徒然なる方舟のままに   作:玖神 米利

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 とある方のリクエストから、ドクターとアンブリエルとのデートより

 思春期の複雑な気持ちとか分からぬ、分からぬ...

 護衛出てきてないけど、空気呼んで遠巻きに見てた感じです。


次回のデートは二人っきりで (アンブリエル)

 .

 

 

 

 

「ドクター、デートしよ」

「いきなりどうしたんだアンブリエル」

 

 

 いつもの執務室内、ソファで寝そべっていたアンブリエルが唐突に言い放つ。ドクターは書類を処理している手を止めずに、首を傾げながら聞き返した。

 

 

「ドクターさー、仕事しすぎだと思うんよね」

「そうか? いつも通りだが」

「それが多いって言ってんしょー」

 

 

 ソファに座り直したアンブリエルは呆れ顔のような膨れっ面をしていた。普段ほどほどに仕事をしつつも、肩の力を抜く(サボる)ところはしっかり抜く彼女からしたらドクターの仕事量はしすぎと言えるのかもしれない。

 

 

「いい! 明日デートだかんね!」

 

 そう宣言すると、ソファから立ち上がりドアへと歩を進める。開けたドアの前で振り返りドクターを指差しながら。

 

 

「忘れないでよね!!」

「あ、おい。行っちゃったよ...」

 

 

 ドクターが口を挟む前に、バタンとドアを閉じ出て行ってしまった。

 困ったように頬を掻きながら、ドクターは端末を取り出しケルシーへと連絡を取った。

 

 

「すまないケルシー。ちょっといいだろうか」

『ドクターから掛けて来るとは珍しいな』

 

 

 端末から聞こえてくるケルシーの声からは、滅多に出さないであろう驚きのような声音であった。

 片手で手帳を確認して、明日に予定が入っていないことを確認する。

 

 

「実はアンブリエルから買い物に誘われてね。予定もないし、久々に外に出るのもいいかと思って」

『デートか』

「本人はそのつもりみたいなんだけど...」

『言いたいことは分かる。彼女には悪いが、狙撃手に護衛は務まらん』

「だよねぇ」

 

 

 ドクターはため息をつき、二人っきりとはいかない事実に心の中でアンブリエルへと謝った。

 

 

『ふむ。ん、いいだろう。急ぐ案件もない今のうちに羽を伸ばしておけ』

「恩にきるよ」

『アーミヤにはこちらからぼかして伝えておく。護衛も用意してやる。ただし』

「顔を隠すためと、分かりやすいようにロドスのジャケットを着ていけ、だろ?」

 

 

 ドクターはロドス内に居ても尚、フード付きのジャケットにバイザーをしている。それもこれも鉱石病の第一人者であるため、あらゆる国と組織から身柄を狙われている。

 顔を隠し身体情報を与えず、かつ用意に判別できるようにしているのである。ドクターからすればシエスタでもこの格好には物申したかったのだが、命には変えられないため泣く泣くアロハシャツを諦めたこともある。

 

 

『アンブリエルには悪いが、おめかしは化粧だけに留めてもらおう』

「重ね重ねありがとう、ケルシー」

『楽しんでこい。ではな』

 

 

 ドクターはケルシーとの通信が終わると、今度はアンブリエルへと掛けた。

 呼び出しのコール音が幾度も鳴るが、一向に出る気配がない。掛け間違いかと通信相手を見るが、表示されている名前はアンブリエルで間違っていない。

 

 

「どうしたんだ...?」

 

 

 

 

 -----

 

 

 

 

 執務室から出たアンブリエルは駆け足で自室へと戻ると、そのままの勢いでベットへダイブし。

 

 

「あ゛--!!! 言っちゃった言っちゃった言っちゃった!」

 

 

 枕を抱きしめながらジタバタと悶えていた。どうやらドクターをデートに誘ったことに今更ながら恥ずかしさを感じているようであった。

 一頻り悶えると、ピタリと動きを止めた。

 

 

「ちょっと強引じゃなかったかな...。でも息抜きも必要だし」

 

 

 羞恥心が過ぎ去れば、今度は不安が襲い掛かってきた。眉を八の字にさせながら、ブツブツと呟き抱いている枕をきつく抱きしめる。

 

 

「そう、これはドクターのため。ドクターの息抜きにデー...デ、デ、デ、デートをぉ...っ!」

 

 

 ドクターのためと自分に言い聞かせていたが、ドクターとデートすることを思い出して顔を赤面している。

 意識しないようにと思えば思うほど逆効果になり、脳内で自身とドクターが腕を組んでいる姿を思い浮かべてしまい余計に顔を赤くする。

 羞恥で頭が茹って来たのか、プスプスと煙が上がっているのが見えるまでになったアンブリエル。枕に顔を埋めていると、突然アンブリエルの端末が鳴り響いた。

 

