徒然なる方舟のままに   作:玖神 米利

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 童謡『雪』をモチーフにロドスの雪の日の日常。
 ドクターとアーミヤとマッターホルンが雪見酒をするお話。

 カランド貿易組をメインに据えつつ、全4話+オマケを想定してます。
 次回はドクターとクーリエとプラマニクスです。


ロドスの雪
雪やこんこ霰やこんこ (ドクター・アーミヤ・マッターホルン)


 .

 

 

 

 

 季節は冬、いつものように書類仕事が長引いたドクターとアーミヤ。時刻は既に二十時を過ぎているのだが、覚醒している意識を落ち着けたい。ホットミルクか何かが欲しいと、食堂へと歩を進めていた。

 

 

「おー寒い寒い」

「一気に冷え込みましたね」

 

 

 両腕で体を擦りながら白い息を吐くドクターに、アーミヤは苦笑しつつ答えた。二人が言うように、ここ数日で気温が一気に下がっていた。一週間の天気予報でもゼロ度を超える日はなく、今年初めての降雪さえありえるとのこと。

 二人共、冬用に厚着を着込んではいるが体の芯を冷やされている。身を寄せ少しでも暖かくなるように肩を並べながら通路を歩く。

 

 

「...」

 

 

 アーミヤは隣にいるドクターの顔をチラリと見る。視界一杯にドクターの顔が広っており、触れ合っている肩からは感じるはずのないドクターの体温が感じられるようで...。

 

 

 

「アーミヤ、顔が赤いけど大丈夫?」

 

 

 チラ見するだけのつもりだったが、熱に浮かされたようにドクターを見ていたアーミヤ。それに気づいたドクターに顔を覗き込まれて、ようやく自分がドクターを見つめていたことに気がつかされた。

 

 

「えっ!?大丈ふゅ、大丈夫ですよ...?」

「そうか?体調が悪くなったらすぐ言ってくれ」

 

 

 慌ててしまい噛んでしまうアーミヤ。ドクターは気づかないふりをしつつ、アーミヤを抱き寄せると自身のマフラーを巻いてあげた。

 自分の首に巻かれていくマフラーを、呆けたように見つめる。巻かれきると、アーミヤはマフラーに顔を埋めた。

 

 

「...はい!」

 

 

 赤くなった顔は温かくなったからなのか、それとも別の要因なのか。

 

 

 二人は引っ付きあいながら足取り軽く、歩みを再開する。そろそろ食堂の入り口が見えてくるところまで来たが、不思議なことに食堂から灯りが漏れていた。

 この時間に食堂を利用する報告を受けていないドクターとアーミヤは顔を見合わせ、互いに首を捻る。もっとも食堂に個人的利用の制限は一切ないのだが。

 疑問に思いつつも入り口へと近いづいていくが、入る手前でパッと灯りが消えた。そして食堂から一人の巨漢が出てきた。

 

 

「ドクターにアーミヤ社長?」

「「マッターホルン」さん」

 

 

 手に手提げ袋とキャンプ用の片手鍋にガスコンロを持って現れたのは、マッターホルンであった。

 ドクターとアーミヤは驚きつつも、厨房にも立つこともあるマッターホルンであるならばと納得した。

 

 

「お二人とも仕事終わりですか?」

「ああ、目が冴えてしまってね。ホットミルクでも飲もうかと」

「マッターホルンさんはどうされたのですか?」

「あー、実はですね...」

 

 

 マッターホルンは言い難そうにしながらも、手に持っていた袋の中身を二人に見せた。

 二人が中を覗くと、そこには白色の真空パックと透明な液体が入ったビンがいくつか入っている。ドクターがパックの一つ取り出すと、『甘酒』と書かれたラベルがデカデカと貼り付けられていた。

 

 

「甘酒」

「甘酒ですね」

「はい、甘酒です」

 

 

 甘酒とは意外な選択であり、二人はマッターホルンの顔を見つめた。特にドクターは、マッターホルンがウォッカなどの度数の強いお酒を好んでいることを知っているため尚のことである。

