徒然なる方舟のままに   作:玖神 米利

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 ハーメルンのとある方のリクエストから、アズリウスより
 ドクターとアズリウスとケーキ


ケーキは嘘、果物は真実 (アズリウス)

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 夜23時、皆が寝静まり起きているのは社畜かゲーマーぐらいといった時間。そんな時間にロドスのキッチンに明かりがついていた。

 

 

「これで最後、ですわね」

 

 

 そう呟いたのは明るい青色のパーカーを着たアズリウスであった。満足そうな彼女の目の前には、彼女自身が作りあげた奇抜な色のケーキがずらりと並んでいた。

 アズリウスはお菓子作りを趣味としているが、この時間に作っているのは彼女に対する風評に原因がある。

 アズリウスに毒物生成能力があることは周知の事実。だがそれにより彼女は他者から避けられることとなってしまった。医療班からは問題がないと太鼓判を押されているが、アズリウス自身も誤解を解くことをしないため風評を覆しきれて居ない。

 現状のアズリウスのことを考え、キッチンにはこうして人が居ない時間帯でしか使えないのである。

 

 

「あとは冷蔵庫で冷やすだけ」

 

 

 ケーキが1つ当たり20個程乗っているトレイを計4つ、冷蔵庫の中へと入れる。

 アズリウスがこれだけ多くのケーキを作ったのは、趣味でもあるのと同時に厨房班から製作依頼が掛けられているためでもある。

 厨房班からすれば、デザート作りの技術があるアズリウスに手伝ってもらえないのは不満である。そのためバレなければ問題がないと、アズリウスの毒は無害であるという証明の実績作りの依頼である。

 このことはロドス幹部も承認していたりする。

 

 

「...片付けですわね」

 

 

 アズリウスは全ての作業を終え、エプロンを外しながら後片付けを行う。

 だがキッチンテーブルの上には一つだけ、まだケーキが残っていた。コバルトブルーのチョコでコーティングされたそのケーキは、今日一番最初に作ったものであり既に冷え切っていた。そして、先ほど冷蔵庫に入れたケーキの中には、同じ様な青色をしたケーキは一つもなかった。

 

 ガチャカチャと料理道具を片付けるアズリウスはチラリと、一つだけ残していたケーキを見る。手は動かしたままで、視線だけ固定するアズリウスはそのケーキを一つだけ残したのか。

 暫くそうして片付けを行っていると、足音が一つ厨房へとやって来た。

 

 

「アズリウスか、こんな時間までお疲れ様だな」

 

「あらその言葉、そのままお返し致しますわドクター」

 

 

 足音の正体は黒い衣装に身を包んだDr.であり、互いに軽口を叩く。アズリウスが夜の厨房に居ることはDr.も承知済みであるため、特に疑問は抱かない。ただアズリウスの声が少し弾んでおり、その顔には微笑みが浮かんでいた。

 

 

「ところで厨房に何か御用で?」

 

「少し小腹が空いて、何か摘める物を探しにな」

 

 

 Dr.はそう言うと冷蔵庫の中を漁り始める。色々物色するが、悲しきかな本日の食堂も大盛況だったため残り物などなく食材しか入っていない。それでも何かないかと、アズリウスを尻目に懸命に冷蔵庫の中を探る。

 

 アズリウスはDr.の姿に眉をしかめる。それは今のDr.の姿に対してではなく、こんな時間まで仕事をしなければならないDr.の境遇に対してである。

 ただ一介のオペレーターであるアズリウスには進言するぐらいしかできることはなく、既に何回もしている結果がこれなので半ば諦めていたりする。

 

 

「ねぇ、ドクター」

 

「何もない...。ん、どうした?」

 

「その、良かったらですけど...」

 

 

 見かねたアズリウスが、Dr.へと声を掛ける。不安そうに控えめにアズリウスは、一つだけ残していたケーキを指差した。

 

 

「ケーキ? いいのか?」

 

「ダメでしたら言いませんわ。...いかが致します?」

 

「貰おう、前から気にはなってたんだアズリウスのケーキ」

 

 

 Dr.はケーキを食べる、と快諾するとアズリウスは花が咲いたような笑みを浮かべた。

 アズリウスは少し準備があるからと、Dr.を厨房にあるイスへと座らせた。Dr.はされるがままにイスへと座るが、Dr.から見てケーキは既に出来上がっており何を準備するのかアズリウスを眺め始める。

 

 

「リンゴ、さくらんぼ、ブラックベリー」

 

 

 果物ばかりが入っている冷蔵庫を漁るが、どれもアズリウスのお気に召さないようで難しい顔をしている。

 

 

「...桃、これね」

 

 

 アズリウスが冷蔵庫から取り出したのは桃であった。満足そうに手に取った桃の皮をむき、一口サイズへと切りわけコバルトブルーのケーキの上へと乗せた。

 そして次にアズリウスが取り出したのは、ホワイトチョコでできたメッセージプレートとチョコペンだった。アズリウスは丁寧にプレートへと文字を書いていく。

 

 

「何をしてるんだ...?」

 

 

 夜食用のケーキに手をかけていくが、態々そこまでする意味が理解できないDr.は首を傾げるばかり。

 数分後、作業が終わったアズリウスがケーキとホットミルクをトレイに乗せて戻ってきた。

 

 

「どうぞ、召し上がれ」

 

「ああ、ありがとう」

 

「それじゃあ、これにてわたくしは上がりますので」

 

「え? そうか、ケーキありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 ケーキを配膳し終えると、アズリウスはそそくさとその場を後にした。Dr.はアズリウスも疲れているのかと思い彼女を見送った。

 

 

「アズリウス謹製のケーキか。話には聞いてたが色が凄いな」

 

 

 鮮やかなコバルトブルーなケーキに、苦笑を漏らす。

 

 

「桃と、『The cake is a lie』...?」

 

 

 ヴィクトリアの言葉で書かれたそれに、Dr.は困惑する。

 

 

「スラングだったか、褒美は嘘、どういうことだ...?」

 

 

 考え込み続けるが、仕事終わりで疲れた頭では答えを導き出せない。結局、Dr.は諦めてケーキを一口食べた。

 

 

「ん! 美味い」

 

 

 絶妙な甘さと苦さが調和しているケーキに、Dr.は舌鼓をうつ。ケーキがなくなるのはそう時間が掛からなかった。

 

 

 

 

 

 -----

 

 

 

 

 

 厨房から離れたアズリウス、その足取りは軽いが速くそして顔には少しばかり朱が差していた。手には先ほど使った桃の残りが皿の上にあり、それを見てさらに足が速くなる。

 

 

「リンゴは『選ばれた恋』、さくらんぼは『小さな恋人』、ブラックベリーは『あなたと共に』」

 

 

 シャクリ、と桃を一つ齧る。

 

 

「『ケーキは嘘』、なら残った桃は...フフ」

 

「ドクターのことですから、気づかないでしょうけどね」

 

 

 アズリウスは気恥ずかしくなったのか、顔全体がほんのり赤くなっていた。

 

 

 

 

 

 

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 ハーメルンからのリクエスト二本目
 アズリウスはどこかで書きたいと思ってたので丁度良かったです。

 評価、感想、お気に入り、ありがとうございます。

 あと章分け(シリーズ物)の場所を変えようかと思います。移動させるのがちょっと、めんどう...

 追記
  誤字報告ありがとうございます。感謝、圧倒的感謝...ッ!
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