イベントは終わってしまって今更感
あとInシエスタとか書いてあるけど今のところ続き書く予定はないです
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国家:シエスタにあるホテルの一室で、アンセルは窮地に立たされていた。
「ほらほら~、早くしなよ~」
「くっ...!」
アンセルは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、手に持つ一枚を睨んでいる。対するカーディは二枚のカードを持っているが、アンセルとは違いその顔は余裕綽々といった様である。
そう二人はババ抜きをしているのである。しかも、罰ゲームつきで。
「え、えっと、二人とも頑張って...!」
二人の間で応援しているメランサだが、既に一抜けしているため罰ゲームには関係ないため気楽なものだった。
「うぬぬ...」
悩みに悩んで唸り声が漏れるアンセル。今までもこの手のカードゲームにカーディと興じたことはあるのだが、ここまで悩むことはなかった。何故ならほぼ全てでカーディが自滅していたからである。カーディは感情の起伏が大きいため、ポーカーフェイスとは無縁、ハッキリ言ってしまえば弱いのだ。
「ふふ~ん」
弱い、はずなのだが今日に限ればそうとは言い切れなかった。アンセルに突き出しながらのドヤ顔に気負いは一切感じられず、逆にアンセルは圧倒されていた。
カーディの持っているカードへ手を伸ばす、右、左とカーディの顔色が変わるのではと思いカードを触っていく。
「...、」
何回か繰り返すと、右のカードに僅かに反応があった。そしてアンセルはそれを見逃さなかった。
「これだぁっ!!」
天に拳を突き上げるようにカードを取った。恐る恐るカードを見ると、そこにはアンセルをあざ笑うかのような道化が居た。ジョーカーを引かされたのである。
「バカな!?」
思わず叫び絶句するアンセル。今までなら、そう今までならこれで勝てていたはずなのにと。
「アンセルぅ、私が引く番だから早く早く」
「ッ! わ、分かった」
にやけ顔のカーディは呆然とするアンセルを急かすように促した。アンセルは慌てながらも、後ろ手にカードを回す。
冷や汗を流しながら、二枚しかないカードをペラペラと左右に変える。その間にもカーディの顔色を伺うものの、余裕の表情なのは変わらない。何がそこまでカーディに余裕を持たせてるのか、アンセルは動揺を隠せない。
「...はい」
「んんー、どれにしようかな~?」
シャッフルし終わり、カードを見せる。カーディはもったいぶるように、左右のカードを吟味する。その後に右のカードを触れ、そして左のカードを触れる、とさっと取って行った。
「はいこれー、あがりー」
「なん、だと...!」
「お、お疲れ様...?」
まるで分かっていたかのように、ジョーカーを避けてていった。カーディの手から二枚のカードがなくなり、アンセルは自身に残った一枚のカード、ジョーカーを唖然としながら眺める。意気揚々なカーディと茫然自失なアンセルに、メランサは一声掛けることしかできなかった。
「アンセル、罰ゲーム! 執行内容は、女装だぁ!!」
「...!?」
カーディは片手を腰に当てながら、仁王立ちでアンセルを指差した。
「ま、待って」
「ダメだよ~。約束なんだから、さぁ、女装しようか? そして観光しに行くからね」
「私達も一緒だから」
カーディからの宣言にアンセルは絶望する。唯一の救いのメランサも、カーディに乗り気なのか救いの手は伸びなかった。
アンセルに、味方はいなかった。
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アンセルの罰ゲームが決まってから次の日、カーディとメランサはホテルの玄関前でアンセルを待っていた。
カーディはビキニ水着の上にビスチェを、下はホットパンツを着ており頭には黄色の半透明なサンバイザーを被っている。カーディの活発さをよく表現されており、腰に手を当ててる姿は様になっている。
対するメランサは露出の多いモノキニだが、華やかなパレオを腰に巻いている。頭にはハイビスカスがついたバレッタで髪を纏めており、華やかさと共に上品さも伺える。
