うたた寝というかがっつり寝た。あと久しぶりの一人称視点。
おやすみアーミヤ (アーミヤ)
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ロドスのドクターこと私には最近、悩み事がある。細かいものなら無数にある、仕事の量が多いことや戦闘指揮の効率化、自身の記憶なども今では些細ごとである。そんな中、大きな悩みというのはたった一つである。
現在時刻、深夜一時を過ぎている。書きかけの書類を枕に、デスクに突っ伏して寝入っている少女。アーミヤが目下最大の悩みである。
「ドクター...まだ、休んじゃ...ダメ...」
彼女の寝言も、私を働かせようとしているのはなく『私が働いているのだから自分も頑張らねば』と己を鼓舞するためのものである。もっとも、初めて聞いた時はまだ働かせるのかと戦慄したものだが...。
とはいえだ、日付を跨いでまで働き、夢の中まで働いているというのは健全とは言い難い。幾度となく忠告はしているものの、聞き入れてはくれずほとほと困り果てている訳であるが。
今日も今日とで、不摂生なせいで身長も体重も足りない眠り姫を居室へと運ぶ訳だが。
「ん、えへへ...ドクター...」
毎度、運ぶ時に顔がニヤけるのは一体なんなんだろうか? 起きている訳でもないのに不思議である。
────
最早己だけではどうする事も出来ないと、アーミヤの事をよく知っているであろうケルシーに相談したのだが。
「...この阿呆」
まさかの第一声が罵倒であった。しかもため息付きである。こちらは真面目に悩んでいるというのに。
心外だと抗議すれば再度大きなため息をつかれてしまった。解せぬ。
「ドクター、私が君に対して他者をよく観察し、相手の行動と発言の意味を考えろと言ったのは覚えているな?」
無論だとも。そのお陰で個々のオペレーター達の癖が分かり、ベストもしくはベターな戦闘指揮が執れているのだから。的確な助言、感謝の言葉もない。
む、どうしたんだ眉間を揉んで。やはりケルシーもアーミヤ同様、働きすぎではないのか?
「違うそうじゃない」
むむ、違うのか。ふーむ、そうなると私がまだまだ頼りないということになるのであろうか。しかしアーミヤもCEOとしての仕事もあるはず、であるならば互いに秘書を二、三人付けた方がいいのでは。ケルシーもそうした方が。
「そうではない。いいかドクター、既にヒントは示されている。何故アーミヤは君と一緒に居たがるのか、それも長時間に渡ってだ。そしてドクターに触れられた時の反応は何故なのか。そこから導き出される答えは?」
...仕事が遅い私を補助する為と良い夢を見ているから?
「ドクター、君には失望した」
そこまでか。ならば教えてくれケルシー、私はどうすればいい。どうすればアーミヤに健全な生活をしてもらえるんだ。
「本来なら、自分自身で答えを出さなければならないのだが...望むべくもないか。いいか、明日こうするんだ」
────
現在時刻十三時。昼食もとり終え、午後の勤務が始まると共に満たされた食欲により睡魔との戦いが始まるこの時間に仕掛けるべきとはケルシー談。事実、アーミヤも昨日遅くまで仕事をしていた影響か眠気と疲労の色が見える。その割に、気力は充実してるのが不可解だが。ともあれ行動を起こすしかない。
アーミヤ、ちょっといいだろうか。
「ドクター! どうかしましたか?」
いやなに、次回の会議で使う資料の精査に協力して欲しくてな。
「会議の資料ですか? でもたしかケルシー先生が用意するものだったはずでは...」
本来ならな。だがケルシーも忙しい身、急遽精査だけ頼まれたんだ。
「ここのところ手術が重なっていると聞いた記憶が...。分かりました任せてください!」
まずは第一関門突破、とはいえ何も嘘を言っているわけではない。事実ケルシーは手術が重なり手が空いてない、それを利用しただけである。やっぱりケルシーも働き過ぎではないか? アーミヤの次はケルシーも休ませなければ、骨が折れそうだ。
問題は次ぎの第二関門だ。ここさえ突破すればあとはなし崩しでいけるのだが、はてさて。
「あ、あの、ドクター?」
どうした?
「どうしたも何も、何故膝を叩いてるのですか? それと資料の紙は」
ああ、すまないな紙はない、この端末に入っている。だから、な?
「ドクターのひ、膝の上に...? 私は横でもいい、ですよ?」
この資料、かなり多くてな。立ちっ放しは辛いだろうし、一度に二重でチェックできるから効率的だ。ああ、私に遠慮してるなら気遣い無用だぞ。
「う、うう...」
たまにはこういうのも良いだろう、おいで、アーミヤ。
「...失礼します」
第二関門突破、なのだがアーミヤが軽すぎる...。余計心配になる、労働環境含めて色々変えねばな。
しかしアーミヤが硬い。まぁ仕事を始めれば硬さも抜けてくるだろう、アーミヤは真面目だからな。
予想通り、暫く精査を進めていけば体の硬さがなくなってきた。むしろリラックスしているのか、眼前で耳がご機嫌に揺れている。そろそろだろう。
足と手を使ってリズムを刻んでいく。ゆっくりと間隔を空けて、初めは知覚できないほどに小さく時間をかけて大きくしていく。
元々近くで触れ合っているため体温が上がっているのに加え、太陽が少し傾き室内の気温も上がっている。そして人は心音のような一定のリズムを感じ取ると安心感を覚える。ダメ押しとばかりに昼食後のこの時間、眠気を誘うには十分な要素が揃っている。
「どくたー...?」
現に、不審に思ったアーミヤが声を出すが眠気が襲っているのかふにゃふにゃである。とろんと蕩けた様な目をしたアーミヤを私を背もたれにするように優しく抱きしめてやる。既に限界だったのか、アーミヤは寝入ってしまう。作戦成功である。これほど上手くいくとは流石ケルシーと言わざるを得ない。
アーミヤ、君はまだ幼いんだ。もう少し大人を頼って欲しい、記憶喪失な私が言っても説得力はないかもしれないがな。
だが君を思っているのはかなり多いのだぞ? 今回でも私とケルシー以外に、今日の分を減らしてくれた事務方、昼食の時間やメニューを考えてくれた調理組みに今日のために部屋の内装を調整してくれたスタッフ達。
もう少し、もう少しだけでいい、自分の体を大事にしてくれないか、アーミヤ。
ふむ、さすがに心地良すぎる。私も少しだけ居眠りさせて貰おうか、アーミヤを抱き枕にするのは少々心苦しいが勘弁してもらおう。おやすみ、アーミヤ。
────
「うまくいってよかったねー、ケルシー」
「ああ」
「...ケルシー、嫉妬してる?」
「...少し」
「ケルシーさぁ、もうちょっとドクターの前で素直になればいいのに」
「うるさいぞクロージャ」
「難儀だねぇ」
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誤字脱字、お気に入り、評価ありがとうございます。
続いているシリーズもの、独立させようか悩み中。
こんなに書くとは思ってなくて、話の順番入れ替えるのがすんごい手間。