すごい長くなった...。
.
ロドス内に存在しているカフェテリア。その中にある一つの机の上にはティースタンドがあり様々なお菓子が並べられてあった。傍らにはキッチンワゴンがあり、ティーポットからは暖かな湯気が立ち上っていた。
お菓子と紅茶、アフタヌーンティーを楽しんでいたのはセイロンであり従者としてシュヴァルツも侍っていた。
セイロンは時々こうしてお茶会をしている。よくロドス職員を呼び多人数で開かれているのであったが、今日は二人だけとなっていた。
ティータイムも終わりに近づき、紅茶お菓子共に少なくなってきた頃、セイロンは顎に手を当て何事か悩み始めた。
「うーん...」
「如何されましたか、セイロン様」
「ちょっとね」
セイロンはお菓子を一つ摘むと、マジマジ眺める。セイロンが摘んだのは、型抜きのジャムサンドクッキーで中のジャムはレモンが使われておりクッキー生地の茶色がレモンの黄色を映えさせている。
そのクッキーを口に入れる。クッキーの甘さがレモンの酸っぱさを引き立て、またその酸っぱさが紅茶の美味しさを引き立てておりお茶会に相応しい一品となっている。
「ご用意したお茶菓子に何か不備でもありましたか?」
セイロンの一連の行動に、シュヴァルツが疑問の声を掛けた。それに対してセイロンを首を横に振り、否定する。
「いいえ、いつものように美味しいわ。ただ...」
「ただ?」
「代わり映えしないのよねぇ」
「...龍門には紅茶文化に馴染みがないですからね。紅茶に合うものとなると中々」
二人して難しい顔をする。ロドスに来たばかりの頃、質の良い紅茶を探すのに一苦労した記憶が蘇る。もちろんその後、紅茶に合うお茶菓子を見つけるのにも苦労したのだが。
そのため代わり映えしない、飽きたといって直ぐに別のものを見つけることはできない。二人は深いため息をついた。
「セイロンにシュヴァルツ、お茶会かい?」
「あらドクター御機嫌よう。ええ、そうよ」
とそこに現れたのはロドスアイランドの指揮官も兼任しているDr.であった。どうやら書類仕事がひと段落つき、小腹を満たすためにカフェテリアに足を運んだようである。
どうやらドクターは、二人を見つけ挨拶をしに来ただけのようでそのまま離れていこうとする。そこへセイロンが待ったをかけた。
「ドクター、軽食でしたらよかったらご一緒しませんか?」
「え、いいのかい?」
「ええ勿論ですわ。といっても残りは少ないですけれど」
「そこまでお腹が空いてるわけじゃないから、むしろ丁度いいぐらいさ」
セイロンのお誘いにDr.は快諾すると、踏み出そうとしていた足を止めテーブルに着こうとする。
そのさい、シュヴァルツがセイロンの正面のイスを引きDr.を誘導した。
「どうぞ、こちらに」
「ありがとう、シュヴァルツ」
「いえ」
ニコニコと笑顔でDr.が着席するのを確認したシュヴァルツは、Dr.の前に紅茶を差し出しそのままテーブルの脇へと静かに控えた。
紅茶を受け取ったDr.は、一口紅茶を口に含む。
「香りがいいね」
そして次にティースタンドからお茶菓子、ジャムサンドクッキーを齧る。
「なるほど、紅茶の香りとクッキーの風味、互いに引き立てあってるんだね」
そういうとDr.はそれぞれを楽しむように、ゆったりとした速度で堪能し始めた。笑顔のまま優雅にティータイムを楽しむDr.に、セイロンとシュヴァルツは目を見開き驚いた。
「驚きましたわ」
「ん?」
「ドクター、貴方楽しみ方というのをご存知なのですわね」
「セイロン様...」
思わず出てしまったセイロンの言葉に、シュヴァルツが諌めるように名前を呼んだ。それにより自身の発言がDr.を咎める物言いだと気づいたセイロンは、すぐさまDr.に謝罪をした。
一瞬、何のことか分からなかったDr.だったが、逡巡してようやくセイロンが失言したことが分かったが問題ないとばかりに笑い飛ばした。
「はははっ、別に気にしてないよ。普段はコーヒーばかりだからね」
「...よかった。でしたら何故?」
「最近、紅茶と自作のお菓子を持ってきてくれる人が居てね。楽しみ方もそのときに教えて貰ったんだ」
紅茶はシュヴァルツの方が美味しいかな? と一言、視線と共に添えると淹れた本人であるシュヴァルツは小さくお辞儀を返した。
セイロンはというと、自作のお菓子と聞いて目の色を変えた。
「ねぇドクター、一つ頼みごとがあるのだけれど」
