徒然なる方舟のままに   作:玖神 米利

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 とある方のリクエストから、グレースロートよりドクターのデートと羽の贈り物より

 風切羽とは、推進力を得る羽であり飛行にとって重要な役割を果たすためのものである。
 グレースロートはスズメ目サンショウクイ科のベニサンショウクイがモチーフとのこと、風切羽は羽の3分の1までの根元部分が鮮やかな黄色で残りの3分の2が灰色になっている。


風切羽という贈り物 (グレースロート)

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― 夢を見る。父と母と一緒に過ごした夢を見る。 ―

 研究者だった両親はいつも家に居て一緒に過ごすことが多かった。

 

 

 

 

 

― 夢を見る。厳格で誠実な父と優しい母を夢に見る。 ―

 医者でもあった両親は沢山の人から慕われていた。それがなによりも誇らしかった。

 

 

 

 

 

― 夢を見る。あの暖かい家で友達と遊んだあの日を夢に見る。 ―

 患者の人に連れられてやってきた子供たちとよく遊んだ。とても楽しかった。

 

 

 

 

 

― 夢を見る。家を壊されたあの日を夢に見る。 ―

 数日前までは笑いあっていた人が家族の家を壊していた。

 

 

 

 

 

― 夢を見る。目が血走った患者達に父が飲み込まれていくのを夢に見る。 ―

 周囲に飛び散る真っ赤な血、手を繋いでいた母の手はとても冷たかった。

 

 

 

 

 

― 夢を見る。知らない人が、患者が、友達の親が、友達が町を壊しているのを夢に見る。 ―

 騒々しいほどの商店街も長閑な住宅街も綺麗な公園ももうそこにはなかった。

 

 

 

 

 

― …夢を見る。…夢を見る。…夢を見る。 ―

 

 

 『悪夢を

     見た』

 

 

 

 

 

 

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「グレースロート!!」

「ハッ!?...ハッ、ハッ、ハッ。どく、たー...?」

 

 

 グレースロートが目を開けると、目の前にはドクターの顔があった。ドクターの顔には焦ったような表情に不安げな瞳が揺れている。

 心臓の鼓動が早く波打ち、荒い息遣いをしているグレースロートは呆けたようにドクターを見続けた。

 

 

「大丈夫か。随分と(うな)されていたみたいだが...」

「夢を見てた。あの日の悪夢を...」

「そうか...」

 

 

 事情を把握したドクターは、グレースロートの側から離れた。自身を覆っていたドクターがいなくなり、寝起きのグレースロートの目に室内灯の灯りが突き刺さった。

 強い刺激に顔を歪ませながらグレースロートは起き上がると、そこでようやく自身が寝汗でグッショリだったことに気が付いた。体中の水分を出し切ったようで、喉が酷く渇いていた。

 

 

「グレースロート、水だ」

「...ありがとう」

 

 

 ドクターから差し出されたコップに、グレースロートは礼を言いながら口をつけた。冷たい水が喉を通り、火照った体を冷ましていく。

 息遣いも鼓動も収まったグレースロートだったが、気分が晴れることはなかった。項垂れるグレースロートに、ドクターは声をかけた。

 

 

「なぁグレースロート、明日出かけないか?」

「...え?」

 

 

 

 

 

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「私、何でドクターと一緒に居るんだろう...」

「嫌だったかい?」

「嫌じゃないけど...」

 

 

 二人は糖葫芦(タンフール)と呼ばれるサンザシ飴(サンザシ:バラ科の落葉低木、小さい林檎のような実)を片手に龍門市街を歩いていた。

 どこか納得してなさそうなグレースロートにドクターは飴を楽しんでいた。二人の服装はいつものロドス制服のままであり、ちょっとだけ目立っていた。

 

 

「急に出かけるなんてどうしたの」

「ちょっと気分転換したくてな」

「...どっちの」

「俺の」

 

 

 グレースロートが問いかけるも、素知らぬ顔のドクター。ジト目を向けてもドクターは飴を美味しそうに食べるだけで答えは得られなかった。

 ため息をつきつつスレースロートも飴を齧る。

 