 マッターホルンも自身も、二人からどう思われているのか分かっているのか苦笑をもらす。

 

 

「雪が降っているみたいなので、雪見酒をと思いまして。一応熱燗用に清酒も用意してるんですよ?」

「雪...?」

「気づいてないのですか?ほら」

 

 

 マッターホルンが窓を指し示されると、釣られるように顔を向けた。窓の外は真っ暗だが、通路の明かりに照らされた雪が上から下へとこんこんと降っていた。

 

 

「雪!雪ですよドクター!」

「もう降ってたのか、道理で寒いわけだ」

 

 

 窓に近付き、外を覗き込んだアーミヤは目を輝かせながら降り積もっていく雪を眺める。ドクターもガラス越しでも分かるほどの冷気を感じながら、アーミヤの隣へと並んだ。

 

 

「結構、積もってるな」

 

 

 そう呟きながらドクターは窓の下、月明かりもない暗い大地が白く染まっているのを見て取った。予報より早い積雪である。

 今の調子で降り続ければ、ロドスが雪に閉ざされることは明白であり外に行く業務はこなせない。尤も、明日はロドス全体で臨時の休日を設けているため問題はなかったりする。

 

 

「どうですお二人とも、よかったら俺の雪見酒に付き合ってくれませんか?」

 

 

 久々の休日、明日は何をしようかとドクターが考えているとマッターホルンが雪見酒に誘ってきた。

 マッターホルンが持っているお酒の量は、酒豪な彼なら消費しきれる程度ではある。そのためドクターは一度問うた。

 

 

「いいのかい?」

「ええ、複数人の方が楽しいですから」

「よし、ご相伴に預かろう」

 

 

 笑みを浮かべたマッターホルンに、ドクターは酒盛りをすることに決めた。

 男二人は目的地、甲板へと向かう前に足りなくなるであろうお酒をキッチンから少々拝借した。

 

 

 

 

 

 

 ----

 

 

 

 

 

 

 甲板に出ると、そこは一面の銀景色であった。雪雲が途切れたのか、雪は一時的に止んでおり雲の切れ間から満月の光で照らし出されていた。

 

 

「綺麗な雪がこんなにたくさん!」

「足元には気をつけろよー!」

 

 

 アーミヤは目を輝かせると、降り積もった雪に突撃していった。膝丈ほどまである雪の中を、くるくると回りながらはしゃぐ。年相応の姿に、男二人は頬を緩ませる。

 景色を堪能したあと、雪見酒の準備を始めた。ガスコンロに片手鍋、お酒各種と用意していくとふとドクターがあることに気が付いた。

 

 

「マッターホルン、湯煎用の水を用意してないがどうするんだ?」

「ああ、こうするんですよ」

「そうか溶かせばいいのか」

 

 

 寒い中での冷たいお酒というのもありだが、やはりここは温めて飲みたいというもの。それ故にドクターが危惧したのだが、マッターホルンは片手鍋を雪の中へ突っ込んだ。

 マッターホルンは慣れた手つきで鍋の中へと雪を押し込め、固めていく。鍋に押し込み続けて、最早雪とは呼べず氷になってようやく詰め込むのやめた。

 

 

「すごい詰め込んだな」

「ここまでしないと足りないんですよ」

「流石雪国出身」

 

 

 そして鍋をガスコンロへと載せ、火にかける。徐々に徐々に(こおり)は溶けていき、水へと姿を変える。

 マッターホルンは鍋の中を確認すると、湯銭に足りないと分かると雪を追加する。お酒を取り出しているドクターはというと、大半のビンの蓋を開封し幾つかを雪の中へと突っ込んだ。どうやら冷酒も作るようであった。

 それから十分もしない内に、鍋の中で沸騰が始まった。そろそろ始めるのかと、そわそわしだすドクターだったがマッターホルンはさらに一分ほど時間を置いてから弱火へと変えた。

 

 

「準備ができましたので、湯煎していきましょう」

「待ってました!」

 

 