「内容によるけど」
「その
-----
「というわけで、本人の意思確認をしないことにはってことで返答は保留にしてるんだけど...」
Dr.は目の前にいる女性、アズリウスに事の経緯を話していたが言葉はどんどん尻すぼみになっていった。というのもアズリウスが渋面をしており、セイロンの提案を受けてくれそうになかったからだ。
「...ドクター、わたくしが厨房に立たない理由をご存知のはずですわよね」
「勿論、体質のことだろう?」
「そうですわ。現状、貴方以外にお出しするつもりはございませんので」
にべもないアズリウスの物言いに、やはりダメだったかと消沈するDr.。
アズリウスが自身の毒を生成する体質に対して嫌悪していることは勿論のこと、それを知った相手が対応を変えてくることに対しても同等以上に疎んでいることも知っていた。それ故に他者と壁を作り、交友関係を気づこうとしないアズリウスに、一つの切欠をと思いセイロンの提案を受けたわけだが。
「なぁ、アズリウス。君はその体質を知った相手が対応を変えてくるのが嫌なんだよね?」
「まぁ...そうですわね」
今一度、Dr.は考えてみる。アズリウスの体質を知ったセイロンがどういった行動をとるのか。
セイロンはお嬢様ではあるが研究者気質、それも危険が伴うフィールドワークであっても積極的に動こうとするタイプである。その研究者気質も、ロドススタッフを観察対象と呼称してしまうようなマッドな側面も併せ持っている。そしてあの天然属性。
そこまで考え、Dr.は思った。
あれ、これ会わせても問題ないんじゃね?
「ちょっと待っててくれないか?」
「え、ええ。構いませんことよ」
アズリウスを見ずにDr.が端末を手に取る。自身を理解してくれていたことに照れていたアズリウスに気づかなかったのは、運がいいのか悪いのか...。
それはそうと、Dr.は端末でセイロンへと掛けた。コール音が数回鳴る暇もなく、セイロンへと繋がった。
『で、で、どうだったのかしら。許可はとれまして?』
「いや、まぁ許可はまだなんだけど」
『そうでしたか...』
端末から聞こえる興奮したようなものから一転、意気消沈したものへと変わり余程期待していたことが伺える。
Dr.は苦笑しつつもセイロンに事の経緯を説明する。初めは大人しく神妙に聞いていたセイロンであったが、話が進むに連れて変わっていった。特にアズリウスの体質の話になるとテンションが最高潮へと達しした。
『是非ッ! 是非とも会う許可をとってくださいドクター!』
「会うって、お菓子の件はいいのかい?」
『勿論そちらもできればお願いしたいです。けれどもお話を聞かせてくださるだけでも構いませんわ』
予想通り以上の食いつきに、Dr.はやや引き気味になる。けれども言葉の節々からは嫌悪といったものは感じず、純粋に興味関心があることが伺える。
これなら二人を合わせても問題がないと確信するDr.だったが、ここで横槍が入った。
『あら? シュヴァルツどうかしたの? 代わって欲しい? 構わないけど、はい』
『セイロン様に代わりまして、シュヴァルツです』
「やぁシュヴァルツ、何か気になることでもあったのかい?」
セイロンの従者シュヴァルツであった。Dr.は失念していたと思うものの、実際にアズリウスとセイロンが会うことになると必然とシュヴァルツとも会うことになるため、これはこれでよかったのかもしれない。
『はい。セイロン様が会いたがっているという御仁、毒を生成する体質とのことですか大丈夫なのですか? もしもセイロン様に何かあれば』
「ふむ」
言葉を切ったシュヴァルツからは剣呑な空気を感じる。セイロンのボディーガードを勤める彼女としては見過ごせない案件であるため気持ちは分からなくもない。
チラリとDr.は横目でアズリウスを見やる。アズリウスは我関せずとでもいうのか、明後日の方向を顔を向けていた。だがその目はどこか不安で揺れていると、Dr.は感じた。
「そのあたりは大丈夫、私が太鼓判を押すよ」
『しかしドクター』
「なんならこの後、公開できる可能な範囲で書類を持っていくよ。それに」
『それに?』
「これでも彼女の美味しいお菓子を幾度となく食べてるんだ、私自身が安全である証明だよ」
とても弱弱しいためDr.は気づかなかったがポスリ、とDr.のわき腹にアズリウスが拳を当てた。このとき、アズリウスの顔は耳まで真っ赤になっていたことだろう。