二人とも見た目がよいため、人目を引いているがそんなことをお構いなしに玄関へと注目している。
「どんな感じになってるかな! かな!」
「多分、似合ってると思う」
「だよねぇ。いや~一度やってみたかったんだよね」
二人でキャイキャイと話しながら待っていると、ホテルの中がざわつき始めた。カーディとメランサも何事かと目を向ける。
「おお!」
「わぁ...」
ホテルから出てきたのは、桃色の髪とロップイヤーを揺らしているアンセルであった。ただし、ハイネックにシースルーとフリルのスカート、顔を隠すためなのかラウンド型のサングラスもしている。
カツカツとヒールの音を鳴らしながらアンセルが二人に近づくが、知らなければ男性だとは分からないほど似合い具合である。あと胸に詰め物はしていない。
「私の見立ては間違ってなかった」
「可愛い、可愛いよアンセルさん!」
前日から絶好調のカーディはキメ顔で思い通りといった感じで、メランサは純粋に褒める。しかしながらアンセルにとってはそれが一番辛かった。
「くっ、殺せっ」
苦い顔のアンセルは、地獄からの呪詛かと思うほどの低い声で呟いた。そう言いながら確り着こみ、尚且つ化粧までしてくるのは生真面目なアンセルらしくはある。
「...はぁ。それで今日はどうするんですか?」
「ふふん、きちんと事前の情報収集はしてあるよ」
「うん」
人目を引いていることもあるため、早々に諦めるアンセルに。カーディは持っていた手提げバッグから、一冊のガイドブック『テラの歩きかた-シエスタ-』を取り出した。ガイドブックの至る所から付箋が飛び出していることから、読み込んでいることが分かる。
メランサも、おずおずと『てらぶ』と表紙に書いてあるガイドブックを取り出す。
「じゃあ案内はお願いするよ。メランサ」
「分かりました...!」
前日の前科を根に持っているアンセルは、カーディを無視してメランサと共に歩き出した。
「ちょっとー私は~?」
置いていかれたカーディだが、その顔には笑みが浮かんでおり二人を追いかけた。
三人は手始めに屋台で出されていたジェラートを堪能する。シエスタは暑い気候のため、氷菓子の冷たさが心地よい。
「冷たくて甘いですね」
「不思議な味」
「んんーッ! あったま痛い...ッ」
アンセルはスタンダートなバニラ味、メランサは普段口にしないドラゴンフルーツ味を楽しんでいる。カーディはココナッツ味のジェラードをガッツいたため、頭がキーンとするアイスクリーム頭痛に見舞われている。
ジェラートを楽しんだ後、ケバブなどの屋台料理をいくつか摘んだ三人は浜辺へと来ていた。
「ひゃー! これが海!」
「湖ですけどね」
「気分だよ。き・ぶ・ん!」
「大っきい~」
サンダルを脱ぎ、砂浜を駆けるカーディにいつもは大人しいメランサも追随する。そんな二人をアンセルは木陰で見送る。元々はしゃぐ性格ではない上に、女装であることも相まって大人しくすることにしたのである。
「ほれほれ~」
「きゃっ、カーディ~」
カーディがメランサに水をかけ始めると、メランサも負けじとやり返す。アンセルはそれを微笑ましげに眺めていたが、水辺で遊んでいた二人が徐に耳打ちし始めた。
二人がチラチラとこっちを見てくるのに、アンセルは嫌な予感を感じる。予感を信じ、その場から離れようとした。のだが、手をお椀状にしたカーディがアンセルに向かって走り出してきた。
「まて~! アンセル~!!」
「ちょ!? その手、絶対水入ってるでしょ!?」
逃げるアンセルに追いかけるカーディ、猫と鼠の追いかけっこのように砂浜を駆ける。ただアンセルは失念していた、カーディの手の中には既に水はなく、そして相手はカーディ一人ではないことを。
「え、えい!」
「あ、うわ!?」
後ろばかり気にしていたアンセルの横合いから、メランサが水を掛けた。
「いえーい! 大・成・功!」
「い、いえーい?」
水も滴るいい男になった女装アンセルを他所に、二人はハイタッチをした。策が嵌ったことに喜んでいる間に、アンセルは音を立てずに動いた。
「見たかアンセルゥブッ!?」
「きゃっ!」
パシャリ、とカーディとメランサに水が掛けられた。パチクリと目を瞬かせ、水辺へと視線を向けると。
