋を握力のみで粉砕された。
余りの怪力にレユニオン、市民両方とも言葉を失う。
「...け」
ゆらりと、幽鬼のように斧を拾う。
「...づけ」
ポタリ、ポタリと透明な雫が流れ。
「私にっ!!
続けええええぇぇぇーーーー!!!!」
ズィマーは団旗を振り回し、レユニオンに突撃していった。
その後、彼女達市民は無事に脱出できた。その最、近くにいたロドスアイランドに庇護を求め、ロドスはそれを承諾した。
彼女、ズィマーが使っていた斧はそのまま彼女の武装となり、団旗は半ばから折れてしまい使えなくなった。旗も血塗れでぼろぼろであったが、ズィマーは仲間を見殺しにした戒めとしてそれを腕に括り付けるようになった。
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評価、お気に入り、感想ありがとうございます。
特に!誤字報告ほんとうにありがとうございます!
めちゃくちゃ助かります。