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「いやー手伝って貰っちゃって悪いね」
「いえ気にしないでください。丁度手すきだったので」
クロージャとジェシカが、通路を一抱え程もあるダンボールを持ちながら歩を進めてる。
ダンボールの中はずっしりと重く、クロージャが二箱同時に持っていくことが出来ないところを通りがかったジェシカが捕まり、手伝っているのである。
「これ重いですけど、何が入っているんです?」
「ほとんどが薬品だねー」
「え゛。こ、こんなダンボールで、大丈夫なんデスカ...?」
ただのダンボール、そう思っていたジェシカだったのだが思いがけない返答に体が硬直する。体がガチガチになってしまい、声も片言に。
そんなジェシカにクロージェは笑いながら答えた。
「あははは、大丈夫大丈夫。危ない奴は専用のケースに入ってるから、万が一落としても問題ないよん」
「もう...驚かせないでくださいよぉ」
「ごめんごめん」
クロージャの悪癖たる、人をからかう本性が出たようであった。ただ、ここで終われば全て済む話だったのだが、そうは問屋が卸さなかったようで。
「もう、クロージャさんのバカ。あうっ!?」
「あ」
拗ねたジェシカが小走りに駆けたのだが、間が悪かったのだろう。丁度曲がり角からやってきた人物に衝突してしまったのである。
「あ、あっ!? えい!」
バランスを崩したジェシカは、ダンボールがぶつかってしまった相手に落ちないように弾き飛ばした。先ほどのクロージャが言っていたことを咄嗟に思い出したからである。
「あ痛!?」
ガシャン! と何かが割れる音がした。ダンボールそのものは通路へと投げ出されたのだが、投げる勢いが強すぎたのかダンボール口が開き、そこから液体入りのガラス瓶がいくつか飛び出してしまったのだ。
「何これ、ぺっぺっ。変な匂い...」
「フ、フランカ先輩」
ジェシカと衝突したのはフランカであった。尻餅をついた状態の彼女は、ガラス瓶が当たったのか額の一箇所が赤くなっており更にはそのまま割れたのか顔中液体塗れであった。
口の中に入ったのか、仕切りに吐き出そうとするが上手くいかない。フランカはハンカチを取り出して顔を拭き、そこで漸く事態を把握した。
「ジェシカ...? はぁ、まったくおっちょこちょいなんだから」
「あっちゃ~...」
フランカが起き上がると、クロージャが近くまで寄って来ていた。割れたガラス瓶を手に取ると、そのラベルを見て頭を抱えた。
「クロージャ、どうしたのよ」
「うーん、うん。先に謝っておくね。ごめんね?」
「え、何が? ってジェシカ大丈夫」
平謝りするクロージャに首を傾げながらも、ぶつかって来た後輩へと目を向けるフランカ。あの後輩のことだからケガをしているか、平身低頭してるのだろうとフランカは思っていたのだが。
「...ジェシカ?」
「ふにゃ」
とろんと蕩けた目つきに紅潮した頬、体はふらふらと小さく横に揺れている。正気じゃない、そうフランカが判断したのと同時に、ジェシカがフランカに抱きついた。
「ちょっとジェシカ!?」
「ふんふんふん」
「くすぐったい、ってば!」
フランカは振り解こうとするものの、がっちりと両手で身体を拘束されたフランカになす術はなくジェシカはフランカの首元を仕切りに嗅いでいる。
「ふむふむ、効果は抜群と」
「ちょっとクロージャ! 見てないで助けなさいよ!」
「うーん、ちょーっと無理かなぁ」
「何でよ!?」
フランカは普段のジェシカとは思えないほどの力強さに焦りを募らせる。ついには側でメモ帳片手に事の成り行きを見ていたクロージャに助けを求めるも、クロージャから拒否されてしまう。
ただ、クロージャもフランカを見捨てているわけではないようで、申し訳なさそうな顔になっていた。
「フランカが被ったその液体、フェリーン用の一時的な増強剤なんだけど」
「それでこんな力がッ、うぎぎぎ...!」
「ただ主成分がマタタビでねぇ」
「ちょっとぉ!?」
「まぁ、そういうことなんだよ、ね?」
「ね? じゃないわよこのスカポンタン!」
「うにゃ~ん」
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「それでこうなってると」
「そうよ」
結局フランカはあの後、抱きついたジェシカを連れて自室へと戻っていった。本来やるべき業務はDr.へと連絡し免除してもらうと、リスカムを呼んでジェシカを引き剥がした。
シャワーで増強薬を洗い流すために引き剥がしたのだが、ジェシカは暴れるわ、うにゃんうにゃん煩いわで大変であった。
「なんていうか...ご愁傷様?」
「まぁたまには甘えさせるのもいいんじゃないかしら」
「フランカがいいならいいけど」
リスカムは、フランカを正面から抱きしめているジェシカを微妙な目つきで見つめる。ジェシカは最初より幾分かマシになったとはいえ、蕩けた目つきにピンクに上気していた。
「ごろにゃ~ん」
「...。じゃあ私は遣り残した業務があるから」
「いってらっしゃーい」
フランカから経口摂取ではないため、染み付いてしまった臭いが自然霧散すれば元に戻ると聞いている。それもあの状態のジェシカはどの道どうにもできないと、リスカムは退室していった。
リスカムを見送ったフランカは、自身の頬に頬ずりするジェシカの頭を優しく撫でた。
「にゃ...」
「ふふ、本当に猫みたいになっちゃってるわね」
それから二時間ほどは、頬ずり、匂い嗅ぎ、じゃれるなどといったことをジェシカはフランカに対して行った。対するフランカは時に頬ずり返したり、いなしたり、一緒に遊ぶなどをして思いのほか楽しく過ごした。
ただ、換気している室内で時間が経過したためか、頬の上気はなくなり目にも理性の光が戻ってきていた。
「...ふらんか、さん?」
「なぁに? ジェシカ」
漸く言葉を発した。といっても、今だ完全にマタタビの効果が抜けきっているわけではないのか、たどたどしい。
「わたし...いいの?」
「何がかしら?」
ジェシカは言いよどみ、口をモゴモゴと動かす。
「よわい、わたしが。しぇんぱい達といっしょで、いいのかな...」
瞳が、揺れている。ぎゅっ、とジェシカの手がフランカの服を握り締めた。
「ジェシカ、いいのよ。大丈夫、私達は知ってるから、貴女が頑張り屋なよく出来た子だって」
「しぇんぱい...」
そっとフランカは、ジェシカの頭を自身の心臓のある位置へと持って行く。ジェシカはフランカの鼓動を聞いて安心したのか、目蓋が緩やかに落ちていく。
「だから、大丈夫」
優しく、優しくジェシカの頭を撫でると、ジェシカの目蓋は落ちきり寝息を立て始めた。
「今はゆっくりおやすみなさい」
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明日から忙しくなるぞぉ(白目
続きものでもここの短編集にあげていくことにしました。アンケートありがとうございました。
活動報告にリクエスト箱ありますので、よろしければリクエストしていってください。