 

「何!? なんなの一体!」

 

 

 妄想に没頭していたアンブリエルは飛び上がり、音の正体である端末を探り当てるとホッと胸を撫で下ろした。が、端末に表示された着信相手を見て飛び跳ねた。

 

 

「なんだ通信が来た、だけ、ド、ド、ドクター!?」

 

 

 驚きすぎるあまり端末を放り投げてしまう。慌てて掴もうとするが上手くいかず、ジャグリングを行うはめになった。

 三度、四度と繰り返してようやくキャッチする。ホッと息をつくが端末は鳴りっ放し、アンブリエルは端末と睨めっこすると意を決して通話ボタンを押した。

 

 

「もしもし...」

『ああ、よかった繋がった。取り込み中だったかな?』

「なっ、んでもないよ?」

 

 

 端末から聞こえたきたドクターの声に、アンブリエルは声が上擦ってしまう。聞こえていたはずのドクターは態々指摘することもなく、話を進めてくれるのだがそれが余計にアンブリエルの羞恥が掻きたてられてしまう。

 

 

『それで明日のことなんだけどね』

「う、うん」

 

 

 来たかと言わんばかりに身構えるアンブリエルは、固唾を飲んだ。

 

 

『ケルシーにも確認とったけど、大丈夫一緒に行けるよ』

「...マジ!?」

『マジだよ』

 

 

 ドクターとデートができることが決まった。その事実にアンブリエルは思わずガッツポーズ、明日は何を着ていこうかと思考が先走る。だからなのか端末から聞こえてくるドクターのすまなそうな声音にはきづけなかった。

 

 

『ただ、幾つか条件があるんだ』

「なになに~?」

『一つ目が服装はロドス制服のみ』

「...え」

 

 

 浮ついていたところに冷や水を浴びせられたアンブリエルは、茫然自失となる。辛うじて端末は落とさずに済んだものの、ドクターの声を右から左へと流してしまう。

 

 

『―――ということなんだ。すまないね、私の事情で...」

「...え、あ、うん。仕方ないっしょ」

『本当にすまない。明日、楽しみにしてるよ』

 

 

 通話が切れると同時に、アンブリエルは仰向けにベットへ倒れ込んだ。

 デートにいける嬉しさと着飾れないことに対する落胆が頭の中で混ぜこぜになる。アンブリエル自身も理解している、もしドクターの身に危険が及んでしまったらと考えると。

 

 

「...ッ」

 

 

 顔が歪んでしまうのが分かる。ドクターが少しでも傷ついたのを想像しただけでこれである、死ぬなんてことになったら恐らく自分は耐えられないだろう。予感なんてものじゃない、確信を持って言える。

 ドクターを外に連れて行く、危険な目に合わせてしまうかもしれないデートに誘ったことそのものが間違いだったのか。思考がだんだんとネガティブな方へ沈んでいく。

 

 

【明日、楽しみにしてるよ】

 

 

「...」

 

 

 ドクターと通話した最後の言葉。そこには気負いや恐怖といった負の感情はなく、どこまでも明朗で負の感情はなくむしろ弾んでいるような―――。

 

 

「うっし、いつまでもウジウジしてられないっしょ。服装がダメなら別のものなら問題ないよねー」

 

 

 一番大切なのは、その人そのものである。そう結論づけたアンブリエルは、気合を入れなおして明日の準備へと取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 -----

 

 

 

 

 

 次の日、ドクターは外へと繋がる昇降口の前でアンブリエルを待っていた。いつもの装いであるロドスの制服であるジャケットを羽織っているが、皺などは一切なくパリっとさせており卸し立てなのが分かる。

 また、いつもならジャケットの下は白衣であるところをドクター精一杯のカジュアルなものを着てきている。もっとも私服なんて余程のことがない限り着ないため。無地で飾り気のないものだったが。

 

 

「――ター!」

「来たかな?」

 

 

 ソワソワしながら待っていると、通路から反響してくる声にドクターの顔は綻ぶ。

 通路に目を向けると、小走りに駆けてくるアンブリエルの姿が見えた。

 

 

「ドクター! ごめん!」

「おはようアンブリエル」

 

 

 アンブリエルはチラリと腕時計を確認すると、既に約束の時間を五分過ぎていた。五分程度とはいえ遅れてしまったことに苦い顔をしてしまうが、時間ギリギリまで準備していたから自業自得ではあるのだが。