自信満々といったDr.の言葉にシュヴァルツは大きくため息をついた。
『分かりました。貴方がそこまでいうなら信用しましょう。ただし、お菓子作りの場に私が立ち会うのが条件です』
『ちょっとシュヴァルツ』
『譲れないところです。ご理解くださいセイロン様』
『過保護ねぇ』
「問題ないと思うよ。それにシュヴァルツとも相性いいと思うし、互いに紅茶とお菓子作りで教えあってもいいしね」
シュヴァルツの過保護さに苦笑しつつ、Dr.は端末を切った。あとはアズリウスが首を縦に振るだけとなった。
「さてアズリウス、さっきの話のことなんだけど...」
端末を懐に戻していざ説得をとDr.が向き直ると、そこには挙動不審なアズリウスが居た。しきりに周囲を確認してDr.の顔を見たと思ったら直ぐに反らす、けれどもアズリウスはDr.のコートを握っているほど近くに居る。
「アズリウス...?」
「へ!? え、ええ、コホン。先ほどの話でしたわね。...ドクターがどうしてもと言うなら、吝かじゃありませんことよっ」
「ほんとうかい! なら是非とも頼むよ」
そっぽを向きながらも先ほどとはうって変わって、好意的な意見に変えたアズリウスにDr.は手放しで喜んだ。
Dr.のためならというアズリウスとアズリウスのためにというDr.、両者のちょっとしたすれ違いがありながらもセイロンのお茶会のお菓子作りがここに決定された。
「あ、お菓子作るときにシュヴァルツっていうフェリーンの人が立ち会うんだけど、ついでに紅茶の淹れ方も教えてもらったらどうかな?」
「...は?」
すれ違っているが故の事故も起こるさ。
-----
後日、厨房にてアズリウスとシュヴァルツが一堂に会していた。今からお菓子作りを行うのだが、和やかな雰囲気とは言えなかった。
実態としては不機嫌なアズリウスに、どう言葉をかけていいのか分からないシュヴァルツという構図。
今日作るお菓子の準備をしている間は互いに言葉を交わす必要がないためまだ良かったが、いざ作り始めるとなるとそうもいかない。
「...」
「...」
エプロンを身に着けた両者が向かい合う。困り顔のシュヴァルツに、アズリウスが折れた。というのも原因はDr.にあるため、シュヴァルツ自身に非はない上に準備している間に頭が冷えたのである。
「ふぅ、ごめんなさいね」
「い、いや問題ない...。何かあったんですか?」
「...ドクターよ」
「ああ、なるほど」
フン、と鼻を鳴らすアズリウスに、シュヴァルツは納得したのか大きく頷いた。どうやらシュヴァルツも過去Dr.の発言に振り回されたことがあるようで、二人の間には奇妙な一体感を感じていた。
「それでは本日はどんなお菓子を作られるのですか?」
「そうね~、紅茶を使うお茶会。って先に紅茶の味を見ておきませんと」
「それもそうでしたね。では準備してきます」
あっ、と気づいた二人は一端調理道具を片付けて紅茶を淹れる準備を始めた。
シュヴァルツはまず打ち出しで作られた銅製のやかんを二つ取り出すと片方は勢いよく水を入れ、もう片方は普通に水を入れた。二つともコンロの上に置き、水を沸騰させるがこの時勢いよく入れた方は弱火にして時間差を作る。
水が沸騰するまでの間、耐熱ガラス製のティーポッドと茶葉、龍門産のキーマンでブロークン・オレンジ・ペコー(葉を揉捻する時にカットしたもので、大きさは2~4㎜ほど)を用意した。
沸騰するまでの間にティーカップ、今回は二人分を用意する。この時シュヴァルツがミルクと砂糖が必要か聞くが、ストレートのままがいいとアズリスは返した。
先に沸騰したやかんのお湯を使い、シュヴァルツは何も入ってないポットとカップにへと入れた。入れてから数十秒、ポットが温まるとお湯を捨てる。
お湯を捨て温まったポットの中に二人分の茶葉をいれると、弱火で沸騰させたお湯を使い高い位置からポットへと注いだ。ポットのふたを閉めてポットの中を蒸らす。アズリウスは興味深そうにポットの中で上下に泳ぐ茶葉を見ていた。
シュヴァルツは二分と少ししてからカップのお湯を捨てると、ポットの中を軽くひと混ぜさせてから茶漉しを使い二つのカップへまわし注ぎしていく。最後の一滴までカップに注ぎ終えると、カップをアズリウスの前に差し出した。
「どうぞ、龍門産のキーモン。ブロークン・オレンジ・ペコーのストレートです」