 

「美味しい」

 

 

 サンザシの酸味と飴の甘味が絶妙であり、舌鼓をうつ。ゆっくりとした歩みの中、街中の喧騒が鼓膜を揺らし日差しが体を温める。

 二人は無言のまま、足を進めていくと次第に人が多くなってくる。ドクターとグレースロートの肩が触れ合うほどに近くにいても、人の波は押し寄せて来た。そしてグレースロートがドクターと離れていってしまった。

 

 

「えっ」

 

 

 寸前にドクターがグレースロートの手を握り締めた。手を繋いだことにより、これ以上離れてしまうことはなくなった。

 人の波はまだまだ続き、グレースロートはドクターの手を引かれながら着いて行くので精一杯であった。

 

 

(大きい、男の人の手...)

 

 

 自分より大きく男性特有の骨ばった手を、握り締めた手から感じる。そして幼少の頃に、父に手を引かれたことを思い出す。

 一緒に出かけたことを、遊んだことを、家族と共に過ごしたことを思い出す。記憶は思い出は、辛いことだけではなかったことを。

 

 

「お父さん...」

 

 

 ぼそりと呟いた言葉は、町の喧騒に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、凄い人混みだった...」

 

 

 人混みを抜けて一息ついたドクターは、グレースロートの手を離すと一つ伸びをする。ポキポキと関節音が鳴っているのは、普段から動くことが少ないからか。

 

 

「大丈夫だったかグレースロート。...グレースロート?」

 

 

 ドクターが振り返るとグレースロートは自身の手を見つめていた。ドクターは気づいていないが、その手は先ほどまでドクターが握り締めていた手であった。

 不思議に思ったドクターが再度呼ぶと、グレースロートは見つめていた手を握り締めた。

 

 

「何でもないよ」

 

 

 グレートスロートは笑みを浮かべながら答えた。

 

 

 

 

 

 

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 夕刻、ドクターとグレースロートの二人は龍門市街から帰って来ていた。行く前までのどこか鬱屈とした雰囲気はなく、表情もすがすがしいものであった。

 

 

「今日はありがとうドクター」

「礼を言うならこっちだと思うんだが?」

 

 

 グレースロートも最初から気づいていた。ドクターが気遣っていただけで、今回のお出かけは自分のためであったことなんて。

 ドクターのすっ呆けた言動に、グレースロートは苦笑する。今とこれからのことを気づかせてくれたドクターに、グレースロートは感謝していた。

 

 

「私がお礼を言いたいだけだから」

「何のことか分からないが、受け取っておこうか」

 

 

 最後の最後まで真実を口にしないドクターに、グレースロートはクスッと笑う。

 グレースロートの様子に、ドクターも肩の荷が下りたのかリラックスしていた。とそこにグレースロートが何か思いついたのか、懐から一枚の羽を取り出した。

 根元辺りが鮮やかな黄色で他の部分が灰色の大きな羽であった。

 

 

「ドクター、これ感謝の気持ち」

「ん?大きな羽だな」

「風切羽。鳥にとって大きく羽ばたくための羽」

「ありがとう、大事にするよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

― 夢を見る。夢を見る。夢を見る。 ―

 でもそれはただの夢。悪夢のような現実があったとしても夢は夢。

 

 

 

 

 

― 夢は見ている。 ―

 今の私はまだ囚われてる。でも前には進めるし進みたい。

 

 

 

 

 

― 夢は未来じゃない。 ―

 楽しい思い出はこれからも作っていける。

 

 

 

 

 

― 夢は過去なだけ。 ―

 忘れる必要はないけど乗り越えていけるもの。

 

 

 

 

 

― …夢を見る。過去を見る。今も見る。 ―

 

 

『未来を

 

    見たい』

 

 

 

 

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 評価、感想、お気に入り、ここ好き、誤字脱字報告ありがとうございます。

 「ここ好き」機能、個人的には面白いんですけど読むとき存在忘れちゃうんですよね...。



 グレースロートがスレースロートとかグレートスロートになっちゃうぅぅぅううう。(ただの誤字)
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