 

 

「...待った?」

 

 

 何を当たり前なことを言っているんだと、口に出してから後悔するがもう遅い。

 アンブリエルは俯いていた顔を少し上げ、ドクターを見上げる。フードとバイザーに隠れて顔は見えないけれども、肩が小刻みに揺れているのが見て取れた。

 

 

「...今来たところだよ」

 

 

 どうやらドクターは典型的ななカップルのやり取りがツボに入ったのか、口元を押さえていた。

 申し訳なさや不安で一杯だったアンブリエルは、口を開け呆けてしまう。

 

 

「...ん゛ー!」

「ごめんごめん、あまりにもテンプレだったから」

 

 

 頬を膨らませたアンブリエルは、人の気持ちも知らないで! と抗議するようにドクターを睨む。ごめんごめんと、ドクターは謝りつつアンブリエルの顔がよく見えるようにと、前髪の一部を耳に掛けたりして乱れた髪を直す。

 

 

「あれ? 香水...?」

 

 

 睨むのを止め大人しくしていると、ふわりとドクターから甘さと透明感を感じさせるような香りが漂ってきた。

 普段のドクターからは、医薬品や硝煙時には血の鉄錆といった戦場の匂いを漂わせているためアンブリエルは不思議に思い首を傾げた。

 

 

「折角のデートだからね。アンブリエルの隣にいても恥ずかしくないようと思ったんだ。こんな姿だと焼け石に水かもしれないけどね」

 

 

 そう言って空笑いするドクターにアンブリエルはようやく気づいた、ドクターが許容範囲内だが精一杯のオシャレをしてきていることを。そしてテンプレカップルのやり取りも、本当にそう思って言った言葉であると。

 

 

「...ずるじゃん」

「何か言ったかい?」

 

 

 昨日から胸の内に抱えていた負の感情のモヤモヤが、今度はドキドキするものへと変わったことを自覚する。

 自身の顔が火照っており、これは見られたらダメだと思い至る。そう思えば思うほど顔の温度が上昇していく。

 見られたくない、ならばとアンブリエルはドクターの手を取った。

 

 

「なんでもない! ほら、早く行くよー!」

「お、おぉっ!」

 

 

 少々速い足取りのアンブリエル、ただ一つ失念していた。顔を見られてはいないが先ほどドクターが髪を直した故に、赤く染まった耳がドクターからはバッチリ見えていたことを。

 

 

 

 

 

 

 -----

 

 

 

 

 

「冷たくて美味い」

「でしょー」

 

 

 朝早くから龍門へと繰り出した二人。時刻は午後十六時を過ぎた頃合、ベンチで休みつつ屋台で買ったカキ氷を味わっていた。

 二人の両脇には大きな紙袋が幾つかある。それはアンブリエルがドクターへ、ドクターがアンブリエルへとお互いに買った物が詰め込まれている。アンブリエルはファッションに疎いドクターのために服やアクセサリーといったものを、ドクターは日頃のお礼を兼ねて小物などを贈りあっていた。

 

 

「んぐっ!? ...頭がっ!」

「もー一気に食べすぎ。はい、飲み物、少しはマシになるっしょ」

「...ありがとう」

 

 

 アンブリエルから飲み物を受け取り、ドクターは口の中で転がして温める。

 ドクターがアイスクリーム頭痛と戦っている間、アンブリエルは返してもらった飲み物片手に固まっていた。何故なら、ドクターに渡した飲み物はアンブリエルの飲みかけだったのである。

 顔を赤くさせたアンブリエルは横目でドクターを確認するが、まだ頭痛が収まっていないのか頭を抑えている。ドクターは今アンブリエルを見ていない、この隙に飲み物を一口つけて。

 

 

「んくっ...ッ!!」

 

 

 ボンという音が聞こえてくるほどに真っ赤になる。

 

 

「ん゛~~~!! ん゛ぅっ!?」

 

 

 顔を見られない様に、火照った顔を冷やすためにカキ氷を口にかき込んでいく。案の定、アンブリエルもアイスクリーム頭痛に見舞われる結果となった。ただアンブリエルにとって幸運だったのは、頭痛によって顔色が戻ったことだろう。

 頭痛が治まったドクターも、アンブリエルの様子がおかしいことに気づく。

 

 

「何でアンブリエルも...。ほら、飲み物」

「サンキュー...」

 

 

 先ほどとは逆の構図となる、勿論アンブリエルが受け取った飲み物はドクターの飲みかけである。アンブリエルは頭痛で気が回っていないため気づいていないが、ドクターは。

 

 

「...ふぅ」

 