「...いただくわ」
ティーカップの中の紅茶は澄んだ黄色がかったオレンジ色で、口に近づけるだけでキーモンの香りが鼻腔をくすぐった。
飲む前から美味しい、そう思わせる紅茶に口をつけると口内から鼻を抜けるように独特なスモーキーな香りが抜けていった。渋みは少なく、マイルドで甘さを感じる。
「ほぅ...」
思わずため息が漏れる。ホッと安心するような、香り豊かな紅茶にアズリウスの顔は綻んだ。
「とても美味しいわ」
「ありがとうございます」
アズリウスの心の底からの賛辞に、シュヴァルツはなんてことはないように返すが背後で揺れる尻尾が彼女の心情を物語っていた。
二人は無言で紅茶を飲み進めるが、紅茶が減っていくほどにアズリウスの顔が険しいものになっていった。
「どうかされましたか?」
「...負けましたわ」
「はい?」
「コホン。いえ、この紅茶に合うものを考えていましたわ。生地に果物を混ぜ込んだフルーツケーキ、これですわね」
アズリウスは甘く熟成感のある香りをしているキーマンにはフルーツ、それもドライフルーツが合うと踏んだ。
ただフルーツケーキと聞いて、シュヴァルツは少し眉を寄せた。あまり良い思いでがないようでアズリウスが声をかけた。
「フルーツケーキ、いいと思いましたのだけれど」
「ああ、いえ。戦闘糧食を思い出してしまっただけです」
「あんなパサパサなお菓子とも言えないものではありません、なのでご安心くださいませ」
「...お願いします」
「それはそうと、シュヴァルツさん」
「なんでしょうか」
「紅茶の淹れ方、教えてくださいませんこと? 代わりと言ってはなんですが、フルーツケーキの作り方をお教えしますわ」
「願ってもないことです」
----
アズリウスとシュヴァルツが厨房に立った翌日。セイロンがアズリウスのお菓子を待っている間に、シュルヴァルツがアズリウスに関して話していた。
「ということがありました」
「まぁ、まぁまぁまぁ」
話を聞き終わったセイロンは、口元に手を当てながらクスクス笑っていた。
笑う要素はなかったはずなのにと、シュヴァルツは首をかしげた。
「ふふ、シュヴァルツに友達ができたのね」
「友達ですか。確かに彼女とは話が合いますけど...」
シュヴァルツはアズリウスを友人として今一度考えてみる。
小型大型の違いはあるもののクロスボウを使う同じ狙撃オペレーター。敵を倒すことに関しては効率的に行うシュヴァルツ、弄る事はせず毒を持って致命を与えるアズリウスと違いはあるものの速やかに敵を倒すという点では一致している。
さらに、今回のことで互いに紅茶の淹れ方とお菓子作りを教え合うという、趣味の共有をしている。付け加えるならアズリウスの話し方がセイロンと似ている、互いに過去を詮索しないなどといった好材料が多い。
そのことに気がつくいたシュヴァルツは、嬉しいような嫌なような何とも言えない複雑そうな顔をする。
「...」
「いいことじゃない」
対するセイロンはシュヴァルツに微笑みかけていた。
そんなこんなで二人が話し込んでいると、アズリウスがキッチンワゴンを押しながらやってきた。キッチンワゴンの上にはクロッシュ(料理にかぶせる金属製の覆い)が被せられた大皿が乗っていた。
二つの意味で待ちかねたとばかりにテーブルに身を乗り出すセイロン。普段ならここでシュヴァルツから注意が入るはずなのだが、その当人はしまったと言わんばかりに口元を手で覆った。
「始めまして、わたくしが今回お茶会でお出しするお菓子を作りましたアズr「アズリウスさんですわね!」!?」
「セイロン様...」
「な、なんですの!?」
シュヴァルツの懸念その一、セイロンの暴走が発動した。自己紹介していたアズリウスに向かって、今か今かと待ち構えていたセイロンが身を乗り出しながら両手でアズリウスの手を包んだ。
イブニンググローブに越しとはいえ、普段他者と触れ合う機会がないアズリウスは突然のことに困惑し、ドン引きしていた。
「一度落ち着きましょう」
「そうね、時間はまだまだありますわ」
「...帰りたくなってきましたわ」
「すみませんセイロン様が...」
シュヴァルツの取り成しによって、セイロンは手を離し着席し直した。それでもまだ鼻息が若干荒くなっているため、シュヴァルツはこの後のお茶会も気をつけなければと気合を入れなおす。