「...フ」
手を濡らしたアンセルが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。一度濡れてしまったからと、容赦なく水を使ったのである。
「...やったな~!」
「カーディ、あんまりやりすぎるのはよくないよ」
「休暇なんだからさ、メランサ。遊ぼうよ!」
遠慮するメランサの手を取ったカーディはそう言った。少し迷うものの、カーディの笑顔に釣られたのか。
「うん!」
「よーし、まずはアンセルをベッ!?」
「カーディ!?」
「...女装の恨み、ここで晴らさせて貰う!!」
「疲れた...」
ベンチで体を休ませながら、アンセルは横にある大量の荷物を見ながら沈痛な面持ちになる。
アンセルは砂浜で楽しんだ後、女性二人にショッピングへと連れられて来られたのであった。見た目が女性になろうとも男であることは変わらない、そのため早々にショッピングからは離脱した。もっとも、いくつか女性ものの衣服を見繕られたため、精神的ダメージも負っているのだが。
「はぁ...」
ため息をつきながら空を見上げる。ベンチの脇に生えている木が影を作っており、太陽光を遮っている。影の向こうには、澄み渡る青い空に照りつける太陽があるのだろう。
休暇としてシエスタにやってきては、音楽フェスティバルに熱狂し、火山とオリジムシの騒動で狂熱した。そして今、漸く落ち着いて観光している。
「や、やめなさいよ!」
落ち着いたはずなのだが、と女性の声が聞こえる方へと頭を向ける。そこには三人の男が二人の女性に言い寄っていた。
女性の内、一人は極度に怯えておりもう一人が庇っている。男達はナンパのつもりなのだろうが脈がないのは明らかであった。
眉をひそめる。不愉快なのは男達にもなのだが、見て見ぬ振りする通行人に対してもだった。トラブルを嫌がったのか、それとも日常の一部であることだからか。
「何度も言ってるでしょ!」
どんどんヒートアップしていってるのか、ついに男達が女性の腕を取った。
「や、やめッ」
「いいじゃねーか!!」
いい加減見過ごすことが出来なくなったのか、アンセルが介入するために近づいた。
「そこまでにしたらどうですか」
「なんだテメー」
アンセルは女性と男達の間に割り込み、女性から男の腕を払いのけた。女性二人を庇うように男達の前に出るが、男としてはやや背が低いため見上げる形となる。そのため睨みつけているのに、どこか上目遣いのようになってしまう。ということは。
「ってなんだ、可愛子ちゃんじゃん」
「かわっ、とにかく! 迷惑してるんですから諦めたらどうですか」
思わぬ反撃? に動揺したアンセルは男達に引くように告げるが、当の男達はニヤニヤとするばかりであった。
「じゃあ君が相手してくれるんだ?」
「はぁっ!?」
本人としては予想外、男でも見境ないのかと思うが悲しきかな、今のアンセルはどう見ても女の子なのである。男達としては飛んで火に入る夏の虫であった。
ジリジリとアンセルににじり寄る男達。アンセルは後ろの二人だけでも逃がそうと後ろを振り返るが、一番怯えていた女性の腰が抜けているのか動く様子がなかった。
「ほらほら怖くなーい怖くな~い」
「楽しいことしようぜ~」
「くっ...」
にじり寄りながら、男の一人の手がアンセルへと伸びる。とそこへ、男の伸びた手が誰かに掴まれた。
「今度はなんd」
「シッ!」
「だッわッ!?」
男はグルンと、掴まれた腕を基点に一回転して道へと叩きつけられた。
「大丈夫ですか。アンセルさん」
「メランサ!」
投げ飛ばしたのはショッピングから戻ってきたメランサであった。メランサはそのまま、倒れた男の腕を捻り上げ封じ込めた。
突然投げられ倒された男は汚い悲鳴を上げ、残りの男達は突然のことに口を阿呆のように開けて呆けていた。
「ジャスティスキーック!!」
「どわっ!?」
メランサが来たのなら彼女も当然来るだろう。呆けていた男の背に飛び蹴りをかましたのはカーディ、そのまま倒れた男を踏みつけ動けないようにする。
「正義の使者、カーディ様の参上。ふふん」
「カーディ、助かったよ」
何時もだったらうっとおしいと感じるカーディのドヤ顔が、今だけは頼もしく感じる。