 

 平然としていた。フードとバイザーで顔が隠れているため、そう見えるだけかもしれないが。

 

 

「さて、いい時間になってきちゃったね」

「もーそんな時間? 楽しいと過ぎるのが早すぎるよー」

「ほんとうにね」

 

 

 夕方というには早く、だが太陽は確実に傾いている。

 デートも終わりに近づいていることに一抹の寂しさを感じつつも、暗くなれば危険度は増してしまい必然的にドクターが巻き込まれる可能性がある。それはアンブリエルとしても避けたいため仕方ない、仕方ないことなのだが。

 

 

「はぁ...」

 

 

 理解と納得は別のもの、どうしても下がっていく気持ちにアンブリエルはため息をついてしまう。

 

 

「じゃあ最後に、私の買い物に付き合ってもらおうかな」

「ドクターの?」

 

 

 ドクターは立ち上がりアンブリエルへ手を差し出す。ドクターに買いたいものがあるとは聞いてなかったアンブリエルは、少し困惑しつつもその手を取った。

 

 

 

 

 

 -----

 

 

 

 

 現在ドクターとアンブリエルの二人は、大通りから外れた路地裏へと入り込んでいた。

 薄暗く人が通らない場所であるため、ゴミが散乱している。ただホームレスといった浮浪者は居なかった。

 

 

「この先にお店なんて本当にあるの?」

「あるある。何度も行った所だから大丈夫だよ」

 

 

 背負っているガンケースに収めている銃をいつでも取り出せるようにしつつ、周囲を警戒しているアンブリエルはドクターに問いかけた。軽く返答したドクターはある程度の警戒はしつつも、足取りは軽く慣れている様子である。

 路地裏を暫く歩くと二人の前に小さいネオン看板が掲げられた建物が現れた。

 

 

「もしかして、ここ?」

「うん」

 

 

 ネオン看板にはOPENとしか書かれておらず、さらに扉は鉄製、窓ははめ込みかつ曇りガラスで金属格子が取り付けられておりいかにも怪しい雰囲気をかもし出していた。

 どんなお店か分からず、顔が引きつるアンブリエルだがドクターは店へと入っていく。

 

 

 ―チリンチリン

 

 

 ドアベルの音を鳴らして店へと入ると、そこには様々な種類の銃火器が陳列されていた。

 

 

「ガンショップ?」

「大っぴらに売買できないからこんな所にあるんだ、珍しいでしょ」

 

 

 ドクターが案内したのはガンショップ、テラにおいて銃はラテラーノのみで取り扱われる武器であり本来なら他国の市場に出回ることはない。ただ、闇ルートは何処にでもあるもので此処もそういった場所の一つなのである。

 

 

「誰が来たかと思えば、ロドスのドクターじゃないか」

「やぁ店主、久しぶりだね」

「今日はどうした、弾薬は納品したばかりだろう?」

 

 

 ドクターは奥から出てきた店主と気安い挨拶を交わす。二人の様子に度々訪れていることを察したアンブリエルは店内を見て回ることにした。

 拳銃、小銃、散弾などといった銃器から投擲物や弾薬といった消耗品など品揃えが豊富である。ただ銃器に関してはラテラーノで使われているものより一世代以上古いものしかない。アンブリエルとしては好みではある。

 

 

「今日は個人的な用件で来たんだ」

「お前さんがか? 言っちゃあ悪いがお前さんド下手だろ」

「いや私じゃなくてね」

 

 

 アンブリエルはドクターが店主と話し込んでおり、時間が掛かることを確認すると銃器一つ一つをじっくり見ていくことにする。

 ショップ内にある銃器の四分の三は新品で使われた形跡がない、ただ残りは誰かに使われていたのか細かい傷や磨耗が見て取れた。さらに目を凝らすと、サンクタ族の守護銃である証が刻まれているものも陳列されていた。といっても、その証の隣にラテラーノの公証がつまり守護銃ではなくなったことを示すものが刻まれている。

 

 

「なんだ、まっとーなお店じゃん」

 

 

 懸念が一切なくなったアンブリエルは気をよくしながら、さらに店内を見て回る。

 ガンショップだからこそというのか、銃器のアタッチメントや細かな部品などもあり自分の銃に使えないものがないかと吟味する。いくつか目ぼしいものがあり、買うか迷っているとドクターから声が掛かった。

 

 

「アンブリエル、ちょっといいかな?」

「どしたのー」

「はい、これ持ってみて」

「えぇ? 行き成りなんなのさー...」

 

 