手を握られたアズリウスは、一歩二歩後ろに下がり心拍数が跳ね上がった心臓を押さえていた。
アズリウスが落ち着くまでに少し時間があると、シュヴァルツは紅茶の準備を始める。紅茶の準備が終わり、周囲にキーモンの香りが漂う頃になるとアズリウスは落ち着きを取り戻していた。
「はぁ...。それでは改めますわね。アズリウスですわ」
「セイロンですわ。今日をとても楽しみにしておりましたの!」
「ええ、先ほどので十分分かっておりますわ」
ワクワクしたように落ち着きのないセイロンに、疲れたようなアズリウスはクロッシュに包まれた大皿をテーブルの上に置いた。ただシュヴァルツはその大皿に納まっている中身を知っているため、複雑そうな視線を向けていた。
「コホン。本日のお菓子はフルーツケーキとなりますわ」
かぱりとアズリウスはクロッシュを開ける。そこには一切れずつに切られたフルーツケーキがあり、焼きたての香ばしさと共に生地に練りこまれた果実のやさしい匂いを漂わせていた。
だけであればよかったのだが。
「わぁ!」
「...」
「キーマンの甘く、独特な熟成感のある香りには果実の酸味が合うと思いましたのでベリーや柑橘類を使いましたわ」
会心の出来なのか胸を張るアズリウスとフルーツケーキに好奇の視線を送るセイロン、そして頭を抱えるシュヴァルツが居た。
懸念その二、アズリウスのフルーツケーキの色である。
「カラフルですわね」
そう、本来なら茶色系の色になるはずが、赤青黄色といったショッキングな色合いになっているのである。
二人の様子にアズリウスは気づいていないのか、切り分けられているフルーツケーキを小皿に分けていた。
「どうぞ召し上がれ」
「いただきます」
「えっ!?」
セイロンがどう反応するのか、どこかで止めた方がいいのか。シュヴァルツがそう考えをめぐらせている間に、セイロンは躊躇いもせず口に運んだ。
「甘さ控えめで果物の酸味が美味しいですわね。これはキーマンと合いますわね」
「ありがとうございます」
「...え?」
当たり前のように食し、当たり前のように評価するセイロンの姿に、シュヴァルツは目が点となる。
固まるシュヴァルツを他所に、アズリウスはセイロンの目の前の席へと着席した。
「この色合い、珍しくて新鮮ですわ。お茶会も華やかになりますし」
「そう言っていただけたなら作った甲斐がありましてよ」
「ねぇアズリウスさん、その体質のことだけれども私非常に興味がありますの」
「怖くないの?」
「まさか!」
色鮮やかなフルーツケーキを食べながら、二人の会話はどんどん進んでいく。
シュヴァルツはため息を一つつく。そういえば危険な生物がいる火山に単独で行くような破天荒かつ探究心の塊のような人であったと、この程度では動じもしないことを失念していた。
どうやら友人と呼べる存在が出来て浮かれていたと、シュヴァルツは少しだけ己を戒める。
「シュヴァルツ、シュヴァルツ」
「え、ああ、すみません」
「貴女もボーとすることがあるのね」
「お見苦しいところをお見せしました」
「構わないわ。それより紅茶のおかわり、いただけないかしら」
「すぐ準備します」
「わたくしにもお願いいたしますわ」
「ええ、勿論です」
その後はシュヴァルツも席に加わり、賑やかにお茶会は過ぎていった。
-----
「その、ドクター。少しいいだろうか...」
「やぁシュヴァルツ、どうしたんだ?」
「アズリウスに教わったフルーツケーキを作ってみたのだけれども...」
「おお! アズリウスと交流してるんだ。そうかそうか」
「食べてみてくれませんか?」
「いいけど、セイロンじゃなくて...なんでカラフルなの?」
「普通のも作ったので食べ比べ」
「どれどれ、うん、うん? え、カラフルな方が美味しい...」
「ですよね」
「...この色に何か秘訣があるのだろうか」
「それがさっぱり」
「不思議だ」
.
ハーメルンでのリクエスト二本目。これで全部消化、銀灰?シランナ。
評価、感想、お気に入り、誤字脱字報告ありがとうございます。とてもたすかっております。
活動報告で今後の予定について投稿してあります。簡単に言うと、9月10月はくっっっそ忙しいので投稿できないよ!というだけですが。
現状、別のところからリクエストを受けているため、今リクエストされても11月12月以降の投稿となります。それでもよろしければリクエストしていってください。