一人になってしまった最後の男は、仲間二人が倒されたことにオロオロするばかりで何もできない。もっとも、メランサが睨みを利かせているしカーディも直ぐに動けるように体勢は整えているため何もできなかっただろうが。
「それでお兄さん、どうする? 尻尾巻いて逃げるなら今のうちだけど?」
「う、あ...。ま、参った! もう手出ししねぇ!!」
降参と両手を挙げる男に、メランサとカーディは押さえつけていた男達を解放する。メランサに投げられた男は自力で、カーディに蹴られた男は無事だった男に肩を貸してもらいながらその場から逃げていった。
男達が見えなくなってアンセルは漸く一息ついた。
「ありがとう、二人とも」
「アンセルさんが無事でよかったです」
「いいってことよー」
共に笑いながら互いを労わる。とそこへアンセルの背後から声がかかった。男達にナンパされていた女性二人である。
「あ、あの! 助けていただいてありがとうございます」
「ありがとうございますっ」
「いえ、私はあんまり役に立ちませんでしたから」
謙遜するアンセルに女性は食い気味になる。
「そんなことありませんっ! ...この娘、男性恐怖症で、本当なら直ぐに逃げるべきだったのに...」
「ごめんね、私のせいで...」
「いいの、気にしないで」
悔いるように顔を俯かせる女性に、申し訳なさそうにする男性恐怖症の女性。互いに慰めている側ら、アンセルは固まった。男性恐怖症の女性は安心しきっている、つまるとこ完全に女性と間違われてしまったわけなのだ。
「...え」
「「...ぷっ」」
中性的な容姿に声であることをよく言われていたが、まさかここまでとは...。驚愕のあまり固まる。逆に、男であることを知っているメランサとカーディは顔を背けて笑ってるのを堪えようとしたが、噴出してしまってるため無意味だった。
とそこへ声を掛けてくる人物がきた。同じ行動予備隊の仲間であるスチュワードとアドナキエル、そしてDr.であった。
「あれ、カーディにメランサ、と~...?」
「アンセルだね」
「えぇ!? アンセルぅ!?」
スチュワードは一見アンセルが誰だか分からなかったようで、驚きの声を上げていた。アドナキエルとDr.は気づいていたようであった。
「三人とも何してるんだ?」
「えーとですね」
それぞれを代表してメランサがDr.に一連の流れを説明する。その間に固まるアンセルに対して、スチュワードとアドナキエルが揺すったり顔の前で手を振るが反応がない。カーディは頬を突っつくなどしていた。
「ひっ」
「大丈夫、大丈夫だから」
突然近づいてきた男のスチュワードとアドナキエルに、男性恐怖症の女性が怯える。それを知らない男二人は首を傾げるが、カーディから教えてもらい納得すると一端離れた。
「本当にありがとうございました。何かお礼ができればよかったんですが...」
「いいよー気にしないで」
「失礼します」
カーディは手を振りながら見送り、助けられた女性は頭を何度も下げつつその場を後にした。
そして今になって漸くアンセルが動き出し、ガックリ肩を落とすと話を聞き終えたDr.に肩を叩かれる。
「災難だったな」
「...本当ですよ」
アンセルは大きなため息をついた。
その後、アンセル達とDr.達は一緒に帰路へと着いていた。
「カードゲームの罰ゲームで女装とは、運がないですねアンセル」
「今でも悔やまれる...」
「でもアンセルがカーディに負けるとは珍しい」
行動予備隊の男性陣が談笑しているとき、後ろに居たカーディがDr.を見上げながら悪戯っこのような笑みを浮かべていた。
「カーディ、これが目的で聞いてきたのか」
「面白そうだなーって思ってね」
呆れたようなDr.に、メランサは乾いた笑いしか出なかった。
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初ハーメルンからのリクエスト一本目!
女装! アンセル! 初め見たときはビックリしました(
評価、感想、お気に入り、ありがとうございます。
前回までにたくさんの誤字修正をいただきました。いつもいつも助かっております。本当にありがとうございます!