 アンブリエルがカウンターへと近づくと、ドクターは有無を言わさずに一丁の拳銃を握らせた。

 困惑しつつも、言われたとおりに握ってみる。手渡されたのは中折式回転式拳銃であり、重さは普段使っているリーエンフィールドNo.4MkⅠと比べると(小銃と拳銃を比べること事態おかしいが)断然軽い。ただ握った感触がしっくりこない。

 

 

「どう? どこかダメところある?」

「ちょーっとグリップが太いかな」

「どのくらい削った方がいい?」

「1.5cmぐらいかなー。って聞いてどうすんの?」

 

 

 不思議に思うものの、ドクターに拳銃を返すとドクターはそのまま店主へと渡した。拳銃を受け取った店主はその場で木製グリップを削りだした。

 

 

「アンブリエルへのプレゼント」

「あたしの? でも銃なら既にあるけど」

「戦闘用じゃなくて護身、護衛のためのやつだよ」

「あっ! そっちかー」

 

 

 ようやく合点がいく。

 

 

「うん、今日のデート二人っきりじゃなかったでしょ? 次回は二人っきりでと思ってね。ただアンブリエルには負担を掛けちゃうけど」

「ドクター...」

 

 

 この日最後の買い物でプレゼントが色気も欠片もないものとなったことに、申し訳なさそうに苦笑するドクター。だがアンブリエルはそんなことは一切気にならなかった。

 二人っきりで次があり、ドクターとの証としての贈り物となるならばどんなモノでも構わないと思っている。

 

 

「ほれ、できたぞ」

「ありがとう店主。アンブリエル」

 

 

 作業が終わった拳銃がアンブリエルに手渡される。先ほどとは違い、グリップをしっかりと握ることができ満足がいく仕上がりとなっている。

 

 

「エンフィールド・リボルバー、ラテラーノじゃあ骨董品とも言える中折式回転式拳銃だ」

「骨董品? むしろあたしの好みっしょ」

 

 

 アンブリエルは背負っていたガンケースを開き、中に納まっていたリーエンフィールドを見せる。色々カスタマイズされたそれをみて、店主はニヤリと喜色を滲ませながら笑った。

 

 

「ほぉ、いい趣味してんじゃねーか」

「じゃあ店主、弾薬と共に買わせて貰おうかな」

「おう、後日ロドスに送ればいいか?」

 

 

 ドクターと店主が話しを進めようとすると、アンブリエルがドクターの裾を引っ張った。

 

 

「そうだね、そうして、ん? アンブリエル?」

 

 

 何かあるのかとドクターが問いかけると、アンブリエルはモジモジしながら控えめに口を開いた。

 

 

「今、欲しいなーって...。ダメ、かな?」

「...わーはっはっはっ! ドクターも隅に置けねーなー! 色々おまけもつけてやるよ!!」

「うー...言うんじゃなかったかも」

「私は嬉しかったけどね」

「ドクター!」

「あはは」

 

 

 

 

 

 -----

 

 

 

 

 ロドス内にある射撃訓練場、本日の訓練が終わったにも関わらず射撃音がしている。合計で六発分の音が鳴ってからしばらく時間を置いて、再度射撃音が鳴り響く。

 音の主はアンブリエル、その手にはこの前ドクターからプレゼントされたエンフィールド・リボルバーが握られていた。

 

 

 ―ガンガンガン

 

 

 アンブリエルは今までは訓練であろうとほどほどにサボっており、ここまで力を入れることはなかった。

 

 

 ―ガンガンガン

 

 

 穴だらけになっている的、長時間行っていることが伺える。そして的の中央部分は既になくなっている。

 

 

「ふぅ」

 

 

 撃ち切ったアンブリエルは今一度、手にしている拳銃を眺める。グリップにはロドスのロゴがあり、下には『Dr.』の文字が刻まれている。

 刻印をじっと見つめから一撫でしたアンブリエルは、思わず頬が緩む。この銃はドクターとの証、あの日の思い出であり、これからの思い出を作るための証。

 緩んだ顔を引き締め直して、再装填を行い的に向かって構える。

 

 

 ―ガンガンガン

 

 

 その後も、訓練場内で射撃音が響き続けた。

 

 

 

 

 .




 評価、感想、お気に入り、誤字脱字報告ありがとうございます。とても助かってます!

 今回試験的に、地の文の『Dr.』を『ドクター』にしてみました。
 再度アンケートとりますのでよろしければ投票していってください。(前回は『ドクター』表記のが多かったです)


 『ここすき』機能、知らない人が多いのかな?
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 完全匿名なため、結構評価しやすいのではないかと思います。
 この作品は現在一件しか来てないのでちょっと寂しい。
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