 マッターホルンが言うが否や、ドクターは鍋の中に清酒が入ったビンを入れ始めた。誘うまでは遠慮していたドクターのウッキウキな姿に、苦笑を浮かべながらマッターホルンは甘酒が入ったパックを鍋へと入れた。

 暫くして、ガスコンロの火を完全に止めると、温まるまで暫く待つことになった。二人はなんとなしに、眼前の景色を眺める。月明かりに照らされた雪のなか、アーミヤが雪ダルマを作り始めていた。

 

 

「アーミヤCEOは、レムビリトン出身でしたよね」

「そうだが、どうしたんだ突然」

 

 

 ふと、マッターホルンが呟いた言葉に、ドクターは首を傾げた。ドクターが顔を向けると、そこには苦悩がありありと浮かんだ顔のマッターホルンがいた。

 

 

「いえ、あそこも雪国だったと記憶しているんですが...。先ほどの『綺麗な雪』というのが気になりまして」

「...確かにレムビリトンも雪が降る。だがあそこは鉱業と工業が盛んで環境汚染が、な」

「なるほど」

「もっとも、アーミヤの幼少期にも理由があるかもしれないが...。記憶喪失に加えてその頃の資料もないんだ」

「そして、あの年齢でCEOとなれば...」

 

 

 二人して険しい顔つきになる。

 重苦しい雰囲気の中、ドクターはマッターホルンへと問いかけた。

 

 

「重ねたか?シルバーアッシュと」

「...はい。シルバーアッシュ様はご両親が亡くなり、幼い身で当主になりました。右も左も分からない中、周りはそれを許さず...」

「ままならんもんだな」

「ええ」

 

 

 二人の会話が途切れる。ドクターは程よく温まったビン、熱燗を二本鍋から取り出すと、一本をマッターホルンへと手渡した。

 

 

「まぁ、色々ありはしたんだろう。だけどシルバーアッシュ家の面々は、ここで元気に過ごしてるんだ。それぞれが頑張った結果でもあるし、これからを良くしていけばそれでいいんじゃないか?」

 

 

 ドクターは言い切ると、熱燗をマッターホルンに差し出した。マッターホルンは、受け取った熱燗のビンをドクターのビンにぶつけた。

 

 

「ええ、前へと進むそれが大事ですから」

「もっとも、ロドスもこれからなんだがな」

「私も微力ながらお力添えしますよ」

「マッターホルンが手伝ってくれるなら百人力だな」

「フォルテだけに、ですか?」

 

 

 カン、という音と共に熱燗を呷り笑顔を浮かべる二人。

 と、そこへ一通り遊びまわったアーミヤが雪を被ったまま戻ってきた。ドクターはアーミヤに近付くと雪を掃ってやる。

 

 

「こらこら、風邪ひいちゃうぞ」

「えへへ...。ありがとうございます」

 

 

 アーミヤは、はにかみながら両手を差し出した。そこには雪で作られたウサギが乗せられていた。

 甲板なため、植物などがなく雪のみで作られていた。目の部分は窪ませて、耳はたくさんの雪が盛られていた。

 

 

「上手じゃないか」

「頑張りました!」

 

 

 ドクターは雪ウサギを受け取ると、冷酒用に突き刺しておいたビンの上へと乗せた。

 雪の中にいたためか、頬や耳を赤くしたアーミヤを座らせると、マッターホルンがカップを一つ差し出した。

 

 

「アーミヤCEO、どうぞ暖かい甘酒です」

「ありがとうございます。...ふぁ。身体の中から温まりますね...」

 

 

 両手でカップを握り締めながら、アーミヤは顔を綻ばせる。

 三人は静かに雪見酒を楽しんでいたが、月灯りのある中雪がちらつき始めた。

 

 

「また、降ってきましたね」

「むしろ雪見酒にはぴったりじゃないか」

 

 

 白い吐息が吐き出される中、談笑しつつその夜を過ごした。

 

 

 

 

 .




 評価、感想、お気に入り、ここ好き、誤字脱字報告ありがとうございます。



 ...あとがきっていざ投稿するときになると何を書けばいいのか忘れてしまう。
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